ファミレス
「えっ、なんで?」
「困るよ」
朝起きると、彼の家がファミリーレストランになっていた。
見慣れた玄関は自動ドアに変わり、中に入るとテーブルと椅子がずらりと並んでいる。カウンターの向こうには厨房まである。夢かと思ったが、どうやら現実らしい。
「いやいや、僕、料理人じゃないんだけど……どうしょう。」
戸惑う彼の前に、次々と子供たちがやってきた。どの子もボロボロの服を着て、手には「招待券」を持っている。
「これがあれば、ご飯が食べられるんでしょ?」
そう言って、恐る恐る招待券を差し出す。
彼は券を受け取りながら、改めて子供たちの顔を見た。みんな痩せていて、目の下にクマができている。明らかに満足に食べられていない様子だった。
(親がいない子たちなのか……)
彼はため息をついた。
「ファミレスになったのは困るけど……」
厨房に入り、冷蔵庫を開けると、なぜか食材がたくさん詰まっていた。
(やるしかないか)
手際よく炊飯器に米をセットし、鍋でスープを作り始める。フライパンで卵を焼き、野菜を炒め、肉も焼いた。
豪華なものは出せないかもしれないけど、子供達のためにできることをしたかった。
「ごめん、メニューはないけど……できたよ」
大皿に山盛りのご飯とおかずを盛りつけ、子供たちの前に置く。
食べてくれるだろうか?普通のご飯だぞ。
彼は不安だった。
「いただきます!」
子供たちは目を輝かせ、がっつくように食べ始めた。
「うまい!」
「こんなにお腹いっぱい食べたの、久しぶり……」
食べている間、子供たちは彼にいろんな話をしてくれた。家がないこと、寒くて眠れなかったこと、でも「この券をもらったとき、本当に嬉しかった」こと。
しかし、一人の子が箸を止めて、悲しそうに言った。
「みんなで温かいご飯を食べれると思ってきたけど、やっぱり迷惑をかけるから、帰るよ」
彼は驚いて、その子の前にしゃがみ込んだ。
「迷惑じゃないよ」
子供は涙目で首を横に振る。
「だって、ここ、本当はお兄ちゃんの家なんでしょ……?」
彼は少しだけ考えて、それからふっと笑った。
「そうだね。でも、今日からここは"みんなの家"ってことでいいんじゃない?」
子供は目を丸くした。
「だから、好きなだけ食べていい。遠慮しないで」
そう言うと、子供は少しの間黙っていたが、やがて小さく「……ありがとう」とつぶやき、再び箸を握った。
彼は厨房を見渡しながら、心の中でつぶやいた。
(困るとか言ったけど……まあ、悪くないかもな)