パズドラ大会の件は下請法的にどうなの?と思ったら問題なかった話
はじめに
2019年9月14日(土)、東京ゲームショウ2019にて『パズドラ』プロ選手だけが参戦できる賞金制大会「パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019」が行われました。賞金総額は1000万円、優勝賞金は500万円という大金をかけて行われた大会であり、優勝者のゆわ選手はなんと中学生!凄い!!優勝コメントもしっかりしてる!!!偉い!!!!
ただネットニュースなどに取り上げられているのでご存知の方もいるかもしれませんが、残念なことにゆわ選手は今回、優勝賞金500万円を受け取れないことになりました。
なんで?というと、JeSU ジャパン・eスポーツ・Jrライセンスを持つゆわ選手は、規定により賞金の贈呈はない、というものでした。えー...
本記事の目的
どうにかパズドラ中学生に賞金を渡せないかと考え、規約の適法性がないってことにならない?って世界線を以下のロジックで考えました。が、無理筋だと自己解決したので、一応、その軌跡を残しておこうとnoteを書きました。自分に課したルールとして、以下2つを念頭に置きました。
・JeSUの言ってることがそもそも筋違いである、という攻め方はしない
・JeSUの言い分を全て認めた上で、やっぱり間違ってるよね?ってことにしたい
【失敗したロジック】
1:JeSU公認プロって労働基準法の定める「労働者」ではなく「個人事業主」だよね?
2:今回の大会は、大会主催者が個人事業主に依頼した「業務委託契約」だよね?
3:業務委託契約の場合、下請法が適用されないの?
4:下請法が適用された場合、禁止事項「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に該当しないの?
⇨(目標にしたゴール)いくら規約があっても違法じゃね?(失敗)
結論を言うと、3でつまづきました。理由は、パズドラステージで行われたプロゲーマーの役務は下請法の対象外だからです。一生懸命考えたのに悔しー、と思ってTwitterで1~4のどこからダメなのクイズをしましたが、アンケートだと1が一番多かったです。
まーじか、俺どんだけ検討違いなのよ(/ω\)ハズカシーィ
筆者は1-2までは正解、3から無理筋っていうスタンスで大筋を書いていたので、その前提で続けます。。。でも、最後の最後でクイズの正解としては①!(というか不完全なクイズだった)と私自身結論付けられました!それでも、あくまで法律初心者の私見なので、鵜呑みにしないでください。
非常に長文になってしまったので、アンケート回答者は納得した番号までは読み飛ばしていただくことをオススメします。
1:JeSU公認プロって労働基準法の定める「労働者」ではなく「個人事業主」だよね?
【筆者の言いたいこと】
・JeSU公認プロは、使用従事性から判断すると労働者ではないはず
・個人事業主かフリーランスのどちらかだよね
・労”務”契約って、なんですか?
