花譜/不可解弐Q1 神椿にとってのバーチャルとは。「魔女」と「言霊」
『祭壇』は花譜自身の言葉で伝えられたように1stワンマンライブ不可解で『魔女』と対になるような、続編に位置付けられた曲として披露された。
不可解の『祭壇』、不可解再の『宣戦』、そして先日行われた2ndワンマン不可解弐Q1の『言霊』はそれぞれ『魔女』を意識した曲となっている。『魔女』は「今己を証明する言葉に魂はあるか?」という一つの存在として強く自我を訴える歌詞が印象的な、そして花譜を象徴する曲の一つだと思う。しかし花譜を形作る楽曲の中でたびたび現れる「偽物」「仮想世界」「証明」「魂」というワードには楽曲から受けるシンプルなイメージとは異なる、より深く内省的な意味が同時に込められている。
花譜は間違いなくバーチャルYouTuber、VTuberの文脈を強く意識した存在だ。神椿スタジオの総合プロデューサーPIEDPIPER氏が1stアルバム観測α・βに寄せた記事の中では、カバー曲を音楽アプリに日々投稿するだけの活動者とはまだ呼べない、どこにでもいる歌が好きな少女が花譜としてデビューするまでの来歴が触れられている。
バーチャルYouTuberという手法は彼らにとって最初、遠隔でも可能で(身も蓋もない言い方をすれば)顔出しのリスクがなく学生である彼女にとって安全性の高い折衷案、選択肢の一つとして提示されたものだった。しかし、花譜とカンザキイオリという才能をプロデュースする中でVTuberという新しい手法には可能性と共に危険性をも孕んでいることに気付いたという。そうした可能性や不安の中でバーチャルシンガー花譜に必然性を持たせるためのピースが「不可解」には込められている。
1年前の1stワンマン不可解で『祭壇』を歌う前のMCも印象的だった。
キズナアイなどを始めとするバーチャルYouTuberの先駆者に触発されて始まったムーブメントに名前をつけて仮に「V界隈」と呼ぶのなら、今のシーンは数年足らずで全く違う様相を呈している。
席巻する大手企業VTuber(ライバー)、アクティブな人口は定かではないが1万人を超す個人VTuber、見切り発車的に参入するベンチャー、デビューと引退を繰り返すサイクル。なりたい自分や理想の姿を受け入れ共存しようとした小さな界隈も今や、プラットフォームで生き残るための競争は避けられない。(※個々のスタイルや方針を決めつけるものではありません。すべては活動者自身のものです。)
そして今頃になってそもそもの成り立ちが偶発的で、やっていることも目指す先もバラバラなVTuberという広すぎる定義にふと立ち返って、
VTuberってバーチャルって何だろう?と考える機会が増えたように感じる。デビューから今に至るまで、仮想の存在でありながらも自分の証明を探し自問し続けてきた花譜がその一つの答えになるかもしれない、と不可解を振り返って、不可解弐Q1を目の当たりにして改めて自分は感じた。
花譜は花譜ではない時間の自分の話を普通にするし、彼女たちは曲の中で自分自身のことを「偽物」だとはっきり言葉にする。
それはバーチャルという建前の、物語の世界観を崩さないように言葉を濁したり、暗黙のルールにただ従ってしまうよりずっと現実と「仮想世界」というものに向き合い続けた証なのだと思う。