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限築杯Vol.2 観戦記事 ROUND4 Seventh Forest vs カッシー ~20年前の「やり残し」~

reported by とけいまわり(@tokeimawari)

Prelude

 見ていますか、20年前の僕ら。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「Magic; the Gathering」の歴史は優に25年を超え、30年を間近に控える。ヒトに例えれば、日本は18歳で一人前、28歳はまさに社会の最前線で戦う、一番脂の乗った時期であることは疑いようがないだろう。

 さて、20世紀末に発売された『インベイジョン』はMtG史において10周年すら見えていなかった時期のエキスパンションである。ヒトでいえば、少年そのものだ。

 枠も「旧枠」と呼ばれるクラシカルなデザイン、プレインズウォーカー・タイプも不在、カラーパイがようやく定まったか、という程度。カードパワーも今に比べれば、総合的には格段に低い。

 しかし当時はインベイジョンブロックのカードパワーはそれまでと比べアベレージが高く、コモンからレアに至るまで(当時「神話レア」は存在しなかった)、様々なカードが実戦で使われた。

 歴戦のプレイヤーはカードプールを探究し、様々なカードの可能性を探り続けた。環境の理解、想定敵の選定、自身のデッキのメタゲーム相性、それを基にしたカード選択……。そうしたことをひたすら研鑽しながら、自らのデッキを研ぎ澄ましていったのだ。

 スイスラウンド折り返し地点のR4、全勝卓からお届けするSeventh Forestとカッシーの一戦には、そんな当時の研鑽の結果が表れる。一進一退の手に汗握る攻防とともにお伝えしよう。

Game 1

 先手はSeventh Forest、どちらも7枚の初手をキープ。Seventh Forestは《島》《平地》から《ガリーナの騎士》、対するカッシーは《島》《森》から《ガイアの空の民》という「熊」スタート。

当時の「熊」としては破格の性能

 ここからクリーチャーを追加しながらのライフレースが展開される。Seventh Forestは《ゴブリンの軍団兵》を追加するが、カッシーの3ターン目は《暗影のボブキャット》!

攻守に優れた「いぶし銀」の環境メタカード

 環境に2/2が多いことを見越して投入された、緑の対地上決戦兵器。熊と2体1交換を狙ういぶし銀だ。

 Seventh Forestが攻撃、《ガリーナの騎士》2体目を追加しマナを立ててターンを返せば、カッシーも空から攻撃、《疾風のマングース》追加で応じるなど、お互いの手の内を予測しながらの攻防が展開される。
 Seventh Forestは相手の頭数に圧され《急流》キッカーで《ボブキャット》《空民》を戻し、火力で戦場を押しとどめようとするが、カッシーは《空民》リキャストから《マングース》2体目追加と手を緩めない。熊の軍団が、Seventh Forestに迫る。

 しかし、Seventh Forestも黙っていない。《天使の盾》! 《ガリーナの騎士》を2/3にして反撃を開始する。

2/2が2/3に! つまり……!?

 サイズ差によってライフレースを優位にする、ブロック構築でもよく見られた戦略である。加えて《翻弄する魔道士》(《ボブキャット》を指定)も2/3で戦場に降臨。

 ここまでのライフレースでお互いのライフは10。ここで、Seventh Forestが火力で道をこじ開け全軍で突撃すると、カッシーは《マングース》2体で《翻弄する魔道士》をキャッチ。自身のライフを4まで落としつつ返しの攻撃で相手のライフも4にして、《ボブキャット》――ではなく、3、4体目の《疾風のマングース》!

青嫌いの憎しみが生み出したかわいいアイツ

 さて、ライフ4はギリギリの水準である。
 なぜなら、ライフ3以下は言わずと知れた《ウルザの激怒》の射程圏である。ここからライフをどう保つか、どうやって相手より先に相手を倒すか。達人の居合抜きさながらの状況となる。

 さすがに《ガリーナの騎士》2体を立てて構えるSeventh Forestに、カッシーは続けざまに《氷》でタップを狙い、フィニッシュを――これは《禁制》で阻まれるが、《ガイアの空の民》で空中からの攻撃。これは《天使の盾》の起動型能力で対応、「射程圏外」水準をなんとか保つ。

 しかし、《天使の盾》がなくなったことにより《マングース》が息を吹き返す。地上を固めていた騎士たちはマングースと相打ち、リキャストされた《空の民》がライフを2まで落とす。返しに、Seventh Forestは――苦笑いを浮かべながら、3枚の手札がすべて土地であることを公開し、次のゲームへの移行を促した。

Seventh Forest 0-1 カッシー

Game 2

 サイドボード中、「このマッチは本当に抜くカードがないんですよね」とSeventh Forest。逆に言えば、メインデッキが既にティムール・テンポを想定敵としていた、ということでもある。
 これも環境理解のなせる業。経験を活かし巻き返しにつなげたい。

