星街すいせい楽曲を振り返る | THE FIRST TAKE × Stellar Stellarに寄せて #ホロライブ
VTuber初の快挙という触れ込みに「THE FIRST TAKEの新しい試み」に対する感情とは、また一つ異なった思い入れを同時に感じている。
VTuberという形が朧気であまりにも大きな枠組みの中にあって「星街すいせい」の存在は実はかなり異彩だ。
彼女がホロライブ0期生という枠組みにいるのは事務所のブランドが生まれる以前から、フリーランスの活動者(バーチャルYouTuber)としてキャリアをスタートさせた出自に由来している。
初期のバーチャルのシーンの成り立ちは大まかに2つの流れに分ける事が出来る。企業発のバーチャルタレントによるムーブメントと、それに触発されて活気づいたフリーランスの活動者のコミュニティ。その2つが合わさって互いに影響を及ぼし合いながら成り立ってきた。
「個人VTuber」時代の星街すいせいが活動生命を懸けてリリースした2番目のオリジナル曲『天球、彗星は夜を跨いで』が注目されるきっかけの一つにもなったV紅白という企画配信も、かつての彼女と同じ個人VTuberが所属の枠組みを越えシーンを巻き込んで実現させたムーブメントの一つだった。
星街すいせいは個人と企業所属の両方の視点を経験し、カルチャーの成り立ちにリアルタイムで直に触れて来た数少ない人物でもある。自ら手掛け、自ら名付けた「星街すいせい」という存在であり続けている。
だからこそ、キタニタツヤ作詞作曲『TEMPLATE』の「僕のこの痛みも 姿形も誰に決められる事もない」「この生が正しいか間違いか自分で決めるから」という力強い個を印象付けるフレーズは特別な意味を持つ。
そして自ら作詞を手掛けた『Stellar Stellar』はそんな彼女の性格や感性がそのまま、生き様が一番に現れている楽曲と言えるだろう。
THE FIRST TAKEという場所に相応しい星街すいせいを代表する一曲だ。
雑踏からスターダムを駆け上がったようにしばしば形容されるのが「ホロライブの星街すいせい」であり、それがファンにとって彼女にアイドル性を見出す為に必要なストーリーとされて来た。
『Stellar Stellar』は彼女自身が「星街すいせい」という存在に一番に託したい想いを赤裸々に明かす事で、煌びやかな一面だけを切り取ったシンデレラストーリーという触れ込みに対する一種のアンチテーゼになっている。
「僕だって君と同じ特別なんかじゃない」という詩はけして耳馴染みの良い慰めではなく、地続きの生きた言葉に感ぜられる。夢を叶えた先にいる星街すいせい自身が、誰もいない道を歩いてきたとても強い人だから。
VTuberというものは全体として、必ずしもそうとは限らないが、アバターに身を包んだもう一人のヴァーチャルな自分にアイドル性を帯びさせる傾向が強い。それがジャンルの枠を飛び越えて多くの目に触れる時、多くの場合は奇異の視線を伴う。
そんな曖昧で不明瞭な傍から見れば「おかしな存在」の自分が歌う理由こそが、彼女が楽曲製作を活動の主軸に置き続ける上での、欠かす事の出来ない重要なテーマであり続けている。それが星街すいせいの剥き出しのバーチャルシンガーとしての一面だ。
確かにここに「居る」のに「居ない」、仮初の自分をGhost、幽霊になぞらえて存在を訴えかけた楽曲が3周年の節目にリリースされた『GHOST』だ。2018年から2021年を生きた、生き抜く事が出来たVTuberとしての率直な想いがそこには綴られている。