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ほしい秘密道具

一度は考えたことあるのでは?
おそらく人気なのは、どこでもドア、もしもボックス、暗記パン、あたりだと思うが、私は断然「あらかじめ日記」だ。

単行本16巻に一度だけ登場した道具で、
外見はハードカバーの日記帳。そこに書いた内容が本当になるというもので、例えば「今日の午後、雨ではなく飴が降る」と書くと、空輸中の飛行機から漏出した飴が実際に降る、と、ギリ現実的なラインで実現してくれる。

これだろ、どう考えても。
他の全ての道具の性能を含んでおり、それを単に書き込むだけで実現できる。
正直これが強すぎて「ほしい秘密道具ランキング」の類いは、私にとって全て興覚めである。
ちなみに一度書いた文言は消せないが、上書きすることでキャンセルできる。「のび太は宿題を始める。しかしすぐ昼寝する」といった具合。実質デメリットは無いようなものだ。

このような「願いをなんでも叶える」系の道具(以下「万能型」と呼ぶ)は作中にしばしば登場する。

最も有名なのは「もしもボックス」だろう。これは今いる世界とは別の並行世界(パラレルワールド)を創り出すことで願いを叶えるという仕組みだ。しかし、故障すると元の世界に戻れないという致命的な欠陥を持つ。
大長編の「魔界大冒険」ではそのデメリットが物語の推進力となっているが、おっかなくて使えない。あと単純にサイズが電話ボックスくらいあり、使い勝手が悪い。

他の万能型には「ソノウソホント」がある。鳥のくちばしのような外見で、口にはめて発言するとその内容が本当になる。
まさしく万能で、もしもボックスよりも使い勝手は良さそうである。しかし、使用の際は奇抜なマスクをして独り言を言わねばならず、不審者に思われるリスクがあるので、あらかじめ日記と比べると普段使いの面で劣る。

とにかく、他の秘密道具は「空を飛ぶ」「一瞬で移動する」と効果が限定的であるのに対し、あらかじめ日記は「何でも願いが叶う」。漫画史上最強のアイテムと言って良いと思う。死の間際の状況しか操作できないデスノートの完全上位互換である。

しかしそのスペシャル性能の割に、作中ではさほどのインパクトは残していない。それどころか、なんか説教臭い教訓のフリにされているのが私は気に入っていない。

まず、登場回のタイトルである:
『あらかじめ日記はおそろしい』。

安易に願いが叶うことへの警鐘を込めたタイトルなのだろうが、おそろしいかどうかは使い方次第だろ。タケコプターやどこでもドアだって一歩間違えれば致命傷に至ることに変わりはない。あらかじめ日記だけ殊更に危険視しているのが納得いかない。それ以上にメリットの方が圧倒的に大きいと思う。

それだけならまだいい。問題はスネ夫である。とにかくこの回のスネ夫のムーブが酷い。

のび太がスネ夫に「こんな道具があるんだ」と自慢する。「うそつけ。そんな日記あるもんか」と否定した後、「実験してやる」と無理やり日記に「のび太がライオンに食べられる」と書く。その後、臨時ニュースで「動物園からライオンが脱走し...」と流れてくる、というサスペンスフルな展開なのだが、言いたいことが3点ほどある。

1点目、実験ならば人を傷つけない方法があるだろ。例えば「30秒後に向こうの角からアメリカ大統領が現れる」とでも書き、実際に現れれば道具の効果は証明できたと言って良いだろう。のび太が命を落とすリスクを負う必要が全く無い。

2点目、そもそもそんなこと書くな。かわいそうだろ。私もその場のノリでクラスメイトに酷い言葉を言ってしまった経験があるが、大人になってからとても後悔している。しかし今謝っても遅く、またおそらく相手もそれを望んでいない。いじめは相手に一生消えない傷を付けるばかりでなく、自分にも「いじめっ子」という一生降ろせない十字架を背負わせる行為。友達と、あと自分を大事にしろ。

3点目、お前ドラえもん知ってんだろ。ふだんタケコプターやどこでもドアなど、およそ物理法則では説明できない現象をさんざん見てきて、かつ宇宙や海底にも行ったことがあるのに、何故これだけ信じない?初期の頃ならまだ理解できるが、16巻ならさすがに学習しろ。

最終的に、ドラえもんが庭で日記を焼き解決するのだが、「ライオンは檻に戻りのび太は助かる」と書けばよかったのでは?冷静さを欠いていたとはいえ、取説の1ページ目の対処法なのではないか?

っていうか「焼く」って何?22世紀の先端科学による効能の抹消法が、「焼却」というきわめて原始的な方法であるのは興味深い。
普通まず思いつくのは「破る」だと思う。すぐ出来るし。しかしそれをせず、わざわざ焚書という手間のかかる手段をとっているということは、「破る」ではだめで「焼く」ならばOKという仕様なのだろう。

この際、集められた枯れ葉の中央で炎を上げる日記の画が、まるで中世ヨーロッパで行われた、キリスト教に反する科学や思想が記された書物の焚書を彷彿とさせる。22世紀の秘密道具といえど、古代の時代から脈々と受け継がれてきたサイエンス・テクノロジーの礎の上に成り立つもので、人類史へのリスペクトを込め、あえて原始的な方法を採用しているのか?

ちなみに、二番目にほしいのは「グルメテーブルかけ」だ。


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