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チェコ代表のWBC予選(6)番外編 ハジム監督の原点
2022年のWBC予選を勝ち抜き、WBCへの切符を手にしたチェコ代表。青少年の育成に力を入れ、着実にその力を伸ばしているが、今回はパベル・ハジム監督のリーダーシップに着目したい。彼がどのようにチームを引っ張ってきたのか、彼のリーダーシップは他の監督とは一線を画しているようにも見える。今回はその部分に触れてみたい。
パベル・ハジム氏、1971年生まれの53歳、ナショナルチームの監督を率いたのは2022年からである。当時はコロナ渦にあり、WBCの予選が開催されるか否かも不透明であった。前代表監督のマイク・グリフィン氏の時代、2020年3月にWBCの予選が米フロリダで開催される予定であったがコロナにより直前に中止となった。チェコ代表は3月13日(金)のフライトで米国へ出発する予定であり、11日(水)に選手団がプラハで記者会見を行った。荷物をまとめて出発の準備が完了した12日(木)、アメリカの国境が閉鎖されたと連絡があった。
「明日の飛行機は飛ばないかも知れない」
直前でのキャンセルであった。以降、WBCの開催可否は不透明となった。ハジム氏が監督に就任した2022年初頭においてもそれは変わらなかった。ハジム氏はオリンピックやプレミア12を焦点に代表チームを強化することを考えていた。
2022年5月、WBC予選の開催が決定された。ハジム氏の初陣がWBCの予選となった。この上なく大きな舞台、覚悟を決めるしかなかった。
選手が口にするハジム監督の特徴は『チームの化学反応』である。野球は他のチームスポーツと比較すると個人対個人の色が濃い。サッカーやアイスホッケーのような選手同士の連携は少なく、サッカーで見るような息の合ったプレーを野球で見る機会はあまり多くない。
しかしハジム監督はチームの一体感作りに力を入れている。合宿、遠征、そして真冬に山登りを行うなど、選手達が一つのチームとして生活する機会を多く設けている。このアプローチこそハジム氏が他の監督と一線を画している理由だと言われている。他国の代表チームと比較してチェコ代表は合宿や遠征など、選手が一緒に生活する機会が多い。ハジム監督は常にチーム全体での活動を重視してきた。
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ハジム監督は野球についてこう語る。
「野球というスポーツは本当に難しい。野球は『失敗のスポーツ』とも言われるほどです。そんな中、誰にも支えられずにどうやって失敗を乗り越えられるでしょうか」
誰にでも失敗はある。その失敗に対して笑顔で挑戦し、同じ情熱を持って試合や練習に臨めるわけではない。人間である限り感情の浮き沈みもある。そんな中で選手達は、『自分がチームに支えられていること、チームが自分の価値を認めていること、結果が出ない時でも助けてくれる存在であること』を感じる必要があるとハジム氏は語る。WBC予選ではチーム皆で支え合う力が大きな力となった。『どうして”アマチュア”がプロに勝てたと思うか?』と聞かれた時、マルティン・チェルベンカはこう答えた。『僕達は皆、長い期間一緒にやってきたから、お互いのことを全て知っているんだ』と。
選手達は常にお互いを支え合ってきた。それがまさにチームを繋ぎ止める“糸”となった。野球は失敗のスポーツがゆえ、その糸は常に張り巡らされている必要があった。
時には自分本位な選手や自分のことばかり考える選手もいるだろう。実はかつてのハジム氏がそうだった。ハジム氏は16歳までテニスプレーヤーであり、個人競技の環境で育った。そこから野球に転向し、すぐにスタープレーヤーとなり、18歳でジュニアの代表に選ばれた。
当時は個人主義的な性格が災いした。他の選手がミスをすると容赦なく責めた。チームメイトは黙ってハジム氏の叱責に我慢した。そんな中でハジム氏自身がミスをした。すると20倍くらいの厳しさで反撃されたという。その経験がハジム氏にとって大きな学びとなり、プレイヤーとして成長させてくれた。この経験で人の痛みが分かり、人に優しくなることができた。あの“地獄”を自分で経験することによって、団結力の大切さを心から理解できるようになった。
WBCの予選のスペイン戦は7-21と歴史的な敗北であった。この敗退がまさにその瞬間であった。大敗を喫した時こそ、立ち上がらなければならない。その時、チームは崩れずに団結力を保っていた。そのサインは選手同士の行動に現れていた。試合後すぐに選手たちが互いに声をかけ合っていた。チームのリーダー的存在の選手、チェルベンカやシュナイダーが『まだ終わりじゃない』『次の試合に向けて切り替えよう』と積極的にチームを鼓舞していた。若手選手に寄り添う彼らの姿があった。
練習の取り組みにも変化があった。お互いにアドバイスを送り合う場面が増えた。試合中にミスをした選手がベンチに戻ってきた時、仲間たちが肩を叩いて励ますシーンも見られた。チェコ代表にはメンバーを繋ぎとめる“糸”が張り巡らされていた。これによりWBC予選を乗り越えることができた。
ハジム監督の試みが明確に形となった瞬間であり、そして彼らの“糸”が“絆”となり、翌年3月、彼らはWBCで大きな感動を呼び起こすことになるのである。
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Czech Baseball Association / External Dwputy 斉藤佳輔