添削杯Vol.8 観戦記事 ROUND7 月見 vs hktknbr ~導く一閃~
text by ふみ
席に着くなり「リベンジマッチです!」と筆者にアピールすのはhktknbr。以前に大きな大会で敗れたことがあるとのことで、冷静に応じる月見もその試合のことは覚えているとのこと。
共にヴィンテージの大会で数々の上位入賞を手にしている実力派同士。それだけにhktknbrは、月見の前に膝をついたあの日の光景が忘れられないのかもしれない。
予選ラウンド最終戦。所謂バブルマッチ。大会の予選ラウンドで必ずや訪れる運命の分かれ道。
ここまで5勝をしている月見はこれに勝てば確実に決勝進出。一方のhktknbrは勝利したうえで、他のプレイヤーの結果待ちという状況だが、決勝進出と「リベンジ」の舞台が同時にやってきただけに、冒頭の言葉にも自然と熱がこもる。
Game1
ある程度相手のデッキを把握しているらしい月見は、2マリガンとなるも最良の手札を求めて、ライブラリーに戻す2枚を吟味する。
しかしそのような月見の熟慮に《強迫》で一太刀の切り込みをかけるhktknbr。
公開されたハンドをみて、今度はhktknbrはじっくりと考え込む。確実な追加ドローが見えている《逆説的な結果》も相当に嫌ではあるが、それ以上に自身の展開を崩壊させかねない《三なる宝球》も癌。最終的に後者を選択した。
月見は当然《古えの墳墓》《厳かなモノリス》《Mox Sapphire》《逆説的な結果》と矢継ぎ早に繋げ、マリガンの損失を埋めた後《Mox Sapphire》を置きなおした。《三なる宝球》を排除した時点で、この展開は当然hktknbrもわかっているのでその流れを見守るのみ。
hktknbrは《思案》でライブラリをシャッフルすると、《通りの悪霊》のサイクリングと合わせて新鮮な2枚を入手する。
一方の月見が逆説で手に入れていたのは《一つの指輪》。これがキャストされると引かれてしまったその強さに思わず苦笑いのhktknbr。だが逆に見れば、今であれば「追加の妨害」を持たれている可能性は低い。更にはこのまま時間を与えれば状況を悪くするのは自分の方であろう。
仕掛けるのは果たして今ここなのか、今度は腕組みをして再び思考の海に潜る。
月見の手札はどうなのか、今は攻め込むだけの隙はあるのか、それとも今少し対処策を見つけなければいけないのか。
決断を下し、刀を抜く。
《暗黒の儀式》、これの解決を認める月見。hktknbrは2枚目の《暗黒の儀式》を重ね、そして《最後の審判》……これも解決された。
どうやら行けそうだ。
もとから保持していた《Time Walk》で勝利への1ターンを作り出すと、トップに積んでいた《ギタクシア派の調査》。流石に月見の手札には妨害らしいものは無く《Ancestral Recall》《Black Lotus》《タッサの神託者》と、これまでも何度も受けてきたあろう「勝利」の神託を授かった。
「強迫が全てでした。ターンが返ってくれば三球(※《三なる宝球》)でどうとでもできると思ったんだけど」
2マリガンの月見に突き刺さった《強迫》。hktknbrはたった一撃で流れほぼ全てを掌握し、それでいて把握できていないほんの僅かな余地にも目を配る。
月見 0-1 hktknbr
Game2
再びマリガンとなった月見だが、《古えの墳墓》から《苛立たしいガラクタ》という見事な立ち上がり。hktknbrは《否定の力》《意志の力》などを抱えた初手をキープしていたのだが、これを通してしまうとすべてが無に帰してしまう。
やむなく《否定の力》でこれを止める。月見は残った1マナから《太陽の指輪》《多用途の鍵》。
hktknbrは《思考囲い》を使用する。
月見が青マナを確保できていないの見てここは《一つの指輪》。返すターンも月見が動けないのを見ると今度は《強迫》。
提示された3枚はどちらもただただ強力なカードばかり。青マナを引かれないことだけを祈りつつ、今度は《修繕》を選択するhktknbrは、月見がまごついているうちに何とか決めきりたいが、こちらも最後の一歩を踏み込めない。手札に《最後の審判》はあるのだが、どうやっても黒マナ3つを生み出せない。
青マナを求める月見と黒マナを求めるhktknbr。
そして先に求めるものに辿り着いたのは月見であった。《強迫》の返しに、最高の一枚を引き込み、だが至って冷静に戦場にセットする。
遂にキャストされた《逆説的な結果》。そして新たな2枚が月見に加わるとそこにあったのは《Time Vault》!
