エラーカタストロフとは何か?、メディア報道のあり方について議論しました(11月8日こびナビTwitter spacesまとめ)
こちらの記事は、2021年11月8日時点での情報を基にされています。
2021年11月8日(月)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:木下喬弘
木下喬弘
Good morning, everybody!
黑川友哉
おはようございます、木下先生。
木下喬弘
Good morning, Dr. Kurokawa.
黑川友哉
Good morning, Dr. Kinoshita.
木下喬弘
Yay!! How are you?
黑川友哉
Fine!
今日は誰も来なかったんで先生が来る前にちょっと宣伝しようかなと思ったんですけど、いらっしゃったんで…あれですけど…
木下喬弘
よし!じゃあ宣伝を許す!
こびナビウェブサイト、リニューアル!
黑川友哉
いいですか?ありがとうございます。
昨日各メンバーから宣伝をしていただいたと思うんですけど、実はこびナビのウェブサイト、新規リニューアルしてリリースされましたのでぜひご覧ください。
URL は変わらず「covnavi.jp」でいけると思います。
今回は検索機能を強化して、よりウェブサイトを訪れてくださった方が自分の欲しい情報にすぐにアクセスできるようにということを意識して、プロのデザイナーの方などにご協力いただいて作り直していただきました。
実は、こびナビのウェブサイトで1番見ていただいているのが接種の体験記なんですよね。
木下喬弘
2番でしょ。1番はさすがに Q&A ですよ。
黑川友哉
Q&A でしたっけ?
我々のメンバーが一生懸命作ってくれている Q&A に次いで見ていただいている「接種体験記」、やはり個人のエピソードというのは皆さん興味があるんだなと思っています。
今まではただ体験記を並べてたんですけど、これも20代・30代・40代、そういった検索もできるようになりましたし、ファイザー・モデルナのどっちを打った、または副反応があった、そういう検索機能をつけましたので、もしまだ接種されていなくて「どんな副反応が出るんだろうか?」「打ったときどんな感じなんだろうか?」など気になる方は是非ご覧いただければと思います。ありがとうございました。
木下喬弘
これから体験記が需要があるのかっていうのはかなり謎(笑)
もうすでにだいたい七十何パーセントの人が接種しているわけですけれども…
とはいえよく考えたら我々のサイトのコロナワクチンの接種体験記って日本で唯一のコンテンツだったんじゃないですか?
黑川友哉
そうなんですよね。特に今の時期にそういった接種体験記を公開しているところって多分ないんじゃないかなと思うので、それこそまだ打っていなくて「どうしようかな。ちょっとみんな打ってるし…」と揺らいできた人で、どんな副反応あるんだろうな、個人のエピソードを知りたいという方は多分ここしか知れないんじゃないかなと思いますのでぜひ。
木下喬弘
なかなか唯一無二の貢献をしましたね、多分?
ということでそろそろ始めますけどよろしいですか?安川先生、いいですか?
安川先生、今日はしゃべれます?
安川康介
大丈夫ですよ!
木下喬弘
じゃあせっかく安川先生もいるということなので、今日はこれでいきますか!
安川康介
なんか木下先生、声がこもってないですか?トイレかなんかで話してます?
木下喬弘
寝室に追いやられています。そんなに狭いところではない。
ただワイヤレスイヤホンを使ってみたんですね。これ、イマイチかもしれないので、普通のイヤホンに変えて始めます。
安川康介
すごいクリアになりました。
「エラーカタストロフ」のお話
木下喬弘
安川先生、「エラーカタストロフ」です。これはなんなんですか?
