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【小説】 ダブルピースで決めっ! 1

(あらすじ)
偽名を使いアルバイトを始めた主人公。要領がよく作業が早いため、博士君先輩やチャーリーおじさん社長に気に入られ、次々と新しい作業に就く。しかし、その工場で作られているものには秘密があった。くだらなさ満載のナンセンスSFです。

 あーよかった、よかった。本当によかった。よよよ。うん? 何が? 何がって、こうして無事家に帰ってこれたからですよ。あーほんとよかった。ね。実は今日押しちゃってさ、押しちゃったんだわさ、ボタンを。ほら今働いてる工場で、赤いボタンをね。工場? って、あれっ言わなかったっけかね? ワタシって先週から工場であるバイトしてるんだよ。違うよ、アルマジロじゃないよ。アルバイト。うんそうそう、アルテイドじゃなくて。でも未だに、そこの工場で何つくってんのかさっぱりわからないんだけど。ね。

 はじめに、「初めまして、きょうからバイトを始めました、恥肇(ハジハジメ)です」なんて生まれてはじめて自分のことを紹介してね、うん、もちろん「ハジハジメ」は偽名だよ。個人の情報は保護法だからね、簡単に本当の名前は言っちゃあいけないんだよ。

 知ってる? ワタシの本名を? ああ知ってるならいいけどね。
 自己紹介のあとすぐに連れて行かれたのはね、工場の横にある建物でね、それは黒い煙が、何も言わずモクモク(黙々)と出ている大きな焼却炉だったんだ。焼却炉って知ってる? この世にあってはならない不穏なものを燃やしてしまう所なんだよ。そのときは、何も燃やしてはいなかったんだけどね、

 案内してくれたオクラ入りさんが「ちょっとあそこにおいてあるモジャモジャを持ってきなさい」なんて言うんでね、あそこを見てみると、木でできたリヤカーがあってね。そう全部木でできてるの。それでね、その木リヤカーの上に乗っていたモジャモジャをほんのひとつまみ手に取って、オクラ入りさんのところへ持っていったんだわさ。 

 オクラ入りさんのこと話したっけ? オクラ入りさんって人がその工場にいて、あっ本名じゃないよ。でもね、本当に「オクラ入り」って感じなんだよ、見た目がね。青緑色した顔の表面には、うっすらと産毛が生えていてね、触ると少しネバッとしてて。まあ触ってはいないんだけどね。そんな感じのおじさんなんだよ。そう、おじさん。

 でね、モジャモジャをオクラ入りさんのところへ持っていくと、「俺の頭に載せな」って言うので、手に持ったモジャモジャをオクラ入りさんの頭の上に載せたんだよ。オクラ入りさんは髪の毛がほとんどなかったからペチャって音がしたんだわさ。

 でね、そのペチャって音に合わせて、オクラ入りさんは「よし」と言ってね、焼却炉に近づき、小さな扉のついた小さな箱の真ん中にある小さな取っ手を握ると「やし」と言って、その取っ手を右に回したんだ。「ゆし」小さな箱の中から誰かの声が聞こえたとたんに、その箱の右にある大きな扉の真ん中にある中ぐらいのシャッタが開いてね、その中から大きくも小さくもない、しかも中ぐらいでもない手が出てきてね。その手のひらを上に向けて両手をあわせたところへね、オクラ入りさんが、「もし」と言って頭を下げてモジャモジャを落としたんだよ。

「どし」

 中にいる人の声がして、どうやらそれで終わり。「じゃあ、よろしくな」と言ってオクラ入りさんは工場の方へ行っちゃったんだ。
 誰が持ってきたのか、オクラ入りさんの説明を聞いている間に焼却炉の横には、数えきれないリヤカーが並んでいてね。とにかく早くしないと、日が暮れちゃうって言うんで、作業を開始したんだわさ。

「よし」「やし」「ゆし」「もし」「どし」
「よし」「やし」「ゆし」「もし」「どし」
「よし」「やし」「ゆし」「もし」「どし」
「よし」「やゅし」

 ときどきね、中にいる人と声が重なってね、ちょっと気まずい空気が流れたりしたんだけどね、まあ、初めてだからしかたないよね。

「よし」「やし」「ゆし」「もし」「どし」
「よし」「やし」「ゆし」「もし」「どし」
「よし」「やし」「ゆし」「もし」「どし」

 焼却炉の中からは、ときどき「あち」とか「あちちちち」とか「ぎゃあ」とか聞こえてたよ。たぶんモジャモジャを燃やしてるんだろうけど、中には入れてもらえなかったから正確なことはわからないんだ。

 それでも、初めてにしては作業は早かったんだよ。たぶん。それにね、ワタシの頭っててっぺんが平らになってるんでね、ちょうどモジャモジャを載せ易くてね。まあ、針金のような髪の毛みたいなものが生えてるけどね、モジャモジャと絡まることもなく、行儀よくしてたんだよ。よよ。

 なんとか日が明ける前に終了。最後のひとモジャは、記念に頭に載せたまま、オクラ入りさんに挨拶をして帰ってきたんだわさ。え? ボタンの話。ああ、押しちゃったボタンの話ね。もうちょっと待ってよ、すぐ話すからさ。


2へ続く

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