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「会計の世界史」制作裏話その3:著者は孤独だと思っていたがそうじゃなかった

「会計×絵画」という構想から、おおよその目次ができました。
編集者に見せたところ好感触で早くも祝杯。あとは書くだけ。

このへんですでにテンションが高くなっていたので、「会計書にしてはありえない書き出し」で始めてみようと決意しました。孫子の兵法でいう「奇襲」攻撃をいきなり繰り出す作戦。

およそ会計書ではありえないシーンや言葉からのオープニングにすべく、「妊娠」エピソードをもってきました。これが1章1ページ目にあることがポイント。これまでも、これからも、会計書に冒頭にこれが登場することはないだろうと。

困った時のビジュアル頼み

冒頭がうまくハマったのでがぜん調子が出てきました。あまりにうまく発進したため、少々の欲が出てしまいます。
「これは思ったよりうまくいくかもしれない」
ただ、私の実力だけでは自分が思い描くところまで到達できないことは自覚していました。なにせ、これだけ大掛かりな人物ストーリーを作った経験がほとんどありません。ここは素直に実力不足を認めつつ、外部の力を借りることを決めました。

編集者A氏にここまでの事情を話し、お願いしたのです。
「デザイナーやイラストレーターと直接打ち合わせさせて欲しい」と。

通常、著者が紙面のデザイナー、挿絵を描くイラストレーターと直接打ち合わせすることはありません。それは編集者の仕事だからです。それが本作りの分業作業。

でも今回、私はどうしても最終形のデザインを執筆段階からイメージしたかった。というか私の頭にある漠然としたストーリーを、デザイナーさんらはどうやってビジュアル化するのか、あらかじめ知っておきたかったのです。越権行為、領空侵犯を承知でA氏にお願いしたところ、意外にも彼は「いいですね、やりましょう」と承知してくれました。良い本をつくるためには前例や立場にこだわらないのが彼のすばらしいところ。

かくして「会計の世界史」は、通常の書籍と異なり、執筆の開始段階から著者・編集者・デザイナーが打ち合わせを重ねていたのです。

気合いの入りすぎた著者

ビジネス書の著者は一般的に、思考を活字にすることと、少々補足の図表を付けることくらいしか考えていません。でもデザイナーやイラストレーターはまったく違いました。「こうすれば場面転換がうまくいく」「読者が飽きないようにこんな仕掛けはどうか」などなど、本作りのアイデアを多数持っていました。

おそらく彼らも、「執筆前の著者」と打ち合わせすることは例がなかったのではないかと思います。その異例の上に、「すごい作品にするからな」と書く前から鼻息の荒い著者(笑)。でも、どうやら彼らはそれを意気に感じてくれたようです。

ビジュアルを担当されるデザイナーやイラストレーターの意見は本当に貴重なものでした。これで一気に視野が広がった感覚がありました。これまでの執筆より「読者はどんな気持ちで読むか」を想像しやすくなったように思います。

奇跡的に一発で決まったカバーデザイン

本の制作最終段階では、私が細かい指示を出さなくても、編集者・デザイナー・イラストレーターさんが自ら考え、動いてくれました。この絵画はここに置いた方がいい。この写真を活かすために、前のページで文章終わらせてください、などと私にも注文がきました。勝手に私は「チーム」ができた気がして本当に気分がよかったですねえ。著者って孤独なものだと思っていましたが、あのチーム感は格別でした。

すべて本文のデザインが終わったら、あとはカバーデザインです。書店やネットでもみんなはこれを見て買うわけですから、カバーのデザインはとても重要。私のこれまでの経験上も、なかなか決まらないものなのです。

しかし今回、奇跡的に一発OKでした。これは私と編集者のこの本に賭ける思いをデザイナー&イラストレーターが事前にわかってくれていたからだと思います。

「会計の世界史」お持ちの方はぜひカバーをご覧ください。ふつう著者名は、書籍タイトルのうしろ、左側じゃないですか。でも本書はタイトルの前、右側に私の名があります。

私がこの本に賭ける情熱をデザイナーさんはわかってくれたのでしょう。この本は「会計の世界史」じゃない。「田中靖浩さんの『会計の世界史』」だと。
本人には聞いていません。なので真相は不明ですが、うれしかったですねえ。初めて手にした日の酒が旨かったのなんのって。

この本が書店に並んでからの反響はとても大きなものでした。
でもそれはおまけのようなもの。私の仕事はあの「チーム」までがすべてだったように思います。あんなふうにみんなが乗りに乗って仕事ができれば、そりゃ売れるって。売れなければ客が悪い(笑)。

現在「会計の世界史」は日本国内での好調な快進撃に続いて、海外での翻訳版も好調です。著者としては嬉しい限り。

本当に楽しい仕事だった。あんな経験はもう2度とないかもしれないな。
でも、実は、あのチームでの仕事で「もういっちょ」を狙ってます。これは内緒ですが(笑)。

<完>

P.S. 2021/1/5(火)から「会計の世界史」がラジオ番組になります!NHKカルチャーラジオ「歴史再発見」にて毎週火曜日20:30~21:00、私が独演会状態でお話しします。読者の皆さん、ぜひお聴きください!
https://www4.nhk.or.jp/P1927/

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