安川康介
「エラーカタストロフ」って最近はモルヌピラビルで使われてたと思うんですよね。僕の回でも話したのですが、それは何かとざっくりいえば、変異が入りすぎてちゃんとしたウイルスとして複製・増殖できなくなるのを「エラーカタストロフ」というんですよね。
モルヌピラビルは新型コロナウイルスが増殖するときに使う「RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ」という酵素が、遺伝子の情報のブロックを1つ1つくっつけていく)ときに入り込んで変異をたくさん起こして「エラーカタストロフ」というのを起こして増殖できなくすると。
最近話題になっている、多分今日木下先生が話すほうは、探してみても論文とか見つからないんですけども、ある学会で日本の第5波が終わった原因の仮説として報道されているものですよね。
ちょっとここは複雑なんですけれども新型コロナウイルスというのは RNAウイルスの中でも1番大きい種類のウイルスになるんですね。
ウイルスというのは RNAウイルスと DNAウイルスというのがあります。RNAウイルスの例としてはHIV や C型肝炎ウイルス、そして新型コロナウイルスがいます。
一般的に RNAウイルスの方が DNAウイルスよりも変異を起こしやすいといわれているんですよね。それはなぜかといったら、DNAウイルスは複製するときに、つまり DNA を書き写してるときに間違えたら赤ペン先生みたいな酵素があって「ここ間違えてるよ」と直してくれるんですよ。
新型コロナウイルスはRNAウイルスではありますが、珍しくこの校正するタンパク質、複製するときに間違えたら直してくれる酵素があるんですよね。
なので新型コロナウイルスは HIV やインフルエンザに比べて変異のスピードが遅いことがわかっています。
今回話題になっている仮説は、この校正する酵素に変異が起きることで赤ペン先生がいなくなってるような状態になって、どんどん増殖するときにミスを起こし、「エラーカタストロフ」という変異が起こりすぎてちゃんとしたウイルスが増殖できなくなっているのではないか、というものです。それをテレビなどのメディアがいろいろ取り上げているっていう状況だと理解しています。
木下喬弘
ありがとうございます。もうこのままモデレーターを変わろうかと思うくらいしっかり説明していただきましたけれども…
安川康介
じゃあここから僕がいろいろ…
木下喬弘
中途半端に乗るんやったら最後までいってね(笑)
安川先生、本当にしっかり説明していただいてありがとうございます。
せっかくなんで今日は本当にそれが起きているんだったらどういうことを意味するのかってことを話していきたいと思います。
安川先生、これはそもそもウイルスが増殖する過程で個人の体内でも変異をして、コピーミスによって作られた細胞の中でウイルスは増殖する際に変異が起きて、その中に不出来なやつができちゃって次の細胞に感染できないみたいなことって普通に起きてますよね。
安川康介
起きていると思いますね。
木下喬弘
なかなか実証するのは難しいけど、おそらくきっと起きているだろうと。
安川康介
基本的にウイルスが体の中で増殖していくときというのは少しずつ変異みたいなのができていて、変異はたくさん出てくるんですよね。
意味がある変異だったりあまり意味がない変異だったり、有利になる変異がある一方で不利になる変異とかがあって、1番増殖しやすい・生き残りやすいウイルスが中心に増えていくっていうことがあります。
例えば HIV を例にすると、体の中にいろいろな変異をもっているウイルスがいることがあります。HIV の薬・抗レトロウイルス薬を飲んでいると、その薬があっても増殖できるような変異を持ったウイルスができてしまうことがあります。その薬がある状況下では、変異を持ったウイルスが主に体の中で増殖することがありますが、抗ウイルス薬をやめたら、もっと別の抑えられたやつの方が変異ウイルスよりも増殖しやすいので出てきたりすることがあります。ちょっと複雑なんですけど。
木下喬弘
要するにウイルスにとって増えやすい環境によって結構変わるってことですね。
安川康介
そうですね。
木下喬弘
その中で死滅する変異が、例えば1人の人の個体・1個体の中で起きたとしましょう、と。
そうしたときにその変異が入ったウイルスは当然体の中で増殖できないので死んでいきます、と。
だけど1つの個体の中でコピーをするにあたって「エラーカタストロフ」が起こらずにちゃんと正しくコピーできたやつっていうのもいるはずなわけですよね。
で、そいつはどうなんですか?人の体の中で増えるということが起こるわけですよね。
安川康介
そうですね。
木下喬弘
では勝手に死滅するような変異が起きたとして、それが原因でその人から急にウイルスがいなくなるかって普通に考えたら、ほぼすべてのウイルスゲノムのコピーにおいて勝手に死滅する変異が入らないとおかしいって話になりますよね。個体レベルで見ても。
安川康介
そうですね。そうだと思います。
木下喬弘
今度これが日本の感染の収束の要因であるっていう話をしようと思ったら、次はヒトからヒトにこのウイルスが移っていく過程において、突然日本人の中で勝手に死滅する変異がほぼ同時期に多くの日本人のコロナ感染者の細胞の中で圧倒的多数に起き、元々のデルタが個人の中でも増殖できないし次の人にも感染できないという状況を意味しますよね。
つまり、突然変異のスイッチが入ったかのように起こり始めたってことじゃないと、感染収束の要因にはならないってことでいいですか?
