20 Best Albums of 2023
こんにちは。前回の投稿から9ヶ月も経ってしまいました。年間ベストは頑張って書こう、良くも悪くも影響を受けてしまうので、色んな方の年間ベストが出る前に…と思っていたのですが、それも叶いませんでした。今年は何も書いてないので気合を入れて20枚選びました。よろしくどうぞ。
20. Bonny Doon / Let There Be Music
かなり好きだったWaxahatcheeの2020年作"Saint Cloud"のバックを務めていたバンドの新作。評判も良かったのでかなり期待して聴きました。想像してたよりはウェストコーストな、爽やかな感じがして、もっといなたい雰囲気をイメージしていた私は少し肩透かしをくらいました。爽やかな気分の時に聴いたらもっとハマってたんだろうなーと思いつつ、悲しいことに今年は自分にあまり爽やかなモードの時がなかったようです。
19. Type Two Error / Caught On The Raw
今は昔、2000年になったくらいにThe Cooper Temple Clause(以下TCTC)という、ヒッピーを皆殺しにしようとしていた頃のPrimal Screamみたいな6人組のバンドがいました。そのTCTCのボーカルとキーボード(+ドラム)による3人組のデビュー作です。まさに半分になったTCTCという趣の、割とシンプルなデジタル・ロックが聴けます。
ファンとしてはBenの声が久しぶりに聴けてサイコー!となりつつも、さすがに2023年の耳で聴くと古臭く感じるのは確か。そもそもデジタル・ロックってもう死語ですし。気分はアガりながらも少し複雑な後味を残す一作でした。
18. Róisín Murphy / Hit Parade
子供が泣くジャケットオブザイヤー上位の本作ですが、中身はクールなビートとソウルフルなうたが融合したゴキゲンな、まさに「クー、クール」な逸品でした。
恥ずかしながら本作まで全く彼女のことを存じ上げませんでした。1990年代からMolokoなるユニット〜ソロと、なかなかのキャリアがある方なのですね。時間があったら是非ディグりたいです。
17. Mayer Hawthorne / For All Time
みんな大好きTuxedoでもお馴染みのMayer Hawthorn、久しぶりのフル・レングスはMayer節全開の、レトロでスイート、安全安心のソウル/ファンク集でした。正直、今様R&Bを半端に意識した3rd(Kendrik Lamarの豪華すぎる無駄遣い!)以降は中途半端に感じる部分もあるのですが、"On The Floor"みたいな必殺の曲がアルバムに一つは必ず用意されてるので参ってしまいますね。
16. The View / Exrocism Of Youth
なんと8年振りとなるThe View堂々の復活作。相変わらずエモきゅんなメロディーが満載の、最高のガレージロックを聴かせてくれます。
しかし、アラフォーのおじさんが「カノジョが街中の男とデキてて嫌になる」だの「君は俺がシラフの時だけ聞きたいことを言ってくれる」だの、デビューから変わらないグダグダなティーンエイジャーの日常を歌うのはどうも…。
なんせタイトルが「若さの悪魔祓い」、敢えてのものかもしれません。今後に期待したいです。本作のプロデューサーがYouthなのに掛けてるだけだったりして。
15. Cleo Sol / Gold
Saultのシンガーとしてもお馴染みのCleo Sol、今年は2枚アルバムをリリースしていました。Saultもそうですが、この界隈の人達の多作さは凄いですね。時間が足りなくてとても追い切れません。Sadeじゃんと言われればそれはそう、な気もするスウィートなネオ・ソウルで、気持ち多彩なビートを聴かせるもう片方の"Heaven"よりもひたすらメロウで甘い本作の方が私は好きでした。
14. Youth Lagoon / Heaven Is A Junkyard
ここ最近は実名Travor Horns名義でアンビエントな作品をリリースしていたYouth Lagoonの復活作です。「天国はがらくた置き場」ってタイトルがもう素敵ですね。
繊細で箱庭的なサイケ・ポップ集と言った趣で、とろけるようなメロディーと通底する切なさ(「トミーはさよならも言わずに戦争へ行った/何故なのか聞く機会すらなかった/トミーはタフな男だったから/僕が泣くと思ったんだろうな」)に、聴いてると何度も胸が締め付けられます。
13. Gorillaz / Cracker Island
今年はDamon Albernの年だったと言っても過言ではないでしょう。豪華なフィーチャリングアーティストと小慣れたヒップホップを奏でる最近のGorillazは、Damonとロバスミがコラボしてる〜!みたいな楽しみ方しかできませんでしたが、本作はDamonがたくさん歌っているので最高でした。"Silent Running"なんてBlurの新譜に入ってても違和感なさそうではありませんか。
12 Noel Gallagher's High Flying Birds / Council Skis
手癖だけで作られたソロ1stの拡大再生産なシンガーソングライター作みたいに感じて、最初はまったくハマらなかったのですが、Oasis信者のワタクシ、何度も聴くうちにやっぱりNoelはいいなに変わり、こんな上位まできてしまいました。アップテンポな曲は相変わらずボーカルが弱くてダサさを隠し切れていませんが、シングル"Easy Now"を筆頭にバラード〜ミドルテンポはいい曲揃いで、実家のような安心感です。
