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占いがバカにされる理由|正当な価値と居場所を
占いが好きな人の周りには占い好きが多い。そのコミュニティの中にいると気づきにくいかもしれないが、現代社会ではまだ占いに対して様々な見方が存在している。
先日、テレビを見ていて興味深い場面があった。「悩んだときは占いに行きます」という芸能人の発言に対して、スタジオの反応は嘲笑を誘う冷ややかなものだった。その様子を見て、これが社会にとって一般的な受け止め方だよなと感じた。
経済的な側面で見ると、占い市場は拡大しているようだ。地上波でも占いをテーマにした番組が放送され、一定の市民権を得ているようにも見える。それでも、多くの人にとって占いは「あー、占いねー」と軽く流される存在だ。真面目に取り合われないことも少なくない。
色で表現するなら紫。光と闇で言えば闇。白黒で言えば黒。そんなイメージが占いには付きまとう。見えない世界を扱う占いの性質上、これらは避けられない側面かもしれない。その不透明さを悪用する人がいることも事実だ。
占いや占い師がこのように胡散臭がられ、時に嘲笑の対象となることに、僕は静かな悲しみを感じている。「まあ、そういうものか」と流すこともできるが、何かが引っかかる。大切なものが正しく理解されていないような、残念な気持ちが残る。
「世間は分かっていない!」とこのまま非難するのは簡単だが、何も始まらない。そうではなく、なぜ占い(占い師)が「胡散臭い」「インチキくさい」と感じられるのか、その視点に立って考えてみたいと思う。
実は僕自身、かつては大の占い否定派だった。「頭の悪い人がやるもの」「心が弱い人がするもの」と、完全に見下していた。今思えば本当に愚かな態度だったが、だからこそ占いを疑う人の気持ちはよく分かる。
その経験を経て気づいたことがある。占いに対する社会の懐疑的な視線は、決して表面的なものではない。それは現代社会の中に深く根を下ろしており、その影響は占い好きの人々の中にさえ存在している。
例えば、占いを受けに来る人は、たとえ占い好きであっても、占い師に対して微かな警戒心を抱いている。真っ向から疑いを持って来るわけではないが、頭の片隅では「この人は大丈夫かな」「変なこと言われないかな」という思いが潜んでいる。
まずはこの現実に向き合うことから始める。「なぜ人々は占いに対してどこか小さな引っかかりを感じるのか」という問いに真摯に向き合うことは、占いと人々との関係をより健全なものにし、占いの価値が社会の中で正当に理解されるために、避けては通れない道のりなのだ。
今回は、現代社会において占いがどのように見られているのか、そしてその見方の背景にある構造に迫っていきたい。これは同時に、より多くの人々に占いの価値が正しく理解されるために、僕たち占い師に何が必要なのかを探る試みでもある。
現代人のレンズを理解する
占いに対する社会の反応を理解するために、まずは我々現代人が世界をどのように見ているのか、その基本的な枠組みを理解する。
僕らは普段、自分は世界をありのままに見ていると思いがちだ。しかし実際には、僕らの「見方」はある特定の枠組みによって形作られている。
興味深い例として、虹の色の数は民族によって違うという。同じ虹を見ていても、ある民族は7色、別の民族は5色と認識する。これは単なる表現の違いではない。その文化の中で育った人々は、本当にその数の色を「見て」いるのだ。
つまり、僕らが「現実」だと思っているものは、常に特定の見方を通して解釈された世界なのだ。この視点は、現代社会における占いの立ち位置を考える上で、重要なヒントを与えてくれる。
現代人の「見方」の特徴を理解するために、今回は「意識・関係・物質・構造」という4つの視点を使用する。この枠組みを使うと、現代社会における占いの位置づけが、より鮮明に見えてくる。
現実の4つの側面
僕らが世界を見るときに使っているフィルターを理解するために、4つで大別した視点から見ていく。(ここでは深く理解しなくてOK。さらっといきましょう)
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左上、「意識の次元」は、その人の内面的な世界を指す。感情、価値観、直感、信念など、個人の主観的な体験の領域だ。占いが扱う「運命」や「魂の声」といったものも、この次元に含まれる。
左下、「関係の次元」は人と人とのつながりの世界を表す。家族関係、友人関係、組織における人間関係など。文化や習慣、集団の規範といったものも、この次元で捉えられる。
