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アレキシ・ライホとそのCrewたちの苦悩と情熱 ~Children of Bodom全作レビュー🇫🇮
私がChildren of Bodom(以降、COBと表記)と出会ったのは大学時代、バンドサークルの先輩がきっかけだった。最初はArch Enemyを共通の話題に盛り上がり、Dream TheaterやKalmahといったバンドを紹介されたものの、当時の私にはそこまで響かなかった。だが、Sonata ArcticaとCOBだけは例外だった。COBの音楽は、反抗的なエネルギーと技巧的な演奏、そして胸をえぐるような叙情性が絶妙に混ざり合っており、瞬時に私の心を掴んだ。それはまるで疾走感溢れる暴走列車に乗り込むような体験だった。 COBはその音楽性を進化させる過程で、多くの挑戦と葛藤を経験した。
デビュー作『Something Wild』では荒削りながらも斬新なサウンドを披露し、2ndアルバム『Hatebreeder』で完成度の高い音楽性を確立。特に初期作品――『Hatebreeder』や『Follow the Reaper』――は、ネオクラシカルな美学と激烈な攻撃性を完璧に融合させた傑作だ。ギターのアレキシ・ライホ(Alexi Laiho)とキーボードのヤンネ・ウォーマン(Janne Warman)の掛け合いは、まさにメロディックデスメタルというジャンルの可能性を押し広げる象徴だった。ギターの怒涛のリフとキーボードの華麗な旋律が激しく絡み合い、音楽がただの暴力的な表現を超え、一種の芸術へと昇華していた。その後も進化を続ける中で、ファンや批評家の意見が二分することも少なくなかった。
Alexiのカリスマ性と苦悩は、COBの音楽とその評価に深く影響を与えてきた。特に、『Are You Dead Yet?』以降の方向性の変化は、バンドのアイデンティティをめぐる議論を巻き起こし、多くのファンや批評家を二分する結果となった。アンダーグラウンドの英雄からメインストリームのエンターテイナーへと変化する中で、Alexiとバンドメンバーが直面した創作の葛藤や選択には、メタルシーンの厳しさが如実に表れている。本稿では、COBのアルバムごとの音楽的成長とその意義を追い、私自身の思い出や視点を交えながら、その軌跡を考察していきたい。
Inearthed
1.Implosion of Heaven (1994年、デモ)
InearthedはCOBの前身バンドであり、このデモテープはAlexiとJaska Raatikainenがまだ15歳ほどだった頃の音源。音楽性としてはオールドスクールなデス・メタルとメロディック・デス・メタルの中間にあたり、グロウル系のヴォーカル、力任せなブラストビートや、遊び心に満ちたシンコペーションがなんとも若々しい。派手なテクニック志向のプレイやキーボードの装飾はなく、COBの音楽性とはかけ離れている。まだまだ模索段階のようだが、「Shards of Truth」では聴かせるソロが現れる。「Tss, Aah!!!」はライトビールのTVCMに由来するジョークナンバー、W.A.S.P.「Hellion」のカバーにもアイデアが使われている。
2.Ubiguitous Absence of Remission (1995年、デモ)
まず、「Ubiguitous」という言葉は正式な英単語ではなく、一般的には「Ubiquitous」(遍在する、至る所にある)が正しい綴りであり、難しい単語を使ってみた若気の至りを垣間見せる。音楽性は、ブラックメタル的な不協和音やブラストビート、メロディックデスメタルの美旋律、さらにはパワーメタル的なリードギターを組み合わせており、前作と比較してメロディを重視している。複雑なことをやり始めたが全く整理しきれていない感じだ。実験的で大胆な試みが随所に見られ、「Translucent Image」は奇妙な変拍子と女性ボーカルの投入が印象的だ、一部は後にSinergyの「Beware the Heavens」で再利用。「Possessed」ではアコースティックなソロを入り、後半のソロもドラマティック。「Shamed」はメロデスの王道タイプ。
3.Shining (1996年、デモ)
