
ヘッドバンガー御用達の孤高のDeath 'n Roll: The Crown全作品解説🇸🇪
スウェーデンのデス/スラッシュ・メタルシーンに燦然と輝くThe Crownは、その長いキャリアの中で劇的な音楽的進化を遂げた。デモテープ時代の生々しいデスメタルから、洗練されたメロディック・デス・メタル、さらにはロックンロールやスラッシュメタルの要素を巧みに取り入れたスタイルへと変貌し続けている。本記事では、彼らの音楽的な軌跡を中心に、その変化と進化を詳細に探りながら、バンドの成長を振り返る。
The Crownを全作品レビュー
1.Forever Heaven Gone (1993年、デモテープ)
当初は純然たるデスメタルをやっていたThe Crown。ヨハンの重ね録りされたヴォーカルはDeicideのグレン・ベントンを想起させる。幾つかは1stに収録される楽曲だが、「Diachronic Damnation」は10年後に「Zombiefied!」に転用されるリフが含まれている。
2.Forget the Light (1994年、デモテープ)
前作同様にデスメタルを貴重としているが、メロディックなリフワークが現れてきた。こちらは全曲1stに収録された。特に「Neverending Dream」はメロディック・デス・メタルといっていいタイプの曲で、1st収録のバージョンにはないキーボードのイントロがついている。
3.The Burning (1995年6月、1stアルバム)
デモテープに比べてプロダクションに整合感が出たデビューアルバム。「Of Good and Evil」をはじめ、「I Crawl」「Neverending Dream」「Forget the Light」など随所でメロウなリフも聴けるが、基本的にはスラッシュビートとブラストビートを織り交ぜたデスメタル。曲展開はまだ洗練されていないが、硬派という意味ではディスコグラフィー上でも随一かもしれない。
4.Eternal Death (1997年、2ndアルバム) ⭐️名盤
メロディック・デス・メタルの要素が飛躍的に高まった作品。その鋭利で寒々しいメロディはスウェーデン的な抒情性を湛えつつも、イエテボリ勢とは一線を画したドラティックなもの。特に「Angels Die」「In Bitterness and Sorrow」「Hunger」の旋律美はキャリア史上のハイライトであり、2分に満たない「Kill (The Priest)」から10分超えの大作「Death of God」まで挑戦意欲も旺盛。同ジャンルにおいて最も過小評価されている名盤だと思う。
5.Hell Is Here (1999年、3rdアルバム)
引き続きメロディック・デス・メタル路線であるが、北欧的な冷気や抒情性が減退して垢抜けたサウンドに変貌した点や、次作で前面に打ち出されるロックンロール要素が出現した点で、傑作に挟まれた過渡期的作品と言える。ライヴで定番の「The Poison」や「1999 - Revolution 666」はコーラス面のキャッチネスも重視している。また、「Mysterion」は抒情性の面でアルバムのクライマックスだろう。
6.Deathrace King (2000年、4thアルバム) 🌟必聴盤
デス/スラッシュ・メタルとロックンロール、パンクの要素を極めて高い水準で融合してみせた世紀の大傑作。ドライで音抜けが良く、決して安っぽくない洗練されたサウンドにプロデュースしたフレドリック・ノルドストロームのセンスも特筆点。爆発的なドライヴ感を持つ「Deathexplosion」を筆頭に、「Rebel Angel」「Total Satan」「Killing Star」といったデスロールナンバーは無意識に視界が揺れるし、「I Won't Follow」のネオクラシカルなフレーズや、「Devil Gate Ride」のカオティックなビートまでバリエーションと一貫性のバランスは見事だ。
7.Crowned in Terror (2002年、5thアルバム)
