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チェコ野球の歴史(4) フィールド・オブ・ドリームス

アメリカでフィールド・オブ・ドリームスの映画が公開されたころ、ヤン・バゲン氏は、メジャーリーグの関係者に「私の夢のフィールドをお見せしたいです」と言って、まだ建設がされていない野球場にメジャーリーグの関係者を連れて行った。

場所はプラハのクルチ、しかしそこは、ただのゴミ捨て場であった。そこら中にタイヤが転がっており、ゴミが散乱していて、野良犬もいた。メジャーリーグ関係者はかける言葉が見つからず、『幸運を祈るよ』と心の中で思ったという。

パネルやタイヤなどのひどいゴミ捨て場、いろんなゴミが散乱していたが、その広さをみて、ここに野球場が作れるかもしれないと思ったという。バゲン氏は兄と連絡を取り、一緒にそのゴミ捨て場に行き、何とか整備しようとした。しかし、全く手に負えない状況であった。大規模な機械が必要で、それをどうやって実現するかを彼らはずっと考えていた。

ブルドーザーで平らにするのではなく、土を盛り上げて整地することができれば、というアイデアが浮かんだ。当時、その技術は可能であり、土や土壌を持ち込むことができた。そして土を運び込む業者を見つけ、そのすべての資金が集まり、そのエリアの整備が始まった。

そこに、二つの野球場と中央にソフトボール場を建設した。緑の芝生が鮮やかに映えるフィールド、自分たちの理想とする球場をゼロから創り上げた。そしてクラブハウスも建て、家族が皆で来てもらえるような施設も完備した。これが、将来のクラブの運営にとって非常に重要となった。

プラハのクルチ
最初はタイヤが転がるゴミ捨て場だった。
地ならしの様子
盛り土をする様子
長い時間を経て芝生の鮮やかに球場が完成した。


プラハ・ベースボール・ウィーク初優勝

1995年、新しく建設されたこの球場で初めてプラハ・ベースボール・ウィークが開催された。アメリカ人のステン・ルケティッチ氏の指導のもと、チェコ代表チームが歴史的な初優勝を果たした。現在のチェコ代表の監督であるパベル・ハジム氏が外野手として活躍していた。また、現在ハジム氏とともに青少年に育成に尽力しているトマーシュ・オベズニー氏も内野手として活躍していた。

そして1995年のプラハ・ベースボール・ウィークは、もう一つの予期せぬ出来事で歴史に名を刻んだ。有名な写真家イジー・トゥレク氏の写真が、年間スポーツ写真賞で最優秀賞を獲得した。それはプラハ・ベースボール・ウィークの写真であった。

多くの関係者はマラドーナやスキーヤー、サッカー選手、ホッケー選手の写真が優勝するだろうと期待していた。しかし蓋を開けてみると、なんと、野球の写真が優勝したのだ。本当に信じられない野球の歴史であった。

ステン・ルケティッチ氏が率いるチェコ代表チーム。
現在チェコ代表を務めるハジムが主力として活躍していた。
初優勝を成し遂げたチェコ代表チーム


青少年の育成プロジェクト

1990年代初頭の政変後に、野球のブームが訪れた。他の人気スポーツと比較すると、人口は多くなかったが、それでも多くの人が野球に関心を持った。

アメリカのチームやコーチたちが次々に訪れ、プラハではクルチ、テンポ、クラヴィー・ホラ、そして全国各地に素晴らしい品質のグラウンドを備えた施設が次々と作られていた。

チェコの野球関係者は子供たちの育成のために素晴らしいフィールドが必要であると考えた。彼らの野球場に対する愛着の背景がここにもある。

1990年代、新しく作られた球場で彼らは子供たちの育成に取り組んだ。子供向けの育成プロジェクトを構築し、これにより野球人口の層が大きく増えたと言われている。

そして、現在チェコ代表の監督を務めるパベル・ハジム氏は当時こう語っていた。

「この頃に信じられないほどの進歩がありました。私は野球を16歳で始めて、18歳でジュニア代表に選ばれましたが、今ではそれは考えられないことです。現在では、10歳を過ぎて野球を始めると、代表に選ばれるのはほとんど稀になっています。

昔のクレーのフィールドの時代はピッチャーの球速が120kmであれば、ホームランを打つのはほぼ不可能でした。当時はサッカー場でプレーしていたため、そのフィールドを野球に使うのはとても難しかったです。

我々はこれまでに多くの困難を経験してきましが、今はそれが糧になっています。

そして今、我々には素晴らしいフィールドがあります。ここで子供達が野球に触れて、その子供達がどこまで成長できるかとても楽しみです。その中にはいつかこの国を背負って戦う選手も出てくるでしょう。私は今、選手達の成長を見守っています。」と。

後にWBCに導く彼らの物語はこのフィールドから始まった。


侍ジャパン前監督の栗山英樹氏も
この地を訪れていれる
鮮やかな芝生のフィールド

(続く)

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