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東京・坂本龍一の軌跡を巡る旅 | 音を観る 時を聴く | Opus
【Sunday Works】
"毎週日曜配信: 感慨私見のテキストワークス"
今週は"坂本龍一の軌跡を巡る旅"
東京都現代美術館
2024年12月21日(土)- 2025年3月30日(日)展示中
坂本龍一 | 音を観る 時を聴く
109シネマズプレミアム新宿で上映中
Ryuichi Sakamoto | Opus
こちらでの体験と感想をシェアします。
坂本 龍一 (さかもと りゅういち)
1952年〈昭和27年〉1月17日 - 2023年〈令和5年〉3月28日
日本の作曲家、編曲家、ピアニスト、音楽プロデューサー
東京都出身
個人的には坂本龍一さんの音楽や活動について語れるような立場にはないのですが、少なからず音楽を愛好している身からすると、避けては通れない人。日本のアートの中心人物であったことは間違いなく、多くの日本人がさまざまなかたちで影響を受けているなかで、私も影響を受けたものは少なくない。
亡くなってから1年9ヶ月を経たいまもなお、さまざまなかたちで故人の活動が引き継がれ、新しい表現が催されています。
今回はその表現の場に訪れる機会が持てましたので、個人的な感想をそれぞれ残していきたいと思います。
東京都現代美術館 坂本龍一 | 音を観る 時を聴く
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坂本さんの手記や私物は撮影不可ですが、多くの展示は撮影可でした。
現代美術に造形が深くなく、ためになることは記せません。感じえたものを記します。
今回の展覧会における主題は、坂本龍一が抱いた"問い"をインスタレーションし、観客に坂本龍一の思考を表現すること。
坂本さんの"時間は脳が作り出すイリュージョン"という答え、音と時間をテーマにした映像や物体、音響で表現する。
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映像化されている作品はひとつひとつループしているもので、とらえどころのないアンビエント・ミュージックが響きます。ブースに分かれ、展示物や音楽・音響は固定したループものでありながら、非連続で刹那的、諸行無常なものをとらまえる。観客に同じ作品を観ていても決して同じものを経験できないことを考えさせる。
現代アートは多くのものがそうした半永久的に続くように思えるもの、実は一瞬も同じではないという示唆を掲示するものであるが、坂本龍一の場合は、ポピュラーで間口が広く深いぶん、エネルギーというか、エントロピーが大きく、現代アートの裾野を拡げる存在になっていると思う。
アンビエントだけでなく、POPミュージックの視点やヒーリング、雅楽、映画やゲーム、演芸、海外からの視点など、インスタレーションの表現は多種多様で、複雑な神経回路のごとき濃密な情報をもって観客に"音と時間"のアートをけしかけてくる。
どこかシンパシーを感じる部分と理解が追いつかない部分をないまぜにしていて、現代アートにおける「なんだかよくわからないけどすごい」を、
「なんだかよくわからないけどわかりそうな気がする」というすごさがあった。
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目を惹いたのは、通路から次のインスタレーションへ向かう導線の最中に出会う暗闇に浮かぶ姿、映像。
"async"で表現していたようなフィールド・レコーディングやおおよそ楽器ではないものなどを通じて音を音響に、音響を音楽にしていた。
そして、さまざまなメディアで言語化したりビジュアル化したことによって、何を表現して観客に行動を促したいのかという理解に手ざわり感が生まれている。
こうしたインスタレーションの数々に、坂本龍一さんが拠点にしていたニューヨークでの活動から、海外の視座が生まれていて、日本に向けた視線や想いというものが感じとれる気がした。この難解な表現のなかにある親しみやすさこそ坂本龍一の魅力だと思う。
なにより、ピアノという鍵盤楽器の表現力を武器にアートを展開してきたことで多くの人に届くことができているのだと思う。
最先端のテクノロジーを貪欲に取り入れ、自由を拡張していく"探索"と、トラディショナルで親しみやすいピアノの"深化"。この両利き的発展を促す新結合を1978年以降、見えるかたちでずっと活動していたのだ。
まさに坂本龍一の作品はイノベーションの歴史、この軌跡がアートだと思う。
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109シネマズプレミアム新宿 Ryuichi Sakamoto | Opus
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場所は江東区から新宿区に移り、とーても賑やかな歌舞伎町の中心地、109シネマズプレミアム新宿へ。
今回は2024年4月26日から上映され、すでに多くのメディアで発表されているOpusの映像を、坂本龍一音響監修のシアター、SAION SR EDITIONプレミアムシートで鑑賞してみました。
こちらのCLASS S(6500円)で購入したものの、ラウンジが別のプレミアムラウンジ"Overture"なるものがあるなんて気づかなかったー。言ってよー。
まぁ時間がタイトであまり長居もできなかったし、ラウンジでも十分くつろげたからいいのだけど。次回の楽しみにということで。
下記有料記事では、ラウンジ体験のみの感想になってしまいますが、映画館のご参考にご覧いただけたら嬉しいです。
SAION SR EDITIONで聴く Ryuichi Sakamoto | Opus 感想
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座席はD7。
真ん中の席で合皮張りっぽいのにふわっとしていて座り心地最高。
座面も広く、前に障害物がないのでとても座りやすい。
惜しむらくは、今回の上映作品がピアノ単体の音像なのでパンニングされているのかは正直わからなくサラウンド感覚はない。その点以外は驚くほどクリアな音響が聴こえてくる。
重低音を響かせ過ぎず、かといって高音部のキンッとする聴感もない。迫力よりも解像度という印象。
そのため坂本さんの息づかい、ペダルを踏む音、周辺のノイズまで聴こえるところも。ここまで解像度高く超絶微細なノイズにまで気を使う必要がある音像を扱うエンジニアZAKさんの手腕が凄まじいことに気づく。
その手法の詳しくはサンレコの記事にありましたが、この収録に携わるすべての人々が、ほんとうに命をかけた作品づくりに向き合っているのが音響からも伝わってくる。
そして、この音楽を映像とともに伝えることの苦労を思う。
坂本龍一のピアノソロ演奏のみをいかに伝えるか。この見せ方もまた見事という他ない。
演奏する坂本さんの一音一音にかける命懸けの姿。
それを監督する空音央。
楽曲が進行していくなか、さまざまな感情が湧きおこる。
モノクロ映像から偲ばれるシミやシワのひとつひとつに、そこに至るまでのナラティブを思う。表情が変わるたびに応援したくなるような、嬉しさがこみあげてくるような喜怒哀楽の感情、羨望や畏怖心、生老病死、色即是空 空即是色、菩提のような覚悟が見えてしまう。
侘しくて、寂しくて、可愛い人だ。
鑑賞中はそんな感想を残したいと思った。
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セットリストは事前に知っていたし、YouTubeで何度もおすすめにあがってきてしまっていたので、断片的に作品を垣間見てしまっていたものの、最後の"Happy end"から"MCML(戦場のメリークリスマス)"へ、流れるように移行していく映像に驚いたとともに、何度も聴いていた楽曲に改めて涙してしまった。
野暮で仕方がないが、有終の美という点において最高傑作を見聴きしてしまったと思った。
日本の音楽史において、もっとも多くの日本人が共同体感覚をえていたと思わしき時代に活躍していたアーティストの生前最期、命懸けの演奏を最高の視聴環境でみてしまったのだ。これ以上有終完美なものはあるのだろうか。
この作品体験で得たものは大きく、ほんとうによいものを観たと思う。
それに反転して、寂しさや虚しさも去来する。
"Ars longa, vita brevis."
(芸術は永く、人生は短し)
この至言、ただ無為自然に音と時間が流れていく。
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