ヴィンテージの後日譚
text by 武漢
0.序
8月27日午前零時、禁止制限告知をチェックした全てのヴィンテージ・プレイヤーが眠気を吹き飛ばされた。
2021年6月の登場以来ヴィンテージを支配し続けた《ウルザの物語/Urza's Saga》(以下、サーガ)。
2024年6月に誕生するや早速大暴れした《苛立たしいガラクタ/Vexing Bauble》(以下、ガラクタ)。
現ヴィンテージを律する2枚が共に制限指定を受けたのである。
本稿は、制限改定による影響について次の要領により考察する。
1. 制限された2枚 - サーガ及びガラクタについて、カードとしての性能を振り返る。
2. 制限前後のメタ全体を考察する。
3.~ これらを前置きとして、制限後のヴィンテージで新たに形成されたメタを本稿執筆時点で看取できる限りにおいて紹介する。
本稿がヴィンテージプレイヤー、特に9月22日の第8回添削杯を控えたプレイヤーにとって多少なりとも参考となれば幸いだ。
1.制限カード2枚を振り返る
まず、サーガやガラクタを、単体での性能から見ていく。
1.1.《ウルザの物語/Urza's Saga》
1.1.1.強み
サーガの性能については、2年前に「ヴィンテージの地平線」で詳述した。
これを念頭に置きつつ、簡潔に強さを語るなら、次のようになる。
まず白眉はやはり2章で、SoloMoxenと組んで4/4~のトークンを量産する盤面制圧力は驚異的だ。
3章もコンボパーツを直接サーチしたり、《Black Lotus》からビッグアクションを起こすなど、コンボの起点としての役割を持つ。
それでいて、英雄譚ゆえの自壊デメリットは3章でSoloMoxenをサーチできることにより帳消しとなってしまい、制限告知の言葉を借りれば、投入の機会費用は非常に低い。
土地ゆえに、ヴィンテージの汎用対策を担うカウンターを拒絶するのも大きな特徴だ。このため、サーガに対抗するにはサーガを意識した構築が求められる。
→1.1.2.で述べるように、ガラクタの登場でこの性質は一層強化される。
スロットの節約という性質も見逃せない。土地の枠でフィニッシャー供給・コンボ起点の役割を兼ねることにより、デッキの他の部分をコンセプトの追求に充てられるのだ。
総評すれば、サーガはヴィンテージそのものと相性が良すぎた。採用率が50%超を示していたのも自然な趨勢と言わざるを得ない。我々はむしろ、これが3年間にわたり規制を免れたことの方に驚くべきかもしれない。
1.1.2.進化
サーガは登場以来、進化を重ねてきたカードでもある。その軌跡を追うにあたり、特に重要なのが次の2枚だ。
◯《ロリアンの発見》
一見して何のシナジーも無さそうに見えるが、実はサーガの弱点をカバーする名脇役。
サーガの弱点とは、不特定マナしか出せないことによる色事故と、カウンターを構えられない防御力の低下だ。
これに対しロリアンは、マナフラッド・マナスクリューの双方を受ける基本性能に加え、
手札から起動できるフェッチランド→色事故のリスクを大きく緩和
青い→FoWのピッチコストにもなれる
と、双方をカバーできる。
事実、サーガの採用枚数は、登場当初こそ2~3枚とするデッキも見受けられたが、ロリアンを契機として平均4.0枚に限りなく近づいた。
◯《苛立たしいガラクタ》
そう、もう1人の主役ガラクタ君である。ここでは、サーガ3章のサーチ先としての役割に触れておこう。
サーガ3章からガラクタをサーチするだけで、ピッチスペル全般を封殺する。特にフルタップなら、妨害の懸念なくビッグアクションを始動できる。
逆に、相手がこれをケアするためにはサーガ2章が置いてあるだけでフルタップを控えざるを得ないわけで、大きな牽制力を発揮する。
直近のヴィンテージ神決定戦においても、ガラクタサーチからのコンボ成立が最後の決め手となったことは記憶に新しい。
サーガ→ガラクタの挙動は、ガラクタ自体をカウンターから守れることも含めて、1.1.1.で述べたカウンター耐性の要素を一層強調するものといえる。
1.2.《苛立たしいガラクタ》