結果的にこの一枚で終わったが、At the Gatesのトーマス・リンドバーグをヴォーカルに迎えて制作された名盤。前作が北欧的な湿り気を排除したカラッとしたロックンロール主体の作風とするなら、こちらは80年代のスラッシュメタルにどっしり腰を据えた作風になる。「Crowned in Terror」「Under the Whip」など、サウンドも音楽性も破壊力が格段に向上。デスロールが完全に板についたの「Satanist」やアグレッシヴに泣きメロを打ち出した「Death Is the Hunter」もハイライト。
8.Possessed 13 (2003年、6thアルバム) ⭐️名盤
ヴォーカルにヨハンが復帰。よりオールドスクールに、或いは自らのルーツを追求したともいえる作風。例えば、「No Tomorrom」の出だしはSlayerの「Hell Awaits」を、「Kill 'em All」「Natashead Overdrive」は初期Metallicaを彷彿とさせる。また、「Face of Destruction - Deep Hit of Death」「Zombiefied!」はデモ音源の「Last Rite」「Diachronic Damnation」から
リフが流用されているのが確認できる。
ラフなサウンドの好感度はあまり高くないが、それを補ってあまりある曲のクオリティは流石。
9.Crowned Unholy (2004年、7thアルバム) ⭐️超名盤
ヴォーカルにヨハンが復帰して、再録音された『Crowned in Terror』全曲。もはや解散が目前に迫っている背景を考えると大人の事情が頭をよぎるが、いずれにせよ、やはり全盛期を支えたこのメンツこそが自分にとってもThe Crownの"The True Line-up"だ。「Crowned in Terror」の冒頭の叫び声や、「Satanist」の"Let's Go!"など、ヨハン特有のアプローチが楽曲に馴染まないわけがない。過去最高に分厚くなったプロダクションも特筆点。
10.14 Years of No Tomorrow (2005年、ドキュメンタリー&ライヴ映像)
解散したThe Crownのライヴやツアー模様を収録したドキュメンタリー。『Wacken 2002』が一番プロ撮影の水準で、あとはブートレグのような品質。そもそも彼らの音楽性は大規模な商業的成功の難しいジャンルであるが、レーベルも協力的ではないし、ツアーも過酷だとメンバーのモチベーションも擦り切れてしまう。『Crowned Unholy』のDVDの客入りだって、わざわざ映像化するか?というくらい少ない。引き金が人間関係の摩擦でも音楽への情熱喪失でもないのが尚更悔やまれる。再結成後の作品を聴くと、彼らが創作面で最もインスピレーションに富んだ時期を犠牲にしたことが分かるからだ。
11.Doomsday King (2010年、8thアルバム)
解散して5年足らずで再集結しDobermannと名乗りセッションを始めた元The Crownのメンバー。ヨハンは別プロジェクトに専念中なのでヨナス・ストールハマールをヴォーカルに迎えてThe Crownとして復活したのだった。そもそもヨハンのヴォーカルスタイルはヨナスを参考にしていたらしいので、The Crownの音楽性との相性はさして問題にならない。むしろ楽曲のマンネリと精彩の欠如の方が深刻だ。印象に残ったのはDobermannのデモに由来する「Doomsday King」、Slayerのオマージュ「Angel of Death 1839」くらい。
12.The Crown Live at Sticky Fingers 2015-01-10 (2015年、ライヴ映像)
2015年12月24日、バンドからのクリスマスプレゼントとして無料配信された同年1月10日のライヴ映像。2日後に新作リリースを控えた時期であり、アルバムの冒頭3トラックが披露されている。その他、初期2枚から3曲追加された以外は、2013年来日時のセットリストをベースにしている。相変わらずロビン・ソークヴィストのソロはマーカス・スーネソンのではなくオリジナル、マーカスのセンスには遠く及ばないと思う。
13.Death Is Not Dead (2015年、9thアルバム)