安川康介
はい、そうでないとありえないと思います。ただこの校正するタンパク質にちょっとした変異が入って、その校正する効率みたいのが下がるものが少しあるっていう可能性はもちろんあると思うんですよね。ただデルタの中でそういうのがいて一気にそれが広がって、いきなり「死滅」っていうんですかね、ちゃんとしたウイルスができなくなって第5波が終わったって考えるのは結構無理がありますよね。
木下喬弘
やっぱり伝播性が高いウイルスが生き残っていくっていうのが通常の考え方だと思うんですよね。
先ほど安川先生がおっしゃった HIV の治療薬で修飾されている状況であれば個体の中では違う状況になると思いますし、例えばワクチンが集団の中で本当に普及していったときに、播性の高いウイルスよりも免疫逃避の強いウイルスの方が生き残っていくということはありえると思います。
しかし、根本的に伝播性が高くないとその変異は通常選択されないと思うんですが、伝播性は高いけど死滅するっていうやつが起きたっていうことなんですかね。
安川康介
まあ、そういうことなんですかね…
あの…僕も Yahoo! ニュースでこの記事を読んだんですよ。それでコメントを見たら峰先生がしっかりコメントを送ってましたね。
木下喬弘
怒ってましたね。
安川康介
ここで峰先生に投げたいと思います。
峰宗太郎
どうもどうも、遅れちゃってすみません。今日から夏時間が終わって1時間間違ってました。ごめんなさい。
いわゆる「ニューとんでも説」のね、いわゆる「国立遺伝学研究所クオリティ」の話ですけど。
木下喬弘
「エラーカタストロフ」ですよ。
峰宗太郎
「エラーカタストロフ」ですか…さっき遠藤先生がツイートされていてもっともだなと思ったんですけど、基本的に遺伝変異が入ってウイルスが自分で安定しにくいっていうことが起こることはあり得ると思います。
ただそういうウイルスがドミナントになってわーっと広がったあとに自滅するっていうのはちょっとどう解釈すればいいのかなっていう説ですよね。
しかも結構学会発表では「アポベック」という遺伝子を名指しにしてそれとの相関関係でエラーが起こりやすくなったんだとか言っていたようなんですけれども、何の実証もされてないですね。
気をつけなきゃいけないのは遺伝学の人とかデータ解析の人とか、遺伝学といっても実証遺伝学じゃない人たちはよく注意してほしいのですが、最近はドライな環境でといいますけれど、コンピューター内でいろんな遺伝子の変異とかを調べてくるということはよくされるんですよね。ウイルスについてもそうなんです。こういう情報があってこういうちょっと実験して変異があるって。
ただそれが本当に、例えば動物実験だとかヒトの集団にもっていったときに影響を与えているかという実証するっていうプロセスをやっぱりないがしろにしちゃダメなんですよね。
木下喬弘
ホント、これはなんなんですかね?
