【小説】 ダブルピースで決めっ! 3
(あらすじ)
偽名を使いアルバイトを始めた主人公。要領がよく作業が早いため、博士君先輩やチャーリーおじさん社長に気に入られ、次々と新しい作業に就く。しかし、その工場で作られているものには秘密があった。くだらなさ満載のナンセンスSFです。
以前のを読みたい方は以下のマガジンより
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三日めの部屋は、壁がゆったりとカーブしていて、そのカーブにそって、台が備え付けてあってね。その台は、ベルトンコンベアっていうの? まあ、そういうベアが乗っていてね、そのベアがベェアーって動いてるんだ。そう、ベェアーってね。そのベアは幅が一、二メートルはあるんだけど、うまいこと上手にカーブにそって動いていてね。入り口も出口もヒラヒラとした、黒いビニールのような帯が下がっていて向こう側は見えないんだけど、何かが流れて来る予感はしたんだよ。よよよ。
博士君先輩が、「今日は、ここで働いてもらうよ。ピガ」って言ったあと、そのベアの前へ移動して、すこし腰を屈めたんだよ。そしてね、「向こうから流れて来るものを受け取ってね、後ろにあるこの容器に一瞬だけ浸してね、また渡すんだよ。ポロポロピーン」って言って、何かが流れて来ると想定して動きをしてくれたんだわさ。何かを受け取り、体を後ろに回して何かに浸し、そして体をもとの向きにもどして、何かを戻す。そんな動き。
「じゃあ、よろしく。キュルリロキュルリロ」って言った博士君先輩が、その部屋から出ていくとすぐにね、どこからか、ブーッとブザーが鳴ってね、あわてて腰を屈めて準備したんだわさ。
するとね、黒いビニールの向こう側で、ゴツンと大きな音がした後、「うっ」と鈍いうめき声のような音が聞こえて、すこししたら大きな細長い固まりがゴロンゴロンと転がってきたんだよ。その固まりは、黒くてなんだかモコモコしててね。でもね、近づいて来るとその固まりは、なんと人間だったんだよ。人、人。北京原人。直立不動の姿勢でね、優勝トロフィーかなんかを両手でもってそのまま持ち上げるでしょ。そんな感じのまま横に寝転がった感じ。
それで、その人は何か金属の固まり、「ナカトミノカタマリ」っていう名前だったんだけど、その固まりをワタシの方へ突き出して「早く!」って言ったんだわさ。
「あ、オクラ入りさん」見ると、初日に焼却炉でお蔵入りになったはずのオクラ入りさんだったんだよ、その人。黒いビニールのようなモコモコ服を着ててね。
「おお、お前か。今日はここか。出世が早いのう」オクラ入りさんは、回転するスピードを落として上目使いで言ったんだわさ。
「はい、早いですよ。ワタシは成長が。要領よしです。で、オクラ入りさんは、いつもここですか?」
「そうさ、まあここだけではないけどな。俺はなもう二十年ここで転がっているんだぞ。年期が入ったこの回転ぶりをとくとご覧あれ。はいいい」そう言って、オクラ入りさんはワタシの前を回転しながら行き過ぎちゃってね。
「ああ、まだ浸してませんよう」って言うと、「ああ、すまんすまん」って、すぐに逆回転して戻ってくれて、目の前で停まってくれたんだわさ。
「あれ、このベアって動いてませんね」気づくとベアがね、ずっと動いていなかったんだよ。
「うちはね、環境に優しい工場だからね、必要なとき以外は動かさないんだよ」オクラ入りさんは、手に持ったナカトミノカタマリをワタシに渡して自慢げに言ったんだ。横になったままだけど。ね。
「それは、またエコい工場ですね。でも、今が必要なときじゃないんですか?」ってね聞いてみると、「ああ、そうか。そうだよな。でも、これでいいんだよ。早くそれを浸してくれ」なんてやりとりがありまして。
オクラ入りさんは、回転して出口へ吸い込まれてしばらくすると、また入り口から転がってくるんだよ。転がってくるのはオクラ入りさんだけなんだわさ。一人だけ。ワタシは、すぐに仕事に慣れてね、でも、オクラ入りさんは、途中で「あかん、もうあかん」って言ってね、ベアの途中で動かなくなっちゃってね。そこでその日の作業は終了。少し早く帰れたんだんだわさ。そんな感じでね。えっ? ボタン? ああ、その話だったね、そうそう。ちょっと待ってね。順番に話すからさ。ね。