Moxen、ピッチスペル、《ボーラスの城塞/Bolas's Citadel》《虚ろな者/Hollow One》・・・ヴィンテージにおいてマナを支払わずに呪文を唱える行為は、他のフォーマットとは比べ物にならないほどありふれている。
モダンホライゾン3で現れたガラクタは、わずか1マナにしてこれら全てを封殺してしまう。
利用法も多岐にわたるが、ここでは特に代表的な2つを紹介しよう。
◯Mox封印
先攻1ターン目に張り、相手のMoxを封印する、安直にして強力なムーヴ。
制限カードの大先輩、《虚空の杯/Chalice of the Void》とほぼ同等の機能となる。自分の後続Moxを展開したいケースや、手札にガラクタが複数来たケースで、随時ドローに変換できる点においては、チャリスに勝る面さえある。
◯フィニッシュ補助
コンボ等、通したい大技に前もって設置し、ピッチスペルを予防する。1.1.2.で述べたように、サーガ経由で出すプレイが特に強力。
以上に加え、不特定1マナの軽さ、随時ドローに変換できる点が投入の機会費用を押し下げ、これまた50%を超えるデッキが採用した。
2.環境変化の概観
2.1.制限直前の環境
サーガ・ガラクタの、メタゲームに与えた影響を振り返る。
その結果を反映したTier表は、次のような分布であった。
2.1.1.サーガの影響
サーガについては、2022年夏・第6回添削杯に寄稿した拙著「ヴィンテージの地平線」でも分析しているので、是非ご一読いただきたい。
2021年6月以来、サーガがヴィンテージの最強戦略の座に就くと、それは各デッキに次の三択を迫った。
戦略A - サーガを活用する
戦略B - サーガを対策する
戦略C - サーガを無視する
さて通常のメタゲームにおいては、以下のような三角の循環が期待される。
Aが台頭する
Bが増加してAを抑止する
Cが現れ、Bを食い物にする
天敵が減ったAが再増加する(1.に戻る)
ところがサーガ環境においては、B(のみ)に属するデッキ群が次第に劣後してきた。その理由として1.1.で述べたところを振り返ってみよう。
まず、土地ゆえに専用対策を要求するため、サーガを対策する構築上の制約が大きい、つまり引き換えとなるデッキパワーの損失が大きいこと。
また、サーガ自体が次第に強化されていったことが挙げられる。これには、ガラクタが追加されたことで、有力除去だった《活性の力/Force of Vigor》が牽制されたことも含まれる。
このことから、受動的な戦略Bより、強烈なデッキコンセプトを叩き付ける積極的なアプローチ(=戦略C)の方が、結局は対サーガとしても有効となる環境が形成されていたと言えよう。そして戦略Aは定位置から揺るぎないものとなった。
この傾向は、制限直前環境のメタ分布とも照応している。
デッキパワー・支配率とも高いTier1は、戦略A:サーガに強くフィーチャーした2デッキからなる。
デッキパワーでTier1に並ぶものの、支配率で差のある2デッキはTier1.5と評価した。両者ともサーガに関係なく、強力な攻撃的コンセプトを備えており、戦略Cそのものである。
Tier2以降には、戦略Bに属するデッキや、メタゲーム上の劣勢者、またはデッキパワーでやや落ちるデッキが並ぶ。
そして、一連の動きの陰で、ABCいずれにも該当しないデッキは淘汰されてしまった。具体的にはカウンター重視のコントロールデッキ等がそれにあたり、サーガは環境デッキの速度に下限を定めたといえる。
2.1.2.ガラクタの影響
ガラクタの登場によって強化されたデッキには白単イニシアチブやPrison Shopが挙げられるが、これらの勢力が劇的に向上したとまでは言えない。
ガラクタはむしろ、特定のデッキに対する妨害となり、その勢力を削る働きが大きかった。
各デッキがガラクタから受ける影響度を測る上で、Mox/ピッチスペルの枚数に加え、主要メカニズムがガラクタに抵触するかを尺度とする。これを3段階に大別し、目安を示すと、
影響 大 - 主要メカニズムが抵触する
影響 中 - Mox・ピッチスペルが多め
影響 小 - Mox・ピッチスペルが少ない OR ガラクタ対抗手段が豊富
