追悼Rich Homie Quan シーンに大きな影響を与えた「New Atlanta」の一角
先日訃報が届いたアトランタのラッパー、Rich Homie Quanについて書きました。記事で触れたRich Homie Quanの曲と客演曲でプレイリストも制作したので、あわせて是非。個人的にもかなり好きで思い入れのあるラッパーでした。ご冥福をお祈りします。
Rich Homie Quanの功績を再考する
ヒップホップはまたしても偉人を一人失った。9月6日、アトランタのラッパーのRich Homie Quanが亡くなったのだ。この突然の訃報はヒップホップリスナーに衝撃を与え、多くのファンや同業者たちが哀悼の意を表した。
Rich Homie Quanは2013年のシングル「Type of Way」のヒットから注目を集め、その後もソロや同時期にブレイクを掴んだYoung Thug(やBirdmanら)と共に組んだコレクティヴのRich Gangでヒットを生んだラッパーだ。客演でも印象的なパフォーマンスを多々残しており、先日各種ストリーミングサービスで解禁されたばかりのTravis Scottの2014年作「DAYS BEFORE RODEO」にも参加していた。
同作に収められた「Mamacita」におけるRich Homie Quanの存在感は後にスーパースターとなった二人と比べても遜色のないもので、改めてその才能を世界に示した矢先の出来事だった。
Migosが2014年のミックステープ「No Label II」収録の「New Atlanta」でRich Homie QuanとYoung Thug(とJermaine Dupri)をフィーチャーしていたように、Rich Homie Quanはほかの二組と並んでアトランタのモダンなヒップホップの礎を築いた重要な人物だ。Lil WayneのフリーキーさとThe-Dreamの歌心の奇妙なキメラのようなそのラップスタイルは、先にブレイクしていたFutureとの共通点を感じさせつつも異彩を放つものだった。Migosが三連フロウを浸透させたグループなら、Rich Homie QuanとYoung Thugはメロディアスでフリーキーなスタイルを拡大したラッパーだ。
Rich Homie Quanの訃報にコメントを発表したヒップホップ関係者の一人、9th WonderはInstagramでこう綴っている。
9th Wonderの言う通り、Rich Homie Quanの功績は過小評価されてきた。そこで今回はRich Homie Quanのキャリアを振り返ってその功績を改めて称え、その影響を考えていく。
オールディーズとThe-Dreamの影響
Complexのインタビューによると、Rich Homie Quanが初めて聴いた音楽はHot Boysだったという。若き日のLil Wayneも所属したこのルイジアナのラップグループは、ほかのメンバーもアクの強い個性派揃いの集団だ。後にRich Gangを組むYoung ThugもLil Wayneからの影響を語っており、二人のフリーキーでアクの強いラップスタイルはここから継承したものと言えるだろう。また、同じインタビューでは叔母から誕生日プレゼントで贈られたJT MoneyのCDを愛聴していたこと、学校への送迎を行っていた祖母の趣味でThe Temptationsなどのオールディーズやブルースを好んで聴いていたことも明かしている。「俺の音楽がメロディアスなのは彼女から受け継いだものなんだ」とのことだ。そのほかComplexのインタビューでは、影響を受けた人物として2 Chainz、T.I.、Jeezy、Gucci Mane、Webbie、Boosie Badazz、The-Dream、Drakeの名前も挙げている。中でもThe-Dreamについては「最も大きな音楽的影響」であり、「The-Dreanのアルバム『Love/Hate』があったから枠の外に出てみようと思った」と話している。
Hot BoysやGucci Maneなどを影響源として語るラッパーは多いが、Rich Homie Quanの特徴はこのオールディーズとThe-Dreamからの影響だ。そしてそれはかなりはっきりとラップに現れていたが、DrakeやPhonteのようにシンガー的に振舞うのではなく、あくまでもラップの形に落とし込んだのがRich Homie Quanの重要なポイントだ。また、それ以前にもNellyやBone Thugs-N-Harmonyなどメロディアスに歌うようなラップスタイルの持ち主は多く活動していたものの、Rich Homie Quanの場合はLil Wayne譲りのフリーキーさがあった。誰かと似ているようで誰とも似ていない、そんな個性の持ち主だったのだ。
そのラップスタイルは、2012年の初作品「I Go In on Every Song」の時点でほぼ完成を見せていた。同年には二作目のミックステープ「Still Goin In」を発表するなど精力的に活動していたが、この年にはまだ本格ブレイクは果たしていない。しかし、シーンがRich Homie Quanの才能に気付くのに長い時間はかからなかった。
ラチェット・ミュージックにも接近したブレイク期
Rich Homie Quanのブレイク前夜、アトランタではTrinidad Jame$のブレイクがあった。Rich Homie Quanと同じレーベルのThink It’s A Gameに所属していたTrinidad Jame$は、2012年にリリースしたシングル「All Gold Everything」のヒットにより注目を獲得。T.I.やJeezy、Gucci Maneといったアトランタの先人との共演も果たし、新たなスターとしての階段を歩んで行った。
Rich Homie Quanは2013年の頭、人気急上昇中だったTrinidad Jame$と共にツアーを行った。その後絶好調のレーベルメイトの波に乗るように、Gucci Maneのミックステープ「Trap House III」収録の三曲に参加。そのうちの一曲「Chasin’ Paper」ではYoung Thugとも共演していた。
そして2013年の夏、シングル「Type of Way」がリリースされた。同曲は2013年6月29日付のBillboardのR&B/ヒップホップソングチャートで48位に初登場。翌週には圏外となったものの、その後も数回チャートに浮上し、リリースから11か月後にゴールド認定されるロングヒットとなった。勢いに乗って再リリースされたミックステープ「Still Goin In」のデラックスエディション的な「Still Goin In Reloaded」も話題を呼び、Rich Homie Quanはここで一躍ブレイクを掴んだ。
