しずくとスクリーン
「世界がバラ色になったよー」
帰ってくるなり、しずくさんが言った。
昨日は会社で「君の理想主義は危険だ」なんて上司に言われて落ち込んでたのに。でも、誰も見てないからって赤信号を無視できないよね、なんてボクの頭を撫でながら泣いていたしずくさんが、今は部屋の中を小躍りして回遊している。
「でも、スクリーンには判らないか」
確かにボクの瞳に映る世界は、赤一色だ。バラの色にも特別感はない。しずくさんが好きな虹は、ボクには赤いグラデーションにしか見えないし、マンセル色相環なんて、ただの赤いポリゴンドーナツだ。
でもね、ボクはしずくさんを見つめて言う。
色は瞳に映っているものが全てじゃないと思うんだ。その場所。におい。そして聞こえてくる音。色は感じるものだから。散歩の途中で咲いていたバラの花を思い出しながらボクはそう伝える。
「そうか、スクリーンも喜んでくれるんだね」
ボクの耳を交互に引張り上げっていたしずくさんは、ボクが喜んでいると勘違いして、また小躍りを始めた。
※年賀状に書いている、干支をテーマにしたミニミニ小説です。
今回はうさぎがテーマです。しずくさんが言われたセリフは自分が言われたことです。
間接的に聞いたのですが、確かにそうだなあと思って、その時はちょっと悩みました。