
企業の実行力が問われる時代に必要なのは番頭さんなんじゃないか
記事の位置づけ:企業経営についての考察です
この記事では、大企業においてCOO的な業務を各機能部署で担う番頭さん(事業部COO、本部COO)という新たな役割の有用性を提案しています
これまでコンサルタントとして様々な企業を見てきた中で、うまく回っている…つまり戦略の実行能力が高い事業部では、番頭さん的な役割の方がいることが多かったなという印象がある。(脚注1)
番頭さんとは、企業活動をざっくりとコンテンツとプロセスに分けたときに、コンテンツ面でリードできる人とは別に、コンテンツ面を見ながらも一層プロセス面での責任を持つ人のことだ。この番頭さんがいることで、各事業部内の活動は大変回りやすくなるのだ。
本稿で使うコンテンツ、プロセスという言葉をちゃんと明確にしておく。
コンテンツ…研究開発部署だと新技術や新製品、マーケティング部署だとマーケティングキャンペーン、営業部署だと個別案件の営業・成約のこと
プロセス…研究開発部署だと新製品開発プロセスの整備(e.g., ゲート管理の改善)や技術ポートフォリオの管理、マーケティング部署だとマーケティングプロセスの整備(e.g., 投資判断-実行-ROI測定の仕組み化)、営業部署だと営業管理法の整備 (営業マンの役割分担整備やパイプライン管理手法の整備)のこと
コンテンツは活動そのもので、プロセスは組織として活動を行う上での手順、というイメージだ
事業運営の難しさ
以下、マーケ・営業系の部署を想像すると分かりやすいかもしれない。
多くの企業では、コンテンツ面で成果を上げた人、つまり「かつてマーケキャンペーンを当てた人」や「敏腕営業マン」が出世して部署のトップになっている。だがしばしば…いやかなり多くの企業で、コンテンツ面でのプレイヤーとしては一流だったが、プロセス管理には向いていない方が本部長になってしまい、部署全体の"仕組み"を変えるための施策を打てないケースや、若手から「なんであの人が?」と言われているケースが見受けられる。(脚注2)
また、これは個人の能力だけの問題ではなく、たいてい本部長クラスになると、部門トップにしかこなせないコンテンツ、つまり対外活動 (対上層部活動)であるトップ商談、取引先企業との関係構築、同業他社との意見交換、また経営会議への出席、etc. が予定表の多くを占めるため、現場を実際に見て感じて、指示だしするための時間を取りようがない。そのため、限られた会議時間内に彼らが現場に出す指示は、つい自分の過去のコンテンツ面での成功に基づいたアドバイスに寄ってしまう。
番頭さんという解決策
部門のトップがプロセスに取り組む時間をさけない中で、では何が必要か。私は、番頭さんを置くことが解決策だと思っている。コンテンツ(含、対外的な活動)もプロセス(つまりオペレーションの構築)もすべて部門トップが采配を振るう必要はなく、時代劇で旦那衆と飲み歩く旦那と丁稚を取りまとめる番頭さんのように、コンテンツとプロセスを役割分担して行えばいい、という考えだ。(脚注3)
では形式的に本部長と副本部長がいるからOKかというと、そうではない。もしある部門の若手~課長クラスと会話したときに副本部長が何をやっているかを彼らが知らないのなら、その副本部長は番頭さんとは言えないだろう。
では、このような番頭さんをどのように育てるかというのが次の課題だが、ストレートな答えはプロセスを主たる業務として経験させる、あるいは外部知見を活用することだ。企業・事業部独自の要素が強いコンテンツ面と違って、プロセス面にはある程度成功の型があり、他社の知見や理論を活かすことで改善することが可能だ(だからこそコンサルが存在できるんですが☺)。というわけで、番頭さんを育てるための方法を列挙してみる。
① 子会社・関連会社で経営・企画・管理ポジションを経験させる
② 社内改善プロジェクトを若手・中堅にリードさせる (できれば外部のメンターをつける)
③ 見込みのある若手には外部の勉強会・研究会に参加させる
④ 外部人材 (元コンサル等)をヘッドハンティングする
①は、商社や海外子会社を持つメーカーがよくとる方法だ。
②と③は、①ができない場合に、特に工場で幹部を育てるときに有用な方法だ。また②③の事例として、海外企業などで見られる幹部候補採用・育成がある。番頭さん、ひいては経営者はプロセスを取り扱うので、それらの幹部候補プログラムの人材は早くから製造だろうがSCMだろうが営業だろうが、分野に関係なく改善プロジェクトをリードする機会と教育を与えられている。
④は実は人を育ててないが…米国系の企業の多くはこの発想だし、これからの時代は日本でもますます多く見られる方法だろう。
戦略の実行力や、DX (デジタルを前提としたプロセスの再設計) の重要性が叫ばれるこの時代だからこそ、事業トップの権限を持ってプロセスを管理する番頭さん(事業部COO、本部COO)という役割の存在意義を提案した。もし企業/事業部の実行力に不安があるならぜひ試してみてください。
補足記事 (Sidebar contents)
管理職や経営幹部に求める能力をコンテンツ面とプロセス面という軸で整理して、世の中の現象をとらえてみるのも面白い。例えば…
・ 幹部候補の部門間ローテーション
多くの大企業では幹部候補に様々な部署をローテーションさせる仕組みになっている。これはプロセス強化修行。コンテンツ面で社内の活動全体を把握してもらうこともさることながら、どの部署に行っても付加価値を出せることを望まれている。そうするとプロセス面で付加価値を出すしかない
・ 「経営者は財務部門からばかり排出される」という理系のナゲキと、「工場の人材は視野が狭い」という本社の不満
特に理系職種(研究所、工場系)の間でくすぶっている不満に、「なぜ理系は経営者になれないのか、なぜ経営者は営業部門とか財務・総務部門出身者が多いのか、うちは技術で食っている会社ではないのか」といものがある。こんな話は業種に限らずよく耳にするし、私自身も理系出身としてめちゃくちゃ気持ちがわかる。
ただこの背景には、理系職種ではコンテンツ面での仕事のクオリティを上げ続けること(e.g., 研究者はより良い研究、設計者はより良い設計)が求められ、ある程度役職が上がらないとプロセス業務の視点すら持てない…という人材育成上の問題がある。
他方、営業部門出身者は、ある程度経験を積むと自社の商流をイメージした働き方ができることで経営者としてプロセスを設計する素養がつくし、財務部門ではそれこそ新卒時代から、会社のプロセスを管理することが主業務となっている。
・ プロセス改善の優等生トヨタ
トヨタでは生産調査部という、TPSの作りこみ、定着というプロセス改善に責任を持つ部署がある。また、カイゼン・TPSを体現する存在として技監という最高位の役職が存在する。
脚注
1) 戦略の実行能力が高いかどうかと、業績がいいかどうかは、少し別の話。業績は、市場サイズ変化等にも影響されるので
2) プレイヤーとしても輝いており、かつ管理職としても成果を上げている方というのは、プレイングマネージャーとしてひたすら働き管理職になった後もコンテンツ面で部署の活動をリードしているか、あるいはプロセス面で価値を出す方法をどこかの時点で身に着けている
3) もちろん本部長、事業部門長の立場でプロセス改革を主導するスゴ腕の方々も一定数存在する。しかし、いつでもどこでもスーパーマンの個人スキルに頼れるわけではないので、それを仕組みでカバーする方法として、番頭さん( 事業部COO, 本部COO)という仕組みを提案している