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小さな仏壇に

 六年前に母が亡くなってから、ずっと続けている習慣がある。

 新しく本を買って読んだあと、面白かったものを小さな仏壇にお供えしているのだ。
 読んでくれるといいなとか思いながら。もちろん、お線香とはしっかり距離をおいて、一週間くらいお供えしている。

 生前から、互いに好きな本を交換して読んではいたのだ。母は池波正太郎の大ファンだから、小説や漫画を幾つも持っていたし、私は私で宮部みゆきのファンだからいろいろ読んでいた。母はミステリ物も大好きだから、母から宮部みゆきや北村薫を借りることもあった。他にも、持っていた本を片っ端から交換しまくっていた。
 そんな最中で、自分がたまたまハマった漫画を母に勧めたら気に入ってくれたようで、「続きはどうなったの?」なんて聞かれたりもした。

 だから、母が亡くなった後も、ついつい同じことを繰り返してしまう。

 お供えものというと、お菓子とかお茶とか果物が話題になることが多いらしい。でも本をお供えしたという話は、ネットで見ても全然出てこない。あまりに変なことなのか、逆に普通すぎて話題にもならないのか。だって、どう考えても本来なら線香や蝋燭のそばに置けるようなものではないので、なんらかの方法を見出していそうなものなのに。
 ていうか、仏壇って閉めていいものなの?「久しぶりに仏壇を開けた」みたいなブログが出てきてびっくりしたのだが。もっとも、うちの仏壇はカラーボックスの上に香立てや燭台を並べただけのもので、開けるも閉めるもないのだけど。
 で、そんな仏壇にお供えするものは何が適切かというのも、あんまり真面目に考えてこなかったのだ。とりあえず、お酒をお供えするのは控えようとは思った。気に入ったクラフトビールを少しお裾分けしようかなと思ったこともあるのだけど、よっぽどな理由がない限りはやめとこうと思っている。臭うし。
 結局、食べ物系のお供えって、一度もしたことないなぁ。

 その代わりというわけでは全然ないのだが、本は買うたびにお供えしている。一応母の好みそうなものに絞っている。オノ・ナツメの漫画とか、夏井いつきの季語の本とか。
 そういえば、BLの解説書(「ボクたちのBL論」サンキュータツオ、春日太一)もあったっけ。生前の母に「腐女子って何?」と大真面目に聞かれたことがあるので。いやお前が言うなと思ったが、この本を読んで欲しかった。
 最近はミステリを全く読んでいないので、ミステリはお供えできていないが、面白いのを読んだら間違いなくそうしてると思う。そろそろ宮部みゆきの「三島屋」シリーズも読み進めなきゃなぁ。

 で、なんで今いきなりこんな話をしているのかというと、最近やっと『逃げ上手の若君』を読み始めたからなのだ。オノ・ナツメの新刊が出たので、ついでに1巻だけ買ってしまった。
 松井優征は『暗殺教室』にハマった。漫画にハマるのは久しぶりで、当然これも母に勧めた。「続きはどうなったの?」と聞かれたのはこの作品である。流石松井優征の読み心地で、すぐに続きも読もうと決めた。
 しかも、上にも書いたように母は時代ものにも詳しい。当然大河ドラマも見ている。私は時代ものは苦手で、特に史実や伝説をベースにした歴史物はついていくのも大変で、殆ど読んだことがない。一冊面白いのが見つかると違うのだろうけど。でも『逃げ若』は小学生向けの漫画だし(?)、話の展開も遅いし、何しろ脚色がものすごいので、本当に読みやすい。母に勧めたら、楽しんでもらえる自信があるのだ。
 この漫画に限らず、いい作品に出会うと、どうしてもそれについて母と語り合いたくなってしまう。こういう経験ってないですか?

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