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「医療従事者については濃厚接触者であったとしても、陰性であれば勤務することができる」ニュースについて議論しました(こびナビTwitter spacesまとめ)

2022/1/14(金)
こびナビの医師が解説する世界の医療ニュース
本日のモデレーター:黑川友哉


オープニング

峰宗太郎
事務局長、聞こえますか??

黑川友哉
はい、聞こえます。おはようございます!
峰先生ありがとうございます。

峰宗太郎
いやいや~今日は車に乗って帰ってるんですけど。

黑川友哉
おや? Uber ですか?

峰宗太郎
僕は車の運転ができないので、研究者仲間の方に送ってもらっているんですよ。

黑川友哉
ほうほう、そんなこともあるんですね。

峰宗太郎
そうなんです。今日はめちゃめちゃ寒いんで。車の中からなのでたまに応答できないこともあるかもしれませんけど、先生の回、楽しみにしています。
スベったら即座にツッコミますので。

黑川友哉
じゃあ今日は忙しいかもしれないですね、峰先生。よろしくお願いします。

峰宗太郎
よろしくお願いしま~す👶

黑川友哉
…スベったら、ってどういうことなんだろう? スベる? スベらないと思いますけどね。多分…

峰宗太郎
いや、こっち路面凍結すごいですよ👶

黑川友哉
そういうことかい!そっち?🍵

日本の方は雪も解けていい気候になってきましたけど、晴れた日が多いんでね、ちょっと寒いですよね。放射冷却っていうんですかね。

峰宗太郎
ただね、この受験生がピリピリしてる時期にスベらないとか言っちゃうあたりがですね、ちょっと配慮が…ですね。

黑川友哉
ちょっとね(笑)それね、言ったのは峰先生ですけどね。

峰宗太郎
あの、申し訳ないですけど、僕は自分の高校の、受験生の後輩にプレゼントしたことがあるんですよ。みんながお守りとか「頑張ってね」みたいな、なんとか天満宮のお祈りセットの入った鉛筆とかあげてる中で、僕はスポンジの激落ちくんというのをあげたんですよ。

黑川友哉
ひっどいなあ(笑) あの白いやつ。目の細かい。

峰宗太郎
その女の子はですね、結局5浪しました。5年間浪人しました。

黑川友哉
激落ちしてるじゃないですか!

峰宗太郎
激落ちくんになっちゃった(笑)もう本当に申し訳なかったなと思うんですけど、本当に大事な後輩なのでね。ちゃんと今は医療職として、プロフェッショナルとして働いてますけど。激落ちくんを送ったのは我ながら嫌味だったなあと今でも反省しております。

黑川友哉
いや、きっと峰先生としては冗談としてね、贈られたんだと思いますけど。まあ、そういうこともありますよね。冗談にならなかったっていうパターンだと思います。

8時31分になりました。今日は2022年1月14日です。岡田先生から「交代してくれ」と依頼されまして、今日は代打で「くろすぺ」をやらせていただきたいと思います。
えっと…ファイヤーボーイ🔥とかがまだ来てないんですけど、いつになったら来るのか待ちながらお話をちょっとずつ始めていきたいと思います。


「医療従事者は濃厚接触者でも働く?」ニュースに対する反響

黑川友哉
今日のテーマはツイートのリプ欄にも貼らせてもらったんですけど、テレビ朝日のニュース記事ですね。
その中で掲載された「医療従事者については濃厚接触者であったとしても、陰性であれば勤務することができる」っていうお話ですね。
これが SNS やインターネットで、大きな話題になっておりましたので、これについて登壇者の皆様と議論をしていきます。また、現状が実際にはどうなってるのか、厚労省の通知などを見ていきながら確認していきます。

▼医療従事者 濃厚接触でも勤務可能に

出典:テレ朝 NEWS 2022/1/12

後藤厚生労働大臣が12日午後の会見で、「医療従事者については、新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者となった場合も毎日の検査を行い、陰性であれば勤務することができる」という見解を改めて示しました。

