添削杯Vol.8 観戦記事 準々決勝 しげる vs Yaskou ~そのカード、打ち消されないにつき~
text by いちごピザ
リアル添削杯にあたる添削杯Vol.8。85名いた参加者は一人、また一人と脱落し、いよいよ8名まで絞られた。ここからはシングルエリミネーションによる決勝ラウンドとなる。
多くのプレイヤーがフリープレイや談笑したり、帰路についたり、はたまた二次会と称した飲み会へと向かったりする中で、8名は栄冠を目指しより苛烈なトーナメントを戦うことになる。
その対戦がドレッジやオース、ドゥームズデイなどのように1枚のパワーカードを巡る攻防であるならば勝負は刹那であり、張り詰めた糸を断ち切るがごとく勝敗は一瞬にして決まる。
しかし、その対極のゲームがあるのもまた然り。ジャブのごとく放たれる牽制の嵐、細かいアドバンテージの積み重ね、わずかな隙を狙っての呪文の応酬、マナを巡る駆け引き、中~長期に渡るプランニングを練る必要のある繊細なゲームも存在する。
それはまさにしげるとYaskouに当てはまる。友人同士である両名が使用するのはエスパーカラーの《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》デッキだ。先ほど述べたデッキでは後者に当たり、1枚のカードパワーではなく、先の先まで見越したプランニングが重視されるマッチアップである。
準々決勝のフィーチャーマッチでは、しげるとYaskouによるエスパールールスのミラーマッチをお届けしよう。
Game1
先手のしげるはマリガンし、
Yaskou「後手ならキープ」
と7枚で始める。
静寂のドローゴーが続く中、しげるの《ウルザの物語/Urza’s Saga》がファーストアクションにな…らない。Yaskouはキッチリと《不毛の大地/Wasteland》で間をおかずに対処する。
次なる一手はしげるのメインでの《渦まく知識/Brainstorm》。これを土地事故と読んでか、Yaskouは《狼狽の嵐/Flusterstorm》。
しかしながら、ドローゴーが続く中、先に土地が詰まったのはYaskou。その隙を逃さずしげるは返すターンに《Black Lotus》。これを《記憶への放逐/Consign to Memory》でカウンターとさばき続ける。
互いにマナソースは2枚ずつという中で、しげるは《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》でしかける。
Yaskouが公開したのは《超能力蛙/Psychic Frog》×2、《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》、《呪文貫き/Spell Pierce》、《記憶への放逐/Consign to Memory》、《精神的つまづき/Mental Misstep》、《Timetwister》のあまりにも強すぎる7枚。
確認後、セットランドしマナ面で一歩先に進みながら《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》を手札へと加える。
先に土地が止まってしまったYaskouは思わず
Yaskou「きちー」
と漏らす。《意志の力/Force of Will》があるとはいえ、しげるがタップアウトしたチャンスを生かせず、さらに《Timetwister》を捨てるはめに。
対してしげるはここが勝負所と大胆にしかけていく。《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》をプレイし、YaskouからOKのサインが出ると《Black Lotus》をプレイしまるでフリースペルのような状態を形成する。
対してYaskouは《ロリアンの発見/Lorien Revealed》から2枚目の《Underground Sea》をサーチし、《超能力蛙/Psychic Frog》が着地を果たす。
それでもしげるは《否定の力/Force of Negation》のバックアップのもと《剣を鍬に/Swords to Plowshares》し、ボードの主導権を譲らない。Yaskouのエンドに先出しが本体を狙撃されてしまう分不利と承知の上で《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》をプレイすると、止まらずの不可侵クロックが形成されてしまう。
そう、しげるの戦場には《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》がおり、《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》本体の使いまわしを今か今かと待ち構えている。
Yaskouは《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》をプレイし、トークンのみを狙撃し本体はテイク。《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》のアタックを牽制しつつ、ダメージクロックを最小限にとどめる。
マナ面で後れをとっていたYaskouはここで《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》を手札に加えるが、しげるはタップアウトの隙を見逃さず《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》2枚目をプレイし、一気にボードでの優位を築く。戦闘で6点のダメージが入るとライフレースはしげる23-7Yaskouと大きく傾く。
第2メインフェイズに《Black Lotus》を切りながら《ロリアンの発見/Lorien Revealed》をプレイするも、ハンドアドバンテージこそYaskouにとって唯一の活路であるため《否定の力/Force of Negation》で打ち消すと、再度《Black Lotus》が設置された。
ここでYaskouは《Black Lotus》を封じる《アゾリウスの造反者、ラヴィニア/Lavinia, Azorius Renegade》をプレイし、マナ面での差を埋めにかかる。
しげるは構わずにフルアタックし、結果として《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》本体とトークン1体のみが残り、Yaskouのライフは5まで落ち込んだ。