彼にしては冒険した前作があまり売れず、「俺のファンには難しかった」的なことを言っていたNoel。ライブのセットリストも開き直りまくりな彼の明日はどちらなのでしょう。
11. The Rolling Stones / Hackney Daiamonds
年齢のことばかり言いたくありませんが、齢80のお爺ちゃん達が過去一タイトなロックンロールを鳴らしているという事実があまりに驚異的すぎます。
そりゃ彼らの過去の名作群に比べれば明らかに格が落ちますし、Paul McCartney参加曲を筆頭にアップテンポな4曲くらいがストレートすぎてダサいのが惜しいですが、"Angry"のミドル・テンポなのにパーティ・ソング以外の何者でもないロックンロールは今の若手ロックバンドには出せない味ですし、Keithのバラード"Tell Me Straight"ではMickのコーラスが目立つのも泣けるし、最後の"Rolling Stone Blues"がモノラルなのもカッチョよすぎです。
10. Mull Historical Society / In My Mind There's A Room
スコットランドのベテランシンガーソングライターによる、小説家の皆さんが書いた歌詞に曲をつけるという、半分YOASOBIみたいな作品。参加している作家は有名どころでは「ハイ・フィディリティ」のNick Hornbyでしょうか(というか寡聞にして私が知ってたのはそれだけでした…)。
作家陣の情感豊かな詩にインスピレーションを得たのか作曲に集中できるのがよかったのか、職人的になりがちだったここ数作に比べて彼の魅力である小気味良いギターロックが満載ですが、後半に行くにつれて詩を活かすようなアンビエントな曲やポエトリー・リーディング風の曲も出てきて聴いてて飽きません。
件のNick Hornbyは些か普通でしたが、私のお気に入りはJennifer Clementさん作詞の「俺を慰めて、って言うのに忙しかったんだ/ごめん、が足りない」とポップに駆け抜ける"Not Enough Sorry"です。どれもスッと世界観が浮かんできて素敵な詩です。
9. Johnathan Rado / For Who The Bell Tolls For
近年はプロデューサーとして様々なUSインディーの作品に携わっているFoxygenの人、現代のポップの魔術師のソロ。
Foxygenの4th"Hang"は胡散臭い壮大なアメリカーナ絵巻で最高でしたが、そこにも通じるような胡散臭いグラム・ロック〜サイケ・ポップ絵巻でこちらも最高です。グラム・ロックは胡散臭くてナンボ。
先輩SSWのRichard SwiftとFoxygenのMVの監督なんかもしていたアーティストのDanny Lacyという2人の友人の死にインスパイアされたと聞くと胡散臭いとか言ってはいけない気にもなりますが、そうなのだからしょうがありません。ゆーめいどい〜じあ〜、い〜じあ〜。
8. Cut Worms / Cut Worms
Cut WormsことMax Clarkさんの3rdは、黒が基調だった過去作からビビッドなオレンジに変わったジャケットの通り、最もカラフルなポップスが溢れる作品です。おまけにストリーミングではジャケット枠の色が時間で少しずつ変わる!カラフル!
ドゥワップ、カントリー、ソウル、サンシャイン・ポップ…と50〜60年代の懐かしき、忘れられたポップスをキュートに鳴らす本作は実際、過去作から何かが大きく変わっている訳ではありません。しかし2枚組の前作に比べて曲の粒を揃えてコンパクトに絞り込んだ本作は、いつでも寄り添ってくれるフィールグッド・ミュージック・オブ・ザ・イヤーです。あと本作収録曲"Too Bad"でNorah Jonesとコラボしてたのは「セレブになって…」な謎の感慨が湧きますね。
7. The National / Laugh Track
今年2枚出た内の後から出た方です。Cleo Solもそうでしたが、以前は連作というと1作目に気合が入ってて後は出涸らし、みたいな印象がありましたが(Green Dayとか)、最近はそうでもないですね。ストリーミングでリリースのタイミングを難しく調整しなくてもよくなったからでしょうか。
1作目の方はThe Nationalですら完全に喰われてしまうTaylor Swiftのアーティスト力の強さに胃もたれしてしまいましたが、こちらは荘厳、ダンディ、と言われることの多い最近のThe Nationalが(彼らにしては)溌剌と、楽しそうに演奏している雰囲気が微笑ましくてとても楽しみました。そして遂にアルバム収録曲としてリリースされた"Weird Goodbyes"。最高です。
6. Boygenius / The Record
やっぱり今年はこのアルバム抜きには語れないと思うのです。どちらかといえばオルタナティブな、インディー畑の女性アーティストによるスーパーグループの躍進は、とても2020年代的だと感じます。
まあ実際アルバムとしては今風のサウンドで聴かせるよくできたオルタナティブ・カントリーという印象なのですが、何よりも大名曲"Not Strong Enough"にやられてしまいます。そしてダーク・スーツに身を包んで横並びで歌う3人の絵面がカッコよさ。これだけで本作が2020年代を象徴する一枚、と言われてもいい気さえしてきます。
5. Ratboys / The Window