▼オミクロン株の感染流行に対応した保健・医療提供体制のための更なる対応強化について

https://www.mhlw.go.jp/content/000879698.pdf

出典:厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 2022/1/12


オミクロン株の感染が広がって医療現場に影響が出ている沖縄県以外でも「医療関係者については検査をしっかりすることで、勤務を行うことが可能」こんなことが書かれているんですね。
これに対して Twitter のコメントにたくさんの反対意見が寄せられておりました。ご覧になった方もいらっしゃるかなと思います。
どんな意見があったかちょっと紹介します。
反対意見として、

・なんで医療従事者だけなんだ
・警察とか消防もエッセンシャルワーカーじゃないのか
・エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちはみんな同じ状況なんだから、医療従事者だけに限る話じゃない

など、医療従事者と他のエッセンシャルワーカーとの区別に疑問を呈する声。
また、

・医療従事者を酷使してるんじゃないか
・濃厚接触者なら休ませてあげて
・国の方針としてブラックすぎ
・医師の働き方改革はどうなった

別のご意見としては、

・医療環境自体がリスクにさらされるんじゃないか
・濃厚接触者が勤務するのはかなり危険
・オミクロンを甘く見過ぎ
・コロナ以外の入院患者に感染が及ぶ
・毎日の検査には限界があるのではないか。検査してもすり抜けるし毎日の PCR検査は非現実的

という懸念など。
一方で、賛成意見ももちろんあります。
医療従事者が濃厚接触者になっただけで仕事しちゃいけません、ということになったら、患者の診察とか治療とか入院もできなくなるわけで、それはそれで結局死んじゃう方とか困る方が多くなるんじゃないか? っていう意見です。


「濃厚接触者」「待機期間」…改めて用語解説

黑川友哉
ここでちょっと一旦言葉の整理とこれまでの運用の確認をします。
まず濃厚接触者ってどんな定義だったか?
厚生労働省のウェブサイトに書かれてある通知をちょっと引用させてもらいます。

▼新型コロナウイルス感染症 陽性だった場合の療養解除について

出典:広報誌「厚生労働」2021年9月号 新型コロナウイルス最前線
厚労省:2021/8/13

濃厚接触者とは、
陽性になった人と一定の期間に接触があった人

この「一定の期間」とは、

症状のある人は症状の出現から2日前、症状がない人は検体の採取をした時から2日前の期間

ということになります。

この期間のうちで、現在日本では次に挙げる5つに当てはまる人を濃厚接触者と定義しています。

・陽性者と同居している家族など
・陽性者と長時間接触した人(車内や航空機内でなど含む。国際線では陽性者の座席前後2列で計5列、国内線では周囲2メートル以内に搭乗していた)
・適切な感染防護無しにコロナ陽性確定患者を診察、看護など医療従事した人
・陽性者の気道分泌液や体液などの汚染物質に直接触れた可能性が高い人
・マスクなしで陽性者と1メートル以内で15分以上接触があった人

以上が濃厚接触者であると定義されております。

じゃあ濃厚接触者になった場合に、日本での隔離期間というか待期期間は現在どういう風に定められているか?
例えば同居家族であった場合には、原則濃厚接触者と判断されるわけですけれども、陽性者との最終接触から14日間、つまり2週間の待機が必要になります。
接触後14日間は発症する可能性があるからということで、その期間は陽性者と別室で生活して、極力その部屋から出ないようにする。結構厳しいですね。
あるいはマスクを着用する。それから手で触れる共有部分を消毒する。適切にゴミを処理するなどの対応をお願いしますと厚生労働省のウェブサイトに書かれてあります。
家族と適切に距離が取れないような場合には、陽性者の療養解除から14日間になることもあります。かなり待機期間は長めに設定されているということですね。

実際に感染者がほかの人に感染させてしまう可能性がある期間、他の人に伝播させてしまう可能性のある期間は発症の2日前から発症後1週間から10日程度であると厚労省のウェブサイトには記載されています。
この期間のうち、発症直前と直後で特にウイルスの排出量が高くなると考えられていますので、新型コロナウイルス感染症と診断された人は症状がないとしても不要不急の外出を控えてください、感染防止に努めてくださいねということが書かれております。