という形になる。
サーガとは逆に、大きな影響を受けたデッキには高速デッキが多い。
3.以降の個別デッキ解説で詳しく触れていくが、Bazaarアーキタイプに与えたダメージは特に多大だった。
2.2.制限後の環境
2.2.1.中核としてのサーガ
サーガは多くのデッキにとっての中核、つまり構築におけるカード取捨選択の基準となる存在だった。制限によりサーガを失った今、構築もゼロベースからの再出発を求められることとなる。
影響の大きい事項を列挙してみよう。
◯SoloMoxen
前 サーガ2章・3章のバリュー増のため、フル投入。
後 アーティファクトデッキでなければ、色の合うMoxのみ。
◯ダブルシンボル以上のカード
前 無色マナしか出さないサーガと相性が悪く、枚数を抑える傾向。
後 ダブルシンボルは特段の減点材料とはならない。
◯Vault-Key
前 サーガからサーチでき、単体でもサーガトークンを支援できる《多用途の鍵/Manifold Key》の評価が高いことから、Vault-Keyパッケージは多くのデッキで見られた。
後 評価減。アーティファクトデッキでも必須級からは降格した。
2.2.2.ガラクタの枷
まず、メタ以前の問題として先攻の過度な有利がいくぶん解消された。
そしてガラクタ制限により、抑えつけられていたデッキたちは欣喜雀躍・・・と言いたいところだが、現状、期待されたほどの回復は見られないのが実情だ。
なぜか? 各デッキの現状について、後ほど個別に検証することとしたい。
2.2.3.概観
現在、ヴィンテージは明確な最強戦略の無い群雄割拠の様相を呈している。その中でも注目すべき戦略を紹介しよう。
◯ミッドレンジ戦略
現状、群を抜いた最強では無いながらもトップ集団の先頭といえる戦略。
《超能力蛙/Psychic Frog》や《アゾリウスの造反者、ラヴィニア/Lavinia, Azorius Renegade》といった2マナ圏の優秀クリーチャーを展開する。
このような戦略が中心となったことは、制限前より低速かつ相互対話的な環境を予期させる。
特に、蛙はダブルシンボルのハンデ(2.2.1.)がありながらも、継続的なアドバンテージを得られることから、制限前からLurrus Sagaでフル採用されていた実力者だ。形を変えて存続したLurrus Sagaをはじめ、墓荒らし、さらにはDoomsday等、色の合うあらゆるデッキに搭載されているクリーチャーで、添削杯でも焦点となるだろう。
◯踏み倒し戦略
クリーチャーの攻防が主体となれば必然的に浮上する戦略だ。
ヴィンテージにおける代表格は、《ドルイドの誓い/Oath of Druids》の名を冠するOath。だが、期待ほどの活躍は見られないのが現状だ。
これに加え、近年では、リアニメイトも模索されている。レガシーで既に覇権を手にした同デッキをヴィンテージ版にアレンジする試みであって、現状トップメタとは言えないものの、ここでも上述の蛙がディスカード要員として起用されており、要注目だ。
◯Tinker戦略
言うまでもなく、制限で最もダメージを受けた戦略。1.1.1.で述べたような、攻防に多機能なサーガを失ったことは痛恨というほかない。
だが、瓦解したわけではない。むしろ既に一定の実績を挙げてもおり、依然として侮れない底力を持つ。
デッキ自身の弱体化、及びクリーチャー主体のメタへの移行という推移を踏まえ、コンボへの傾斜を選んだものが多数派だが、多色化により対応力を高めようとする試みも見られる。
では3.に進む前に、ここまでの内容を踏まえて、制限後のメタゲームを考察し新たなTier表を作成すると次のようになろう。
これを念頭に以下、デッキ単位での分析に進む。見出し表記は次のとおりとする。
デッキ名 / Tier:制限前→制限後
また、デッキごとに以下3点に分けて書き進める。
制限前
制限のデッキリストへの影響(あれば)
制限後の立ち位置
3.Lurrus Saga / Tier:1→1
3.1.制限前
《夢の巣のルールス/Lurrus of the Dream-Den》を相棒に据えた青黒コントロールで、制限前は特にサーガ環境に最適化された点に特色があった。
