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見過ごされてきた適応課題(入社1~3年目のストレス) ~『若年就業者の組織適応』より #3~

こんにちは。紀藤です。先日より著書『若年就業者の組織適応』からの学びを、お届けしております。本日の引き続きお伝えして参りたいと思います。今日は「第5章 見過ごされてきた適応課題」を中心にお伝えしたいと思います。それでは早速まいりましょう!

(前回のお話はこちら↓)


入社1年目から3年目の悩み

先日、ある企業人事の方と、新入社員についての話をしている際に、こんなことを伺いました。

「OJTトレーナーといっても、まだまだ若手で、自分に自信もついていない状態の人もいますよね。その中で、後輩を任せられて不安という人もやっぱりいます」とのこと。

何気ない話でしたが、これ、実際にあるよなあ、と思いました。

自分自身に矢印を当てて考えても、そうです。3
30代では他者との違いも大きくなり、能力の違いも明確になり、自分のことも見えてきました。
40代では、期待と諦めの混ざりあった気持ちとともに、自分の専門性をどう極めるかというマイロードを見るようになりました。
いずれにせよ、年を重ねる毎に、他人のことはどうでもよくなっていく(悪い意味ではなく、自分自身に集中するという意味で)感覚があります。
 
しかし、20代の頃はどうだったかというと、他者と比較したり、周りの目が気になったりと、かなり繊細だったように思います。

入社1年目は、同期とのちょっとした違いが気になりました。
入社2年目では後輩が入社することに対して、自分ももっと能力を磨かないと、とも思いました。
入社3年目は後輩の指導を任せられるものの、同行営業と言っても、自分自身に自信がない中で、どのように後輩と関わればよいか、悩みました。

まさに冒頭の人事の方が言っていた、「OJTトレーナーといっても、まだまだ若手は不安」という言葉は、実に納得をするものでした。

キャリア初期の適応課題とは

さて、私のつぶやきが長くなってしまいましたが本題です。

著書『若年就業者の適応課題』の「第5章 見過ごされてきた適応課題 ーキャリア初期に着目してー」では、入社1年目から3年目までのキャリア初期に着目して、どのような適応課題があるのかを明らかにしています。

具体的には、若年ホワイトカラーの「質的パネル調査」(入社1年~3年目まで1年毎に、同一人物にインタビュー調査を行う調査)を行いました。その上で、入社1年目から3年目までの適応課題をより深く明らかにすること狙いとしています。

組織社会化のステージモデル

最初に、理論的な話となりますが、「組織社会化」(組織になじむこと)を達成していくプロセスについて、研究者等がそのモデルを示しています。
本書では3名の研究者が紹介されていました。以下ご紹介します

●Feldmam(1976)の組織社会化ステージモデル:
「予期的社会化」「順応」「役割管理」の3段階

●Porter, Lawler, & Hackman(1975)のステージモデル:
「到着前」「遭遇」「変化と習得」の3段階

●Wanous(1992)の組織社会化ステージモデル
(1)「組織現実の直面と受容」
(2)「達成役割の明確化」
(3)「組織コンテクストにおける自分自身の位置づけ」
(4)「有効的な社会化のための指針の発見」の4段階

大きくまとめると、「組織に出会うステージ」「出会って順応し始めるステージ」「役割が明確になり方向が定まるステージ」という印象があります。では、著書の質的パネル調査では、どのような結果になったのかを見てみたいと思います。

入社1年目の適応課題「新人ストレス」

(1)下っ端ストレス
入社したばかりの新人の階層は最も低く、そのような地位の低さにより、新人固有の役割となる。新人の地位の低さに起因するストレスのこと。
(例:「これ、コピーしてきて」(仕事ちゃうやん・・・))

(2)モニターストレス
新人は仕事の知識やスキルが乏しく、先輩社員は新人が心配で目を配ることが多くなる。それゆえ、新人には職場の多くの目が集中することになり、それがプレッシャーと感じられるストレスのこと。
(例:「一挙手一投足見られている。プレッシャーに感じる」)

(3)ロールモデルプレッシャー
職場の先輩を見て「自分も先輩社員のように仕事ができるようにならなければならないのか」と感じられる時に生じるストレスのこと。特に、先輩が優秀だった時にその負荷が大きくなる事が考えられる。
(例:「3年目でそうなれるのかな・・・。1年でどこまで成長しなきゃならないんだろう」)

入社2年目の適応課題「2年目の憂鬱」

2年目はまだまだ教えてほしいことが多いが、スキルも知識もない。一方、ある程度の自律性を与えられる状況となり、非常に特徴的な1年である。
以下が2年目の適応課題である。

(1)見えてくる
いっぱいいっぱいだった1年に比べて、様々な経験や知識を習得するに伴い、視界が広がってくる。そして、組織の現実が見えてくることによって、組織に対する不満が生じてくることがある。
(例:なんでこのランクの人が、アルバイトでもできる仕事してるんですかね・・・)

(2)自律性のジレンマ
1年目に比べて仕事の質が変化し、仕事に対しての責任感や自律性が高まってくる。しかし、この段階での知識やスキルはそれほど高度ではない。その中で、仕事に自律性や責任感を与えられることにジレンマを感じる場合がある。
(例:「好きにやって」と言われても、育たないと感じる。でもそれを口に出すと甘えに聞こえてしまう)

(3)モニター・ストレスと下っ端ストレスからの解放
1年目の適応課題であるモニターストレスと下っ端ストレスから開放されていくことが多い(新しい新人が入ることもあるため)。

入社3年目の適応課題

3年目になると組織や仕事についての理解度は高まり、更に余裕が出てくるため、組織に適応している個人が増えてくる段階である。自分自身のキャリアについても考え始める。

(1)3年目の変化
a,志向性の変化:自分が優先だった時期から、他者のことを考えながら仕事に取り組むことができるようになる。
b,貢献意欲の醸成:組織や職場に貢献しなければならないという意欲が高まり、意識をし始める。

(2)3年目のストレス
a,単調感:仕事や組織に慣れ、自分の判断で仕事に取り組むことができるようになる。それはモチベーションを高める一方、単調感やマンネリ感を生じさせる可能性がある。
b,囲いこまれることへの危機感:自分のスキルや知識が、今の会社内でしか通用しない能力ではないかという不安が醸成され始める。

P99

まとめと個人的感想

「定性調査は、Nは小さいが深く見ることができる」という大学のセンセイお話を、改めて感じさせられた調査でした。

たしかに、組織適応と言った時に、特に20代の知識もスキルもない1年目、少しずつ慣れるけれどもまだ自信はない2年目、余裕ができて貢献意欲も生まれる3年目など、自分が当事者となって想像してみれば、確かにわかる・・・!ということが、明らかになる調査で、読んでいて非常に納得させられるものでした。

定量調査で傾向を掴みつつ、定性調査でも中身を深く見ていく。
こうした往還ができると、研究も奥深く、実践的なものになるように感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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