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チェコ代表のWBC予選(1) 初戦 スペイン戦
2026年のWBCまであと1年に迫った。2023年の侍ジャパンの歓喜から既に2年が経過、各国の選手が来年のWBCを視野に調整を始めている。
WBCは選ばれし者が集う夢の舞台だ。侍ジャパンの戦士も競争に勝ち抜いた者だけが日の丸に袖を通すことが許される。そして今シーズンの公式戦はWBC本戦に向けたアピールの場所となる。
一方、今月2月21日からは台湾で次回WBCの予選が開催される。どの国がWBCの切符を獲得するのか、残りの4枠をかけて熾烈な争いが繰り広げられる。
このWBC予選は野球の途上国において夢への扉となる。彼らの青春がこのWBC予選に詰まっていると言っていい。それは甲子園出場を目指す高校生のような青春ドラマだ。このWBC予選に注目しないわけにはいかない。
2023年のWBCではチェコ共和国が初出場した。彼らはその前年に開催されたWBC予選を勝ち抜きWBCの切符を得た。チーム一丸となって掴んだWBCの出場権、今回は彼らの壮絶な戦いの記録を紹介したい。
2022年開催のWBC予選、チェコ代表の戦績
9月17日 初戦 スペイン戦 7-21
9月18日 敗者復活一回戦、フランス戦 7-1
9月20日 敗者復活二回戦、ドイツ戦 8-4
9月21日 代表決定戦、スペイン戦 3-1
1. 初戦 スペイン戦 7-21
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大事な初戦のマウンドを託されたのはチェコ代表の主戦ミナジーク。
1回表、スペインの先頭打者はベルトレイ。
ベルトレイの打球は一塁に、ファーストのムジークが捌き、ミナジークが一塁ベースカバーに入り1アウト。ここからチェコ代表のWBCへの戦いが始まった。
奇跡ではあるがこのシーンはWBC出場を決めたシーンと全く同じであった。
投手ミナジーク、捕手チェルベンカ、打者はスペインのベルトレイ。打球は一塁に転がりファーストのムジークが捌いた。
一つは歓喜の瞬間、しかしもう一つは悲劇の始まりでもあった。
先頭バッターを無難に抑えたミナジークであったが、その後はスペイン打線に捕まった。ミナジークの後を受けたサトリア、パディシャークもスペイン打線を抑えられず、5回表を終わってスペインが21-2でリードする展開であった。信じられないようなスコアであった。
このWBC予選はアメリカでも放送されていた。時差の関係からアメリカでは早朝の放送となっていた。
『週末のカレッジスポーツをお楽しみの皆さん、おはようございます。ここドイツ、レーゲンスブルクではWBC予選が行われておりフットボールのようなスコアで試合が展開されています。』
アメリカでは週末の大学スポーツが人気であり、特にアメフトが人気だ。アメフトのようなスコアの試合に実況はジョークを交えて紹介した。
チェコは5回表にスペインに12失点を喫し、スコアは19点差。絶望的な点差であった。5回裏の攻撃を最後にコールド負けが濃厚であった。
守備を終えてダグアウトに戻ってきた時、捕手のチェルベンカはスタンドを見上げた。
チェコから多くの仲間が応援に駆けつけ、選手達に声援を送っていた。こみ上げるものがあった。
「このまま終わるわけにはいかない」
チェルベンカは仲間を鼓舞した。
WBC予選のルールでは5回15点差でコールドとなる。スコアは21-2の19点差。5点取れば5回コールドを回避できる。このまま終わりたくなかった。
「5点取ろう」
チームの士気を上げた。ダグアウトには熱意があった。
この点差ではチームの雰囲気が沈み、相手に向かう気力がなくなってしまうことあり得る。しかしそれが分かっていたからこそ選手同士のこの小さな後押しが必要であった。
もちろん、19点差をひっくり返せるかどうかは別である。攻撃で何かを起こすこと、スコアボードに点を重ねることが重要だ。
それが明日の試合で前に進むための力になってくれると信じた。
この回、先頭の3番フルプのソロホームランでまず1点。4番のチェルベンカがヒットで繋ぎ、続くメンシーク(兄)のツーランでさらに2点を追加した。
そしてムジークのソロホームラン。この回3本目のホームランで4点目をあげ、コールド回避まであと1点に迫った。
この後、途中出場したスモラが2塁打を放つも既にツーアウト、コールド負け寸前であった。メンシーク(弟)の打球はショートに、しかしショートの悪送球によりスモラがホームイン。
ついに5点目をもぎ取り7-21でコールド負けを回避した。実況も興奮していた。
『Czech Republic stays alive!!』
スペインからしたらなんて事はなかった。彼らにとって勝利は確定していた。
しかしチェコにとっては敗者復活戦への勢いのために重要であった。
「俺たちはスペインの好投手を打ち崩した。」
一つの確かな自信を持って敗退復活戦に臨むこができた。
とはいえチェコにはもう後がなかった。
(続く)
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