唯一残された1ターンでこれを対処できなかったhktknbr。手札をライブラリーに戻し新しいゲームへと意識を切り替えた。
月見 1-1 hktknbr
「あそこ(の選択)は逆説ではなかった?」
「ティンカーでいいと思う。島を引いたのが全てです。」
サイドボード中に2人の会話が静かに、だが力強く交わされる。
《修繕》であれば確実に《Time Vault》に繋がっていたあの状況。結論としては一緒であったが、《逆説》の場合は未確定の未来。勝利した試合でも、負けたマッチでも全てを自分の糧にする。まさに達人の領域。
Game3
Game3は遂に両者7枚でのキープ。両プレイヤーの全力のぶつかり合いが繰り広げられそうだ。
hktknbrは《闇滑りの岸》《Mox Sapphire》から《Time Walk》。月見にターンを返さずに自由に使える2マナを確保する。ここで《吸血の教示者》をアップキープに使用するかを悩むも、最終的にその選択は取らずそのままドロー。
そしてこのラウンド、通算5度目の前方確認。試合を動かしにかかる。
これにより《逆説》を奪われた月見。だが返しに引きこんだのは《苛立たしいガラクタ》だ。《Mox Emerald》《魔力の墓所》《苛立たしいガラクタ》《古えの墳墓》《Time Vault》と一気に手札を展開し、続くドローに全てを託す形となった。
hktknbrは先ほど温存した《吸血の教示者》で、改めて《血染めのぬかるみ》を入手し、即座にこれを《Underground Sea》に変換すると続けて《暗黒の儀式》そして《最後の審判》。
月見の手札と盤面は上記の通り。hktknbrには《闇滑りの岸》と《Mox Sapphire》。残り1枚の手札。
とはいえここから直接決めることは難しいため、どうしてもターンを返さねばならないhktknbr。月見には次ターンのドローフェーズと、《ガラクタ》起動という2枚のアクセスが許されることになる。
さぁ貴方ならどのようなパイルをくみ上げるだろうか。是非hktknbrのデッキリストも参考に考えてみてほしい。
間違いなくここがこの試合の分水嶺となる。
それだけにhktknbrはその選択をじっくりと行う……そして、意を決したかのように大きく息をはくと、追放されたカードの束を月見へと差し出した。
キーとなるカードを1枚ずつ抜き出し、一切の見逃しも許してはならないと確認をすすめる月見。
《ギタクシア派の調査》も《通りの悪霊》も選ばれていない。追放された52枚の山の中には《精神的つまずき》や《狼狽の嵐》は存在しない。どうやら《意志の力》はhktknbrがアクセスできるどこかに、1枚残されているようだ。
2度、3度と見直し、月見は自分の考えをまとめるとターンを受け取る。
ここで引き入れたのは《Mox Sapphire》。これでは直接的な解決にはならないので《苛立たしいガラクタ》を生贄に捧げる。
ここで逆転の一手となるカードを引き入れた月見は、今再び先ほど確認した情景を頭に思い浮かべる。有ったカード、無かったカードを思い出す。進むか、引くか、今度は月見が刀を抜くタイミングだ。
そして月見は《逆説的な結果》をキャストした。
するとhktknbrはその手に残された、たった1枚のカードを表に向ける。
《逆説的な結果》以降の展開を考え、敢えて手札の《古えの墳墓》をセットしなかった月見。それ故に《狼狽の嵐》の要求するマナを払うことができない。
「フラスターはサイドアウトされていると思った。サーガが無くなって鍵の枚数が増えているので、《精神的つまずき》が残されているのだろうと」
とは試合後の月見。つまりは相手の1枚は《つまずき》であると。
「つまずきとフラスターで迷ったけど、フラスターを選択した。どっちが正しいかはまだわからないけど……噛み合いましたね」
こちらはhktknbrだ。つまりは自分の1枚は《狼狽の嵐》であると。
仮に月見の引き込んだカードが、《多用途の鍵》であったり、《修繕》であったりすれば、Game2のように「ずっと月見のターン」が再び開始されたことであろう。
仮に月見が《古えの墳墓》をセットしていて《逆説》が成立していたとしても、その3枚で妨害を引けなければ、未来は変わらなかったであろう。
自身にとって利となる一つの判断、リスクを認識しつつも下さざるを得ない一つの決断。そのたった一つが勝敗を分かつ、それを改めて思い知らされる。
その一閃を導くのが経験というやつなのだ。
月見 1-2 hktknbr
見事に月見へのリベンジを達成したhktknbrは、他プレイヤーの結果を待つばかりとなった。
そしてその結果は……9位。
なんと8位のプレイヤーとはポイント(15P)もオポネント・マッチ・ウィン・パーセンテージ(60.5442%)も完全に一緒で、僅かなゲームウィンパーセントの差で涙を飲むことになった。
「大会後、hktknbrさんと話をしたんだけど、まず最初のこの件が話にできてた。本当に印象に残ったんだと思う」
そう主催は語る。
振り返れば「リベンジ」も《修繕》も《狼狽の嵐》も、口を開いて最初に馳せる言葉はもっとも印象的なシーンであった。
とても惜しい結果となったが、hktknbrはこの印象を自身に刻み込み、この経験すらも糧として次の勝利を得るべく邁進するのであろう。