▼新型コロナウイルス感染症の “いま” に関する11の知識、p.6

https://www.mhlw.go.jp/content/000788485.pdf

出典:厚労省 2022年1月版

そんな中で医療従事者は濃厚接触者になったとしても、待機なしどころか現場に出て働いてもいいよというお話だったわけです。


厚労省の通知に対する医療従事者の声~日米の現場から

黑川友哉
ここまでで、登壇者の先生方、何かコメントとか思いの丈とかはありますか?「今回のスペースは炎上しない」というルールがありますので…いかがでしょうかね?
まずは一昨日フォロワー14万人達成した手を洗う木下先生ことファイヤーボーイ先生、いかがでしょうか?

木下喬弘
いや、ちょっと喋ろうかなと思ったんですけど、炎上だけしかできないんで、ちょっとコメント難しそうです。

黑川友哉
いや、もう先生に関してはもう…ちょっと炎上…まあ、ちょっとぎりぎりのところまで良しとしますのでコメントお願いします。

木下喬弘
なんかやっちゃん(安川康介)が言いたそうなんですよね。

安川康介
これはアレですよね? 「病気のふりをしないで、つべこべ言わずに働け」っていうのが…🥦

木下喬弘
コレ言いたかったんやろな!(笑)

岡田玲緒奈
やめなさい!🎻

黑川友哉
やめなさいって!そういうのを「やめなさい」っていう反省をしたじゃないですか。

木下喬弘
したっけな?
でもみんなどうしてんのかなと思うけど。日本で働いている人ってほんと、どうしてんですか?

岡田玲緒奈
これはですね…今、木下先生がおっしゃったことはすごい大事なんです。具体的にどういう状況が想定されるのかっていうことをもうちょっと話したいと思います。
これは昨日、僕の白衣のポッケから出てきた謎のメモに書いてあるんですけど、医療従事者が濃厚接触者になるっていうのが、どういう状況か、っていうことを考えてみましょう。
Twitter でも「お子さんがいらっしゃる方の場合、子どもが預けられないだろう」「預けられないとどうせ働けないじゃないか」というコメントが結構あったんです。

医療従事者はある程度外できちんと感染対策しているという前提のもとにはなってしまうんですけれども、今回想定しているのはむしろ子どもが陽性の場合じゃないかと私は思っています。そうなると、医療従事者同士の夫婦っていうのは結構いるんですけど、この場合、現行のルールだと2人とも待機になっちゃうわけですね。
先ほど黒川先生がおっしゃってた通り、療養している人と子どもとの場合は、接触が止められないですから、10日間子どもの隔離があって、そこからプラス14日間となりかねない。つまり医療従事者2人が24日間待機になる可能性があるわけです。
そうすると、このルールを変えるとですね、片方の人は毎日検査することで仕事を続けられて、もう1人は10日間子どもをみる。この子どもと過ごす方の人も、10日間が過ぎれば、毎日検査して働き続けられるということで、これは社会に一定のメリットがあるかなと考えています。

木下喬弘
無症状だったら検査して陽性だと分かった日の2日前からカウントが始まるわけでしょ?
4歳の子どもが検査陽性になりました。両親と毎日一緒に暮らしてます。その後4歳の子どもが家の中で陽性になったと分かった瞬間に、両親は濃厚接触者になります。検査陽性からその4歳の子どもが全く無症状でも10日間は療養です。育ててる両親はその10日間濃厚接触者であり続けます。その10日目が終わります。そこから濃厚接触者カウント14日間始まります。
お父さんとお母さんが医者と看護師とかだったら、その夫婦はコンビで24日間出勤停止? 無理でしょう?(苦笑)

黑川友哉
(苦笑)

