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Paul Weller / Wild Wood (1993) 感想

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新作に向けて

7/3に遂にリリースされる、またもやコロナの影響で当初の予定から延期になっていたPaul Wellerの新作に向けて、過去の作品を聴いて気分を高めています。ソロの中では今作が一番です。

その理由は今作に収録された楽曲群のクオリティの高さは勿論、今作の成功こそが彼に(恐らく)ソロでやっていく自信を与えその後に続く路線、彼のソロ活動のイメージを決定づけた作品であるからです。

大人のロック

Paul Wellerのソロのイメージ、それは乱暴に言ってしまえば燻銀な大人のロックです。ソウルやR&B、ブルースと言ったブラックミュージック(アーバンがアウトな昨今完全にアウトな言葉ですが、適当なものが思いつきませんでした)、さらにカントリーやブリティッシュフォークから影響を受けた、確かな演奏で聴かせるロックンロール。

そう書くとかつて彼が在籍していた伝説のパンクバンドThe Jamと同じように感じますが、最大の違いはリズム感です。性急なビートのThe Jamに比べて、地に足のついたゆったりとしたミドルテンポ主体のグルーヴへ。アツい初期衝動をぶつけていたパンク時代から成功と挫折を経験し、家庭をもち、油物が胃にもなれるようになったものの少し冷静に自分の周りを見回せるようになった、今作はそんな当時30代半ばのPaul Wellerの心象風景を描いたような作品です。

正直、人によってはただただ地味に感じる作風だと思います。"Can You Heal Us (Holy Man)"〜"Wild Wood"と静かな曲が最初の方で続くのもその印象を強くしています。しかしそれ以降は地味ながらも豊かなメロディーが流れていることに気づきます。そして終盤に辿り着き、今作随一のポップなメロディを持つロックンロール"The Weaver"の頼もしさと、子どもに捧げたというジャジーな最終曲"Moon On Your Pyjamas"の美しさ、優しさに涙するようになったらもう立派な大人です。

オススメ曲

■ The Weaver

2コードのリフが牽引する今作一ポップなロックソングです。優しく、頼もしい歌詞が素敵でまさしくアニキ、モッドファーザーって感じです。今作からしばらくはギターとベースを当時駆け出しだったOcean Colour Sceneのメンバーが演奏することになります。特にこの曲に顕著なアツいギターと前に出ないのに地味になりすぎない、ツボをおさえたベースのアンサンブルが堪りません。

僕は君の夢の織り手/君のブギーマンを退治してあげよう/君の殻を打ち破るために来たんだ/そして、君を新しい気持ちにするために

■ Moon On Your Pyjamas

この前曲、7分におよぶソウルフルな"Shadow Of The Sun"で大団円かと思いきやその後に収められた、彼の子どもに捧げられたジャジーなバラードです。慈しむような歌詞とメロディーは弱っている時に聴くとくるものがあります。

世界が自身の傷を癒せることを願う/そして僕らの擦り切れた心もまた、癒されるように/君たちが今よりもいい世界を見たと/そう言えるような変化が訪れるように
君のパジャマには月が輝いている/そして瞳には星が/君は銀色の糸を伝って降りてきた天使の姿をした夢/君の行く先全てに愛と笑顔が溢れていますように

■ All The Picture On The Wall

今作でも指折りに忘れられがちな印象のあるカントリー・ポップの小品ですが、哀愁漂うメロディーと強めにかき鳴らされるアコギ、無骨なリズム隊のコントラストが不思議と癖になります。

点数

8.8

彼のソロのディスコグラフィーは、燻銀路線で自身のルーツを見直した初期(「Paul Weller」〜「As Is Now」)、ルーツ探訪をやめ、音楽的興味の赴くままに曲を作り少し若々しさを取り戻した中期(「22 Dreams」〜「Saturns Pattern」)を経て、2017年の「A Kind Revolution」からは中期で培った鮮やかな音像を再び自身のルーツに落とし込むかのような、新たなチャプターに入っている気がします。

来る新作「On Sunset」は先行リリースされている曲を聴く限り、コズミックな作品という本人の言葉通り彼の音楽的冒険心とクラシックなところが合わさった傑作になりそうな雰囲気がしており、とても楽しみにしています。週末よ早く来い。





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