ブレイク年の2013年には、Rich Homie Quanの客演数が一気に増加。2 ChainzやYG、August Alsinaなどの作品に参加した。そして、この時期のブレイクはRich Homie Quanの新たな道の開拓にも繋がった。当時はTy Dolla $ignの「Paranoid」やKid Inkの「Show Me」のようなラチェット・ミュージック~R&ベース系のスタイルが流行しており、Rich Homie Quanもそのタイプのビートにたびたび招かれていたのだ。YGのヒット曲「My Nigga」やYo Gottiの「I Know」などで聴かせる、ミニマルでファンキーなビートとフリーキーな歌フロウの組み合わせは普段と異なる路線ながら完璧な相性の良さを見せていた。この路線は後にRich Homie Quan自身もシングル「Flex (Ooh, Ooh, Ooh)」などで採用することとなる。
Outkast以来の最高にハードなデュオ
2013年の年末にはミックステープ「I Promise I Will Never Stop Going In」を発表。同作にもYoung Thugとの見事なコンビネーションを聴かせる「Get TF Out the Face」が収録されていたが、この頃からYoung Thugとの共演が増加していった。2014年には先述したTravis Scott「Mamacita」やMigos「New Atlanta」に参加。二人はジョイントEPの制作をスタートし、最終的にはBirdmanに拾われてRich Gangとしてコレクティヴと化した。
Rich Homie QuanはYoung Thugとのタッグについて「Outkast以来の最高にハードなデュオ」と語っていたが、Young ThugのコミカルさをRich Homie Quanのソウルが引き締めるこの二人のタッグにはほかでは聴けないマジックがあった。Rich Gang名義で2014年にリリースされた二人のシングル「Lifestyle」は、Rich Homie QuanだけではなくYoung Thugにとってもベスト級の一曲だろう。二人をコアメンバーにしたコンピレーション的な2014年のミックステープ「Rich Gang: Tha Tour Pt. 1」も各種メディアで絶賛され、二人のタッグは強烈に記憶されることとなった。
2015年には先述したシングル「Flex (Ooh, Ooh, Ooh)」をリリース。同曲ではDJ SpizとYung Joc「It’s Goin Down」で知られるNittiをプロデュースに迎え、ラチェット・ミュージックをアトランタの文脈で鮮やかに聴かせることに成功した。同曲はヒットにも恵まれたものの、所属レーベルとのトラブルなどにより以降のRich Homie Quanは徐々に失速。独立してリリースした2017年のミックステープ「Back to the Basics」も、内容の充実に反して商業的な成功を得ることは叶わなかった。
しかし、2013~2014年頃ほどの数ではなくても、Rich Homie Quanの才能はシーンから完全に消えたわけではなかった。「Back to the Basics」以降にも2018年の「Rich As In Spirit」や2019年の「Coma」などの作品を精力的にリリースしていたし、2019年にはDaBabyがアルバム「Baby On Baby」収録の「Celebrate」で起用。そのほかにもQuando RondoやShordie Shordieなどの作品に参加し、昨年にはCMG The Labelのアルバム「Gangsta Art 2」でMozzyとの共演曲「Broad Day」を聴かせていた。
その功績と訃報に対する同業者の反応
「Type of Way」のヒットから11年が経った2024年。メロディアスなスタイルのラッパーはRich Homie Quanがブレイクした時と比べてかなり増えたが、それはRich Homie Quanがいなかったら見えていなかった景色かもしれない。また、ラップするように歌うシンガーの増加もR&ベースの盛り上がりの先にあるものであり、その一部を彩ったアーティストとしてもRich Homie Quanは重要な人物だ。
そんな現行シーンに先駆けるような人物でありながら、そのラップは今聴いても圧倒的にオリジナルだった。Rich Homie Quanが残した数々の名曲は、きっと今後のシーンにも様々な形で影響を与えていくだろう。
最後に、Rich Homie Quanの訃報に対するヒップホップ関係者のリアクションをいくつか紹介する。この偉大なアーティストがいかに愛されていたかを感じてほしい。
Big Boi
「Rich Gang以前の最高にハードなデュオ」の片割れであるBig Boi。Young Thugが才気走るAndre 3000なら、Rich Homie Quanはストリート感を放つBig Boiだった。
GloRilla
現在のCMG The Labelを代表するラッパーの一人、GloRilla。Yo Gotti「I Know」で始まったRich Homie Quanと同レーベルの交流は、昨年のレーベルアルバム「Gangsta Art 2」まで続いていた。
Metro Boomin
最近のRich Homie Quan関連のトピックといえば、先日各種ストリーミングサービスで解禁されたTravis Scottのミックステープ「DAYS BEFORE RODEO」収録の「Mamacita」だ。同曲はMetro BoominとDJ Dahi、Travis Scottがプロデュースを務めていた。
Quavo
「New Atlanta」のJermaine Dupriを除く同世代五人のうち、存命で現在表立って活動できるのはQuavoとOffsetのみ。Quavoは五人の写真をInstagramにアップした後、近年不仲が噂されていたOffsetと「良い会話をした」と報告していた。
2 Chainz
Rich Homie Quanは今年リリースしたシングル「Ah'ch」で2 Chainzをフィーチャーしたばかりだった。「ビデオを撮る話をしていた」というのは恐らく同曲のことだろう。
そのほかにもChuck DやPlayboi Carti、YGなどが追悼コメントを発表している。改めてその偉大さを感じると共に、今後を見ることができない悲しみが膨らむばかりだ。R.I.P. Rich Homie Quan。本当にありがとう。
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