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ぬいぐるみ

小寒|雉始雊
令和6年1月18日

シングルベッドの上で目が覚めた。まだ日は登っていない。なんだか違和感がする。ふと身体に意識を持ってくると、重く、ピリピリと痛む。

やってしまった、風邪を引いた。

2024年1月13日から約2週間、現在関わっているプロジェクトでは最後となるブータン出張に来ている。この日は朝から車で7,8時間の大移動を控えていた。
これまで2度ブータンに訪れているが、毎回体調を崩してしまっている。最後かつ比較的短期滞在の今回だけは健康にと思っていたが、到着3日目で早速挫かれてしまった。悔しい。

タイからブータンまでの飛行機内の異様な寒さが効いたのか。タイでは半袖だったので機内でも上に軽く羽織るだけの薄着で搭乗してしまったが、横着せず荷物棚から上着を取り出せばよかった。
到着後も朝晩は氷点下を下回る環境だったので、じわじわと体力を蝕まれていたのかもしれない。大気がかなり乾燥しているせいもあるだろう。

朝8:30。二度寝をして幾らかましになった身体をなんとか起こし、最低限の身だしなみで部屋を出た。同行している上司先輩に風邪を引いたため1人で乗車したい旨を申し出る。

乗車。この風邪はどこまで悪化してしまうのだろう。数ヶ月前新型コロナウィルスに初めて感染し、高熱にうなされた時はそういえば喉の違和感から始まったのだった。健康な時にはついぞ忘れてしまう体調不良時の辛さや心細さ。現場までの丸二日の移動を乗り切れるだろうかという不安が襲う。

シートベルトを装着しふと目をあげてみると、車のダッシュボードの上に小さな子犬がなんとも幸せそうな顔で眠っていた。驚いてよく見てみると、それは良くできたぬいぐるみだった。大きさ、毛並み、腕を枕にぺたっと地面に横たわるその姿勢、全てが本物そっくりで見分けがつかないほどだった。
その愛らしい寝顔を見た瞬間、モヤモヤと脳裏を覆っていた不安や辛さは一気に晴れ、明るく温かい気持ちでいっぱいになった。本物ではなくぬいぐるみだったことがむしろ安心感を与えてくれる。本物であったらこれからの道中の寒さ、揺れ、退屈、排泄の我慢、そして落石と滑落の心配を否が応にも感じさせてしまうからだ。こんなかわいい存在に、そんなものを感じさせてはいけない。

発車。さっきまで感情の大半を占めていた憂鬱は滓のようになり、まぁなんとかなるだろう、という楽観的な気分で満たされていた。"可愛いは正義"というが本当にそうだ。ありがとう子犬のぬいぐるみ(とそれを置いたドライバーさん)。

道中何度も子犬に目をやり、その度癒された。そのせいか、風邪も悪化せず幾らか回復した状態で現場に到着することができた。子犬がくれた安らぎのおかげかもしれない。ありがとう。

-S.O.

小寒・末候

雉始雊

キジハジメテナク

おぱんちゅうさぎ

数年前妹に教えてもらい知ったキャラクター。頑張り屋だけどなんだか報われない、その不憫さと健気さに虜になっています。とっても可愛い。


参考文献

なし


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