サーガをアドバンテージ装置・フィニッシャー等、様々な形で活用していた一方で、《露天鉱床/Strip Mine》+《不毛の大地/Wasteland》の土地破壊5枚に加え、《広がりゆく海/Spreading Seas》といったガンメタ要員までも起用して、サーガを徹底対策した。
自身もサーガを使用するため無色土地が9枚とかなり多い中、何とか2色にまとめ切れたのも、《ロリアンの発見/Lorien Revealed》の内助の功があった。
ロリアンはルールス・コントロールと長期戦志向のコンセプトが合致しており、土地を伸ばしていけばキャストすることも可能な、陰のキーカードと言える存在であった。
もう、1枚特筆すべきカードが《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》だ。純粋なパワーカードであり、どのマッチアップでも貢献してくれる。影響力も大きく、タフネス1のクリーチャーをあらかた駆逐してしまった。
ガラクタについては、ルールスと組み合わせてドローエンジンとする使い方が出来る点で他デッキと一線を画していた。
3.2.制限の影響
サーガ制限によりフィニッシャー確保が急務となる一方、色マナの供給を増やすことができ、3色目のタッチが容易となった。
以上の結果、次のようなカードが投入されるに至った。
《超能力蛙》
2.2.3.のとおり元々使われていたが、より定着度を増した。《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》
ガラクタの役割を引き継ぐ意味もあり。《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
ご存知万能除去で、どのような相手にも刺さる。
ガラクタの方は、元々1~2枚の採用が多く、制限の影響は小さい。
3.3.制限後
同型も含めた有力戦略に対するメタを厚く取って序盤を耐え、伸びたマナからルールスで盛り返していく長期戦プランは、制限の前後とも変わりない。そのメタ対象がサーガからクリーチャーに推移したことを受け、土地破壊のパーツをクリーチャー除去に変更したのみだ。
一方で、土地破壊の中でも露天・不毛は維持した。これらは対サーガに限らない汎用性をもち、特に制限後の大本命と目されていたBazaarアーキタイプ全般に対して非常に強いためだ。
以上のことから、Lurrus Sagaのデッキコンセプトには普遍性があり、今後メタの推移に応じたパーツの微調整はあっても、当面はTier1の座を維持していくものと見込まれる。
4.Jewel PO / Tier:1→1
4.1.制限前
Lurrus Sagaがサーガ環境に最適化したデッキとすれば、アーティファクト満載のチェインコンボJewel POはサーガの効用を最大化するデッキと言えた。
このデッキにおけるサーガの役割は、マナ基盤・コンボ始動・ブロッカー・最終的なフィニッシャー供給(アーティファクトの多さにより、サーガトークンは凄まじいサイズに成長する)と多岐にわたるものだった。デッキ全体を《切望の宝石/Coveted Jewel》連鎖に注力できたのも、このためだ。
制限直前の神決定戦にて、Jewel POを駆って現ヴィンテージ神に輝いたMasaH氏も、デッキの筆頭にサーガを挙げていた。ぜひ参照されたい。
ガラクタについては、1.で述べたように、マナが十分ある場合にサーガ3章からのコンボ起点とする用途を持っていた。
4.2.制限の影響
2.2.3.にて述べたとおり、これだけ頼っていたサーガが制限されたことは大きな喪失であった。Jewel POはその枠3枚分を土地で補修したのだが、それもただの土地ではない。
◯《朦朧への没入/Sink into Stupor》+《催眠の泉/Soporific Springs》
万能バウンスのモードを選べる土地。元々2~3枚採用されていたところ、ほぼ4枚確定パーツとなっている。
◯《水辺の学舎、水面院/Minamo, School at Water's Edge》
