旧作杯Vol.4 観戦記事 SE1 -夜陰 VS coyo ~真紅のA定食~
Reported by tokeimawari
Prelude
「開封動画をアップされている方ですよね?」
「あっ、はい、そうです!」
デッキシャッフル中、夜陰からcoyoに声を掛ける。そう、coyoは背景ストーリーや開封動画を精力的にアップロードし続けている動画制作者でもある。
Old School自体がローカルな形から端を発したフォーマットなだけに、このフォーマットに携わる人々は皆、MtGを愛している。当然、情報収集にも余念がない。
ヴィンテージを中心に幅広いフォーマットを嗜む夜陰もアンテナの高いプレイヤーの一人であり、coyoの名を知らないはずがなかった、ということだろう。coyoにしても、視聴者あまたの配信者とはいえ一人の人間、こうした直接の反響は嬉しいだろう。
それもこれも「Magic; the Gathering」というゲームの歴史の深さ、そしてそれを愛するプレイヤーの思いあればこそ。
コミュニケーションも深い。が、当然、対戦にも手を抜かない。
厳しいスイスラウンドを抜けた8名によるシングルエリミネーションが開始された。Old School大会「旧作杯」Vol.4、栄冠まで、あと、勝利3つ。
準決勝に駒を進めるのは、果たして、どちらか。
Deck Type Summary
お互いに黒を中心としたデッキだが、夜陰は白を足して《剣を鋤に/Swords to Plowshares》、《解呪/Disenchant》、《天秤/Balance》を加えている。サイドボードに《防御円/Circle of Protection》を使えるのも大きく、彼は《黒の防御円》に加え《憂鬱》も取っている。いかに白いデッキを意識しているかが伺える。
対するCoyoも同じような構成だが、クリーチャーを絞る代わりに白と赤をタッチしている。《セラの天使/Serra Angel》《稲妻/Lightning Bolt》《火の玉/Fireball》が主な差別化となっており、各色の粋を集めた除去多めのグッドスタッフ的な立ち位置となっている。
どちらも《暗黒の儀式/Dark Ritual》からの《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》《Juzam Djinn》を軸としており、手札を抱えるうまみも少ないことから、序盤からの手札ダンプもあり得るこのマッチアップ。
どちらが先に仕掛けるか。居合の達人同士のような試合をお楽しみいただきたい。
Game 1
スイスラウンド上位の夜陰が先手を選択。初手《真鍮の都/City of Brass》を置きターンを返す夜陰に対し、後手のcoyoは《暗黒の儀式》から《惑乱の死霊》!
まさに、真速一瞬の抜刀術。古式ゆかしい「A定食」が、夜陰に牙を向く。
しかし夜陰も負けてはいない。2枚目の土地《ミシュラの工廠/Mishra's Factory》をセットして、《暗黒の儀式》から合計4マナで2ターン目に《Juzam Djinn》!
coyoは「Djinnはダメなんだよ~」と困り顔。とはいえ先に仕掛けたため、《惑乱の死霊》で殴り合うしか選択肢をとる。攻撃して2点のライフと《沼》を叩き落とし、加えて《露天鉱床/Strip Mine》で《真鍮の都》を割り、次の手を防ぐ。
ライフレースで優位に立つ夜陰、土地を加えて《ミシュラの工廠》も加えて7点で殴りかかる。早くもcoyoのライフは13。さらに今置いた土地が2枚目の《ミシュラの工廠》ということもあって、仮に《稲妻/Lightning Bolt》で対処しても2枚目が襲い掛かってくることで、coyoからすれば、とても頭が痛い盤面だ。
coyoは3Tに自陣にも《ミシュラの工廠》を置き、いわゆる「ミシュラ対決のブロック側の優位性」を確保。《惑乱の死霊》で今度は《露天鉱床》を落とし、攻撃に備える。
しかし、夜陰には2枚目の《ミシュラの工廠》があり、攻撃しながら3/3を作れる状況にある。よって、相手の《工廠》も意に介さず2体で攻撃。coyoはこれを通して、早くもライフは残り一桁に。
coyoは返しのターン、ドローを確認すると「間に合った……」と深く一息を吐く。夜陰はその反応に「間に合った!?」と冷や汗をかいた様子。果敢に《惑乱の死霊》で攻め、夜陰の手札を残り2枚まで攻める。
リーサルアタック……となるはずのターン、夜陰は前述のセリフを聞いてなお初志貫徹、2体でのアタックを慣行。coyoは一呼吸置き、《Duzam Djinn》に《剣を鋤に》、パンプアップした《ミシュラの工廠》に《稲妻》! 相手のアタッカー2体を完璧に処理する!