木下喬弘
よくここまでそんなルールでやって来たなと思うんですけど、逆に。

黑川友哉
そこね、すごく重要なんです。非常に良いコメントをくださった。よくここまでそんなルールでやってきたなっていうことなんですけど。
実はですね、以前から医療従事者に関しては、濃厚接触者であっても検査をした上で働くことは可能っていう通知が出てるんです。

木下喬弘
これ、去年夏の通知を再度後藤厚労相が再確認しただけなのに、なんかすごい炎上してましたけど、「ええ⁈ 知らんかったん⁈」ていう感じになりません? むしろ。

黑川友哉
そうなんですよ! そこがね、今回1つ重要なところで。
これは新しく出た通知とかルールっていうわけではないっていうことを、まずは皆さんにご認識いただきたくてですね。
昨年8月13日に「医療従事者である濃厚接触者に対する外出自粛要請への対応について」という事務連絡が出されてるんです。これが8月18日に改訂されて、医療従事者がより働きやすい、働くことができる、医療崩壊を防ぐという形に改訂されているんですね。

▼医療従事者である濃厚接触者に対する外出自粛要請への対応について

https://www.mhlw.go.jp/content/000819920.pdf

出典:厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 2021/8/18

そもそも最初に出された事務連絡の時点で、医療従事者の医療への従事は不要不急の外出じゃないよということが1点いわれていて。それから以下4点、

・代替困難な医療従事者である
・ワクチン2回接種から14日以上経過後に濃厚接触者と認定された
・無症状であり、毎日検査で陰性が確認されている
・病院長や所属の管理者が了承している

っていうことを満たしているのであれば、医療従事者は濃厚接触者であっても勤務は可能ということが事務連絡で出されていたんですね。
働く上でハイリスクの患者さんには格段の配慮をしてくださいねっていうことがしっかり明記されている。それから濃厚接触者になった医療従事者自身が感染源にならないように、病院で適切に注意して感染予防策等を徹底して行うってことは、すでにいわれていたことなんです。

そこで今回、日本国内での感染が急激に急速に拡大している状況を踏まえて、厚労大臣の会見で、医療従事者についてはそういうルールがありますので働くことができますよっていうコメントを改めて出した。
医療崩壊のリスクについて、安心をしてもらう…っていうコメントだったのか…ちょっとこれ前後の文脈を調べたんですけどわからなかったんですけど、おそらくそういうことで改めて言及した、っていうことだと思うんですよね。

そういうことですよね? Taka先生?

木下喬弘
そうですね。多分厚労省としては、当然働いてもらわないと医療が回らないと思っているわけです。
諸外国で今、医療従事者の濃厚接触者を14日間隔離してる国とか無いと思うんですけど、先進国では。多分そういうつもりで確認を言ったら、「濃厚接触者になっても、鼻に棒突っ込んで働かせるつもりか!」みたいなバックラッシュが来たんだと思うんですけど。
とはいえ、じゃあ小学校クラスターがあったら、その地域のその小学校に(子を)通わせている医療従事者は全員全滅みたいな感じになるわけで。
これ現実的に全国津々浦々このルールに本当にみんな従って、24日間病院に行かずに過ごしてたのかなっていうのがちょっと僕は「ほんまかいな」っていうレベルなんですけど。

黑川友哉
そうですよね。本当におっしゃるとおりで。例えば医療機関の近くの小学校では親が医療従事者だっていう方って結構かたまってるんですよね。そういうところでクラスターが起きちゃうと、一気にその病院は機能停止しちゃう。昨年の夏にこういった事務連絡が出されているっていうのは妥当だと思うんですね。
今回の元々の記事がツイッターで拡散されているわけですけども、コメントの中には先ほどご紹介した通り、濃厚接触者が働くことでリスクにさらされるんじゃないかっていう懸念は当然挙がっているわけですね。
事務連絡のなかでは、そういった濃厚接触者が感染源にならないように工夫してください、ハイリスクの患者さんに関しては特段の注意をしてくださいっていう記載がされているわけです。
谷口先生、実際に現在先生の働いている病院ではどんな工夫がされているのか、濃厚接触者になった場合の取扱いはどんな感じになってるかちょっと教えていただくことってできますか?