このデッキの伝説パーマネントは2種類。
《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》 → マナ加速
《一つの指輪/The One Ring》 → ドロー加速
◯《裏切り者の都/City of Traitors》
追加の2マナ土地であり、宝石の6マナへの到達に貢献。
と、何らかの意味でコンボに貢献する土地たちを選抜した。
ガラクタの補填についても、《Transmute Artifact》や《Copy Artifact》といったカードを選び、Jewel連鎖を一層徹底したタイプが見られる。
4.3.制限後
前項のように、コンボ特化に大きく舵を切ったことが制限後Jewel POの特徴である。
となると、コンボ妨害に対して脆弱な構成になってしまったのではないかとの懸念が生じる。確かに、サーガの提供するサブプランを失ったことは痛手ではあるものの、当初の予想に比べダメージはかなり軽く抑えられている。その要因を3つ上げよう。
要因① バウンス増加
上述のように《朦朧への没入/Sink into Stupor》なる土地枠でのバウンス要員を増量したことにより、妨害パーマネントへの耐性が高まった。
制限前は先攻の強さを強調したデッキだったところ、後攻からの捲り力を補強したとも言える。
要因② アグレッシブ・サイドボーディング
制限前からの戦術だが、Jewel POは、莫大なマナの捌け口をコンボから重量級のアーティファクト・クリーチャーに切り替えるテクニックを隠し持っている。これにより、サイド後はアグロ全般に強い耐性を持つ。
そのクリーチャーとは、主に次の2種を指す。
《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》
圧倒的なダメージレース能力を誇り、特にBazaar全般に対して強い《アージェンタムのマスティコア/Argentum Masticore》
高スタッツに盤面除去能力を併せ持つ。
プロテクション(多色)も蛙らに強く、バリューが高まっている。
要因③ 赤の不振
切り札だった《敏捷なこそ泥、ラガバン/Ragavan, Nimble Pilferer》が《オークの弓使い》に射られるようになって以来、赤は意気消沈している。青やアーティファクトを嫌う色の不振は、青単アーティファクト・コンボであるJewel POにとって極めて好都合だ。
以上①②のとおり、パーマネントに対する備えは万全だ。更には上記の通り③も後押しをしている。このような事情から、デッキパワーの減を物ともせず、依然としてTier1の一角を占める強豪である。
むしろJewel POはコンボに割り込んでくるインスタントの妨害に警戒しなければならない。
とりわけ厄介な相手は、モダンホライゾン3で登場した《記憶への放逐/Consign to Memory》。これは《狼狽の嵐/Flusterstorm》等と競合する1マナカウンターだが、Jewel POとはシーソーゲームの関係にある。
添削杯においては、Jewel POを使うにせよ対策するにせよ、シーソーの傾斜度合を読むことが1つの焦点となろう。
5.白単イニシアチブ / Tier:1.5→1
5.1.制限前
イニシアチブを絡めた展開は、相手のサーガが回る前に殴り切ってしまうほどの威力を誇る。しかし、1ターン目から動けるマナ(2W)を確保しなければならず、キープ基準が高いのが課題であった。
ガラクタはこの課題を解決する理想的なカードとして現れた。非常に軽く、初手にあれば1ターン目に最低限のアクションが取れる。かつ、4マナ出るならガラクタを先に設置して確実にクリーチャーを通す使い方もできる。
このように、キープ基準の緩和(底上げ)と上振れ強化の双方に貢献するのがガラクタであった。
ガラクタを受け入れるため、白単イニシアチブは大掛りな改修まで施した。
◯《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》 解雇
コスト増加がガラクタとディスシナジーしたため。