目下の脅威であった《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》は対処したが、忘れ形見の《Black Lotus》は残っており、マナ差はいかんともしがたい。
しかし、水面下でゲームは動いていた。Yaskouの《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》にしげるは《意志の力/Force of Will》をプレイし、残ライフを3とする。マナ、ライフ、ボードそのすべてにおいて勝りながら、手札の一点のみはYaskouが勝っていた。
先ほどの《意志の力/Force of Will》をみて、Yaskouはここが勝負とタップアウトで《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》をプレイすると読み通りに着地を果たし、《ミシュラのガラクタ/Mishra's Bauble》をプレイする。
平穏だったのは、《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》が着地し、土地がアンタップするまでの行き帰りのわずか1ターンに過ぎなかった。
土地がアンタップするが早いか、Yaskouは《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》をリプレイし、《意志の力/Force of Will》を《意志の力/Force of Will》で返すと、しげるの《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》本体を狙撃し、遂に《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》でのアタックを開始する。
続くターンには2体目の《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》がトークンを除去し、無人の荒野を7点クロックが駆け抜ける。
手札の差、そして《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》のリソースが2人の明暗を分けた。
しげる 0-1 Yaskou
Game2
しげるは再度マリガンし、《Mox Jet》から《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》。対するYaskouは《Mox Pearl》から《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》、《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》。
しげるははや仕掛けで《超能力蛙/Psychic Frog》をプレイし、Yaskouは《超能力蛙/Psychic Frog》をコストに《意志の力/Force of Will》。そしてそのターンエンドにドローを進めるためか《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》を起動してしまう。結果的にではあるが、この《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》の起動がGame2の焦点となった。
セットランドできなかった隙を逃さずYaskouは《不毛の大地/Wasteland》で即応すると、しげるはトップデッキしたデュアルランドから《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn's Prodigy》を召喚。
Yaskouは《呪文貫き/Spell Pierce》を構えながら《超能力蛙/Psychic Frog》でクロックを作るも《長い別れ/Long Goodbye》。
Yaskouは再度《不毛の大地/Wasteland》で土地を割り、《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》を回収。しげるの墓地には既に5枚のカードがあり、《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn's Prodigy》はいつでも変身できるが、土地がないため起動するタイミングが難しい。
しかし、ほんのわずかであるが、先に集中力が途切れてしまったのはYaskouであった。ここまで全7ラウンドを消化しての準々決勝。しかもワンミスも許されず、神経を研ぎ澄ませるゲームを強いるエスパールールスを使ってきたYaskouの集中力は限界を迎えていた。
《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》をプレイすると再び《呪文貫き/Spell Pierce》を構えるように1マナ立ててエンド。《剣を鍬に/Swords to Plowshares》、《致命的な一押し/Fatal Push》など大概の除去は打ち消せるはずだった、Yaskouの中では。
すると神童はルーティングを経て《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》へと変身を果たす。必要なのは《剣を鍬に/Swords to Plowshares》でも《致命的な一押し/Fatal Push》でもない。既に墓地にある2マナのインスタントだった。
カード名通り、Yaskouの相棒へ《長い別れ/Long Goodbye》を告げると、土地こそないもののプレインズウォーカーをコントロールしつつ、《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》を残した有利な状況を作りだすことに成功する。
仮に《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》が残っていれば、と悔やんでも悔やみきれない致命的なリソース差が生まれてしまう。
《ウルザの物語/Urza’s Saga》経由でしげるは《Mox Sapphire》を調達し、青マナを確保。《思案/Ponder》をプレイするも、Yaskouは《呪文貫き/Spell Pierce》とこれ以上リソースが伸びることは徹底して許さない。