アメリカはシカゴのデュオによる5th、デュオ、と書きましたが本作からベースとドラムが正式メンバーに加わりバンドとということになるようです。
昨年のThe Beths枠というか、女性ボーカルによる90sなUSオルタナ〜ローファイ〜グランジリバイバル、な雰囲気ですが、本作ではそこにカントリーの大らかなメロディが加わり、切なさ3割り増しって感じです。The Bethsで物足りなさを感じたアルバムを通して聴かせる緩急・構成力がしっかり備わっているところなんかもさすがキャリア10年になるベテラン、年の功。
タイトル曲の"The Window"はコロナ禍で妻を窓越しでしか看取ることのできなかったJulia(Vo./Gt.)の祖父が基になっているとのことで、「君が手を振った時/君が僕と一緒にいることを感じた/スー、君はいつだって僕のもの」と老夫婦の絆が繰り返されるミドル8は何度聴いても涙腺が崩壊しそうになります。
4. Edgar Jones / Reflections Of A Soul Dimension
リバプールのサイケ仙人Edgar Jones、遂にやりやがった!な、全編オールドスクールなソウル・アルバム。一曲目のウキウキするリズムの"Place My Bets On You"から極上のメロディーと、元々ベーシストである彼の歌うベースが堪りません。次の"I Still Believe In You"の怪しげなストリングスとフェイクなファルセットの絡みはサイケ仙人の面目躍如な隙のなさ。
しかし全編を通すと甘いというよりもハードボイルドというか、引き締まった印象を与えるのは彼のしゃがれた歌声あってこそ。Burt Bacharachが亡くなった今年、最高のトリビュートはもしかしたら本作かもしれません。
3. The Hives / The Death Of Randy Fitzsimmons
ザ・ハイブス・イズ・バック!!
スーツに包まれた体がムチムチでお馴染みのハイキックも若かりし頃に比べるとキレが悪く、20年の月日を感じさせますが、11年ぶりの新作では音の方はまったくキレが落ちていないどころか、それこそ20年以上前に戻ったようにハイパーに駆け抜ける12曲32分のガレージ・ロック(流石にボーカルのトーンはやや下がってはいますが…)。ストーンズの新作に足りなかった生々しさ、荒々しさがここにはあります。
プレス・リリースでVo.のHowllin' Pelleは、「ここに成熟とか何とかの煩わしいものはない。誰がロックンロールに成熟なんて望んでる?」と語っています。その通り!悪魔祓いなんて余計なお世話!
2. The Coral / Sea Of Mirrors
いまやEdger Jonesに並ぶと行っても過言ではないリバプールのサイケ集団The Coral。前作でもうらぶれたリゾート地を舞台にしたコンセプトアルバムでやりたい放題でしたが、本作はEnnio Morriconeに影響を受けたと言う、曰く「失われたマカロニ・ウェスタンのサントラ」。おまけに前作のアウトテイク集まで同時リリースと相変わらずやりたい放題です。
中身はと言うと流麗なストリングスに彩られたサイケなフォークロックが詰まっています。。一瞬で世界観に惹きまれるイントロ曲から美しい…。
自由奔放にガレージサイケをかましたデビューから、ソングライティングの求道者と化してどんどん地味になっていった彼らですが、その末に辿り着いた、研ぎ澄まされたソングライティングによる美しいサイケデリック・ガレージを奏でる今こそまさに全盛期と言えるのではないでしょうか。そんなバンド他にいないでしょう。
1. Blur / The Ballad Of Darren
そう、今年はDamon Albernの年なのです。
ロックンロールに成熟が必要か?活動休止を経て全盛期を迎えるバンドがThe Coral以外にいるか?
「人生を振り返ると/見えたのは君が戻らないということだけ」という言葉で始まり、今までにないほどストレートなポップソングやバラードが多い本作で彼らが見せたのは、The Nationalにも通じるような中年の哀愁、所謂「枯れ」です。年相応の表現、落ち着きは時に聴く人を内省的にし、エモーションを激しく揺さぶります。久しぶりの活動でソングライティングが研ぎ澄まされ、全盛期を更新するバンドはここにもいたのです。
皮肉屋で捻くれ者として知られるDamonが見せる哀愁、しかもそれを見せる時はやはりイケイケなGorillazではなく古巣のBlurで、隣には最高のオカズを挟むGrahamを始めとした変わらないメンバーが居て-という、バンドとしてのドラマを感じるからこそ本作の感動が大いに増しているところはありますが、サマソニでの思った以上に緩くて同窓会/祝祭感が強かったライブの思い出も込みで、今年一番心が動いたアルバムは間違いなく本作です。
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振り返ってみれば個人的に今年はアルバムが出ただけで最高!上位確定!みたいな推しのアーティストのリリースが比較的少なかったたので、順位づけが面白かったです。
その反動か来年は年明けからBill Ryder-Jones、Gruff Rhys、The Vaccines、The Libertines…と推しのアーティストのリリースが続くので楽しみです。Liam GallagherとJohn Squireのコラボも本当に出そうですね。