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2024年間ベストR&B (with R&B Lovers Club) #rnbloversclub

R&B愛好家集団「R&B Lovers Club」で、2024年の年間べストソングのプレイリストを作りました。

今回はアボかどaimiさん、Cookieさん、つやちゃんさんの4人で5曲ずつ選曲しています。Yacheemiさんは今回は不参加ですが、別件で50曲選んでいるのであわせて是非。

私は年間べストアルバムに入れた作品と国内盤ライナーノーツを担当した作品の収録曲、インタビューを行ったアーティストの曲は除外して選びました。年間ベストアルバムにも何枚かR&B作品を選んでいるので、あわせて是非。

R&B Lovers Clubのプレイリストは「もし選曲が被ったら二回入れる。複数人が挙げている曲はその分讃えたい」というルールで制作したのですが、蓋を開けてみたら(曲数が多いYacheemiさん以外とは)一曲も被りませんでした。R&Bには色々なタイプの曲があり、同じ「R&Bが好き」という思いで一緒に何かをしている集団でもその好みは多様化しています。



1990~2000年代風のR&B

今回最も多いのは1990~2000年代R&Bのリバイバル的な、ロマンティックで甘い路線です。私の選曲ではEric BellingerChris O'BannonRyan Leslieがそれにあたります。

私は年間ベストアルバムに入れたので除外しましたが、Yacheemiさん選曲のDESTIN CONRADもその要素があるシンガーです。

色々なタイプのR&Bがあると言っても、あえて「R&B」として推したい曲となるとこういった曲が多くなるのがR&B好きの性です。2024年はMuni Longのシングル「Made For Me」の大ヒット、来日公演も行ったMaeta「Through The Night」がBillboardのアダルトR&Bチャートで一位を獲得するなど、若手アーティストによるオーセンティックなR&Bに注目が集まった年でもありました。なお、この二曲はいずれもリリースは2023年です。セールスの話題はリリース初週に注目が集まりがちですが、R&Bでは長く愛されるロングヒットが出ているのが興味深いポイントです。

この文脈の重要シンガーとしてはその二人のほか、Cookieさん選曲のKiana LedéSummer Walker、aimiさん&Yacheemiさん選曲のVictroia Monétなどが挙げられます。私が昨年レビューを書いた作品では、Obaiのアルバムもそういった要素が強いものでした。


ネオソウル~ヴィンテージソウルとメインストリームR&Bの接近

以前こちらの記事でも「異なる文脈の合流」という話を書きましたが、今回のプレイリストを聴いているとメインストリーム寄りのアーティストによる渋い曲がいくつかあります。

例えばaimiさんとYacheemiさんの二人が選んでいるVictroia Monétの「SOS (Sex on Sight)」は、サウンド的には1970年代ソウルをヒップホップ以降のスタイルで再構築したようないわゆるネオソウル系です。こういった曲で客演に呼ばれるのは昔だったらMusiq Soulchildみたいなタイプだったと思うのですが、同曲で招かれているのはUsher。Yacheemiさん選曲で私も年間べストアルバムの方に入れたLeon Thomasも、ソロ作品はネオソウル系でしたが外部プロデュースではDrakeAriana Grandeなども手掛けています。逆に私が選曲したAaron Frazerはヴィンテージソウル系のアーティストですが、この曲では時計の針を20年進めて1990年代風のR&Bに挑んでいます。

サラっとFaith EvanSevyn Streeterを起用するRobert GlapserDoechiiPRICEなどにブーンバップを提供しながらFLOKehlaniなどR&B仕事も手掛けるCamperなどがこの文脈の重要人物です。また、Usherも華やかなスーパースターながら、2008年の「Here I Stand」のようなネオソウル名曲を残しています。メインストリーム寄りのシンガーがバンドでライブする際などに曲のオーセンティックなソウルの部分が浮き彫りになることもあり、ライブ映像からソウルとしての魅力が伝わる部分もあるかもしれません。


ダンスのためのR&B

Michael Jacksonのような歌って踊れるスーパースターを多く輩出したR&Bは、元々エレクトロニックなダンスミュージックとの距離が近いジャンルです。Beyoncéの2022年作「RENAISSANCE」はまさにそれにストレートに取り組んだ作品でしたが、昨年も多種多様なダンスミュージックがR&Bと繋がりました。

aimiさん選曲のKehlaniも変則ハウスのような曲で、そのほかにもYacheemiさん選曲のLucky DayeKenyon DixonMaetaなどダンサブルな曲が多く発見できます。

エレクトロニック・ミュージック文脈とは異なりますが、aimiさんとYacheemiさんが選んだTinashe「Nasty」はR&ベース系の曲で、TikTokでのダンスチャレンジによってヒットしました。今「歌って踊れる」といえばK-POPが強いですが、TinasheはK-POPのシーンで人気があるようで、NCT 127JungwooaespaNINGNINGなどが過去にTinasheに言及しています。逆にベイのヒップホップからK-POPにアプローチしたKero Unoのような例もあり、今後もアメリカのR&BとK-POPの繋がりには要注目です。

K-POPとR&Bの絡みといえば、NewJeans作品を手掛けたR&BシンガーのErika de Casierが昨年リリースしたアルバム「Still」も良い作品でした(国内盤ライナーノーツはつやちゃんさんが担当)。このアルバムにもドラムンベースやアフロビーツの要素があります。

また、アジアといえばアボかど選曲のHMLTも中国系カナダ人プロデューサーです。質感は穏やかでオーガニックなものですが、ここでのアフロビーツ風味の軽快なドラムにはOVO勢の試みとの共通点を発見できます。

プレイリストに入れた曲以外では、ジャージークラブをR&B化したGROOVY、アマピアノを巧みに消化して歌ったTylaなども印象的でした。


溶け込んだトラップソウル~オルタナティヴR&B

最後にここ10年以上ずっとR&Bの中心になっている、トラップソウルやオルタナティヴR&Bの話題を。今回のプレイリストにはそれらしき曲はつやちゃんさん選曲のAmber MarkKISS OF LIFEくらいで、Yacheemiさんの50曲を含めてもそこまで多くはありません。R&B偏愛集団なので王道寄りのものに惹かれるのはあるにしても、シーンが微妙に変わってきているのを感じます。

これは主流が移ったというよりは、トラップソウルやオルタナティヴR&Bがスタンダードになり、その上でどの要素を強くしていくのかというモードになっているように思います。また、トラップの特徴の一つである高速ハイハットの使い方はTimbalandの作風と共通しているので、スウィートな部分を強めたトラップソウルはTimbaland流R&Bリバイバルっぽく聴くことができます。その結果としてトラップソウル以降のものでも、あまりそう聞こえないということが起きているのではないでしょうか。なお、このトラップとTimbalandの繋がりについては以前こちらの記事で書きました。

また、オルタナティヴR&Bのクロスオーバー志向は、先述したエレクトロニックなダンスミュージック要素の導入という形で残っています。浮遊感は残っているものの、それも元々R&Bが持っていたアンビエンスに回収されているような印象です。

しかし、それでもトラップソウルやオルタナティヴR&Bらしい作品は完全になくなったわけではなく、私も昨年いくつかレビューを書きました。今後どういう風に変わっていくのか、引き続き注視していきたいと思います。


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