まず議論の土台に上がれないですよね。「アポベックという酵素があったらウイルスの増殖抑制に寄与するんじゃないか」くらいのことでは、日本の感染収束のメカニズムとするには飛躍しすぎてて、「もうちょっと詳しく言ってもらっていいですか?」みたいな感じになりますよね。
峰宗太郎
そうなんですよね、飛躍すごいですよね。これはすごいですよ。
木下喬弘
相当ジャンプしすぎてるんで、だからそれを否定するも肯定するも何も、そもそも仮説全体をまず最初にちゃんと喋ってもらっていいですか?みたいな感じですよね。
メディアの報道と研究者倫理
峰宗太郎
そうなんですよね。しかも仮説もおかしいんですけど、実証データがないところまで言及しようとして、しかもそれを大々的に取り上げて最初東京新聞とか共同通信とかテレビ朝日がやっちゃったんですね。TBS もやってましたけど、メディアって本当に2年かけて全くリテラシーが上がらなかったんですね。
木下喬弘
私はそこまでは言わないですけど。
峰宗太郎
本当にどうしようもないなとしか言いようがないなぁ、と思う。
木下喬弘
どうしようもないとかそういう言い方ってよくなくて、正確にいうと「どうしようもないことを時々やる」ということですね。
峰宗太郎
まあもちろんそうなんですよ、全部がどうしようもないわけじゃないですけど、やっぱり人間ってどうしようもないことをやっちゃいけないんですよ。
突然ナイフでたまに人を刺す人っていうのはもうダメな人なんですよ、これは分かります?
解釈の違いなんでしょうけど。
木下喬弘
言いたいことは分かりますよ。
峰宗太郎
でもこれ、大誤報になり得ると思いますよ。違ったときに責任取るんですかね?
木下喬弘
どうなんでしょうね?テレビ朝日のニュース自体一応見たんですけど、「これが原因だったことがわかりました」とは言っていないけどね。でもなんかいやらしいですよね。
峰宗太郎
これは HPV のワクチンもそうなんですよ。「HPVワクチンで副反応が起こった」なんてやつらは言ってないですよ。これは印象操作なんですよ。
それがどれだけの影響を与えるかってことはやっぱり考えてほしいなって思っちゃうよね。
木下喬弘
まあね、ちょっとメディアの批判をしてもなかなかね…
峰宗太郎
そうなんですけどね。
これ、研究者も批判をしなきゃいけなくて、研究者の発表倫理っていうところがやっぱりありますよね。名前が売れるとか自分の説を出せるっていうのは楽しいことなんだけど、やっぱり「これはどこまで本当にいえるものなのかな」とか「確実度が高いのか、どういう段階のものなのかな」っていうことをちゃんと含めて「こういう感じで報道してね」ということを言わなきゃダメですよね。
木下喬弘
まあそうですよね。それがちゃんと出来ていれば起こらない問題ではありますよね。
峰宗太郎
そうですよね。だからそういう意味で、僕はもちろんメディアの目利きが全く出来てないってことには相変わらずだなって思うところで残念だなっていう観察をしているだけなんですけど、研究者の発表倫理がね、これはよくないと思うんだな。
学会で「こんなことあるんじゃないか?」とか話しているのはいいですよ。
ただそれを取り上げて堂々とインタビューにこたえてマンガまで作らせちゃったりしてるわけでしょう。やっぱりいきすぎですよ。これはやっぱり一線越えてると思いますね。
木下喬弘
ということで、では前田先生、この件についてコメント何かありますか?
前田陽平先生
すみません、そもそもの議論の土台が全然ちょっとわかってないですよ。
木下喬弘
先生、知らなかったんですか?
