友達になる瞬間
お客さんとしばらく談笑して、自分の定位置に戻ると、そこに薄汚いグレーの塊があった。
近づくとそれはこちらを睨み、ウグーッと低く喉を震わせた。
おいおい、どこから入ってきたんだキミ。僕は声をかける。
僕の定位置には、小さなカーペットが敷いてあって、それはフワフワして優しい感触をしている。
しかし。
その場所を君に譲ると、仕事ができないんだよなあ。
僕はしばし考えてから、ミルクとソーセージを持ってきて、場所を譲ってもらう交渉を始めた。
大丈夫だよ、と僕は優しく声をかけて、手をそっと差し伸べる。手を少し上にあげると、ビクッと体を硬直させた。
僕はその瞬間的な体の動き、怯えた目から何かを悟った。よく見ると、まだらなグレーの毛はすっかり濡れて、海藻のように体にへばりついている。
さて、どうしたものか。
誰だって誰かの助けを必要としている。
僕だって大変なこともたくさんある。
助けるとか助けられるとか。
いや、そういうことを置いておいて、僕はキミと友達になりたいと思ったんだ。
そうそっと伝えて僕は、ダンボールで仮の住まいを作ることにした。
カーペットはその中に敷いておこうか。
※年賀状に書いている、干支をテーマにしたミニミニ小説です。
今回は犬がテーマですが、この小説は実際にあったことを元にしています。
以前お店をやっていた頃に実際に迷い込んだ犬がいて、そのことを書きました。