このビッグアクションで形成は逆転。相手の手札を刈り取った《惑乱の死霊》に《Sedge Troll》も加わり、一気に決めにかかる。
夜陰はマナが整っているためトップに打開策を見出すも土地が続き、さらに《露天鉱床》で虎の子の《ミシュラの工廠》を割られると、2体アタックで残りライフは3。
「3点か……」
そう、お互いのデッキタイプは似通っていつつも、coyoのデッキは赤のカードが含まれている。
その意味するところは。
A定食に加わった「真紅」が、次のターンを待たずして、夜陰を介錯した。
夜陰 0-1 coyo
Game 2
お互いのデッキタイプは似て非なる形。coyoが赤の優秀スペルを有する反面、夜陰はクリーチャーサイズで優位に立つ。夜陰は早期展開で今度こそ主導権を握りたい。
お互い7枚のハンドをキープから、先手の夜陰が《Sol Ring》のスタート、お互いランドを置き合うところから、3ターン目に3枚目の土地を置いて《センギアの吸血鬼》!
テキストを確認するcoyo。《セラの天使》と対を為す、黎明期を代表する黒のフライヤーで、殺した相手の血をすすり成長する能力を持つ。
「タフネス……4ですか。4は無理だなぁ」と苦い顔をしながらここは相手のターン終了時に《剣を鋤に》で応じ、自分のターンを迎え《Sedge Troll》を戦場に送り込む。既に《Scrubland》《Badlands》《Plateau》と揃っておりマナ基盤は盤石、《Sedge Troll》も3/3だ。
夜陰がここで仕掛ける。相手の手札(5枚)、土地の状況(前述の土地が揃った状況)を確認すると、《Demonic Tutor》。ここから持ってきたのは……《強欲/Greed》!
両者、アドバンテージ勝負だということは重々承知しており、それを挽回するカードで、いわばOld Schoolの《ネクロポーテンス》。これが機能するとかなり優位な戦いを進められる。これが夜陰の抜身の刀。フルタップで勝負に出た格好だ。
一気に勝負を決めに来た夜陰に対し、coyoは落ち着いて、《Sedge Troll》で攻撃すると、手札から放たれたのは――《解呪/Disenchant》!
夜陰は思わず「(メインデッキに)残してたかぁ~!」と天を仰ぐ。coyoはさらに《トーラックへの賛歌/Hymm to Tourach》で夜陰の手札3枚のうち2枚、よりにもよって《剣を鋤に》2枚を叩き落とす。
フルタップの隙をついて《生命吸収/Drain Life》で《Sedge Troll》を落とすものの、夜陰の手札、つまりアクションはここで打ち止めとなる。coyoは《惑乱の死霊》を追加、次の攻撃で夜陰の手札から《恐怖》を叩き落とす。
トップの芳しくない夜陰、トップデッキに解決策を求めるも、ここで引いてきたのは《Library of Arexandria》。手札のない状態では《沼》以下の存在感でしかない。
《強欲》を巡る勝負から、流れはcoyoに傾いた。《惑乱の死霊》こそ《生命吸収》で失うものの、すぐさま《巨大戦車》を追加。
夜陰は《トーラックへの賛歌》2枚で相手の手札を攻めるが、《巨大戦車》が、止まらない。ライフは18から13、8と減っていく。
防戦すらままならない夜陰、土地とハンデスを引き続けるところから、しかし、遂に生物を引き込む。そう、今日の夜陰を支えた相棒、《Juzam Djinn》。
5/5と鉄壁なサイズは《心霊破》すら耐える、Old Schoolで黒を選ぶに十分な理由。《巨大戦車》との相打ちも十分可能な相棒が、遂に、駆けつけた。
そう。遂に。
そこまでの時間は、coyoが手札を整えるには十分すぎる時間だった。
タフネス5を誇る黒い悪魔を、二股の《稲妻》が襲う。
かくて、巨大戦車の荒々しい行進の道は拓かれた。夜陰は戦場を見て、戦車の突進を防げないことを確認すると、潔くコンシードを宣言した。
夜陰 0-2 coyo
* * * * * * * *
「《解呪》残してたのかぁ~……」
ターニングポイントとなった《強欲》設置の盤面を、夜陰は悔しそうに振り返った。お互いに致命的な置物が少ないため、互いに《解呪》を何枚残すかどうかは、判断が難しい。一方の夜陰にとっても、次のターンまで手札に抱えて即時起動まで見据えるか、一気に設置までするかどうかの難しさもある。
coyoはしかし、「いや、《The Abyss》ケアで残してただけで、あそこで割れたのはたまたまですね……」と謙遜。
実際に夜陰の用意した脅威は別のカードだったが、しっかりサイドボードまで想定した選択をしたことが結果的にプラスに働いた。
「あそこで割られたのがすべてでしたね」と述懐したが、徐々に清々しい語り口になった夜陰から、勝者への言葉を贈る。
「次も頑張ってください!」
「はい、ありがとうございます!」
敗者も、勝者も、MtGを愛するもの同士。
お互いの健闘を称え、敗者の言葉も力に変え、勝者は次の舞台へ進む。
coyo、準決勝進出!