題材はキング原作のホラー映画。またしても音質が低下して音量バランスも不安定(特に高音域の不足が目立つ)になったが、いよいよJanne以外のCOBのメンツが揃った本作はInearthedとCOBの音楽性の架け橋となる重要音源だ。スピード感や攻撃性を抑え、スローな展開を活かして独特の雰囲気を築き上げている。そこには、Janneとスタイルが対称的なもののJani Pera Pirisjokiの貢献がある。『Something Wild』録音時にお蔵入りしたものの「Mask of Sanity」で一部再利用された「Talking of the Trees (Sanctuary)」(前者の0:55と2:05のフレーズはそれぞれ後者の2:25と3:25の箇所に対応)、AlexiがImpaled Nazareneのために書いた「Cogito Ergo Sum」で再利用された「Vision of Eternal Sorrow」、展開が混沌としつつメロディのテイストは既に初期COBの「Homeland」、「Towards Dead End」のメインフレーズをアコースティックで奏でる「Homeland II: Shining (The 4th Kingdom)」など注目すべき点は多い。
Children of Bodom
1.Something Wild (1997年、1stアルバム)
フィンランドのメタルシーンに新たな息吹を吹き込んだデビュー作。特筆すべきはYngwie Malmsteenらに影響されたネオクラシカル系のギターとキーボードの圧倒的な存在感だ。「Lake Bodom」とボーナストラックの「Children of Bodom」のイントロはその象徴であり、ギターとキーボードの絡みが見事に融合しているこの楽曲はアルバム中でも一際輝いている。全体にアイデアが氾濫し、整合性に欠ける部分があるものの、他の楽曲もそれぞれに魅力的で、オープニングトラック「Deadnight Warrior」は、衝動剥き出しの強引な展開が鮮烈な印象を与えるし、「Red Light in My Eyes, Pt. 2」ではモーツァルトのフレーズが引用されており、「The Nail」の後半のソロもバンドの独自性と技巧性を示す部分。日本版の「今世紀最後の高級メロデス」という叩き文句がアリでも、(Dissectionの影響が強くても)COBは「ブラック・メタル」ではないと思う。
2.Hatebreeder (1999年、2ndアルバム) ⭐️名盤
衝動任せな前作から飛躍的に洗練され、スラッシュメタルやパワーメタルの攻撃性が、ネオクラシカル系のメロディと見事に融合している。ここには、強烈なツーバスを効かせるようになったJaskaのドラムプレイの進化が大きく貢献している。Henkka T. Blacksmithのベースが唸る「Warheart」、ギターとキーボードの華やかなユニゾンが聴ける「Silent Night, Bodom Night」「Haterbreeder」、終盤に怒涛の展開を見せる「Towards Dead End」、再録で一層ドラマティックになった「Children of Bodom」、演奏で暴れつつ上質な哀愁を体現する「Downfall」など、どのトラックも非常に濃密であり、詰め込まれたエネルギーは一切薄れることなく、最後まで突き進んでいく。アイリッシュな「Bed of Razors」は未だ過小評価されている。まさにChildren of Bodomを代表する一枚。
3.Tokyo Warhearts (1999年収録、ライヴ音源)
1999年7月10〜11日のクラブチッタ公演を収録。In Flamesの前座らしく、セットリストと照合すると未収録曲はなさそう。なお、In Flamesも最強セトリと言わんばかりに凄い曲が並んでいる。本当に良い時代だった。さて、この邦題『東京戦心』はゴジラジャケットのダサさが半端ではないが、内容の熱気も別の意味で凄い。悉くテンポが速めで勢い任せで、時々解体しそうにはなるものの致命的なミスはないので、粗さがライヴ盤としての味になっている。曲自体が強いのもあって、後年の『Chaos Ridden Years』よりも純粋な楽しさがある。
4.Follow the Reaper (2000年、3rdアルバム) ⭐️名盤
サウンドの洗練は更に進み、ヘヴィネスや攻撃性よりも旋律美や調和を重視した作風。Peter Tägtgrenをプロデューサーに迎えた結果、ヘヴィネスを殺さずに各パートが見通しの良いクリアなプロダクションに仕上がった。キーボードのイントロからリスナーを捉えて離さない「Follow the Reaper」「Mask of Sanity」にしても、品を損なわない限界一歩手前のキラキラ感を弁えている点が心憎い。Iron Maiden的なノリやクサメロが好き人には「Hate Me!」を推す。ミドルテンポの「Everytime I Die」は次作のグルーヴを予見しており、テンポの面でもバリエーションを広げてきた。完成度と聴きやすから"メロデスの入門編"としてよく挙げられるのも納得の代表作。
5.Hate Crew Deathroll (2003年、4thアルバム)
