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ブラックメタルとMayhemの物語:暗黒の交響曲へようこそ

皆さん、音楽といえばポップスやロック、ジャズ、クラシックなどが真っ先に思い浮かぶかもしれません。でも、そんな中には、一見すると普通の音楽とは全く違う、まるでダークファンタジーや異界から飛び出してきたかのようなジャンルが存在します。それがブラックメタルです。もう名前からして怖そうですよね?でも、ブラックメタルとは単なる「怖い音楽」ではなく、特定の音楽的特徴、哲学、そして驚くべき歴史を持つ一大ムーブメントなのです。

ブラックメタルの特徴は、速いテンポのギターリフ獰猛なドラムビート不気味な雰囲気、そして絶叫や低音のうなり声で構成されたボーカルです。歌詞の内容は、キリスト教批判や自然崇拝、神秘主義、果ては自らの内面の闇に迫るものまで幅広いですが、一貫して「暗さ」が共通しています。そして、音楽だけでなく、その見た目や振る舞いも重要。顔を白と黒に塗った「コープスペイント」や、暗黒の雰囲気を醸し出すファッションが特徴的です。

では、このブラックメタルの中で「伝説的」とも「問題的」とも言える存在、Mayhem(メイヘム)について語りましょう。このバンドは、まさにブラックメタルの象徴であり、その音楽性だけでなく、その衝撃的な歴史でも知られています。


Mayhemの始まり

1984年、ノルウェーのオスロで結成されたMayhem。バンド名からして「混乱」や「大騒ぎ」を意味し、彼らの音楽や行動はまさにその通りでした。Mayhemの結成当時、ギターを担当していたのがØystein Aarseth(Euronymous)という人物。彼は、ただのバンドマンではありません。ブラックメタルのイデオロギーを掲げ、その文化を築き上げた、いわば「黒い教祖」のような存在です。

最初はBlack SabbathやVenom、Motörheadなどの楽曲をカバーしていましたが、徐々に独自の音楽を作り始めます。その頃から彼らは普通のロックバンドとは一線を画す存在に。なにしろ、Euronymousはインタビューで「平和や幸福なんてクソだ!人々にはもっと悲しみと絶望を味わってもらうべきだ」と堂々と語るほどの人物。普通の感覚では到底理解できません。

そんな彼らの音楽活動は、しばしば「普通ではない」方向に進みました。1987年にリリースしたEP『Deathcrush』は、当時としては非常に過激な音楽とビジュアルで、すぐにカルト的な人気を博します。この作品は限定1000枚のみのリリースで、瞬く間に売り切れました。


ブラックメタルサークルとその過激さ

ブラックメタルの黎明期において、ノルウェーでは"ブラックサークル"と呼ばれる集団が生まれました。このグループは、Mayhemを中心としながらも、BurzumやEmperorといった他のバンドのメンバーも関わっていました。彼らの目的は、単なる音楽活動を超え、ブラックメタルを「運動」として広めることでしたが、いつしかその方向性が常軌を逸していきました。

ブラックサークルは「反キリスト教」を掲げ、キリスト教会を焼き払うことで自分たちの信念を世に知らしめようとしました。1992年には、ノルウェー各地で教会放火事件が頻発。その中には、歴史的価値の高いスターヴ教会も含まれており、この行動は国内外で大きな波紋を呼びました。中心人物だったEuronymousは、これらの行動を「キリスト教への復讐」として正当化しましたが、その背後には「どれだけ過激になれるか」という競争意識も見え隠れしていました。


Deadとその死

Mayhemのボーカリスト、Dead(本名: Per Yngve Ohlin)は、ブラックメタルの象徴的存在です。彼はその独特な世界観から「自分は生きた人間ではなく死者だ」と信じ込んでいました。そのため、ステージでは白と黒のコープスペイントを施し、まるで本物の死体のような外見を演出しました。また、ライブ前には腐ったカラスの臭いを嗅ぎ、死の感覚を自らに植え付けるという徹底ぶりでした。

しかし、Deadの内面には深い孤独と絶望がありました。1991年4月、Deadはリハーサルハウスでショットガンを用いて自ら命を絶ちました。遺書には「これは夢だ。そしてそろそろ目を覚まさなければならない」と書かれていました。

Euronymousがその死体を発見したとき、彼の反応は驚くべきものでした。彼は近くの店で使い捨てカメラを購入し、Deadの遺体を撮影。その写真は後にブートレグアルバム『The Dawn of the Black Hearts』のジャケットに使用されました。また、EuronymousがDeadの頭蓋骨の一部をネックレスにして配ったという逸話もあります。この行動に対して、メンバー間では激しい対立が生じ、Necrobutcher(ベーシスト)はバンドを脱退しました。


Varg Vikernesとユーロニモスの殺害

Mayhemのギタリスト、EuronymousとBurzumのVarg Vikernesの間には、次第に緊張が高まっていきました。最初は友好的な関係だった二人ですが、金銭トラブルやEuronymousの支配的な態度が原因で対立が深まりました。

1993年8月、VargはEuronymousのアパートを訪れ、そこで激しい口論の末にEuronymousを刺殺しました。刺し傷は計23か所に及び、Vargは正当防衛を主張しましたが、裁判では有罪判決が下され、懲役21年(当時のノルウェーでの最高刑)を言い渡されました。この事件はブラックメタルシーン全体に衝撃を与え、ブラックメタルの象徴的存在だったEuronymousの死は、多くのファンにとって大きな喪失となりました。


ブラックメタルの魅力とその代償

Mayhemとブラックサークルの歴史は、単なる音楽活動の枠を超えた壮絶な物語です。彼らは「過激さ」を追求するあまり、音楽の枠を飛び越えた行動に走り、それが悲劇を生む結果となりました。しかし、その背後には、「自分たちの信念を貫きたい」という純粋な情熱があったことも事実です。

ブラックメタルの世界を理解するには、こうした人間ドラマを知ることが欠かせません。彼らの行動が賛否両論を巻き起こす一方で、その音楽や哲学が持つ力強さは、多くの人々を魅了し続けています。


ブラックメタル初心者へのメッセージ

ブラックメタルは、その過激な側面ばかりが注目されがちですが、その背後にはひとりひとりのディープな物語や思想があります。「ちょっと怖そう……」と思う人もいるかもしれません。でもブラックメタルは、映画のサウンドトラックのように雰囲気を楽しんだり、刺激的で非日常的な音楽体験として聴くのがオススメです。そして、Mayhemの物語を知ると、音楽だけでなく、その背景や歴史がより興味深く感じられることでしょう。

ブラックメタルは一部の人には刺激が強いかもしれませんが、その独特な世界観やエネルギーに触れることで、新しい音楽体験ができるはずです。そしてMayhemは、その体験をさらに濃密にしてくれる存在。音楽と物語が交差する、不気味で奇妙で魅力的な世界をぜひのぞいてみてください!

Mayhemの『De Mysteriis Dom Sathanas』を聴くことで、彼らが何を目指し、どのようにブラックメタルを形作ってきたのかを感じ取れるでしょう。ブラックメタルの世界は暗く恐ろしい一方で、そこには人間の本質を見つめる鋭い問いや大胆で深淵な洞察があります。ぜひその扉を開けてみてください。




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