前田陽平先生
いやいや、ツイートはちょっと見ていたんでこのニュース自体は知ってたんですよ。
これはまずそもそも学会で発表して「俺たち、こんな学説を発表したぜ!」ってマスコミに売り込みに行ったってことなんですかね?その辺がちょっと全然わかってないんですけど。
木下喬弘
わからないですけど、普通に考えてテレビ朝日がマンガを作っていて、遺伝学研究所の人っぽい顔のマンガもあったんで、インタビューは受けていると思います。
前田陽平先生
そうですね。だからさっき峰先生がおっしゃったことはすごくもっともで、やっぱり自分たちがこういうことをマスコミに話すとどういう影響があるかということを考えてほしいなってのはすごくあるかなって思います。
あと学会で話す分にはセーフじゃないかというとそれもそうだと思うし、例えばこういうのを発表して論文の最後の一行くらいに「日本で収束したのにはこれがちょっと影響があったりして」とかディスカッションの最後の一行くらい書くのはすごく悪いことだとは思わないんですけど、ただやはり一般のマスコミに発表するっていうこととかそういう社会的な影響というのはすごく考えてほしいなあって思いますよね。
やはり少なくとも世間の人が専門家だと見る人が発表することは、純粋に科学的に発表するつもりだという目で見られると思うので、社会的な影響というのはすごく避けがたいものだなって、特にこのコロナとかで感じますよね。
木下喬弘
そのとおりなんですけど苦言を呈してもしょうがなくて、取り上げてもらってる研究者ってそのように取り上げてもらってほしくてやってるわけじゃないですか。
前田陽平先生
まあ、確かにそうなのかもしれません。ちょっとすみません、そこがわからないというのが僕の最初のひと言だったんですけど…
Taka先生のいうとおり、取材に来たときに全然そういうことありえるよっていう論調で話してマンガまで作ってもらったのかもしれないので、それだとしたらすごく残念ですよね。
木下喬弘
だから結局研究者倫理の問題に、メディアのリテラシーの問題が加わって「悪魔タッグ」が誕生すると、やっぱりどうしても止められなくなりますよね、こういうのって本当に。
前田陽平先生
幸いなことにこれがすごく広がってて世の中でめちゃくちゃ今話題になってるってわけじゃないような気はするのでそれはまだ良かったかと…
木下喬弘
いやいや、先生、これ Yahoo! ニュースのトップにも出まして、コメント数が4286、これくらいのコメントがつくときは多分 PV として100万くらいいっていると思います。
峰宗太郎
いっていると思いますよ。しかもこれを見たら「やっぱりマスクは必要じゃなかった!ワクチンもいらないんだ!自滅したせいだ!」っていうコメントで溢れかえってるんですよ。
前田陽平先生
そういうアセスメントにされちゃうかもしれないってことは十分ありえる話になっちゃいますよね。
あともうひとつ、Yahoo! の記事からは研究のリンクにいかれなかったのでそれ以上は探していないんですけど、その研究内容自体もどういう研究でこういう話になったのかなというのすらわからないので、それ以上誰もコメントができないというところがありますよね。
木下喬弘
私はこういうのに対して何かのペナルティがいると思うんですけどね。次にはもうメディアには取り上げられないようにするとか。
本当にこの研究機関そのものがあまりにも「Preliminary(予備)」というか「Premature(時期尚早)」というか、日本語でなんといったらいいんですかね、要するに言い過ぎたとき・誤解を生む報道につながったときに、何かしら再発防止策が必要だと思います。
前田陽平先生
ただこれが1つ問題があるところで、結局純粋な基礎研究の世界でいえば、ちょっと誰かが言いすぎるなんてことは結構よくあることで、それを信じて次に実証実験をするとかそれをもとに仮説にして研究を進めるかっていうのはあくまで研究者の責任ということになってくるんですよね。結局言った人が「あいつやっぱりいい加減なこと言う!」と思われるというのがあったとしても。
やはりこういうパブリックに影響を与えるようなことというのはそういう目線だけではダメで「自己責任説みたいなやつでいくとちょっと危ないよ」ということを、もう少しお堅い研究施設のようなところがぜひ理解しておく必要があるべきことなんじゃないかなって思いますね。
木下喬弘
ありがとうございます。
安川康介
いいですか?仮説を出すのは全然問題ないと思うんですよね。
