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【短編小説】なぜ、連帯保証人を解除してあげなかったのか?第1話


「こんにちは。お忙しい中、お越し頂きありがとうございます。証書貸付の返済期日が狭っており、今年も返済軽減されますか?」

小堺さん
 「商売が回復しておらず、今年もよろしくお願いします。」

 小堺さんとの貸出条件はお母さんの不動産に担保をつけ、尚且つ連帯保証人になってもらっており、当初の返済額を返せる状況じゃなく3分の1以下の返済になっており、毎年毎年返済軽減の相談を受けていた。
 僕は転勤したばかりで細かい手続きの引継ぎを受けておらず、融資代理がそれまで対応してたもので、今回も通常の手続き通りお客様に接し説明しました。


 「返済の軽減について、協議をして承認下りれば、お母さんと面談し署名捺印して貰う必要ありますよ、よろしいですね?!」
 前回までの契約書の面談場所、時間を見ながら話したところ、

小堺さん
 「面談?うちに来て?僕が書類を母親に渡して署名してもらって、店に持参し、私の前任者に渡して完了やったで!何言ってるの?」

前任者の融資責任者は小堺さん宅に訪問して署名捺印したと契約書の裏面に訪問したと記入していたが、実際には行っておらず嘘をついていました。
と言うのも、この母親は足が不自由で車椅子を利用してる為、面談が面倒な為に横着をしたものだった。
 融資責任者としてはあってはならない事をしており、債務者である息子に、私の前任者の手続きのやり方が間違ってましたと素直に謝罪しました。

小堺さん
 「母親が書いたのは間違い無いんだからいいのと違うの?」
今までと急に手続きのやり方が変わると不満になるのは当然の事でした。
署名の筆跡を見て、当初の契約書と比較すると同じだったので同一人物だろうと言うのは判断出来ました。
 しかしながら、小堺さんの言い分も分かりますが粘り強く交渉し、了解は得られました。
 前任者のやり方は横着で事務的な人物でこれが融資責任者なんて我が銀行の恥だと思いました。ただ、この債務者の人柄には助けられました。お母さんを車椅子で店舗に連れて来て署名させると言ってくれ、手続きも完了しました。
 来店して手続き完了したとは言え、この母親は80才を超え次の手続きの時は果たして生きているのやら?死んだら相続人はいるのか?不動産の担保もとっており、どうなるのやら?色々な事が頭を駆け巡り、万が一病院にでも入院すれば、病院まで面談署名をしなきゃと思いました。かと言って前任者のように面談したかのようにして、契約手続きを完了する事は到底出来ませんでした。
 悪い顧客に遭遇すると、すでに母親は死んでるのに代筆して書類を持参したなんて事もあり得るからでした。
 ここから、次回の手続きまでに大きく事が動く事になりました。これは歴代の担当者では絶対と言っていい程やらない事を私は成し遂げました。

次回に続く

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