キャリア中、最もエネルギーと攻撃性と覇気に満ちた勢いのある作品。ネオクラシカルな要素を保持しつつも、スラッシュメタル度とヴォーカルの力強さが格段上がり、高いテンションで全編を駆け抜ける。代表曲「Needled 24/7」からエンジンは全開で、AlexiとJanneの引き倒しでリスナーを圧倒する。「Sixpounder」はPanteraの「A New Level」を我流に咀嚼したような曲だが、シンセの味付けが非凡。激しさとメロディアスさとバランスは「Bodom Beach Terror」以降の3曲で顕著だ。Slayerに通じるハードコア疾走で閉める「Hate Crew Deathroll」も素晴らしい。前2作には及ばないし、持ち味を米国進出のために3割犠牲にしたように思えるが、野心とアイデアに溢れた過渡期の良作だ。COBに手を出すならまずはここまでのどれかにされたい。
6.Trashed, Lost & Strungout (2004年、EP)
次作への架け橋的な存在となったEP。タイトル曲は、「Hate Me!」「Needled 24/7」を堅実にアップデートさせたようなリフで、Slipknotのような切り返しにモダン化の流れを感じる。もっとも、ニュー・アルバムを予見していたのは実は「Knuckleduster」の方だった。残りはAlice CooperとAndrew WKのカバー、どちらかというと前者の方がハマってると思う。ドキュメンタリーは若きクルーたちの微笑ましい光景が拝める。
7.Are You Dead Yet? (2005年、5thアルバム)
EPで暗示されていたようにモダン化が推し進められ、ギターとキーボードが絡み合うテクニカルなネオクラシカル要素が減退した代わりにグルーヴ・メタルの要素が増えた。バンドの歴史上最大の転換点だ。徐々に加速しながら盛り上がる「Living Dead Beat」、ブラックアルバム期のMetallicaのようなキャッチネスを持つタイトル曲、疾走リフは同時期のIn Flamesを想起させる「In Your Face」など、ダウンチューニングされたギターを主軸にシンプルな曲構造を志向している。キーボードが控えめになった分だけ、アルバム全体が平坦化された印象。
8.Chaos Ridden Years - Stockholm Knockout Live (2006年、ライヴ映像) ⭐️名盤
2006年2月5日ストックホルム公演。最新アルバムを中心に各アルバムから選曲されており、「Tokyo Warheart」から場数を踏んで円熟したパフォーマンスを堪能できる。と、言いたいところだが本作におけるギター・プレイは全体的に雑で、「Needled 24/7」に至っては再現自体が厳しい様子。怪我の後遺症なのか、飲酒のせいなのか、あるいは両方なのか、パフォーマンスが気丈に映ってもAlexiは不調だ。Roopeの即興ソロも冴えておらず、新曲が旧曲に劣らないことを実証する試みは空振りしている。こうした演奏の細部にさえ目を瞑って、映像で堪能すれば本作は傑作だと思う。10歳年上のおっさんRoope Latvalaをフォローするように動き回って煽ったり、ウインナーを焼いたりと、エンターテイナーとしてのバンドは確実に成長している。
9.Blooddrunk (2008年、6thアルバム)
前作『Are You Dead Yet?』の路線を踏襲しつつ、スラッシュメタル度を増やしてアグレッシブなサウンドを追求した作品。持ち味であるテクニカルなギターリフとメタルコアに接近してきたシャープなリズムセクションが際立つ。新旧のCOBサウンドを織り交ぜたような、もう少し具体的な言い方をするなら『Follow the Reaper』以降3枚の焼き増し的な内容だ。例えば「Hellhounds on My Trail」は「Needled 24/7」の、「Banned From Heaven」は「Everytime I Die」の、三番煎じのように聴こえる。バンドは明らかに前作の散漫さを反省して一貫性を持たせる努力をしたが、結果的には意識し過ぎて悉く期待が期待だけで終わる仕上がりに着地した。スケジュールが過密過ぎてインスピレーションの生まれないという事態は、一部のメンバーに作曲を一任する体制の深刻な課題である。
10.Hellhounds on My Trail (2008年、EP)
タイトル曲のEditパージョンと、カバー2曲、ライヴ音源3曲からなる。カバー2曲は『Blooddrunk』の日本版ボーナストラックだったし、ライヴ音源は『Chaos Ridden Years』があるなら事足りるような選曲なので、余程のファンでもない限り価値のないリリースである。せめてライヴ音源が珍しい曲ならまだしもだ。バンド側には気を利かせるだけの余裕がないのだろう。
11.Skeletons in the Closet (2009年、カバー・コンピレーション)