だけどやはり大手のメディアの方が医学的なトピックをどう選択して報道するかというプロセスに僕は問題をすごく感じるんですよ。
今回朝日だけではなくていろいろな新聞やメディアでもとりあげてるじゃないですか。
「あそこのタピオカジュースが美味しそうだからみんな並んでみた」みたいな、そういう感じにしか思えないんですよね。なんか流行ってるからこれを一応報道しとくか、みたいな。
ただこのトピックを本当に全国放送で放送する価値があるのかなって、そこを検証するプロセスがちゃんとないと思うんですよね。
それはどうしたらいいかということなんですけども、やっぱり最終的には番組の内容を考える方が、例えば峰先生や誰でもいいんですけど、専門家複数の人に「これどう思いますか?」って聞いたら「これは放送する価値はあまりないですよ。」と多分返ってきてそこでちゃんとチェックをかけられたと思うんですけれども、そういうプロセスがなくて「学術報告になっているし学会で発表されているからこれはそうなんじゃないか」「面白いから報道しておこう」みたいなそういう結構安易な考え方があるような気がしてしまうんです。プロセスがしっかりしてないんじゃないかな、そこが1番問題なんじゃないかなと思います。
こういう報道を見て、僕、本当にもったいないなぁと思うんですよね。
全国放送ってすごい影響力あるのでその尺を使ってあんなにわかりやすいマンガを描いて、もっと別の価値の高い大切なニュースってたくさんあるんじゃないかなと思うんですよね。なんでそれを選んだんだろうと思って…
前田陽平先生
安川先生、ちょっといいですか?
どちらかというと僕はその意見はちょっとあんまり賛成してなくて、やはりそれって基本的にはディレクターの良心とかに頼るっていう話になっちゃうじゃないですか。
そうじゃなくて、やはり日本でもこういう報道があったときに公的な機関とか、例えばアメリカでこういうのがある程度大きく報道されたら CDC などが多分コメントをホームページに出すと思うんですよ。「そんな説を言っているやつがいるけれど大事なのはやっぱりワクチンなどだから、別にその説で収束したというのは今のところ科学的に検証されてないから」という思いっきり冷や水を浴びせるようなコメントをすると思うんですよね。
だから日本でも公的な機関がそういうのに対してちゃんとコメントを出す、そういうのがあるとある程度大きい報道機関でそんなことされちゃったら「あいつら、やっぱりちゃんと調べてねえな!」という話になると思うんで、それはそっち側でなんとかするべき問題じゃないかなって僕は結構思うんですけどね。どうですか、安川先生?
安川康介
そういうファクトチェックみたいなのも必要だと思います。こっちでファクトチェックしてるのって CDC とかもやってますけど、メディアなんですよね。
メディアがファクトチェックしているんで、例えばこの報道がアメリカで出回ったらいろいろなメディアがファクトチェックという記事を書いて、本当にそうなのか?みたいな感じで専門家に意見を聞いた記事を書いたりだとか、そういうプロセスがあると思います。
前田陽平先生
相互によるファクトチェックが行われてるってことなんですね?
安川康介
ファクトチェックをやる団体/メディアというのは多分決まってます。
前田陽平先生
別に団体があるんですね。
安川康介
いろいろなニュースサイトもやっています。
前田陽平先生
例えば僕は英語ニュースを見る機会は限られるけど、アメリカの大手メディアでここまでいい加減な報道がなされたのはそんなに見ることはないなと思うので、やはりそこのチェックのシステムは見習うべき部分があるんじゃないかなと思います。
安川康介
やっぱりあとにチェックが必要ですし、多分報道をする前にこれをどういうふうにピックアップするかっていうのも重要だと思います。なんかそこら辺のプロセスについて考えさせられました。
木下先生、時間をとってすみません。
木下喬弘
安川先生のおっしゃってるところはもっともなんですがちょっと非現実的かなと思うのは、ニュースって出すまでの間にめちゃめちゃ時間がないですよね。
じゃあ間違えていいかというと別にそんなこと言ってるつもりは全然ないんですけど、1人の専門家から聞いてそれを相互チェックみたいなところまでして出しているという放送局は多分日本にないんですよね。
唯一の例外は最近ステロイドでちょっと炎上しました日本テレビのなんという番組でしたっけ?
