3,奈良市学習塾のバイト同僚女性の飲み物に唾液や尿を混入した事件の裁判傍聴記録(2024年11月13日)ーその3
目次
はじめに
この記事では昨年12月から今年4月にかけて奈良市の学習塾で複数の同僚女性の飲み物に自身の唾液や尿を混入させたとして捕まった21歳アルバイト男性の公判をまとめたものです。私のほうから語彙を変えたり順序を変えるなどの編集をしています。
この記事では2回目の公判についてまとめています。
初公判については以下の記事をご参照ください。
被害者Aさん、Bさんからの意見陳述
被害者4名のうち、被害者Aさん、Bさん(以下敬称略)からの意見陳述が行われました。意見陳述はA、Bがそれぞれ執筆した文面を検察官が読み上げる形で行われました。
被害者Aによる意見陳述
私は令和5年12月から令和6年4月にかけて何度も自身のペットボトルや水筒に被告人の尿や唾液を入れられる被害を受けました。初めてお茶の味がおかしいと感じたのは令和5年12月ごろでした。持参したお茶の味がおかしく、お茶を製造している会社に問い合わせ、現物を送り、調べてもらったところ、工場のラインでは使用していない尿の成分が検出されたことが判明しました。私は犯人が誰なのかを知るため、隠しカメラを設置しました。その隠しカメラの映像には被告人が私の飲み物に自身の尿や唾液を入れている姿が映っていました。そして、その後に(被害はペットボトルや水筒だけでなく)私の身分証明書に男性器を押し付ける写真が撮られていたことを知りました。その動機は体液を飲ませたいというものであると知り、とても気持ち悪くなりました。
犯行の目的が性的なものであることから、家族や友人に相談できませんでした。私の体重は5~6キロ減り、突然目の前が真っ暗になって立っていられないこともしばしばありました。そして睡眠もとれなくなり、眠れるのが深夜3時を超えるような日々が続きました。医師にはストレスが原因であると診断され、睡眠剤を処方してもらいました。睡眠剤を服薬してようやく眠れる日々が続いています。私は被害者でありながら申し訳ない気持ちや不安な気持ちにさいなまれ泣いてしまう日もあります。
現在は大学の授業を満足に受けられない日々が続いています。友人や家族には心配をかけないように努めて明るくふるまっていました。
被害を受けた時の塾講師のアルバイトも、私が担当していた生徒のことを思うと続けていきたかったのですが、事件を思い出すと体の浮遊感を感じ、しんどく、続けることはできませんでした。今までアルバイトについては出勤時間の1時間前から塾に行き、授業の準備をするなど、頑張ってきたのにこんなことで辞めたくない気持ちもありしばらくは頑張って続けていました。しかし、カウンセリングを受けたうえで6月ごろからアルバイトを休むようになると、心の負担が減るようになりました。
また、人を信頼することができなくなり、自分の荷物から片時も目を離せなくなりました。そして睡眠剤をもらって多少は寝付けるようになりましたが、いつ通院をやめることができるのか、今もわかりません。
被害品である水筒は祖母からもらった大切な物で、捨てることはできませんでしたが、今後使うこともできません。
前回の被告人質問の様子を聞いて、被告人は反省しているように感じました。そして、治療プログラムを受けるようで良かったと思います。ストレスの原因でもある被告人と父親との関係性については改善していってもらいたいと思います。被告人の父親についても犯罪者となった息子に厳しく接するのではなく、今後のためにサポートしていってほしいと思います。
私が覚えている最後の被告人の姿はアルバイト先の塾で先輩と楽しそうに談笑する姿でした。なぜなら、その頃にはすでに警察から被告人が犯人ではないかと言われていたからです。
私は被害者ですが、私が被害届を出さなければ、私が自分の荷物を大切にしていればこんなことにならなかったのではないか、と後悔してしまいます。
被告人と示談し、合意書の内容について了承を得ましたが、今も近くに被告人がいないか不安です。私は示談金で罪が軽くなるのはおかしいと思います。そのため、被告人については厳正な処罰を求めます。そして、被告人には今後罪を重ねないようにしてほしいです。
被害者Bの意見陳述