右上、「物質の次元」は、目に見える現実を扱う。身体、お金、物理的な環境、脳の状態、ホルモンバランスなど、具体的に測定や観察が可能な要素がここに含まれる。科学的な法則や、データとして扱える現象もこの次元の話だ。
右下、「構造の次元」は、社会の仕組みやシステムを指す。法律、経済システム、組織の制度など、個人の意思を超えて存在する枠組みがこれにあたる。
これら4つの次元は、互いに密接に関連している。例えば、ある人の悩みを理解しようとするとき、その人の感情(意識)面だけで判断するのは難しいはずだ。周囲との関係性(関係)、経済状況(物質)、そして社会的な立場(構造)など、複数の視点から見て、初めて悩みが見えてくる。
他の例として、人が意思決定を行うメカニズムを「意識の力だけ」とは説明できない(上記図:左上)。社会システムの影響(右下)を無視することはできないし、反対に「すべては環境の影響(右下)」と割り切ってしまうと、その人固有の価値観(左上)を見落としてしまう。
複数の視点から眺めることで初めて、現実の複雑さにより近づくことができる。
現代人は「物質」「構造」をベースに生きている
4つの側面を確認したが、僕らの生きる現代社会では「物質(科学・データ)」と「構造(社会システム・経済)」が圧倒的な影響力を持っている。
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分かりやすい例として、学校教育を見てみよう。「数字で評価される成績」「再現性のある実験結果」「ルールに従って評価される進学・就職」—。これらはすべて、「物質」と「構造」の世界に基づいている。この枠組みの中で、「客観的に証明できるもの」だけが価値を持ち、主観的な感覚や直感は軽視されがち。
この「物質・構造」中心の価値観は、僕らの思考にも深く根を下ろしている。「エビデンスは?」「データは?」「科学的な説明は?」—。こうした問いが、日常のあらゆる場面で無意識に浮かんでくる。再現性のないもの、目に見えないものへの不信感は、現代人の特徴と言っていいだろう。
この傾向は、人との関わり方にも色濃く表れている。
例えば、生活困窮者への支援を見てみよう。社会福祉の現場では、まず物質的な解決策が提案される。生活保護、給付金の支給、職業訓練による就労支援—。「お金がない → お金を与える」「仕事がない → 仕事を斡旋する」という、物質・構造ベースの支援が中心だ。もちろんこれらは重要な支援だが、「その人がなぜここに至ったのか」という内面の問題には、あまり光が当てられない。
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メンタルヘルスの分野でも同じ傾向が見られる。心の問題までもが、物質的な視点から説明されることが多い。「うつ病は脳内のセロトニン不足が原因」「気分の浮き沈みはホルモンバランスの乱れ」—。「精神の問題 = 物質的な問題」という図式で理解され、治療も「薬でホルモンバランスを整える」という物理的な解決が中心となる。もちろん薬物療法は大切だが、その人の「人生の意味」「価値観」「人とのつながり」といった側面は、十分にケアされないことが多い。
さらに興味深いのは、純粋に主観的なはずの体験までもが、物質的に説明されようとすることだ。「夕日への感動は脳内物質の分泌による」「美しさを感じるのは特定の光の波長が視覚神経を刺激するため」—。このような説明の背後には、「人間の感じるものはすべて物理的に説明できるはずだ」という強い信念が潜んでいる。
フラットランド:右側が左側を蹂躙する世界
現代社会における「物質」と「構造」の重視は、人類に大きな恩恵をもたらした。科学技術の発展によって寿命は伸び、生活は豊かになった。データに基づく意思決定は、より確実な選択を可能にし、経済システムの発達は社会に安定をもたらした。
しかし、この成功が新たな問題を生んでいる。「物質」と「構造」の視点が強くなりすぎた結果、「意識」と「関係」の世界が押しつぶされようとしているのだ。
「気持ちの問題でしょ?」と精神的な悩みが軽視され、「データがないなら根拠がない」と直感が切り捨てられる。「効率」の名の下に、文化や伝統が顧みられなくなっていく。
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かつて人々は、神話や哲学を通じて「生きる意味」を探っていた。しかし今では「それに意味があるのか?」「科学的に説明できるのか?」と、全てを物質的な尺度で測ろうとする。こうして、内面の価値観や人とのつながりの重要性が、見えにくくなっていく。