前田陽平先生
世界仰天ニュース?
木下喬弘
そうそう。そこからは「2週間後の企画でこういうのをやりたいんですけど2人でチェックするシステムにしたので専門家を紹介してくれませんか?」って言われたことありますけど、それ以外は基本的に専門家に聞いて、それをもとに報道しているのでそれでオッケーだという仕組みでやっていると思いますね。
あともうひとつ、連鎖的に報じちゃうみたいな問題があると思うんですよ。これもいわゆる「特落ち」っていうのを嫌うっていうやつですね。
他社が報じているスクープみたいなものを報じないと大変なんですよ。売上的なところにも、第2報・第3報となったときに、自社では1からそれを報道しないといけないっていうことになるというので、ほかの媒体で取り上げたものは取り上げておかないといけない。
もちろんメディアそれぞれの考え方があると思うので、私が一律にこうだっていうのを言うのはだいぶ問題があると思うんですけど、そういう方向性の力がかかりやすいというのがあって、それを止めるというのも結構難しいと思うんですよね。
だから結局安川先生のおっしゃったように、ファクトチェックをメディア同士でやるみたいなのがたぶん1番現実的かなと。そういう仕組みを作って報道の仕方を考え直すくらいしかあまりいい解決策がないんじゃないかなと思っております。
ということでどうでしょう、安川先生?
安川康介
ええ…(笑)まあそうですね。
番組を作るのは本当に直前まで作ってるじゃないですか。本当に大変だなって思っててそれはわかるんですけども、なんかもう少し研究者たちがメディアの人たちと密なネットワークを形成していたら、ディレクターの人が3人くらいにテキストメッセージで「これどう思いますか?」って聞いて意見を伺うくらいはそんなに難しいことじゃないんじゃないかなと思います。
ファクトチェックも重要なんですけども、じゃあこれを報道しよう!ってなったあとに誰かに意見を聞けるようなシステムがあればいいなと思いました。
木下喬弘
それは24時間オンコールみたいになりますよ。ニュースって毎日あるわけじゃないですか。
サンジェイ・グプタ(Sanjay Gupta)みたいな感じで、専属の医師を放送局につけられたら…彼は CNN でしたっけ?
安川康介
そうですね、専属の医療担当の人みたいな人がいますよね。それはいい考えだと思います。
だってそういう医者っていろいろな医者のネットワークがあって、変なことを報道したらその人の評判にも関わっていくので、それは1つの手なんじゃないかなと思います。
木下喬弘
私が HPVワクチンの誤情報の論文を書いたときにひとつの Suggestion としてメディアで書いたんですけど、サイエンスライターが入るみたいなのはやはりちょっと一定の改善はあるんじゃないかなという気がしますよね。
ということで、安川先生の「エラーカタストロフ」の回からメディアの報道の話になりましたけれども、そんな感じで今日は締めさせていただこうかと思います。
最後に黑ちゃん、なにかひと言もらえますか?
黑川友哉
こびナビのウェブサイトが新しくなったのでぜひご覧ください!今日もありがとうございました。
木下喬弘
8か月越しになんとかリニューアルすることができました。皆さんどうもありがとうございました。
こびナビのウェブサイトがだいぶ使いやすくなっていると思いますので、それをぜひチェックしていただければ!ということで今日はこの辺りにさせていただこうと思います。
次回は水曜日で内田先生がモデレーターになります。
それでは日本の皆さん、良い1日をお過ごしください。
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