メタル界に限らず古今東西でカバーアルバムは、アーティストのインスピレーションが煮詰まった時に出されてきたし、COBの『Skeletons in the Closet』も例外ではない。こちらもコレクター志向のファンとバンドだけが楽しい企画であって、録音時期がキャリア全体に跨っていても、それが全盛期かどうかに関係なく何度も聴きたくなる魅力に欠ける。彼らは他のデス・メタル・バンドにはない独特のポップ・センスがあるので、選曲やアレンジにもカラーが滲み出ているのは確かだ。Slayer「Silent Scream」、Iron Maiden「Aces High」のようなメタルのクラシックから、その対極にあるBritney Spears「Ooops!...I Did It Again」のようなネタとしか思えない代物まで多彩だ。COBのカバーで一番いいのはOzzy Osbourneの「Shot in the Dark」だと思うのだが、残念ながら未収録。
12.Relentless Reckless Forever (2011年、7thアルバム)
4th以降に目立ったグルーヴメタル要素がなくなり、再びギターとキーボードのメロディックなリフワークを重視する方向に舵を切った。本作ではギタリストのAlexiのギタープレイが控えめで、代わりにJanneが前に出ている。 「My Funeral」「Shovel Knockout」は前作のどの曲よりも良いがそれが続かない。情感やエッジより洗練された耳障りのよさを最優先したポップなサウンドは、結局商業志向を追求しているだけに思える。先行シングル「Was It Worth It?」の過剰演出なソロは痛々しかったが、減ったら減ったでアイデンティティ問題になるというベテランの苦境だ。
13.Halo of Blood (2013年、8thアルバム)
初期の冷やかな空気とエッジの効いた攻撃性を取り戻した音楽性。今回はAlexiが前に出てWarmanが一歩引いたバランスだ。Hypocrisyのフロントマンとしても知られるPeter Tägtgrenをプロデューサーに迎えたことでモダンさとクリアさを共存できている。「Waste of Skin」は一曲目としては地味だが北欧的な情緒を取り戻した意味ではアリだし、「Halo of Blood」はブラックメタル的なリフとブラストビートが聴けるし、バラード調の異色作「Dead Man's Hand on You」も新鮮味がある。「All Twisted」の軽妙なビートもアルバムにコントラストを添えている。マンネリは脱していないものの前二作より断然良い。
14.I Worship Chaos (2015年、9thアルバム)
バンドはRoopeの離脱により4人体制でスタジオ入りした。そのためか、ギターのダイナミズムが不足気味で、ギターとキーボードの掛け合いが大幅に削減されたために、単調さが目立つ作風に仕上がっている。「Morrigan」は作中で抜きん出たキャッチネスがあるし、「All for Nothing」も北欧ならではの旋律が前に出た曲だ。「Prayer for the Afflicted」は3rd以降定期的に出てくるようなミドルテンポだし、「Horns」は前作のタイトル曲同様にメロディック・ブラック・メタル的に近いタイプ。今回は直線的なフレーズが増えて、スピード感は減退している。「I Hurt」「My Bodom」はもう少し工夫が欲しいところ。
15.Hexed (2018年、10thアルバム)
グルーヴメタル、メタルコア、ポップ化など次々とアメリカナイズの試みに失敗したバンドは、遂に新たな挑戦よりも原点回帰を推し進めてベテランの円熟味で勝負をかけた。こう書くと些か痛々しいイメージに見えるが、実際は迷いがなくなった分的の絞られた良作に仕上がっている。初期の衝撃度や輝きこそないが、完成度はその一歩手前まで復活したように思う。 ギターとキーボードの掛け合いというCOBの古典的スタイルの「Platitudes and Barren Words」や、キレのあるリフワークと疾走感を持つ「Hexed」は5th以降では出色の出来だし、「This Road」「Under Grass and Clover」も攻撃的なリフとキャッチーなメロディが融合した良曲。集大成的な安全策が一定の成功を収めた点ではキャリアの終点にあるべくしてあるアルバム。
16.A Chapter Called Children of Bodom (2019年収録、ライヴ盤) ⭐️名盤