労働基準法上の労働者とはどのような人かというと,労働基準法第9条によれば,「この法律で『労働者』とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。」とされています。労働基準法上、原則として満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了する(義務教育終了)まで、賃金を貰って仕事をすることができません。
定義はそれとして、判断基準はなんなのかというと、以下のサイトによると、『使用される者』の使用従属性をどう解釈するのか、だそうです。ざっくり言うと、使用従属性があるというのは、指揮監督下の労働(使用者(雇用主)の指揮監督下での労務の提供)であり、報酬が『労務』との対応関係が強い→『労務の対価』=『賃金』と判断できる、というものです。
結局の所、プロゲーマーだから/プロゲーマーではないから、といって判断できるものではなく、実態を踏まえた個別判断のようです。その上で、本件のパズドラのプロゲーマーがどうか考えると、金額との相関について、『労務時間』ではなく業務の『成果』に基づくものだとすると『使用従属性』を否定する方向に判断できる、というものです。なので少なくとも労働者ではない(=労働基準法の適用外)と判断しました。具体的には、どんな成果でもお金が支払われる会社員の給料のようなものではなく、入賞するか否かという『成果』で賞金が出るということからの判断です。(労働基準法が適用されるのであれば、それはそれで別のメリット・デメリットが発生しそうですが)
その上で、大体のプロゲーマー(クイズ上、大体が重要)が何に定義されるのかというと、個人事業主だと思います。個人事業主とは、株式会社等の法人を設立せずに自ら事業を行っている個人のことです。以下のサイトから個人事業主の定義を抜粋します。
①個人とは
個人とは法人と対義するものです。法律では法人にも人格があると考えます。そこで法人でない個々の人を個人、会社のことを法人と分けて考えます。
⇨プロゲーマーは法人ではないので個人
②事業とは
事業とは反復・継続・独立している仕事のことをいいます。
反復とは、その仕事を繰り返して行うことです。例えばお店などの小売業であれば、商品を取引先から仕入れて、お客に販売するという行為を繰り返して行います。
⇨大会1回限りではなく、何度も挑戦する仕事
継続とはその仕事をずっと行うことです。家にある不用品をネットオークションなどで販売する場合は、その1回だけですので継続とはいわず、事業にはなりません。
⇨プロゲーマーになって1回でやめた、ということでもなければ継続している
独立とはどこかの組織の所属していないことです。例えばサラリーマンは会社という組織に所属し、給料をもらっています。そのため給料を得ることは事業とは異なります。
⇨スポンサードされているプロの場合、それは援助は受けていますが組織に属しているわけではありません。
ゲーミングチームに属してる場合、と一見して捉えられても組織に属しているようにも見えますが、「雇用関係」ではなく「業務委託」の関係が多いはずです。
例外的に、JwSUとは関係ないですが、グローバルセンス株式会社PGW事業部でプロゲーマー社員として働いているはやお氏等はこれに該当しません。
筆者が気にしているゆわ選手は松竹芸能所属のプロゲーマーですが、松竹芸能の社員ではないでしょう。
中学生が開業届の提出してんの?とは思いますが、下記のような税務署へ届け出も出してる中学生社長もいるようです。条件としては個人事業主になれます。なにか中学生であることを理由に仕事を制限するものはないかと調べたら、年少者労働基準規則(第7条)に「16歳未満は断続的業務で15kgを持ってはいけない」とありますが、パズドラなら問題ないでしょう。
では、ゆわ選手はどうなの?ってことになると、個人事業主ではなくフリーランスになるのだと思います。フリーランスと個人事業主で業務内容に大きな差はありません。広義の意味では、会社に属していない個人事業主はフリーランスに含まれます。違いは税務署に開業届を提出しているか否かです。提出するメリットは解説しませんが、ゆわ選手はJeSU公認プロライセンス規約上、予め賞金(報酬)を受領する権利を放棄することを前提とされているので、開業届を提出していないでしょう。
最後に、これは個人的に最後まで理解ができなかったので誰かに教えて欲しいのですが、労”務”契約って、なんですか?筆者は法律の専門家ではないので無知なだけかもしれず恐縮なのですが、ネットで検索した限り、労務契約で検索しても労働契約の説明ばかり該当してしまい、労務契約の定義は見つけられませんでした。筆者はこれまでの記述の通り、プロゲーマーの業務が仕事ならば、労働ではない(そもそも仕事なの?みたいな観点は横に置く)という理解なので、労働契約の説明ばかり該当して困っています。労働契約ではない労務契約について、誰か知っていたら教えて下さい。
2:今回の大会は、大会主催者が個人事業主に依頼した「業務委託契約」だよね?
