Rihannaのスーパーボウル・ハーフタイムショーに見る多様なスタイル
2月13日、アメリカの名物イベント「スーパーボウル・ハーフタイムショー」が行われました。
スーパーボウル・ハーフタイムショーは、アメリカンフットボールリーグ「NFL」のリーグ決勝戦「スーパーボウル」で行われるハーフタイムショーです。これまでにはMichael JacksonやBeyoncé、The Weekndなどが出演しています。昨年はDr. Dreを中心にSnoop DoggやKendrick Lamarなどが出演し、大きな話題を集めました。
そんなスーパーボウル・ハーフタイムショーに今年出演したのは、バルバドス出身のシンガーのRihannaです。Rihannaは2000年代半ば頃に当時Jay-Zが社長を務めていたDef Jamと契約し、2005年のシングル「Pon de Replay」でブレイクを掴んだアーティスト。同年にリリースしたアルバム「Music of the Sun」もヒットし、その後もヒットを連発していった現代を代表するスーパースターです。最新アルバムは2016年にリリースした「ANTI」で、近年は本人名義のリリースは少ないものの、昨年には映画「Black Panther: Wakanda Forever」のサウンドトラックに2曲で参加していました。
今回のスーパーボウル・ハーフタイムショーは、2015年にリリースしたアルバム未収録のシングル「Bitch Better Have My Money」でスタート。Kanye WestやTravis Scott、WondaGurlなどが関わった同曲は、Travis Scott色の強いトラップ系の曲です。なお、恐らく全く無関係ですが、DJ Quik周辺の西海岸のラッパーのAMGが1991年に(ほぼ)同名の曲をリリースしています。
続いて披露されたのは、2011年のアルバム「Talk That Talk」からシングルカットされた「Where Have You Been」。Dr. LukeやCalvin Harrisなどがプロデュースを務めた、バキバキのシンセを用いた四つ打ちEDM路線の曲です。そこから同じく四つ打ちのダンサブルな2010年のシングル「Only Girl (In the World)」、「Talk That Talk」収録の「We Found Love」を続けてパフォーマンス。昨年はBeyoncéやDrakeによってハウスが注目を集めましたが、これらの曲は今のそんな流れにも馴染むものです。スーパーボウル・ハーフタイムショーを機に聴き直して、その魅力を再発見した方も多いと思います。
その次に披露したのは2009年作「Rated R」収録の「Rude Boy」…なのですが、なんとここではブラジルのプロデューサー、Kleanによるバイレファンキ仕様のリミックスを採用。オフィシャルではなくSoundCloudにアップされている、いわゆるブートレグです。夢のある話…!
続いて現時点での最新作「ANTI」からの先行シングルだった「Work」へ。「Pon de Replay」の頃からダンスホールを取り入れていたRihannaですが、この曲もダンスホール路線の曲です。この曲の前年にJustin Bieberがシングル「Sorry」でダンスホールに挑んでいましたが、その後にRihannaのこれが続き、Drakeも「Controlla」などでダンスホールを導入。この流れでダンスホール人気が高まり、それがアフロビーツやレゲトン人気の下準備になった部分はあると思います。そういった意味では2023年に相応しい曲です。
「Work」の次に披露したのは、DJ Khaledに客演した2017年のシングル「Wild Thoughts」。Wyclef JeanプロデュースのSantanaのシングル「Maria Maria」をサンプリングした、ラテン風味の寂しげなギターが効いた曲です。その後は2012年作「Unapologetic」収録の「Pour It Up」に続きました。「Pour It Up」はMike Will Made-It制作のトラップ路線で、歯切れの良いラップのフックや四つ打ちのクラップが印象的な曲です。この2曲の流れはヒップホップ寄りのモード。
その次は客演曲が続きました。Kanye Westの2010年作「My Beautiful Dark Twisted Fantasy」収録の「All of the Lights」は、勇壮なホーンやゴスペル風味のコーラスが効いた一曲。BPMは140前後、ドラムの手数も多くジュークっぽい匂いもあります。「Run This Town」はJay-Zの2009年作「The Blueprint 3」収録曲で、プロデュースはKanye WestとNo I.D.の二人。Kanye West関連曲繋がりでもあり、この流れには複雑な気持ちになりましたが…。
その後はJay-Z繋がりの2007年の名曲「Umbrella」を披露。GarageBandのプリセットのドラムが大舞台で響き渡りました。プロデュースはTricky StewartでソングライティングはThe-Dreamですが、この曲はこの二人にとっても重要な曲です。
最後にパフォーマンスしたのは、「Unapologetic」収録の「Diamonds」。ドラマティックな四つ打ちのビートで歌い上げ、最後にRoc-A-Fellaのポーズを取っていました。RihannaはJay-Z率いるRoc Nation所属で、スーパーボウル・ハーフタイムショーもRoc Nationが関わっているイベントなので見事な締め方です。あのポーズの元ネタはダイアモンドなので、「Diamonds」という選曲も絶妙です。
こうして振り返ってみると、Rihannaがこれまでのキャリアでかなり多種多様な音楽を取り入れてきたことに気付きます。今回のスーパーボウル・ハーフタイムショーもトラップに始まり、EDM、バイレファンキ、ダンスホール、ラテン、ジューク…と様々な要素が入っていました。また、Rihanna本人もバルバドス出身ですが、コラボレーターもかなりアメリカ以外の出身のアーティストや移民二世のアーティストが集まっています。例えば「Wild Thoughts」のDJ Khaledはパレスチナからの移民二世で、サンプリングの元ネタとなったSantanaはメキシコ生まれのCarlos Santanaによるバンドです。プロデュースを務めたWyclef Jeanもハイチからの移民で、一曲の中にかなりグローバルな人脈が入っています。
今回驚きの抜擢だったKleanにしてもブラジルのアーティストです。移民であるRihannaが世界中のアーティストと作った世界中の音楽を集めて「We gon' run this town(私たちがこの街を仕切る)」と歌う姿には、曲に元々込められた意味以外のことを読み取った視聴者も多くいたのではないでしょうか。2023年のスーパーボウル・ハーフタイムショーは、こうして語りたくなるような素晴らしいイベントでした。来年も楽しみ。
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