
極寒サウンドが美しいドイツ産アトモスフェリック・ブラックColdWorld🇩🇪 〜全作品解説
真冬になると必ず聴くバンドの一つがColdWorld。
ColdWorldはドイツのマルチインストゥルメンタリストGeorg Börnerによるソロプロジェクトであり、アトモスフェリック・ブラックメタルとDSBMのジャンルで高い評価を得ている。その音楽は、冷たく、孤独で、悲壮感漂うサウンドスケープを特徴とし、初期の作品からアンビエントやポストロックの要素を取り入れることで独自の地位を確立してきた。
デビューEPの発表以来、ColdWorldはブラック・メタルの枠にとらわれず、常に新しい表現を模索してきた。音楽における革新と伝統の融合を軸に、アルバムごとに異なるテーマや音楽性を展開しており、特に2008年の『Melancholie²』はジャンルを超えた名盤だ。その一方で、近年の作品ではポスト・ロックやブラックゲイズの要素が加わり、ColdWorldの音楽性は賛否両論を浴びつつ変化を続けている。
以下で、ColdWorldのディスコグラフィーを年代順に振り返りながら、その進化の過程を追う。
1.The Stars Are Dead Now (2005年1月、EP)
粗い音質ながらもGeorg Börnerの美学が凝縮されたデビューEP。同年3月の再発版では2曲追加されているが、元の5曲には及ばない。既に音楽性はアトモスフェリック・ブラック・メタル、及びDSBMの方向性で固まっている。ノイジーでアンビエントに通じるオーラを纏ったブラック・メタルのサウンドスケープは繊細で寒々しい。「This Empty Life」は堅実なキャッチネスがある名曲だし、「Suicide」もイントロのエフェクトやキーボードの味付けが効いている。あくまで楽曲の基本骨格を重視したキーボードの大胆な起用はColdWorldの強みだ。
2.Melancholie (2006年1月、デモ)
1st『Melancholie²』の前哨に位置付けられるデモ音源。より洗練された音像を追求するスタンスは感じられるものの、3曲9分半は同ジャンルの音楽性に浸らせるには些か短すぎるというか、特に後2曲は尻切れ蜻蛉な印象が拭えない。あくまで参考資料。
3.Melancholie² (2008年、1stアルバム) ⭐️名盤
ColdWorldの代表作にしてDSBM界の名盤。ローファイでざらついたディストーションを活かしたメロディックなギターワークは、飛躍的に洗練されジャケットのような極寒の世界を見事に体現している。もう一つの特筆点はキーボードだ。静謐なアンビエント要素が通底しており、本作のサウンドスケープを壮大かつ瞑想的なものにしている。キャリア最高傑作「Tortured by Solitude」をはじめ、「Dream of a Dead Sun」「Red Snow」「Escape」など名曲揃い。
4.Autumn (2016年、2ndアルバム)
8年ものブランクが空いたが、トレモロピッキングを主軸としたアトモスフェリック・ブラックメタルの路線は引き継がれている。前作と比べて寒々しさは減退しブラックゲイズの要素が濃くなり、サウンドに広がりが出た。前作ではミニマルな存在感だったドラムとヴォーカルも、それぞれダイナミックなアプローチを見せている点もその印象に貢献している。作中随一の大作「Womb of Emptiness」や、キャッチーなコーラスを持つ「Nightfall」がおすすめ。
5.Wolves and Sheep (2017年、EP)
見かけ上は2トラックであるが、実質的に3曲構成のEP。それも、ColdWorldの王道的なブラックメタルサウンドを提供するタイトル曲に挟まれて、「The Cave」と題されたダークアンビエントが8分半ほど挿入されるという野心的な構成だ。タイトル曲はサウンド的には、冷たさとシンプルさを重視した初期のアプローチへ回帰したように思えるが、プロダクションはローファイ志向ではなく、堅実にモダン化されてきている。全体の流れが必然性に欠けるのが惜しい。
6.Nostalgia (2018年、EP)
標題通り、DarkthroneやSatyriconを彷彿とさせる90年代のノルウェージアンブラックメタルのスタイルを踏襲した作風で、これまでのアトモスフェリックな要素はその分僅かに減退している。強いて言うなら一番最後の「Silva Nigra」が最もColdWorldらしいタイプかと。プロダクションは幽玄な1stと洗練された2ndの中間くらいの解像度。曲毎の方向性は明瞭であるが、全体の有機的な繋がりは見られない。
7.Interludium (2018年、EP)
ColdWorldが内包してきたダーク・アンビエントの要素をあえて拡張した、キャリア上の"インターリュード"。音楽の大部分は控えめなシンセスケープで占められており、基本的には雰囲気を重視した作風であるが、ところどころでメロディが前に出てくる部分が存在している。最後はブラックメタルの要素が次第に色濃くなる点も本作が"幕間EP"たる所以なのだろうが、いかんせん革新性やフックに欠けるというのが率直な評価だ。
8.Isolate (2022年、3rdアルバム)
よりクリアーで生々しいバンドサウンドを前面に打ち出した最新作。引き続きアトモスフェリック・ブラック・メタルではあるもののDSBM要素は減退しており、ヴォーカルパートの比重が減った結果ポストロック的な要素が増し、ブラックゲイズの重厚感が際立つ音楽性だ。ハイライトは「Soundtrack to Isolation」で、子供の声とヴァイオリンのブレイク部分は効果的。しかしながら、全体に革新性に乏しいのと、「Five」の唐突な終わり方や無駄に長いアンビエント「Isolation Stagnation」など起伏の不足に主因がある流れの悪さが気になる。
総括
ColdWorldは、アトモスフェリック・ブラック・メタルとダーク・アンビエントの要素を融合させた独自の音楽性で注目を集めるプロジェクトであり、そのキャリアは『Melancholie²』という傑作によって広く知られることとなった。このバンドを初めて知ったのは、ネットの書き込みを通じてだったが、私にとって大きなきっかけとなったのは、『Melancholie²』のジャケットだった。ジャケ買いは普段ほとんどしない私だが、この作品に関しては例外だった。ジャケットに描かれた極寒のサウンドスケープを感じさせる視覚的な魅力に強く惹かれ、結果的に音楽にも心を奪われた。
私の地元では雪が積もることは稀で、ましてや『Melancholie²』のジャケットのように視界が吹雪で埋め尽くされるような光景は経験したことがない。だが、このアルバムを聴くたびにそんな世界に思いを馳せる。私のひそかな夢はこうだ。平日の休みに朝目を覚ますと、外は一面の雪景色で、自分だけが出勤しなくて済む状況を想像する。そして孤独の中、お布団に戻りながらこのアルバムを聴き、再び眠りにつく。そんな幻想的で静謐なひとときを味わうための音楽として、ColdWorldの作品は唯一無二の存在だ。今年も出勤日に雪が積もったのは至極残念。
近年はリリース間隔が順当に狭まっているが、同じくらい順当に衝撃度が薄れているのは残念だ。しかし、ColdWorldの偉業は不滅だ。その音楽性の変遷を辿ることで、彼らが持つ芸術性の深さを再認識することができるだろう。