斜陽産業の大逆転
立冬|地始凍
令和6年11月16日
先日、新聞社に勤めている友人と話していたら、新聞記事が生成AIの学習データとして非常に良質であるから、高値で売れるらしいと言っていた。通常の生成AIが利用するLLM(大規模言語モデル)の元となるデータには、web上に溢れている質の悪い落書きのような文章も含まれていて、それらを学習したAIはやっぱりパフォーマンスが良くない。良質な食材に恵まれたAIほど良質なアウトプットを出せるというので、たたき上げの敏腕記者たちが書いた良質な記事は、AIにとって非常に贅沢なごちそうとなるのだろう。
昨今はどの新聞社も、新聞事業は概ね芳しくないと思われる。一家に一部、一社に複数部の紙の新聞をとっていた時代から、ペーパーレスやオフィスレスの進行、webのニュースメディアの台頭など、逆風が吹き荒れる時代となった。「若者の新聞離れ」という言葉も紙面を賑わせている。そんな中で、記事データの販売事業が実は稼ぎ頭なのだとしたら、これはすごいことである。新聞を売るだけでは経営が成り立たなくても、新聞を日々作り続けることで記事データが溜まり、それが資産となって商品になる。この考え方はすごく面白い。
非効率な斜陽産業と言われる業界が、土俵際の大逆転を狙えるかもしれないのだ。例えば、赤字を垂れ流しているローカル鉄道路線が、毎日列車を走らせ続けることで、何かしらのデータや資産が溜まるのならば、そこに価値が生まれるかもしれない。経営の苦しい酒蔵が、それでも酒を毎年作り続けることで米を消費し、それが稲穂や水田の美しい風景の保全に貢献していると知れば、田園風景を守っていきたい人たちにとっての十二分な価値となるだろう。日々生まれている摩擦エネルギーの蓄積が、誰かにとっての有益な資産になる可能性を秘めている。
本当は、こんな小難しいロジックを語らずに、みんな新聞を読めばいい。でも、かく言う自分も紙の新聞は読まない。ローカル鉄道にもほとんど乗らない。だから、良き文化を支えてきた産業はどんどん失われていく。時代が変わって事業が成り立たないなら廃止してしまえばいい、そうでないなら福祉として行政が補助金でやればいい、とは資本至上主義においてはごもっともな意見かもしれないが、そんな不粋で情も文化もない世界は息苦しくて生きづらい。資本が暴走しているご時世なのだから、真っ向から資本と戦う武器を本気で考えてみる。
-T.N.
地始凍
チハジメテコオル
立冬・次候
新宿御苑でピクニックをしてきた。ブルーシートを広げて芝生に座り、サンドイッチを食べていたが、あまりに寒くなって早めに退散した。風のつめたさを感じると、いよいよ冬になってきたのだなぁと思う。
参考文献
楯の川酒造株式会社, 日本酒業界初「稲作指標」を表記, 2022年3月1日, 閲覧2024年11月13日
カバー写真:
2024年11月16日 新宿御苑入り口の立派な菊の展示に、残された初秋の跡
コヨムは、暦で読むニュースレターです。
七十二候に合わせて、時候のレターを配信します。
斜陽産業の大逆転
https://coyomu-style.studio.site/letter/chi-hajimete-koru-2024