ヨハン・リンドスタンドの復帰、マーカス・スーネソンとヤンネ・サーレンパーの脱退という大きなメンバーチェンジを経て制作された。マルコ・テルヴォーネンのメイン・ルーツであるParadise Lostのカバーが前半に収録されているように、本作はかなりゴシック・メタルに寄せたメロディの際立つ大人しいトーンの作品だ。「Headhunter」とかこれまでになかったタイプ。「Iblis Bane」はカール・オルフ『カルミナ・ブラーナ』にインスパイアでもされたのだろうか。ヤンネの代わりに叩いているマルコのドラムは退屈。
14.Cobra Speed Venom (2018年、10thアルバム)
デス/スラッシュ・メタル本来のエネルギーを取り戻そうと、スピードとアグレッションに一際力を入れた作品。今のところ復活後のThe Crownの中では一番の出来だ、フレドリック・ノルドストロームは未だにThe Crownの良き理解者のようだ。往年のデスロールのドライブ感を取り戻した「Iron Crown」、冷徹なリフワークの「In the Name of Death」なんかはとてもいいし、「The Sign of the Scythe」のような長尺曲も聴き応えがある。ヘンリク・アクセルソンのドラムもタイトで、前作とは雲泥の差。
15.Royal Destroyer (2021年、11thアルバム)
メロディック・デス・メタル要素がいくらか控えめになった以外は、前作を着実に踏襲した作風。彼らのキャリア史上、ここまで音楽性を変えなかったことはなかっただけに、ベテランの保守志向がいよいよ露になってきた印象を受ける。本作で特にお気に入りなのは、文字通りジェフ・ハネマンに捧げた「Let the Hammering Begin!」、作中随一のメロディアスサイドのリフワークを聴かせる「Beyond thd Frail」。先行シングルの「Motordeath」の展開も捻りが効いている。
16.Crown of Thorns (2024年、12thアルバム)
オリジナルメンバーであり、マルコと共にバンドのソングライターを担ってきたベーシストのマグナス・ウルスフェルトが「もう情熱がない」と脱退。これはショック!一方で、マーカス・スネソーンの復帰は嬉しい。ギターソロにおいてマーカスとその他大勢では、楽曲にもたらす"華"の点で落差があり過ぎる。「前二作が兄弟みたいだから」とメロディック・デス・メタルへの反動が見られるが、2ndでも3rdでもなく、あくまで近年の音楽性を通過した上でのアップデート。本作では「Martyrian」が出色だが、新参のマティアス・ラスムッセンのポストパンクのルーツが現れた「Gone to Hell」も注目だ。
進化の軌跡を振り返る
デモテープ時代の萌芽と方向性の形成
1993年の『Forever Heaven Gone』は、The Crownが純然たるデスメタルを志向していた初期の証である。グレン・ベントンを想起させるヨハンのヴォーカルや、10年後に再利用されたリフを含む楽曲が示すように、彼らの音楽的基盤はこの時期に確立されたといえる。
次作『Forget the Light』(1994年)では、メロディックなリフワークが顕著になり、「Neverending Dream」のような楽曲で早くもメロディック・デス・メタルへの志向が見られる。この時期の変化は、後の進化を予感させる重要な段階だった。
アルバムデビューと音楽性の深化
1995年のデビューアルバム『The Burning』は、プロダクションの向上とともに、スラッシュビートやブラストビートを織り交ぜたデスメタルとしての完成度を高めた。しかし、まだ曲展開は粗削りであり、硬派な側面が強調されている。
続く1997年の『Eternal Death』は、メロディック・デス・メタルの要素が飛躍的に増加した作品で、スウェーデン的な抒情性とドラマ性を融合させた楽曲が多い。「Angels Die」や「In Bitterness and Sorrow」といった楽曲は、その旋律美と挑戦的な構成でキャリアの中でも特筆される。
メロディック・デス・メタルからの脱却と多様性の追求
1999年の『Hell Is Here』では、北欧的抒情性が後退し、ロックンロール要素が台頭した。この時期を過渡期と位置付けることができる一方で、キャッチーな「The Poison」や「1999 - Revolution 666」が示すように、彼らの音楽は新たな方向性を模索していた。
