【小説】 ダブルピースで決めっ! 4
(あらすじ)
偽名を使いアルバイトを始めた主人公。要領がよく作業が早いため、博士君先輩やチャーリーおじさん社長に気に入られ、次々と新しい作業に就く。しかし、その工場で作られているものには秘密があった。くだらなさ満載のナンセンスSFです。
以前のを読みたい方は以下のマガジンより
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四日めも最初は、ベアの前でナカトミノカタマリを浸す作業だったんだけどね。昼ご飯を食べた後、博士君先輩が近寄ってきてね。「ハジメ君は、午後からは別の作業してもらうからね。モワンモワン、ピーン」って言ったんで、別の部屋に行くことになったんだわさ。
そういえば、その工場の昼ご飯って変わっててね。工場の横にある小さなテントで食べるんだけど、そのテントはね、真ん中の二カ所に大きな柱が立っていて、それで布かビニールかどちらかを吊っていてね、サーカスのテントを小さくしてみました、って感じなんだわさ。それに、中には観客席みたいに、回りにパイプ椅子が並んでいてね。でもさ。もささ。昼ご飯を食べる人はね、そこで座ってご飯を食べる前にすることがあるんだよ。
大きな柱には片方にロープを編んで作ったはしごがかけられていて、そこを登ると、天井に手が届くくらいの位置に三人ぐらいが立てる舞台があるんだわさ。そしてその舞台からは一本のロープがもう一本の大きな柱につながっていてね、そこを渡るんだよ。だから、みんながね。順番にね。
ロープを半分ぐらい渡ると、その場所に、上から釣り糸のようなものでパンが吊るされていてね。渡ってきた人はそれを口にくわえて、反対側まで渡りきるんだよ。パンはもちろんクリームパン。えっ、何で「もちろん」かって? 知らないよそんなこと。ちなみにパンを吊っているのはオクラ入りさんなんだわさ。パンを吊るのもオクラ入りさんの仕事らしいよ。
反対側の柱には上から何かの液体がつたって流れ落ちていてね。液体はもちろんコーンスープ。えっ、何で「もちろん」かって? だから知らないよそんなこと。
で、みんなは、マイカップ持参でそのコーンスープをすくって、そして柱を降りて、観客席に行ってご飯を食べるんだよ。ちょっと変わってるでしょ。年に数回だけね、クリープパンが生クリームパンになったり、コーンスープがスコーンスープになったりするんだけどね、ワタシのいる間はずっと一緒だったわさ。でもね、ワタシはおなかが空いていないんで、結局食べたことはないんだけどね。それにロープを渡る自信もないからね。新人アルバイトの三人に一人は落ちてるっていうことだしね。昨日ワタシも落ちてく人を見たしね。ネネネ。
午後から作業をした部屋はね、たぶん工場の中で一番広い部屋だとおもうんだけど、ほぼ正方形の形をしててね。東京ドーム何十分の一個分ぐらいの広さはあると思うよ。
そこではね、一方の壁際に四人の人が立っていてね、反対側には五人の人が立っていたんだ。分かる? ほら、関東一の暴走族と関西一の暴走族がついに決着をつけるため浜名湖サービスエリアに集結して相対峙している感じだよ。
一方の壁側にいる人はね、すぐ横に積んである木のケースの中から、黒い円盤を取り出すんだ。その円盤は直径三十二センチメートルぐらいの円盤なんだわさ。約ね、約。それでね、その円盤を左手でまず持ってね、胸の辺りに持ち上げて、そしてそこで右手に持ち替えてそのまま下へ弧を描くように落とし、後ろへ腕をそらせた後、勢いをつけて前の方へもってきたか、そうきたかと思うと、そのまま頭上を超えて、また後ろへ回り、どうなるんだと思うと、また前の方へきて、そうなるんだと思った瞬間に手から円盤が放たれるんだ。よ。分かるかな? ソフトボールの投手みたい?え、ソフトボールって何? 野球みたいなスポーツ? 知らないよ、そんなスポーツ。ボールが野球のより大きくて少し柔らかいの? ああ、だからソフトなんだね。でも、何で大きいのさ? それじゃあ、ビッグアンドソフトボールでしょ、どうなってるんのさ。ビッグはどこへ行ったんのさ。まあ良いや。ヤヤヤ。
でね、投げられた円盤は、そのままその広い部屋の床を綺麗に回転しながら転がっていってね、反対側の人がそれを受け取るんだわさ。キュルルル、キュルルルール、パシッ。そんな音が聞こえるんだよ。キュルルル、キュルルルール、パシッ。
反対側の人は、受け取るとすぐに同じように投げ返すんだよ。そう、元の人にね。最初に投げた人は、投げ返された円盤を受け取ると元の木のケースの元の位置に戻すんだ。それでワンセット。
ワタシもね、四人の方の壁に博士君先輩に連れて行かれてね、すぐ作業を開始したんだよ。一投しただけで、ワタシはすぐに慣れてね、テキパキ、テキパキ、腕の関節を鳴らしながら、作業したんだわさ。まあ円盤投げるだけだからね。そうそう、その円盤はね、ナカトミノカタマリなんだよ、実は。どうやらいつのまにか形が円盤に変わっているんだ。ナレノハテラって、そこにいる人は呼んでいたよ。
そのナレノハテラはね、円盤なんだけどね、少しだけ楕円になっているんだわさ。真ん丸じゃないのよ。だからね、なかなか反対側にいる相手にね、うまく届かないんだって。ワタシは大丈夫だったけどね。その日の他の人はみんなベテランらしくて、一度も失投することもなかったよ。失投って分かる? 自分が何を投げようとしていたか忘れちゃうことだよ。元カレにもらったカバンだったかな? 小学校のときの通信簿だったかな? それとも心の奥にしまってあった優しさの欠片かな? って、そんな忘れ物のことだよ。ネネネ。
そのベタレンナインは、なんだか顔が似ててね。ああ、ベテラン九人だから、ベタレンナインだよ。まあワタシしか呼んでないけどね。しかも今考えたんだわさ。
ベタレンナインは、全員顔がそっくりなんだよ。そういえば、二日目に一緒に作業した三人とも似てたんだけど。ベタレンナインは、ワタシがすぐにそこの作業をできるようになっちゃったからか、みんなの視線が厳しくなってきてて、気づくといつの間にか目の前二センチくらいのところに、ベタレンナインの一人の顔があったりしたんだわさ。相手が怒っているときは、お菓子をあげろって教わったことを思い出してね、ポッケの中からキリクズモチを出してあげたら、ニッコリして作業に戻ってくれたんだけど。ドドド。
帰るときには、ベタレンナインには「明日もよろしくお願いします」ってハイタッチと見せかけて頭を叩いたふりで、髪の毛をプチプチってちぎってお別れしてきたんだよ。いや、顔を近づけてきた仕返しじゃないよ、単なる調査だよ、調査。浮気調査とか、いかりや調査とかさ、そんな感じ。で。