谷口俊文
はい、千葉大学病院はね、国のやり方に従ってやってますよ。子どもが感染してしまったら10日間プラス隔離14日間。それをずっとやってました実際に。
でもそんなに多くはなかったので、何とか回ってたと思いますけれども。第3波とか去年の1月とか第5波の時は、やっぱり医療従事者の人員がかなり削られてちょっとしんどかったっていうのはありますけれども。やっぱり国の定めたことなので。工夫とかそういうのはあんまり無くやってましたけど。

黑川友哉
なるほど。今までの状況であれば、濃厚接触者が勤務を一旦停止したとしても、病院の機能をなんとか保ってきたっていう感じですかね。

谷口俊文
そうですね。1回病院の保育園で感染者が出て、それで80名一気に自宅療養になったんですけれども、そういう時ってどちらにしろコロナの入院患者が多かったため病院の稼働率を結構下げていたので、何とか回ったという感じですね。

黑川友哉
それによって、コロナ以外の手術を待機しなきゃいけない方は当然出てしまったとは思いますけど、病院の機能が停止するところまでは至ってなかったっていう状況ですよね。

谷口俊文
そういうことですね。

木下喬弘
80人全員が24日間出勤せずにいたんですか⁈ 24日とは限らんか? 子ども預けたりして。

谷口俊文
まあ、みんな同時に24日間っていうわけじゃなくて、ちょっとばらけていたんですけれども、24日間の出勤停止になったと思いますね。

黑川友哉
いやこれね、我らの病院では衝撃的なニュースランキングに入っているんですよね。

木下喬弘
でもそれってね、前提として谷口先生は感染者の診療しているわけじゃないですか? で、谷口先生は感染してないわけじゃないですか? 感染リスクのある人と感染リスクのない人が一定の空間内を共有してるわけじゃないですか? 「濃厚接触者は感染リスクがあるから感染してないと考えられている患者と接することが出来ない」みたいなことを言い出したら、感染症の診療ってそもそも成り立たないっていう気がするんですけど。

谷口俊文
いや、もうおっしゃるとおりなんだけれども。結局、決められたことを守らないと保健所からやっぱ怒られたりするので、ちょっとやむを得ないところあるんですよね。いや、もう理想はそのとおりなんですよ。

木下喬弘
でも、決めたこととしては抗原検査が陰性だったらその日は働いていいわけでしょ?これからは。これからは、っていうか去年の夏からは。

谷口俊文
そうですね。
(注:濃厚接触者になった場合には隔離解除まで就業制限がかかることが殆どで、日本環境感染学会の推奨に従うことが多い;
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf)

木下喬弘
それでも「院内クラスターが起きるリスクを取れるのか?」みたいな話が結構 Twitter で出てると思うんですけど。それを言い出したら、そもそも病院なんか誰が感染してるかわかんないのに働けるの? みたいな話になると思うんですけど。

谷口俊文
おっしゃるとおりだと思いますけど、なかなかね。日本の病院、すごい難しいっていうか。まあどこもそうだと思うんですけど、1回ルールが決まると、そのルールに従ってやっていかないと、もうみんな混乱してしまうのである程度やむを得ないと思うんですね。だから逆に言うと、行政の方でルールを変えて緩和して頂けると、「その通りにやればいいんだ」ってちょっと楽になるのかなっていうのはありますよね。

黑川友哉
厚労大臣が今回改めて以前に出た通知に言及したということなので、今後感染がどんどん拡大していく中で、濃厚接触者だけど医療機関で働いていく方は今後増えてくるかなと思うんですけど。
ここで安川先生、アメリカの医療の今の状況から見てこの厚労大臣のコメントをどういうふうにご覧になっていますかね?

