眠るとき、手をつないだまま眠ること

付き合い始めて半年になる恋人がいる。
一つ年下のかわいらしい見た目をした人で、私はその人の大きな目や、目がしらがすっと人筆で描いたような鋭さのあるところとかが好きだ。
彼が憂鬱そうにまぶたを半分くらい閉じて、その大きな瞳を閉ざそうとするとき、私は毎回、美しい目元だなあと思ってみていた。
前の彼女と別れきれなくてつらそうにしていたことや、複雑な家庭環境、特にお母さんとの関係に悩んでいるときなど。
 彼に悲しい顔をさせる諸々の出来事は許せなかったけれども、彼の目はいつどんな時でも私の好きな形なので、すごいなと思っていた。

当時、彼が前の彼女と同棲している部屋をどうやって出るかが彼の、というか私たちの一番の課題だった。地道にお金を貯めようか、いっそ借金をして部屋を借りるか、いろいろ話し合った。
 結局、私の家からも近い場所にとても安い家賃のワンルームを借り、そこに逃げるように引っ越した。前の彼女がどこまで納得したのか、私は知らない。なかなかもめてしまったらしくて申し訳ないけれど、彼はそんなことをほとんど私の前には現さなかった。不安になって私が尋ねるまで、彼の方は話題にもしないのだった。
彼にどれくらい生活力があるのかも私は知らない。でも、何もない部屋を1から一緒に作り上げていくのは楽しかった。
二人で過ごすことも多くなるだろうから、と、家具や雑貨について彼が独断でものを買うようなことは、3か月経った今でもない。
セミダブルベッドは部屋の半分ちょっとを占める大きさだ。カップルの相性というのは様々なところで図られると思うが、ダブルベッドで一緒に眠れるカップルというのは、なかなか少ないのではないかと思う。
 私自身は、修学旅行でも一番最後まで起きているタイプの筆頭だったし、家族であっても、同じ部屋では眠れない性質であった。他の人の気配というのが、もう気配レベルで無理なのである。
 そして彼も、アラームのバイブレーションが0.3秒でもなったら即座に目を覚ましてしまうほど過敏。しかも入眠時には睡眠導入剤を使わなければ眠れないほど、こと睡眠に関しては問題を抱えている人であった。
 でも、そんな不安は1か月も一緒にいるうちにきれいに消えてしまった。これは本当に自慢でもないのだが私たちは相性に恵まれ、どちらかがつらい思いをすることなく、仲良くセミダブルのベッドで眠れる稀有なカップルだったのだ。
 入眠の時には、必ず手をつないで眠り、時には額や頭をくっつけて眠ることもある。二人とも、この「体の一部が接触する」ということに関して慣れるまで私たちはかなり敏感だった。それもあって、最低限離れて眠ることができるセミダブルベッドを選んだのだから。
 いや、わたしは(俺は)気にしないんだけど、あなたの安眠を妨害してしまってはもうしわけない、という二人の気遣いが生んだセミダブルベッドなのだけど、今はそこでぬくぬくと二人でまどろむ時間がこの上なく幸せであったりする。
 入眠時に手をつないだまま眠りについて、明け方手をつないだまま目を覚ますことも少なくない。何もすることがない休日の朝には、10時過ぎまでそのベッドの上でグダグダとする。寝ぼけているときに手をつなぎ直すと求めるていたかよの指が絡む。
 彼の肩に頭を置いて、その首の後ろに腕を通して、腰をぴったり寄せてそのおなかの温かいことを味わって、股関節から太ももを絡ませる。それで、1時間くらいの二度寝に入る。
 体温が高すぎて幼少期には母親にさえ辟易されたという彼であるが、嘘みたいに温かい手のひらに何度も救われている。そんな手が私は無意識に好きなようで、「昨日トイレに行きたかったのだけど、あなたがあまりに強く握るから、起こさないようにほどくのに苦労した」というほどだった。
 彼は「一人で眠るよりもよく眠れる」といって、私と眠りたがる。私もそのベッドで眠る日はいつもより入眠が早いのだ、自分でも信じられないが。
 これから茹だるような熱帯夜や、毛布を取り合うような寒い夜も仲良く眠りたいものと思う。入眠時手を繋いでくれなくなったら私は5歳の女児のように泣いて泣いて、眠れないかもしれない。


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