2000年の『Deathrace King』は、デス/スラッシュ・メタル、ロックンロール、パンクを高次元で融合した傑作である。フレドリック・ノルドストロームのプロデュースによるドライで音抜けの良いサウンドは、彼らの音楽に新たな命を吹き込んだ。「Deathexplosion」や「Rebel Angel」などの楽曲は、バンドの勢いと多様性を象徴している。
メンバーチェンジの影響と音楽性の変化
『Crowned in Terror』(2002年)では、At the Gatesのトーマス・リンドバーグをヴォーカルに迎え、スラッシュメタル的要素を強化した。この一枚でリンドバーグ体制は終焉を迎えるが、その音楽性は新たな可能性を示唆している。
2003年の『Possessed 13』では、ヨハンが復帰し、よりオールドスクールな要素が強調された。デモ音源のリフを再利用するなど、ルーツへの回帰と実験的アプローチが同居する作品だが、粗さが際立つプロダクションは評価が分かれる。
復活と安定期の到来
2010年にリリースされた『Doomsday King』以降、The Crownは再結成を果たしつつ、新たな方向性を模索している。しかし、楽曲のマンネリ化や精彩を欠いた印象が否めない。
2018年の『Cobra Speed Venom』は、デス/スラッシュ・メタルのエネルギーを取り戻し、復活後の作品として最高の評価を得た。フレドリック・ノルドストロームのプロデュースは再び光を放ち、「Iron Crown」や「In the Name of Death」といった楽曲がバンドの持つ可能性を再確認させる。
新作への期待
最新作『Crown of Thorns』では、前作『Royal Destroyer』での音楽性を踏襲しつつも、メンバーチェンジの影響がどのように現れるかが注目される。特に、スピードとアグレッションに重きを置いた路線が続くのか、それとも新たな要素を取り入れるのかは、今後の評価を左右するポイントとなるだろう。
過小評価される孤高のバンド: The Crownとの出会いと旅路
2005年の冬、筆者はネットの口コミから『Deathrace King』を購入した。正確にはそこからTSUTAYAの視聴コーナーで「Deathexplosion」を45秒視聴しただけで確定した。当時、このバンドを知る友人や先輩は皆無で、完全に孤独な音楽体験の中でその魅力を堪能した。その後も、彼らのディスコグラフィーを追い続け、現在に至るまで彼らの音楽を愛している。ネットがもたらした最大の収穫といっても過言ではない。
The Crownは、その表現力やオリジナリティにおいて、At the GatesやVaderのようなデス/スラッシュの大御所に全く引けを取らないが、いまだに過小評価され続けている。スウェーデン出身のバンドとして、In FlamesやDark Tranquillityの影響力の陰に隠れがちだが、彼らの独自性と革新性は明確だ。特に『Deathrace King』で示された多様性と『Cobra Speed Venom』での復活劇は、より高い評価を受けるべきだと感じる。それは生でライヴを体感したあとも変わらない。KISSのキャップを被り私と写真を撮ってくれたヨハン・リンドスタンドをはじめ、彼らは純粋に音楽を愛するロッカーだ。
孤独なリスナーとしてThe Crownを追い続けた体験は、彼らの音楽に対する個人的な理解を深めると同時に、過小評価されているバンドを発掘する喜びを教えてくれた。それは、時に孤立を伴うものの、独自の価値を見出す貴重な経験だった。
総括
The Crownは、デスメタルからメロディック・デス・メタル、さらにはデスロールやスラッシュメタル的要素を取り入れ、常に進化を続けてきた。メンバーチェンジやプロダクションの変化を通じて、音楽性の幅を広げながらも、核心には一貫した情熱とエネルギーが流れている。最新作への期待とともに、彼らの過去の軌跡を振り返ることは、その音楽の奥深さを理解する鍵となるだろう。
「輝かしい誇りと力に満ちて…恐れることなく、やりたいことをすべてやれ!」—『Total Satan』より