ここに、占いを取り巻く本質的な課題が見えてくる。
占いを受けに来る人は、この現代社会の中で育ち、生きている。彼らは意識的には「星が示す運命を知りたい」「魂の声を聞きたい」と、占いの価値を認めた態度でやって来る。しかし同時に、科学とシステムの影響を受けてきた「現代人」でもある。
その中で多くの占い師は「占いの世界の言葉(左上)だけ」で話そうとしてしまう。スピリチュアルな視点や占いの技術を極めることに集中するあまり、全てをその言葉で説明しようとしてしまう。ここに違和感が発生するし、まさに外部から見たときの「胡散臭さ」の大きな要因なのだ。
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もちろん、「内面の視点」を大切にすることは、現代社会こそ重要な価値だ。けれど占いを求めて来る人自身が、気づかないうちに、占いの言葉(左上)だけではしっくりこない感覚を持っているのだ。これは単なる個人の問題ではない。科学・データ・社会システムという現代の「枠組み」の中で教育を受け、仕事をし、生活している以上、僕らは誰もがその影響下にある。その構造から完全に自由になることは、実質的に不可能なのだ。
(ちなみに、「スピリチュアル系」と揶揄されるのは、客観世界(右側)の交流を極力避け、内面の領域(左上世界)に閉じこもろうとする人たちを指している。)
占い師が陥りがちな罠
占いの性質上、多くの占い師は「意識」の世界でものごとを語ろうとする。
「カードがそう告げています」
「星があなたを導いているんです」
「運命の流れが良くない時期です」
「この配置が示すメッセージは...」
こうした表現は、占いに親しんでいる人にとっては自然なものかもしれない。しかし、相談者が抱える現実の文脈を見落としてしまうと、せっかくの占いの洞察も表面的な解釈で終わってしまう。
相談者を深く理解するためには、4つの視点でバランスよく見ていく必要がある。
【意識の次元】では、その人が日々感じる心の波や不安の源を探り、内面に秘めた本当の感情に焦点を当てる。何がその心を揺り動かし、深層ではどんな情熱や思いが渦巻いているのか。そして、彼らの魂が本当に求めるものは何なのか—それを見極めることが、この次元。
【関係性の次元】では、その人を取り巻く人々との関係性を理解する。家族との関係、職場での人間関係、信頼できる相談相手の有無。人は常に他者との関係の中で生きている。
【物質の次元】では、目に見える現実的な要素を見ていく。身体の健康状態、生活リズム、運動習慣といった生理的な要素から、経済的な余裕度、持っているスキルや専門性まで。これらは人生の土台となる重要な要素だ。
【社会構造の次元】では、その人を取り巻く社会システムを理解する。業界の動向、会社の組織体制、雇用形態。個人の意思だけでは変えられない、社会の仕組みやルールの影響を見逃してはいけない。
この4つの次元を意識することで見えてくるのは、人生の問題が常にこれらの要素が絡み合って生じているという事実だ。「仕事を辞めたい」という相談一つとっても、それは単なる仕事への不満なのか、人間関係の軋轢なのか、体調の問題なのか、あるいは業界全体の構造的な問題なのか。4つの視点があってこそ、本質的な理解が可能になる。
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具体的なやりとりでイメージしてみる。
【左上だけの理解】
相談者:「仕事を辞めたいんですが、迷っていて...」
占い師:「なるほど、天王星があなたのキャリアハウスを通過中なんです。突然の変化と解放を求める強いエネルギーが働いています」
相談者:「あぁ、そうなんですね。確かに変化を求める気持ちがすごく強いんです」
占い師:「土星のトランジットは終わりかけていますから、今がまさに古い枠組みから飛び出すときです。この力があなたを導いてくれるはずです」
相談者:「はい...(確かにその通りかもしれない。でも住宅ローンのことも気になるし...なんだかまだモヤモヤする...)」
【右側だけの理解】
相談者:「仕事を辞めたいんですが、迷っていて...」
キャリアコンサルタント:「現在の市場価値からすると、転職は厳しい状況ですね。給与水準も下がる可能性が高い」
相談者:「はい...でも、毎日心が苦しくて...」
キャリアコンサルタント:「まずは市場価値を上げることですね。資格取得をお勧めします」
相談者:(うーん、その通りなんだけど、なんかモヤモヤする..)