私は令和6年に被告人から被害を受けました。前回の被告人質問から被告人のストレスについて知ることができましたが、ストレスがあったからと言って被告人を許すことはできません。
同じ被害者のAさんが被害に気付いて行動をとってくれなかったら、と思うと恐ろしいです。(合意書を交わしましたが)今も近くに被告人がいたら、と思うと怖いです。被告人は加害の内容やその対象となった被害者についてよく覚えていないといっていましたが、今でも実は私のことを覚えているのではないかと不安です。
務めていたアルバイトは辞めました。元々は不満なく務めていました。しかし今回の事件で辞めることとなり、私が担当していた生徒にはとても申し訳なく、罪悪感を感じています。
アルバイトをやめるに際して、塾長から謝罪されました。塾長曰く、今回の事件以降人手が不足しているようです。
事件以降、新たにアルバイトを始めることもできていません。
被告人と示談したのは被告人に自身の犯した罪を自覚してほしいからです。そのため、示談を理由に罪を軽くするべきではないと思います。
被告人にはその行為に相応の処罰を求めます。被告人は二度と私にかかわらないでほしいです。
論告弁論
検察による論告
本件は5か月の間に11回にわたり被害者らに対して犯行を繰り返したものであります。被告人は長期にわたり、尿や唾液を被害者らのペットボトルや水筒に混入し、その犯行は被害者を一人の人とも考えない卑劣で悪質なものであったといえます。
被害者の意見陳述から、その被害は身体的被害に収まらず、重大な心的被害をも受けているといえます。被告人の罪状は器物破損でありますが、その被害の中心は被害者らの心的被害であります。同僚による性的欲求を目的とした犯行と知り、嘔吐する被害者もいます。そして犯行の標的にされたことにつき、憤りや脱虚感を覚え、通院を余儀なくされた被害者もおり、その被害は甚大なものといえます。そのため、被告人の処遇については被害者の処罰感情を考慮すべきであります。
被告人の犯行動機は身勝手な物であり、その根底に家庭内のストレスがあったとしても、家庭環境は犯行を正当化するものではありません。犯行の連続性から再犯の可能性が高く、被告人が治療プログラムに参加すること、示談の事実等を考慮してもなお、厳重な刑に処するべきです。
以上より、検察は、被告人には懲役2年が相当であると主張します。
弁護側の弁論
本件は被害の大きさを考慮しても執行猶予が相当と考えます。
被告人の申した通り、本件犯行の罪状は器物破損であるものの、その実質は性犯罪であり、暴力等処罰に関する法律が適用されたのはその常習性からであります。
被告人は罪を一生忘れずに生きていくべきだと思っており、治療プログラムの検査から判明した自身の特性を理解し、治療しようとしています。
被告人はまだ21歳と若く、今後反省を深めてほしいと思います。
被告人の身元についてですが、被告人にとって元々家族はストレスの発生する環境でありましたが、再犯を防ぐには家族など周囲のサポートが重要であるところ、被告人の両親は合意書の内容に合意し、今後家族関係の改善に努めていくと申しています。
被告人に前科前歴はなく、被害者との間で合意書を締結しています。そのため、治療を受けることを前提に社会内処遇に処するべきだと考えます。
以上より、弁護側は執行猶予付き判決が相当と主張します。
最後に被告人から
先ほどの被害者の意見陳述の中で、めまい、吐き気、睡眠不足などの身体的被害だけでなく、人間不信、自身への恐怖感などの精神的被害を知り、自分がどれだけのことをしてしまったのかを知り、本当に申し訳ない限りです。
今後二度と同じ過ちを犯さないために、SOMEC(ソメック)にて内省プログラムやグループ内での認知行動療法などの具体的治療を受けていきます。
そして、治療が終わったとしても、被害者がいること、被害があることに向き合って生きていきます。
おわりに
次回はいよいよ判決言い渡しとなります。
個人的な意見ですが、検察の求刑が3年以下である2年の懲役であることから、被告人には執行猶予付き判決が下されるのではないかと思います。
今回被害者の方々の意見を聞いて、その被害の内容が性犯罪の被害者にみられるものが多く、それにもかかわらず器物破損でしか罪に問うことのできない現状にもどかしさを感じました。
改めて被害者の方々が一刻も早く日常に戻れることを願います。