【小説】 ポップン・ルージュ 9
ケーサツで出会った笠ノ場警部の勘違いからボク(主人公)は逃げ出すことになるが、途中で撃たれてしまう。目が覚めると知らない所にいるボク。さまよい歩いた先にたどり着いた場所は (おふざけ小説ですのでご心配なく?)
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その9
次の瞬間、真っ白な光の中にボクはいました。
(今度はどこに来てしまったの? またすごく時間が経っちゃったってことはないよね)眩しい光に慣れてきてから、周りを見回します。
「あれえ?」声を出したのは、そこがなんだか見覚えのある所だったからです。
懐かしい感じがするこの場所は、たしかに見覚えがある所のように思えます。まず、さっきまでいた公園ではありません。住宅街の中にいます。さっきまで目にしていたエメラルドグリーンの建物は見当たりません。
少し歩いてみると、少し進みます。もう少し歩いてみると、もう少し進みます。当たり前です。そうしているうちに懐かしさの理由がわかりました。
「ここは、ボクんちの近くだわあ」
「見たことある家がたくさん並んでるわあ」
「道もほっそりした、あの道だわあ」
「近所の奥さんの家も近くだわあ」
懐かしさを確認する言葉が次から次へと出てきます。
「あの角のコンビニのおでんは、ワインで出汁を取っているんだわあ」
「その横の弁当屋さんは、ご飯粒が細長いんだわあ」
「あそこの自動販売機で唐揚げ風味のジュースを良く飲んだわあ」
思い出した食べ物の、その匂いが煙のように頭の中に広がり、ぼんやりしてしまいました。目の前の景色までぼんやりしていると思ったら、知らぬ間に涙が溜まっていたのでした。
「なんで、泣いてるんだろう。おなかがとても空いたからかな。それとも歳をとって涙もろくなったのかな。いや、知らぬ間に歳をとってしまった、そのことがショックなのかな」
すっかり汚れてしまっている自分の服の裾で涙を拭き取り、周りをもう一度見回しました。建物は確かに最初にケーサツに向かったあの頃の感じです。ただ、空を見上げると、そこに空はなく、白く眩しい光の筋が連なっていました。
(でも、ここは確かにボクの家の近くだよ。あそこの角を曲がると、青い外車の奥さんの家だよ。そしてその先にボクの家があるはずだよ)
足は少しずつ、我が家を目指して動いています。すぐに角のところまでたどりつき、左へ曲がりました。やはり、青い外車の奥さんの家(略すと、アーオーイエーッツ)が見えました。少し歩くスピードを上げ、その家の前まで来ましたが、車は停まっていませんでした。なんとなくがっかりするものの、すぐに自分の家のことで頭がいっぱいになり、再び足を進めました。
(もし、家に帰って、お母さんがいたら、何て言おうかな。今日もカレーだよね、っていつもと変わりない素振りで接するべきか、お母さん、今まで生きててくれてありがとう。宇宙を創造し、地球に生命を生み出してくれた神様に感謝します、とちょっと大げさに手を広げて抱きついてみるべきか……)
「6574、33566733567!」
お母さんのレトルトカレーとゆで玉子を思い出しながら、あと数歩で我が家が見える、というところまで近づいたとき、後ろから透き通った声が聞こえました。
ケーサツで聞いた女の人の声のようですが、周りに反響しているからなのか、機械の音のようなザラザラした感じが混じっています。
振り返ると青い外車の奥さんの家(だから、略すと アーオーイエーッツ)のところに女の人が立っています。女の人は、薄いピカピカ光る板の上に乗り、空中から二十センチほど浮いていました。ケーサツにいたストップウォッチャーです。
「6574、3356679802000876854!」手にペンのようなものを持ち、こちらへ向けています。ペンの先が赤く光っています。
「ちょっ」ボクは、自分の家がすぐそばだということを伝えようと、右手を伸ばしました。
ピカーッ。
ペンから放たれた光線がまっすぐボクの心臓を射止めました。
「ぴろーんっ!」
すっかり疲れ果てたボクちゃんには、もはや避ける余裕もありません。ゆでた玉子もありません。
(あと少しでボクの家なのに……。 今度こそおしまいなのかな。 それともまたいつか目が覚めるのかしらん? だとしたら今度はどれくらい眠ることになるのだろうね。とにかく皆さんおやすみなさい。いい夢が見られますように。そしてまた起きることができたら、今度は、お母さんそしてお父さんに会わせてくださいな……)
意識が薄れていく間、今までの様々な思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡ります。
「ああ、そうだ、それだよ、それ。ソーマトウだ、ソーマトウ。ありがとう、書いてくれている人」えっ、私(作者)のことですか? あ、ありがとう。
「でも、ソーマトウって何なんだよーっ!」
ばたっ。
ブシューッ。(再び空気の抜ける音です)
おわり
最後までよんでいただきありがとうございました!