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英国産エモThe Little Explorer①『The Little Explorer』
The Little Explorer(以下、TLE)は、2000年代初頭に活動していたにもかかわらず、残念ながら広く知られることのなかったバンドだ。その音楽は、ポスト・ハードコア、ポスト・ロック、そしてマスロックを融合させた独自のスタイルを持っており、その独創性は現在においても色褪せることがない。TLEの音楽は、その時代の典型的な「エモ」や「スクリーモ」と一線を画す存在でありながらも、十分な評価を受けることができなかったことが、彼らの「失われた傑作」と言われる所以だ。今回は1stアルバム『The Little Explorer』を紹介する。
音源の基礎情報
アーティスト名: The Little Explorer
アルバム名: The Little Explorer
リリース年: 2003
ジャンル: Screamo, Midwest Emo
各曲レビュー
1. Ears to the Ground
アルペジオのイントロはポストロック的なのに対し、ヴォーカルパートが入って以降はハードコア/マスロックのアクティヴな曲調に発展する。終盤へかけて盛り上げていく設計のうまさに早速唸らされる。
2. From Five
アルバム内では最もベースが雄弁な曲。クリーンなアルペジオとスクリームが合わさる音楽性は非常に斬新で、このバンドの特殊性を端的に表した曲とも言える。
3. Sense of Smell
ヴォーカルとバンドが有機的に対話しながら進む曲。そのハーモニーはいかにもエモ。終盤はピアノも導入され、楽曲のセンチメンタリズムを引き立てている。
4. Blood Runs Blue
ディレイを効かせたアルペジオが煌びやかな曲。ドラムの演出のうまさも聴きどころで、盛り上げ方はMogwaiのハードコア嗜好なポストロックの手法を想起させる。
5. Play Softer
こちらはもっと鬱屈としたアルペジオを基調とし、ヴォーカルのトーンも低い。続く部分では特定のリズムを強調したメタリックな緊張が走る。この曲もドラムのリズム感が光る。ドラマ性は随一だろう。
6. Play Softer
比較的リラックスしたタイプのアルペジオが基調とし、透明感の高い音楽を展開する。この曲のサビ(に該当しそうな部分)はこれぞミッドウェストエモ!って感じで気に入っている。Jimmy Eat World「For Me This Is Heaven」を想起させる。
7. Cloud Cover
アルバムの中だと最も渋い部類。ヴォーカルが入っていようがいまいが、リスナーに気にさせない音楽性であるが、こうして聴くと確かにヴォーカルが入る時は他のパートが道を開けているのがよくわかる。ようやくひと展開ありそうなところで終わる煮えきれなさがある。
8. Turner's Dance
前の曲と対照的で、アルペジオ一切抜きでクールなリフワークで攻めるアルバム中随一のハードコアナンバー。思いっきりシャウトしているが音量は控えめなのでアルバムの流れを断裂させないし、ギターをかき鳴らす様子が実に心地よさそう。プレイは白熱し続けて、アルバムのクライマックスを形成する。
総括
The Little Explorer(以下、TLE)は、2000年代初頭に活動していたにもかかわらず、残念ながら広く知られることのなかったバンドだ。その音楽は、ポスト・ハードコア、ポスト・ロック、そしてマスロックを融合させた独自のスタイルを持っており、その独創性は現在においても色褪せることがない。TLEの音楽は、その時代の典型的な「エモ」や「スクリーモ」と一線を画す存在でありながらも、十分な評価を受けることができなかったことが、彼らの「失われた傑作」としての地位を確立している。
TLEのデビューアルバムは、スクリーモ、ポストロック、マスロックの要素を巧みにブレンドし、劇的なビルドアップ、複雑なアレンジメント、そして巧みな音響の対比が特徴だ。このアルバムには、繊細さと攻撃的なサウンドがシームレスに切り替わる瞬間が数多く存在し、聴く者に強烈な印象を与える。だが、一方で、各楽曲が非常に良くできているにもかかわらず、全体としての印象がやや平板で、特に記憶に残る部分が少ないとの指摘もある。また、歌詞についても、特筆すべき新しさや独自性が感じられないとの意見があり、これがアルバムの評価を分けるポイントとなっている。
しかしながら、このアルバムを深く掘り下げると、その真の魅力が見えてくる。TLEの音楽には、感情が豊かに表現されており、リスナーの心に響く力がある。特に、アルバム後半に収録されている「Ears to the Ground」は、非常にカタルシス的な要素を持ち、激しいスクリームと繊細なシャウトが混在する部分が印象的だ。この楽曲に限らず、アルバム全体を通して、感情の波が巧みに表現されており、聴く者に深い共感を呼び起こす。
さらに、TLEの真の強みは、その卓越した楽器演奏にある。多くの楽曲がインストゥルメンタルで構成されているが、その技術的な完成度の高さゆえに、ボーカルの不在をほとんど意識させない。むしろ、楽器だけでこれだけの表現力を持つことが、バンドの真骨頂とも言えるだろう。また、楽曲の多様性もTLEの魅力の一つだ。スクリーモの激しさから、柔らかく煌めくようなトーンまで、幅広い音楽的要素を持ちながらも、それらを一つの統一されたサウンドにまとめ上げている。このような多彩さが、アルバムを通して聴き手を飽きさせない要因となっている。
特に、当時の音楽シーンにおいて、TLEは時代を先取りしていたと感じる部分が多い。2000年代前半という時代背景の中で、彼らの音楽は真の「エモ」を体現しており、もし現代に登場していたならば、より多くのリスナーに支持されていたであろう。現在では、TLEのようなバンドが活動していたこと自体が奇跡のように感じられるが、その音楽は今もなお、評価されるべき価値を持っている。
また、TLEのもう一つの特筆すべき点は、そのアルバムが持つストーリーテリング的な要素だ。多くの曲がインストゥルメンタルであるにもかかわらず、その音楽には物語性が感じられる。例えば、アルバム中盤に収録されている「Play Softer」は、非常に美しいメロディーを持ち、静かな部分と激しい部分が交錯する中で、まるで一つの物語が展開されているかのような印象を受ける。これこそが、TLEが単なる「エモ」バンドにとどまらず、音楽的なアートとしての価値を持っている証と言えるだろう。
最後に、TLEの音楽は、決して過去の遺物ではない。むしろ、現代の音楽シーンにおいても、その影響力は健在であり、再評価されるべき存在だ。彼らの音楽が持つ普遍的なテーマや、技術的な完成度、そして感情の深さは、どの時代においても共感を呼び起こす力を持っている。彼らが遺した音楽が、今後も多くのリスナーに届き、愛され続けることを願ってやまない。
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