《オークの弓使い》に弱いという事情もあった。
◯《孤独/Solitude》→《冥途灯りの行進/March of Otherworldly Light》
ピッチスペルがガラクタと抵触したため。
5.2.制限の影響
ガラクタ以前のリストに回帰したかと思いきや、そうはならなかった。
ガラクタ枠に戻ってきたのはサリアでなく孤独だった。一方で行進は続投しており、除去が純増した形となった。
天敵オークが盛んなこともあるが、同型も含めクリーチャー中心に移行しつつあるメタの反映と解すべきだろう。
同様の理由からか、《宮殿の看守/Palace Jailer》といったカードの採用も見られる。
5.3.制限後
初動全振りのストンピィという基本設計は、2022年のデッキ成立以来一貫している。そこから生まれる問答無用の攻撃力こそが白単イニシアチブ最大の強みであり、イージーウィンも多い。
サーガ制限でトップ2との差が縮まったこともあり、現状のTier1はLurrus・Jewel・白単イニシアチブの3デッキと言っていいだろう。
現リストの特徴は、除去への注力だろう。クリーチャー除去の増量は5.2.で述べたとおりだが、《魔女の結界師/Witch Enchanter》+《魔女恵みの草地/Witch-Blessed Meadow》も土地のモードと捉えれば画期的に強力であり、特にOathとのマッチアップを大きく改善している。
もう1つ、制限の影響を強く受けたのがサイドボードだ。制限直後にみられた、Bazaar隆盛の予測を反映した動きと思われるが、対コンボ(Jewel PO、Doomsday)の枠を転用したこと等により、9月上旬現在のところ墓地対策の手厚さが目立つ編成となっている(多いもので12枚ほど)。
次第に明確化されつつあるメタ様相を見極めた再構成が必要と思われるが、ことサイドボードに関しては思わぬカードが掘り出し物となり、大きな変革を招くことがあり得る。白単イニシアチブの常識を塗り替えるのは、添削杯に出場するあなたかも知れない。
6.Doomsday / Tier:1.5→2
6.1.制限前
《タッサの神託者/Thassa's Oracle》コンボの速度・安定性を極限まで追求するコンボデッキ。白単イニシアチブと共に、コンセプトを突き付ける攻撃的デッキとして知られる。
サーガに対しては回る前に勝つを地で行った。その攻撃性は、無色マナしか出ない隙を突くプレイさえ狙うほどだった。
一方ガラクタについては、コンボ過程での《噴出/Gush》や《Black Lotus》が潰されてしまうことは軽視すべきではない特徴であった。しかし、これはpileの組み方次第で十分対抗可能だったし、より苦手なサリアと交替したことで(cf.1.2.)白単イニシアチブとの相性はむしろ改善されたほどだった。
以上のように、サーガ・ガラクタをさほど苦にしないどころか餌食とすることさえ窺う、タフなデッキとして知られた。
6.2.制限後
制限前にTier1.5以内だった4デッキのうち、唯一無傷であったDoomsdayだが、勢力はむしろ微減傾向というのが実情だ。その事情を考えてみよう。
まず、3.~5.で見てきたように互角以上の3デッキが想像ほど衰退しなかった。
環境全体の支配率で言ってもそうだし、Doomsdayから見た相性としても、明確に改善されたのはガラクタをクリーチャー除去に変更した白単イニシアチブ程度である。
メタの焦点から軸をずらす利が解消されたのも大きい。
制限前の特に主流な戦略とその対策を振り返ると、次のようになる。
表の左右ともに不利がつかないDoomsdayが、漁夫の利を得る構図であった。
制限を経て、これらに差し替わったカードは、
小型クリーチャー
クリーチャー除去・・・問題なし
汎用カウンター(《狼狽の嵐/Flusterstorm》等)・・・辛い
といった面々で、Doomsdayにとってやや向かい風となった。
と、やや精彩を欠くDoomsdayだが、デッキパワーは折り紙付き。クリーチャー中心のメタが進めば相対的に浮上する可能性も見込まれる。
7.Oath / Tier:2→2