バンドのラスト・ライヴとなった2019年12月15日ヘルシンキ公演を収録。音源のみのリリースであるが、バンドが最後までワイルドなライヴ・バンドだったことがうかがえる内容だ。セットリストは全アルバムから堅実に組まれており、前半は比較的新しい曲、後半は昔からの定番曲といういつもの段取り。「Deadnight Warrior」など懐かしい曲も。あらゆる曲が速めに演奏されており、解散の悲壮感よりもエネルギッシュな推進力が全編を占めている。その分演奏も所々粗くなりがちで、「Needled 24/7」のイントロは今回も再現性低い。病に冒されたAlexiのプレイを誤魔化す策なのかもしれないが、音の解像度もテンションも高いのでノれる好盤なのは確か。「Downfall」の最後で絞り出すようなプレイを聴きながら、在りし日のAlexiの写真を集めたブックレットを眺めるとじんわりくる。
Bodom After Midnight
1.Paint the Sky With Blood (2021年、EP)
COB解散後、Alexi LaihoとDaniel Freybergによって2020年に結成されたもののAlexiの逝去により遺作となった3曲入りEP。タイトル曲である「Paint the Sky with Blood」は『Follow the Reaper』時代を想起させるCOBのクラシックなサウンドを継承したスタイルで、「Payback's a Bitch」は『Are You Dead Yet?』から『Relentless Reckless Forever』あたりのスタイルに近い。Dissectionの「Where Dead Angels Lie」のカバーは、Alexiにしては忠実なアレンジだがそこが功を制している。プロダクションは非常にクリアかつ力強く、楽曲もAlexiが最後まで情熱を持ち続けていたことが伝わる高水準。このEPは最期としてではなく、間違いなく新境地を目指して創られている。
考察:アイデンティティの喪失と再発見
初期の猛進と頂点
COBの音楽性の基盤は、前身バンド「Inearthed」の時代にすでに築かれていた。クラシック音楽から影響を受けたメロディと、過激なリフやグロウルの融合は、当時の若き彼らがシーンの中で自分たちの居場所を切り開こうとした野心を感じさせるものだった。
『Something Wild』から『Hatebreeder』、そして『Follow the Reaper』まで、COBはその野心を具現化した。ただ技巧を見せびらかすだけではなく、キャッチーなフックと人の心に刺さるメロディを持ち合わせていた。特に『Hatebreeder』の「Downfall」や「Bed of Razors」、そして『Follow the Reaper』の「Everytime I Die」は、私にとっても特別な楽曲だ。
転機と失速
『Hate Crew Deathroll』でグルーヴ感を増し、次第にサウンドはシンプルでアグレッシブな方向にシフトしていった。そして、問題の『Are You Dead Yet?』である。このアルバムは、Alexiの創作が商業的な成功を追求する方向へと明らかに転じた作品だった。ここからCOBの音楽性は「安全策」をとり始めたように感じる。『Blooddrunk』ではその傾向がさらに顕著になり、私はライヴで「アレキシー!」と叫ぶ隣の金髪美女の熱狂ぶりを横目に、このアルバムで自分の「チルボド熱」が冷めていくのを感じた。
アルバムの質だけでなく、Alexi自身の姿もまた気がかりだった。どんどん痩せ、老けていく彼を目の当たりにするたびに、プレッシャーとストレス、そして飲酒や病が彼を蝕んでいるのではないかと思った。COBがどの方向に向かっても、アイデンティティとマーケティングの狭間で揺れる苦悩と焦燥感が、特に6thアルバム以降の作品から滲み出ていた。
再発見と最後の輝き
だが、『Hexed』は久々に彼らが初心を思い出した作品だった。そしてCOB解散後にAlexiが新バンド「Bodom After Midnight」を立ち上げ、『Paint the Sky with Blood』をリリース。これを聴いたとき、彼が一回りしてルーツを見つめ直し、自分たちのアイデンティティを再発見し始めていたことが確信できた。それだけに、Alexiの訃報はあまりにも惜しかった。進化の途上にあった彼の人生が、無情にも終わりを迎えたのだ。
総括
最終的に、Alexi Laihoの死は音楽だけでなく、エンターテインメント業界がアーティストに課す過酷さを象徴しているように思える。彼が音楽を通じて私たちに送ったメッセージは、彼の内なる苦悩、葛藤、そしてそれを超えていく勇気そのものであった。その存在は、まるで燃え尽きることなく天に向かって放たれた最後の火花のようで、彼の音楽は今もなお多くの人々の心に生き続けている。
そして、「俺たちはヘイトクルー、最後の一撃まで俺たちは闘う」という言葉が象徴するように、彼の音楽はただのエンターテイメントではない。彼の魂が込められたそのメロディは、無情な現実の中でも希望を持ち続ける力となって、今後も消えることはないだろう。Alexi Laihoとその音楽は、永遠の「Wildchild」として、私たちの心の中で生き続けるのだ。