Human Being −魔法使いの弟子−


 ラジカセを持ち入ってくる修道女
 静まる教室
 「考えなくていいから聞きなさい」
 『星の王子さま』の朗読が流れる
 
 キタキツネが出没するグラウンド
 アンネの薔薇が咲く玄関脇
 手を繋ぎ散歩する幼稚園児
 飛行機に掻き消される声
 他の科目の教科書を取り出し考えるクラスメイト
 私は何も考えず聖書を枕に眠りこける
 
 「終わりましたよ」
 私の肩を揺らし微笑む老女
 灰色のベールも一緒に揺れている

 聖書に広がる涎の海
 顔に貼り付いたページを剥がすと
 左頬に転写されたパウロ書簡
 「一番前の席で堂々と寝なくても」
 笑いを堪えきれなくなった隣の席の子が鏡を差し出す

 一日限りの聖痕
 思い出の中の小惑星
 愛されなかった私が何もせずにいられた時間
 大切なもの

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?