第3話 「事業継承の壁を乗り越えろ!」
営業許可書の名義変更、仕入先との契約手続きは何とか順調にクリアできたものの、券売機及び厨房設備の継続リース契約が一筋縄には行かなかった。父のリース契約がまだ満期まで数ヶ月残っていたのだが、全ての厨房機器はかなり劣化しボロボロな状態だった。
「この厨房機器は使いたくないなぁ」
結月達は現在契約しているリース残高を一括で支払い、新たにリースを再契約し直して新品なものに入れ替える決断をする。
再契約には名義変更が必要となる為、新たな保証人と頭金が必要だった。結月と美咲は、資金計画を立て直さなければならない。
業務用冷凍冷蔵庫及び製氷機の初期リース料
(設置費用と手数料)約50万
コールドテーブルの初期リース料約30万
麺茹で器の初期リース料約30万
券売機の初期リース料約50万
電子マネー決済機費用約10万
計170万円
「うぅーん、、170万円かぁー、これから店舗の改装費に約800万、初期運転資金(仕入や備品購入、アルバイトの給料等)で約200万かかると想定すると、最低でもあと1000万は必要だ…」
しかし結月と美咲は父の残してくれた現金資産がそこそこあった事もあり、資金調達に対する不安はそれほど深刻には感じていなかったのだが、父のお金にはできるだけ手は付けたくなかった。
保証人の問題も多少の費用はかかるが保証人代行サービスを利用すればクリアできる事がわかった。
結月と美咲は一緒に作成した事業計画書を再確認する。
〜現状の現金資産は出来るだけ手をつけない事
(何かあった時の備えとして)改装にかかる費用や初期にかかる運転資金の捻出を国の制度を出来るだけ活用する事。融資希望額は1000万円」
と、当初計画していたのだが、計画を上回る出費が発生した関係で希望融資額を300万上乗せして1300万に上方修正した〜
〜公庫からの融資希望額1300万円〜
金融公庫の担当者は、眉をひそめながら事業計画書に目を通していた。
しばらく沈黙が続いた後、銀縁メガネを人差し指で押し上げながら、いかにも几帳面で理数系らしい雰囲気を漂わせながら口を開く。
「日売り目標が100杯ねぇ……本当に100杯もお客さんをさばけるの? あなたたちで??」
「……はい!父の味を再現できれば、必ず達成できると思います!」
美咲の力強い返答にも、担当者はやや冷ややかに言葉を続けた。
「ちなみに、ラーメン屋で日売り100杯ってのは、そこそこの繁盛店だからね。それ、ちゃんと分かって計画立ててます? 商売そんなに甘くないですよ」
そう言いながらも、担当者は提出した貸借対照表に目を落とし、独り言のように呟いた。
「まあ、現金資産の担保がこれだけあるなら、回収はできるか……」
その少し嫌味とも取れる物言いに、美咲は動じることなく、満面の「営業スマイル」を浮かべて担当者をじっと見つめていた。
美咲の笑顔が功を奏したかどうかは分からないが、提出した計画は金融公庫の事業継承支援制度の対象となり、希望していた融資額の満額が承認される事となる。
これにより、資金調達という大きな課題をクリアした結月達。事業継承に向けた壁を乗り越え、確かな一歩を踏み出したのだった。
つづく🦉