 先手7枚でキープしたSeventh Forestは同様に2ターン目《ガリーナの騎士》、3ターン目も《ガリーナの騎士》。後手6枚スタートのカッシーも《ガイアの空の民》2連打でスタートする。

 ライフレースは地上と空中、騎士の進軍と空民の強襲がすれ違いに行われ、ライフも18、14、10、6と鏡合わせのように同じ推移で減っていく。

 しかし、カッシーは《ガイアの空の民》3枚目を《禁制》されると、3枚目の土地《シヴの浅瀬》を置いたまま、土地が3枚で止まってしまう。

「お互い土地からダメージを受けたくない展開」(Seventh Forest)であり、カッシーがこの3枚で戦うには厳しい――それはひとえに《攪乱》の存在を意識している。
 これをフルタップの《排撃》に合わせられては目も当てられない。

フルタップの仕掛けに一石を投じるカードたち

 Seventh Forestが追加した《翻弄する魔道士》(《反論》を打ち合った結果の着地)は、《暗影のボブキャット》を指定。このフルタップの隙をついてようやく《排撃》を《魔道士》に打ち込むものの、追加の土地は引けず。

 騎士は攻撃の手を緩めず、しかしダメージに気を遣い続けたカッシーの献身によりライフはかろうじて2だけ残った。Seventh Forestはその「射程圏」に入ったことを見て――

 稲妻一閃、カッシーを介錯した。

Seventh Forest 1-1 カッシー

Game 3

 ここまでの対戦で推し量れるのは、お互いの環境理解度の深さである。相手の警戒すべきカード、環境に存在するカード、静と動のタイミング……。さすがに全勝卓、プレイヤーの力量は推して知るべし。

 ここで先手カッシーはダブルマリガン、Seventh Forestも6枚と、互いに手札が少ないスタートになる。

 しかし、さすがは全勝者対決。カッシーは初手5枚ながらも《森》《ヤヴィマヤの沿岸》から《敏捷なマングース》、対するSeventh Forestも《戦場の鍛冶場》《山》から《ゴブリンの軍団兵》と引かない。これを相打ちすると、環境の鍵、《暗影のボブキャット》を呼び出す!

 今回は熊の連打による展開はなく、ペースはスローダウンするかに見えた。《ボブキャット》が少しずつ攻撃を行う中、テンポを《反論》構えを見越したカッシーは、勝負を決める《カヴーのタイタン》をキッカーで送りこむ――が、ここに刺さる《禁制》!

 ここで一気にテンポを握ったSeventh Forestは、返しのターンで《稲妻の天使》を戦場に送り込む! これは《排撃》で押し戻し、次回召喚への《反論》を狙うも、Seventh Forestはそれを見透かし、なら次はと《火炎舌のカヴー》を繰り出し《ボブキャット》に一太刀浴びせる!

 カッシーも負けてはいない。《ボブキャット》2体目、《翡翠のヒル》を追加し応じる。Seventh Forestはこれに《火》《偽り》(ノンキッカー)で対処すると、《火炎舌のカヴー》の攻撃のみでターンを返す。

 ここまでのライフは7-11でカッシーが優勢。押し込むべくダメージランドから《ガイアの空の民》を追加するも《反論》。両者逡巡の末、トークンで攻撃し相手のライフを5まで落とし込む。

 《火炎舌のカヴー》の攻撃2回を受けライフを2まで落とし込まれるも、繰り出したのは再び《翡翠のヒル》! パワーは5、このアタックを通せば勝ちの、まさに「射程圏」。

 これを打ち消さず通したSeventh Forest、返しには――《稲妻の天使》!

 カッシーはここぞとばかりに《反論》!

 それを承知の上で出してきた、ということは――Seventh Forestも《反論》!!!

 突如降り立つその姿、まさに疾風迅雷。カッシーにはもはや、耐える手札も、体力も、残っていなかった。

Seventh Forest 2-1 カッシー

 Seventh Forest、4戦全勝!

Post Mortem

「《カヴーのタイタン》キッカーが《禁制》で返されたのがすべて」

 勝負を決めるGame3のターニングポイントを、両者はこう振り返る。カッシーはミスだったかと思い返したが、Seventh Forestはミスではないと擁護する。

 前提として、「緑のクリーチャーカードに警戒すべき確定2マナカウンターが存在しない」からこそのカッシーの仕掛けであって、「2マナクリーチャーが多い環境だからこそ《禁制》を入れた」というSeventh Forestの「読み」がそれを上回った、という話である。

 互いの環境理解度を褒め称え合う両者の会話は、この言葉で締めくくられる。

「20年前に、これがやりたかったんですよ」

しみじみとSeventh Forestが、喉から実感のこもった一言を絞り出す。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

見ていますか、20年前の僕ら。

時は過ぎて、21世紀に、そして日本は令和になったけれど。

僕らは、あの時の「やり残し」を、今、やってますよ。