安川康介
そうですね。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)がガイドラインみたいなのを出してるんです。
ウェブサイトで誰でも見ることができます。

▼Interim Guidance for Managing Healthcare Personnel with SARS-COV-2 Infection or Exposure to SARS-COV-2

出典:CDC 2021/12/23

ブースター受けてる方だと work restriction(業務上の制限)が無い。そのまま働き続けることができ、できれば2日目とまあ5日目から7日目ぐらいに検査をしてくださいと書いてあります。ワクチン2回接種もしくは未接種の方は7日間自宅待機して検査したら戻るか、10日間ってなっています。
実際の運用って多分各施設によって違っていて、最近コロナの患者さんが増えてるんで、おそらくもう自宅待機無しにしてると思います。一応僕の施設だと検査をしてその結果を待たずに働き続けられる。1回検査して終わりなので必ずしも CDC に沿ってやっているわけではないっていうことだと思います。

やっぱりこれだけ感染者が増えると医療従事者の感染も起きています。
特に日本はアメリカの施設に比べて人が足りないので、濃厚接触者を全員休みにしていくと、本当に医療崩壊を起こしかねないと思いますので、仕方がない判断なのかなと僕は思っています。
僕がやっぱり今回のオミクロンの波で懸念しているのは、医療従事者の感染によって医療の機能がかなり低下してしまうことです。
人が少ないっていう話なんですけれども、例えば国立国際医療センターと僕の病院を比べた場合に、これ1回調べたことがあるんです。ええ…病床数は僕が働いている病院の方が少し多いんですけれども、大体2.5倍ぐらい看護師がいます。ICU の看護師が大体6倍ぐらいで、ICU の専門医もだいたい15倍ぐらいいるので、それなりに余力があるんです。まあ、日本の場合、スタッフが1人2人とか。例えば谷口先生が抜けるとかなり診療に差し支えるんじゃないでしょうか。
やっぱり医療の機能との兼ね合いを考えてもこの判断は仕方がないんじゃないかなと思っています。
もちろん、リスクをゼロにしたいんだったら自宅待機10日間ぐらいがもしかしたら妥当かもしれないんですけども、やっぱり色々なバランスを考えて、判断していかなければいけません。
今後、多分問題になってくるのが、感染した医療従事者の隔離をどうするのかっていうこと。これもしっかり考えておいたほうがいいと思います。

黑川友哉
ばりすた先生はこの件についてツイッターでもコメントされていたと思いますが、何かありますか?

ばりすた先生
安川先生からリスクをゼロにするならっていう話がありましたけれども、やっぱり日本においては医療の中で起こることにゼロリスクを求める動きが非常に強いわけですね。
やっぱりこのオミクロンの流行下でリスクがゼロ、どっかで感染するリスクがゼロになるってことは、まず原則無いしそれは無理なことです。
医療を持続させていくには、濃厚接触者であってもある程度の基準で仕事場に出て行かなきゃいけない場面は今後絶対出てきます。
確率が低くても、院内感染を起こすリスクがどうしても生じてくることを、やはり国民の皆様に知って頂く必要があると思いますので、改めて行政の方からもそういう突っ込んだリスクコミュニケーションをやっていただけると。
現場でゼロリスクを求められる医療従事者が、患者さんや家族から責められる、みたいなパターンでさらに精神が削られることになるのも、やっぱり僕としては懸念しています。

