『ラスト・ボーイスカウト』(1991) ビッグネーム3人の仲が悪化、現場は混乱、ストーリー展開もかなり強引なのに、どうしてこんなに胸躍るのか。
このうだるような酷暑の中、よせばいいのに『ラスト・ボーイスカウト』を観た。最初に観たのは中学生のころで、結果、鑑賞中はムチャクチャ興奮しつつも、映画館の外へ出ると肝心のストーリーがまるで頭に刻まれていなくて(ドカーン!とかズドーン!とかの擬音だけは蘇ってきたのだけれど)、いま俺は白昼夢でも観ていたのではないかと、非常に困惑したのを覚えている。
あれから30年。製作の裏側を紐解いてみると、3つの柱が見えてくる。まずはシェーン・ブラックという脚本家の存在だ。彼はのちに『アイアンマン3』の監督としても成功を収めるが、当時は俳優出身で、新進気鋭の脚本家としても注目を集めていた。そんな彼がちょっと大きな失恋を経験したのち、痛みから立ち直ってようやく社会復帰しようかという精神状況で書いたのがこの作品らしい。それが当時としては破格の175万ドルで売れたというから凄いものだ。
だが、ブラックのもともとの脚本は、あくまで古き良き時代のハードボイルド探偵小説のような趣きだったとか。これがいつの間にか、さながら熱湯でも噴き出すかのような「ザ・男祭り」になったのは、幸運か不運か、そこに集ってしまった3者の組み合わせが原因だろう。
すなわち、ジョエル・シルバー、トニー・スコット、ブルース・ウィリス。当時、すでにそれぞれが大きな成功を手にしており、とにかく言い出したら曲げない男たちである。現場は荒れに荒れたというし、一説によると撮影スケジュールを巡ってスタジアムに集まったエキストラが暴動を起こしかけたとも言われる。結果、シェーン・ブラックの優れた脚本は大部分が極めて大味な展開へと書き換えられてしまった。これぞ175万ドルの贅沢な使い方である。
3つ目として挙げたいのは、これほどしっちゃかめっちゃかな製作背景の中で作り上げたこの映画が、なぜか蓋を開けてみるとノリやテンポのよさでアクション場面や個々のキャラ立ちが抜群に面白く仕上がっているという点だ。これはもしや編集に秘密があるのではないかーーー。
と考えて、スタッフ名をチェックしてみると、やはりそこには凄腕のスチュワート・ベアードの名がありました。どうやら彼以外にも何人もの編集者が関わっては消えていったこの混沌の沼、彼が参加することでようやく状況が安定したのだとか。こういった数々の実績あってこそ、ベアードは90年代後半には『エグゼクティブ・デシジョン』や『追跡者』などの監督作を手がけ、その後も名編集者として数々の作品に関わり続けることができたのだろう。
そういえば、もう一つ印象的なのが、主人公の娘役ダニエル・ハリス。彼女がまた、主人公と肩を張るくらいぶっ飛んだ個性の持ち主で、なおかつ咄嗟の機転が効くという役回り。その後も出演作が絶え間なく続いているようだ。
惜しくもブルース・ウィリスが俳優引退を宣言し、トニー・スコットは10年前に亡くなってしまったが、ダニエル・ハリスの他にも、共演のデイモン・ウェイアンズや製作のジョエル・シルバーはまだまだ現役。これからも三者三様、タフな活躍をどうにか続けていってほしいものである。
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