7.1.制限前
《ドルイドの誓い/Oath of Druids》(以下、オース)からの、巨大クリーチャー踏み倒し召喚戦略を主軸に据える。召喚先の一番人気は、《偉大なる統一者、アトラクサ/Atraxa, Grand Unifier》だ。
オースをはじめ全体的にボードコントロールとしての性質が強く、この戦略面の特徴から、クリーチャーデッキ全般に対して非常に強かった。
一方、クリーチャーを展開せず、オース設置から降臨までの1ターンが致命傷となりかねないコンボには弱く、制限前環境においては、Tier上位のノンクリーチャー高速コンボが泣き所となっていた。
と、このように相性のはっきりしたデッキだった。
オースとディスシナジーを起こしてしまうため、青系コントロールながらサーガ活用は苦手だった。しかし同時に、相手のサーガ2章の起動を牽制していたとも言える。
ピッチスペルにそれほど依拠していないためガラクタへの耐性も高く、ガラクタを仕掛ける側に回ることもあった。
7.2.制限後
メタはよりクリーチャー主体に移行したが、Oathの立ち位置に大きな変化はない。その理由はTier1.5以内の上位デッキにある。
まず、大の苦手であるJewel POが想像以上に勢力を維持したこと。
続いて5.3.で述べたように、白単イニシアチブがエンチャント対策を増強し、かつてのような上得意客とは行かないことが挙げられる。
しかしながら、Oathは必須パーツが少なく、カラーリングや戦略志向も含めてかなり柔軟なデッキであることを忘れてはならない。
根強い愛好家に恵まれたデッキでもあり、添削杯でどのようなアプローチが見られるか楽しみだ。
8.墓荒らし / Tier:2→2
8.1.制限前
類型としてはBUGのミッドレンジとなるが、このカラーリングの対応力を活かし、その時々のメタに応じた様々な戦略をとる。
モダンホライゾン1以降は緑によるアーティファクト・エンチャント対策、特に《溜め込み屋のアウフ/Collector Ouphe》を主軸としている。
しかし仮想敵とするアーティファクトデッキに対してアウフを安着できても、サーガの起動を1度でも許してしまうと巨大なブロッカーが立ちはだかるのが辛いところだった。
相性を5分以上に持っていくために《魔力流出/Energy Flux》までも採用する等の努力を重ねていたが、デッキを一層歪める結果ともなった。
モダンホライゾン3以降ではやはり蛙を採用し、デッキパワーを底上げした。
8.2.制限後
サーガ制限は現スタイルのレゾンデートルを問い直す事態でもあるが、当面は、《魔力流出》等の極端なメタをサイドボードに落としつつ、アウフ軸は維持する形となったようだ。
すると、現状の上位陣に対する姿勢は次のように説明できる。
◯対Jewel PO
アウフで機能不全に追い込む。
◯対クリーチャーデッキ(Lurrus Saga,白単イニシアチブ)
《トレストの使者、レオヴォルド/Leovold, Emissary of Trest》《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns》で展開を制する。
と相応のプランを用意しているが、圧の弱さとデッキパワーの差が響き、上位陣いずれに対してもあと一歩の勝ち切れなさを感じてしまうところだ。
だが、習熟したプレイヤーがメタを見極めて握れば、どのデッキも捌けるという長所に早変わりする。そうしたオールラウンダー力に魅せられるプレイヤーが多いのか添削杯における人気の高さでも知られ、前回の第7回添削杯で優勝を勝ち取ったデッキでもある。
9.Dredge / Tier:2→1.5
9.1.制限前
ここ数年、Bazaarアーキタイプは徐々にメタゲーム上のポジションを後退させていった。ブロッカーを生成しつつ、墓地対策アーティファクトをもたらすサーガ、その対策として増加した不毛の大地による挟み撃ちを受けてしまったためだ。
そして、ピッチスペルを一切遮断してしまうガラクタが登場するに至り、苦境は一層鮮明となった。
この中でDredgeのみ比較的地位を保ち、Tier2前後に踏みとどまったのは、