木下喬弘
いやあ…でもそんなの説明の仕方じゃないんですか? 一応検査やって陰性やったから働いてるんですよね? たとえ抗原検査とは言え。

ばりすた先生
もちろんそうなんですけど、でもまあやはりね、あるんですよ。色々削られることってあるじゃないですか? 医療従事者ならある程度。

木下喬弘
まあそうですけど、それを言い出したらもう…見つけたリスクだけは話はするけど、気づかずに感染してた人のクラスター発生はしゃーない、みたいな。

ばりすた先生
いや、もちろん皆さん現場では上手く説明されてると思うんですけれども。

黑川友哉
前田先生なにかありますか? 久しぶりですよね、前田先生。

前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
実は今年初です。明けましておめでとうございます。
ばりすた先生のおっしゃってたこと、僕も同じようなことをちょっと考えています。
木下先生が言ってるような疑問っていうのは、すごく本質的なことで大事かなと思うんですけど、結局みんなやっぱり見えてるリスクは気にするけど、見えてないリスクっていうのは気にしないといったところがあるので。
今後全体として、オミクロンの性質上どういうリスクを受け入れていかなきゃいけないかっていうことをみんなで共有していく必要があるのかなって感じています。
例えば、感染者が出るっていうことは、もうどうしても仕方ないし、濃厚接触者なんて当然バンバン出てくると思うので。その中でどういうリスクを取って医療インフラを維持していくかっていう話になってるんだよっていうことを、全体的に共有していけることが大事なのかなと思いました。


個人を、そして社会インフラを守るために

黑川友哉
ずっと言われてきた基本的な予防策である手洗いマスク3密回避といったものは、これまでは「個人やその周囲の感染を守りましょう」という意味が強かったかもしれません。
しかし今、オミクロンによって拡大が実際に見られている現状で、医療従事者とそれを享受する患者さんやその家族だけじゃなく「社会インフラを守る」「社会機能を守る」為に、今まで以上に基本的な予防策が必須なんじゃないかな、と思いながらこのニュースを見ていました。
ちなみにですね、「こびナビはワクチン推奨一点張り」みたいな論調を結構ツイッターで見るんですけど、むしろこびナビってずっと一貫して全員が変わらず「基本的な感染予防策を淡々と続けましょうね」っていうことを言ってきたわけです。
それについては、今のオミクロンの感染拡大に際して意味としてはより大きくなってきています。
ぜひ皆さまも、先ほどひまみみ先生やばりすた先生がおっしゃったとおり、この運用についてご理解いただきながら、ぜひ社会を守る活動を続けていっていただければなと思っております。
9時を過ぎましたので、これにておしまいにしたいと思いますけど、最後に峰先生何かありますか?

峰宗太郎
私、アメリカのメリーランド州 Montgomery County というところに住んでいるんですけれども、今日はですね、公営のバスや鉄道運営会社の MCDOT(Montgomery County Department of Transportation:モンゴメリー郡運輸局)から「感染者数と濃厚接触者が増えすぎてバス運転手が確保できないから減便するよ」というメールが来ました。
また、私がかかったことのある近くの病院からも「医者が出勤できなくなったから、ER は半分でやってるから怪我しないでね」みたいなメールが来たんです。

大事なことはですね、日本は苦手なんですけど、プランA・プランB・プランC を用意しておくってことなんですよね。防波堤は1枚だけじゃなくて何枚も建てておかなきゃいけないっていうことを忘れがちだと思うんです。
まずはですね、全国民の皆さんが感染対策をしっかりやるとか、自治体と国がしっかり情報提供なり接触抑制につながるような政策を打つ。そういうことで感染者数を減らさなきゃいけないわけです。しかしオミクロンというのは非常に性質が変わっていて、とてもそれだけじゃ太刀打ちできない。これは自然災害としての性質があるわけですよね。そうすると、そういう壁は容易に突破できちゃうということを感じるんですけども、私。

その中でですね、皆さんもわかっていらっしゃると思いますけど、今まではコロナの感染者が増えてしまうことそのものによって病院のベッドが埋まってしまってリソースが奪われる状況だったのが、たくさんの感染者、濃厚接触者が増えることで労働力の方が奪われるというフェーズがくることは、外国の事例を見ていれば明確だというのが今回の議論の前提だったのは明らかだと思うんですよ。
聞いている多くの方は、そこはわかっていると思うんですけど、安川先生の話を聞いて、まだ多くの方に伝わってないのかなって一瞬思ったので、そこをちょっと強調しておかなきゃいけない。

