雨の味わい
雨水|土脉潤起
令和6年2月20日
雪が雨へと変わることから雨水。その暦どおりの雨。天気予報によるとしばらくは雨が続くらしい。「雨の日は机上の旅に出る」ではレターの筆者は時刻表を開き机上の旅に出かけていたことを思い出す。自分にとって雨の思い出はなんだろう,と思い返していると,そういえばコヨムに綴っていた。約3年前の「この『香り』あの『記憶』」のレターを読み返した。そうそう,まだこの記憶が呼び起こされる。幾多の雨の日を過ごしてきたはずなのに,更新されない記憶が不思議だ。
雨の日は憂鬱だった。低気圧の影響か,朝から身体が重くなる。東京で勤めていた頃の話だがグレーの曇り空の下,スーツにビニール傘を持って,出口から大量に吐き出される一員になる時間が特に好きではなかった。
最近になって雨の味わいが分かってきた。雨の日には暮らしがむしろ彩られる。屋根を雨が叩く音を聞きながら,コーヒーを淹れて読書なんて最高じゃないか。小学生の頃に,ベートーベンのなんちゃら短調が好きという友人に出会ってひどく驚いたことを思い出す。当時の僕は暗い雰囲気をまとう短調の曲なんて誰がすきなものか,と理解が追いつかなかった。クラシックピアノを習う彼はなんだかクールでかっこよく,僕の知らない世界を知っているような羨ましさがあった。短調の曲,雨降る日,今となってはそれらの味わいが分かるくらいまでに大人になったのだろう。
束の間の雨上がり,やわらかく春の香りがした。
-S.F.
土脉潤起
ツチノショウウルオイオコル
雨水・初侯
死神の精度 / 伊坂幸太郎
中学生のときには「朝読」という15分の読書の時間があって,小説でもエッセイでもなんでも学校に持って行くという文化があった。書店で「朝読」用の本を探しているときに鮮烈に出会った小説。「俺が仕事をすると、いつも降るんだ」というアンニュイな雰囲気の帯と,タイトルの奇抜さに射抜かれて衝動買いしたことを思い出す。それからしばらくは伊坂さんワールドに引き込まれた。死神が,人間界において対象者を7日間調査し死を見定める物語。
参考文献
なし
カバー写真:2023年6月17日 地域の子育て支援センターの鎖樋。雨晴れる。
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雨の味わい
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