サーガトークン → 横展開からの飽和攻撃
土地破壊 → 発掘で繋ぐ
ガラクタ → 《イチョリッド/Ichorid》等の唱えない誘発型能力で攻める
と、各戦略に対して一定の回答を持ち合わせていたからだ。
この他、環境に激増したオークの弓使いに対しても、ドローを発掘に置換することで誘発をかわせるのが地味に大きい。
9.2.制限後
天敵2種が制限されたことで回復傾向にあるBazaarアーキタイプの中でも、Dredgeは特に好調だ。
やはりメイン最強の名は伊達ではない。また、サーガトークン、蛙、イニシアチブ勢といった、5/5以上に成長し得るクリーチャーが矢継ぎ早に現れる環境において、上でも述べた横展開の強さが物を言う。
ただし、次のように不利な事情もあり、勢力回復に一定の歯止めがかかっていることも否めない。
◯《不毛の大地》
3.3.で述べたように、制限時の予想よりも《不毛の大地》が枚数を維持したことにより、バザー依存のデッキコンセプト自体が脆弱性を孕む問題は続いている。
Dredge側も《有毒の蘇生/Noxious Revival》で対抗するが、万全とはいえない。
◯詰み
Dredgeのサイド後は、相手の墓地対策パーマネントをピッチスペルで除去するところからゲーム開始となる。したがって詠唱制限+墓地対策が成立してしまうと、勝利手段が絶たれ(あるいは極めて乏しくなり)、詰みとなる。
ガラクタが制限されたといえど、1枚は残るヴィンテージ特有の事情により、このような事態に陥る危険性は、モダンホライゾン3以前と比べれば格段に高まっている。
特に、依然としてTier1の座にあるLurrusは、上記2つに加え、メインから(キャントリップ付きの)墓地対策アーティファクトを投入している、厄介極まりない相手だ。
しかし、添削杯はBazaarの構造的弱点を克服したデッキ、HogaakVineを世に送り出した大会でもある。第8回でも世人を驚倒せしめるアイディアが参入することを大いに期待する次第。
10.HollowVine / Tier:不利→3
10.1.制限前
Bazaarアーキタイプの一角で、マナレス・クロックパーミッションといった風合い。モダンホライゾン2で劇的に強化され、一時期はトップメタを占めるほどだった。
しかし、8.1.の挟み撃ち構図からは逃れられず、難敵《オークの弓使い》も追加と、ただでさえ苦戦していたところにガラクタが登場してしまった。
Dredgeと違い、HollowVineはほぼ全てのアクションを0マナ詠唱により行う。したがって、初手でガラクタを設置されるだけでデッキのほぼ全部が機能不全となってしまい、その除去もできない。
これらのことから、制限直前は悲惨な境遇に陥っていた。
10.2.制限後
多くのプレイヤーが制限で最も得するデッキと目したにも関わらず、支配率・勝率とも振るわないのが現状だ。その理由としては、やはりオークが厳しいこと。モダンホライゾン2以降、新パーツの獲得に恵まれていないこと等が挙げられる。
ただ、ガラクタの出たモダンホライゾン3以降、あまりの不利さにほとんど握られなかった(=研究も進まなかった)事情があり、同セット含め直近数セットに原石が眠っている可能性はある。
例えば、同じモダンホライゾン3に絞っても次のようなカードがある。
《こそこそサクサク/Sneaky Snacker》- 詠唱せず展開できるクロック
《無霊破/Null Elemental Blast》 - 不毛の大地から放てる、蛙・アトラクサ除去
制限後の改変としては、《憤怒/Fury》から《緻密/Subtlety》への交代が挙げられる。現在使われているクリーチャーを見渡すと、
蛙 - 自己強化により4点火力を耐える
イニシアチブ勢 - ETBのイニシアチブを止めたい
ラヴィニア - 常在型能力によりピッチスペル全般を封じる
といった面々であり、着地後の対処よりも着地自体を遅らせる方が有効と判断したものであろう。
11.結
以上、今回の制限による影響と、その結果としての現メタについて概略を述べた。
添削杯に参戦される全てのプレイヤーに:ご武運を!