そうした時にですね、結局どのリスクを取っていくかっていう話になる。
院内の感染リスクだとか、ゼロリスクを信仰している患者さんの信頼だとか、病院の人がどのぐらい動けるかとか、そういったことのどれを選択するかっていう話だと思うんです。
木下先生が言っているのは非常に合理的な話で「無理だ。もうこういうルールにしなければやっていけない。もう防波堤ABCを突破されて労働力が削がれるのは当たり前じゃないか」っていうことをおっしゃって、これは冷静にそのとおりです。
ただ、日本の国民が医療に対して思っていることをちゃんと変えないと、変な衝突が起こったり誰を責めるのかっていう話に、日本人はなりがちかもしれません。

なので今、どういう状況でどうしてこうなっているのかをもっと理解してもらえるようにですね、これは国が説明すべきだと僕は思うんですけどねえ。
国の誰が説明すべきかというと、なかなか難しいところですけれども。
厚生労働省もこういう基準を改めてアナウンスしたのであれば、どうして改めてアナウンスしたのか? どういうことが想定されて、病院はどういう危機に立たされるのか? 国民がこういった不利益を被る可能性があるから医療従事者にはこういう意味で例外措置になるんだよ、といったことを説明すべきだと思うんですね。
僕はその説明責任の部分がね、いまいち日本も、アメリカもそうだと思うんですけど、ちょっと足りてないのかなって。それで結局、無駄な議論が起こっているのかなと考えています。

だから木下先生が言ってたのが一番合理的でドライな考え方で、それが現実だと思いますけれども、ばりすた先生や谷口先生、それからひまみみ先生のおっしゃってたようなですね、現場で感情とかですね、気持ちとか想いとかですね、安全性、といっても見えないリスクは恐れていないことが多いんですけど、そういったことを求めている人たちとのですね、何ていうか、現実的にこちらも生じてしまう現実論ではないんだけど、コンフリクトを解消していくためにどういうリスクがあるのか。そういうことを全て見やすいように見せてあげて、そして説明するという丁寧なプロセスが必要なのかなって思います。
特にオミクロンという、若干弱毒化していて、非常に伝播性が高くそしてワクチンも微妙に効かないっていう変な性質を持っているものが出てきたときに、コミュニケーションの巧みさや機敏さが今こそ求められています。
まだまだこびナビで伝えていくこともあるなと感じているところです。

ちょっとすみません、長くなっちゃって、変に真面目な話になっちゃったんですけど。
僕は今日登壇しているみなさんの意見をすごく appreciate してますし、国民の皆さんの頑張りも appreciate している一方で、アメリカの決して上手くいっていない現実を見ていると、もう身近にも迫っていて怖がりながらですね、結構イライラすることもあるんですよ。
私も思うように職場に行けないとか、今度はバスが減ってもう通えなくなる、みたいな状況が見えてきたんで。

とにかくですね、社会全体として mitigation とにかく波を抑える。もうハンマー & ダンスなんて誰も言わなくなりましたけど、とにかく流行らせないってことは意識しつつ。
それでもこれは突破される可能性が高いのですが、その時にどうやって社会を、いろんな大事な機能を守っていくかをみんなで協力してやっていけるようにしたい。
誰かを責めるんじゃなくて、やっぱり憎いのはウイルスであっていいんですが、そこもですね、変なコンフリクトを変なところで生まないように丁寧な情報提供が大事だなと思ってます。

変な演説になりました。申し訳ないです。
じゃあ木下先生が締めるそうですから、よろしくお願いします。

木下喬弘
みなさんありがとうございました。
世界で最も炎上しないコロナ情報提供プロジェクトこびナビの、もっとも炎上しない副代表木下が今日のトークを締めさせていただこうと思います🔥
今日いろいろ議題が上がったとおりですね、オミクロンになって今までどおり「病院の中でリスクをゼロにしよう」みたいな考え方では、きっとほとんど働ける人がいなくなっちゃうっていうことは、予想がついている。それに対してみんなでどうやっていくか? っていうのを考えていこう、そういうお話でした。

来週も月水木になります。来週月曜日、わたくし木下がホストする回にさせていただこうと思ってますので、月曜日の朝8時半ですね、また、皆さんに、お会いできたらと思います。
日本の皆さん、良い一日をお過ごしください。

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