ルアンパバーン紀行 第3話:Phou si の丘
大雪|鱖魚群
令和5年12月20日
時刻は17時20分。ルアンパバーン市街の真ん中にある小高い丘の上に到着した。丘といってもかつてのWindowsのデスクトップ画像のような開けた丘ではなく、もっと秘境感のあるところである。寺院の裏手にあるひっそりとした、しかし非常に急で長く存在感のある階段を上り、そこからうねうねと右に左に曲がったり時々下りたりしながら続く階段道を進みながら、10分ほど登って着いたところだった。道中は基本的に熱帯性の植物に囲われたうっそうとした雰囲気だったが、時折木々の切れ目から遠くに見える街の夕暮れ姿がきれいだった。
私はここに日の入りを見に来たのだった。どうやらきれいに見えるらしい。丘の上には仏教関連の建造物があってその周囲は石やタイルで舗装され、ちょっとした見晴らし台のようになっていた。そこに、私と同じく夕日を見にきたであろう観光客がわらわらと集まっている。こんなにも人が多いのは予想外だった。一番西側の良い位置で日の入りをみたかったが、人をかき分けて進まなければいけないほどだったので、さすがに気が引けてすこし奥まったところで位置取りをした。
17時30分、日の入りが始まった。背伸びをしたり群衆の頭の間に目を凝らしたりしてなんとか太陽を見ようとしたが、なかなかうまくいかない。一瞬、目線の延長線上から人々の頭の群れがパッと散ったタイミングで、ようやくはっきりと見ることができた。大きな川のきらきらと光る水面と、そのすぐ奥にそびえる山々の稜線に吸い込まれていく太陽は、とても綺麗だった。
しかしこのとき夕日よりも魅了されたのは、周囲の人々の表情であった。無事目的の夕日を見ることのできた安堵からふと周りを見渡してみると、オレンジ色に綺麗に照らされた人々の横顔は驚きとうれしさで満ちており、その美しさにしばし見入ってしまっていた。
人々が夕日に照らされた神秘的な瞬間はスローモーションのようにゆっくりと流れ、いつまでもこのひと時が続くのではないかと思わせるほどの安らぎを感じていた。しかし実際のところ、日が沈みゆく時間は5分程もなくあっという間に終わってしまった。オレンジ色の太陽光から私の肌に受けていたあたたかいぬくもりは、光が届かなくなると途端に消えてしまった。夢が覚めたかのようだった。
続々と引き上げる群衆の流れに合わせて、私もホテルへの帰路についた。
***
今回、仕事で運よく人生初となるラオスに滞在することができ、大小さまざまな驚きに満ちた体験をすることができた。現職を選んだ理由もこういった経験をしていきたいと思ったからなのだが、当初想像していた以上に密度の濃い体験ができている。これからも様々な土地に訪れる機会があるかとおもうと、ワクワクしてしょうがない。きっと年末ジャンボ宝くじでウン億円が当選したとしても、この仕事を続けるだろうなと思う。
よく、どう生きようか、どう生きたいかと考えることがある。いつかは忘れてしまったが一旦の結論として私がたどり着いたのが、「死の間際にそれまでの人生を振り返ったとき、冒険心をくすぐるような、愛おしさで胸が温まるような充実した思い出をとにかくたくさん残したい」、というものだった。真の財産は思い出や経験である。ありふれた言葉に聞こえてしまうが、心からそう思っている。
視野は広く様々な機会に挑戦し、同時に両手に届く世界の幸せを大切にして、これからも一日一日を充実した思い出で埋めていきたい。
-S.O.
鱖魚群
サケノウオムラガル
大雪・末候
Sabaidee / Khop Chai
Sabaidee(サバイディー)はラオス語の挨拶のフレーズ。朝昼晩どんな時でも使えます。
Khop Chai(コプチャイ)はラオス語の感謝を表すフレーズ。ありがとう、にあたります。
サバイディーと言ってお店に入り、料理が出てきたらコプチャイと一言。現地語でちょっとした意思疎通ができるだけで、旅ってぐっと楽しくなりますよね。
参考文献
なし
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ルアンパバーン紀行 第3話:Phou si の丘
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