どちらのアプローチも、一面的な理解に留まっている。では、4つの次元すべてを見据えた理解とは、どのようなものだろうか。
【4象限全体での理解】
相談者:「仕事を辞めたいんですが、迷っていて...」
占い師:「なるほど、天王星があなたのキャリアハウスを通過中なんです。変化を求める強いエネルギーが働いていますね。この衝動は、一時的な感情ではなく、もっと深いところからのメッセージかもしれませんね。このところどんなお気持ちでしょうか」
相談者:「そうかもしれません...最近、本当に会社に行くのが辛くて」(左上)
占い師:「太陽と冥王星のアスペクトを見ると、職場での人間関係にも何か重たいものを感じているようですね」
相談者:「はい、実は上司との関係が...」(左下)
占い師:「今、木星が財務のハウスにいることを見ると、経済面での変化のチャンスも巡ってきています。ただ、土星からの影響もあるので、住宅ローンなど、現実的な制約についても慎重に見ていく必要がありそうです。今の状況はいかがですか?」(右側)
相談者:「そうなんです。実は最近、家計も厳しい状況で...」
(なお、以上の例は違いを分かりやすく示すため、単純化して特徴のみを描いた。)
多くの占い師は「意識」と「関係」(左上)の世界に重きを置きがちだ。それ自体は間違いではないが、相談者の抱える問題の全体像を見失うことにもなりかねない。
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ここで考えたいのは、『占い』は人の話を聞く・引き出すという点でも、かなり可能性があるということだ。先ほどの例のように、占いの視点を活かしながら現実の文脈も丁寧に見ていくことで、相談者の抱える問題をより立体的に理解することができる。そのためには、僕たち占い師自身が、経済やキャリア、メンタルヘルス、社会制度といった現実の文脈についての理解を深めていく必要がある。
ケアラーとしての占い師
現代の日本では、人々の個人化が進み、悩みを相談できる人間関係が希薄になってきた。村社会が解体され、地域や職場でのつながりも弱まる中、多くの人が精神的な不安や悩みを抱えながら、その行き場を見出せないでいる。欧米のようにカウンセリング文化も根付いていない。
そんな中で、実質的に占い師はカウンセラーやコーチのような役割も担うようになっている。実際、占い師のもとを訪れる人の多くは、具体的な運勢を知りたいというよりも、「この選択で良いのか確認したい」「今の状況を誰かに相談したい」という思いを抱えている。占い師は、現代日本における重要な「心の受け皿」となっているのだ。
ここで「占星術だけ」「タロットだけ」といった、特定の占術に深く特化することも、もちろん立派な占い師のあり方だとは思う。純粋に占いの視点からの導きを求めて来られる方もいるし、そういった方々の心の拠り所となることは、とても大切な役割である。
しかし、占いという営みを少し深く見つめ直してみると、それは常に相手との対話の中で成り立っている。相談者が本当に求めているものは何なのか。それは必ずしも「占い」という手段そのものではなく、その先にある「解決や癒し」なのかもしれない。DIYのたとえで言えば、お客さんが欲しいのはドリルではなく、壁に開けられた穴なのだ。
この「解決や癒し」という観点で見たとき、興味深い点が浮かび上がってくる。現代社会は「薬を飲めば治る」「制度を変える」「効率化すれば解決する」といった物理的・合理的な解決策を重視する。確かにそれも大切だ。けれど人は時に、「誰かに話を聞いてもらうこと」や「痛いの痛いのとんでけー」という、言葉や共感によって心が癒される存在でもある。
また、AIの発展により、占術の技術的な側面は大きく変わっていくだろう。「この星の解釈は?」「このカードの意味は?」といった単純な占術の価値は、劇的に下がっていく。その時、僕たち占い師に求められるのは、より総合的な人生への洞察となる。
では、僕たちにできることは何か?
それは、その人が言葉にしていない部分を察すること。相談の中から人生全体を見渡す視点を持つこと。恋愛相談をしている人の健康状態(右上)が気になったら、そっと尋ねてみる。職場環境(左下)や経済状況(右下)も、さりげなく確認する。
この視点を持ったうえでカードや星を読むと、インスピレーションの質も変わってくる。どんなに占術に優れていても、受け取る器が小さければキャッチできることも限られる。統合的な視点(4つの視点)は、その器を広げる作用にもなるのだ。
そして占いは本来、目に見えないもの—データや科学的根拠では補いきれない、心の奥底にある「生きる意味」や「人生の指針」を提示する価値あるツールである。
占いは今後も誤解を受け続けるだろうが、現実の厳しさに直面している人の心は、必ず温かな理解と導きを求めている。「胡散臭さ」も「あなたの感想」も含めた上で統合的な視点を獲得し、今こそ、占い師は「ケアラー・相談家」としての新たな役割を担う時代なのだ。
参考文献