《超能力蛙/Psychic Frog》を《剣を鍬に/Swords to Plowshares》で対処し、先に《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》でクロックを作りだす。
しかし、《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》は本体を狙撃できる分、後だしが有利と決まっている。しげるはそのセオリーに則り《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》でYaskouがプレイしたばかりの《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》本体を除去すると、ボードの天秤は徐々に傾きを変えていく。
《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》こそ《剣を鍬に/Swords to Plowshares》と交換できたが、《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》分の差が縮まらない。
しげるは前方確認のため《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》をプレイし、Yaskouの手札が打ち消し呪文ばかりなのを確認すると、ボードのクロックのみでライフを削りきった。
《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》の起動タイミング、《長い別れ/Long Goodbye》の有無が分岐だったか。
しげる「打ち消されない(《長い別れ/Long Goodbye》)は本当に強い」
しげる 1-1 Yaskou
Game3
先手となったYaskouは《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》でスタート、対してしげるは1ターン目にして悩み、セットランドするのみにとどまる。その手札には《Ancestral Recall》、《Time Walk》、《Black Lotus》とあるものの、バックアップする打ち消し呪文はなく、Yaskouが2マナを構えると《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》を警戒し、自由には動けなくなってしまう。
《Black Lotus》は通るも、能動的に動けず。
Yaskouは1ターン差で《アゾリウスの造反者、ラヴィニア/Lavinia, Azorius Renegade》をプレイ。このエンドにしげるは《Ancestral Recall》をプレイするが、スタックしてYaskouは《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》をプレイし一気にクロックの形成を目論む。
これまで繰り返し述べてきた通り、《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》は後だし有利であることは揺るがない。しげるは《Black Lotus》を切り《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》をプレイし、己が有利を証明すべくYaskouの《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》本体を狙撃し、《Ancestral Recall》を無事通すことに成功する。
クロックの拡大には失敗し、手札の差は7-2といかんともし難く、《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》を回収するのみでYaskouに残された選択肢はほとんどない。
そして遂に、しげるの場に《超能力蛙/Psychic Frog》が登場する。《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》がYaskouの過剰ドローを牽制しながらだ。
《超能力蛙/Psychic Frog》がダメージを刻み、ライフはしげる19-17Yaskou。ドローが誘発するが、Yaskouはスタックして《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》をプレイし、しげるの《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》を落とすことに成功すると同時に、自軍のクロック強化を図る。
しかし、しげるの手からはGame2を決めた《長い別れ/Long Goodbye》がプレイされ、クロックの拡充はならなかった。
ここでYaskouはついに《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》を起動し、墓地を一掃。自身のターンに入ると《悪魔の教示者/Demonic Tutor》をプレイするも、そこには《狼狽の嵐/Flusterstorm》が突き刺さる。
《超能力蛙/Psychic Frog》は1サイズ成長し、しげるへと新たな手札を届ける。《悪魔の教示者/Demonic Tutor》を《狼狽の嵐/Flusterstorm》のバックアップのもと強引に通し、《アゾリウスの造反者、ラヴィニア/Lavinia, Azorius Renegade》をサーチ。
《超能力蛙/Psychic Frog》が与えたダメージはリソース差へと直結し、Yaskouは残る手札の《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》をプレイせざるをえない。が、それさえも《剣を鍬に/Swords to Plowshares》が許さず。
しげるは《アゾリウスの造反者、ラヴィニア/Lavinia, Azorius Renegade》から《Time Walk》で一気に4点を詰め残るは9。《意志の力/Force of Will》を抱えながら《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn's Prodigy》をプレイし、万全の体制を整える。
Yaskouは最後のあがきとばかりにアップキープに《致命的な一押し/Fatal Push》をプレイするが、しげるの手からは《否定の力/Force of Negation》がこぼれ落ちた。
しげる 2-1 Yaskou