【筆者の言いたいこと】
・JeSUのノーアクションレターの文面より、業務委託契約である(少なくともJeSUはそう思っていないとおかしい)
今回の大会は「『パズドラ』プロ選手だけが参戦できる賞金制大会」になります。ここで行われることがプロゲーマーの業務に該当するのかというと、JeSUが本年8月5日付で行った消費者庁へのノーアクションレターに該当するケースと考えられます。つまり、大会主催者がプロゲーマーに依頼した「業務委託」だ(少なくともJeSUは思ってる)と判断しました。ゲーム大会で行われているプロゲーマーの行動は仕事である、というJeSUの意向に従っています。契約書は存在しないかもしれませんが、世間を騒がせた吉本興業の問題でも取り扱われた通り、契約は口頭でも成立しています。
【ノーアクションレターより該当箇所抜粋】
(2) 現在開催を検討している大会等の形式
ア.ライセンス選手に対してのみ賞金を提供するケース
大会等の参加資格を、当法人が「JeSU プロライセンス」(以下「プロライセンス」という。)を付与した選手(以下「ライセンス選手」という。)に限定し、ライセンス選手の中から実績に基づいて一定数の選手を大会等の参加者として招待する(他の大会成績をポイント化し、独自に決定されたポイントの上位数名を選出する等の方法を用いる。)。当該大会等の結果に応じ、優勝者その他の上位入賞者に対して順位に応じた賞金を提供する。当該賞金の額は、国内外の同種同規模の大会において提供される金額の水準に照らして大きく逸脱しない範囲で決定される(他のケースにおいても同様とする。)。大会等に参加する選手は、各試合を自らの業務として実施し、その報酬として当該賞金をゲーム会社等から受領する。
3:業務委託契約の場合、下請法が適用されないの?
【筆者の言いたいこと】
・全てのすべての企業(事業者)間取引が適用対象になるわけではない
・プロゲーマーの事業内容は役務(サービス)と考えるが、下請法で取り扱う役務提供委託ではない
下請法が適用されるか否かの判断は、以下のサイトを参考にすると、すべての企業間(事業者間)取引が適用対象になるわけではないそうです。ポイントは企業(事業者)の資本金、および事業内容が該当するか否かの2点です。事業内容は「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」の4つのいずれかに該当することが条件のようですが、企業(事業者)の資本金の大小を問わず、「役務提供委託」は下請法の適用対象になります。役務とは、平たく言えばサービスのことです。プロゲーマーの行為が仕事ならば、サービス業です。
そして、公正取引委員会の資料によると、「役務の提供を業として行っている事業者が、その提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
場合」とあります。ただし注意点として、委託事業者が他者に提供する役務のことであり、委託事業者が自ら利用する役務は含まれません。
何を言ってるのか筆者も最初はわからなかったのですが、下記資料の14pの例示に「プロダクションが,自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること 」は自ら用いる役務の委託に該当し,役務提供委託に該当しない例(=下請法の対象事業ではない)、とあります。
(参考:下請取引適正化推進講習会テキスト - 公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/H30textbook.pdf
これってゲーム大会も似たようなもんじゃね?っと思い、落胆しながら、公正取引委員会に質問の電話をしました。そもそもプロダクション&歌手の事例が該当しないか質問すると、下記図でいう「取引先」からの委託(矢印①)が存在せず、親事業者(プロダクション)が自主的な判断で下請事業者(歌手)に業務を委託しているからだと回答頂きました。
(公正取引委員会:知って守って下請法より抜粋)
では議題のゲーム大会においてはどうなのか、上記図で言うところの取引先(東京ゲームショウ2019運営会社)、親事業者が(ガンホー)、下請事業者がプロゲーマーに該当するのではないか?と思い、再度質問しました。回答は、以下のようなものでした。(電話問い合わせなので正式見解としないでください)
「①役務(サービス)の委託において、取引先(東京ゲームショウ2019運営会社)が親事業者(ガンホー)に対して、特定の下請事業者(プロゲーマー)が仕事をすることを求めて委託していたのなら役務提供委託に該当するかもしれない」
「特定の下請事業者(プロゲーマー)が仕事をすることを求めて役務を委託していない場合、該当しない(プロダクションと歌手の関係と同様)」
いやー辛いと思いながら、東京ゲームショウ2019運営組織であるコンピュータエンターテインメント協会(CESA)にも同様に、取引の実態について電話質問をしてみました。(これも電話問い合わせなので正式見解としないでください)
「(ブースによっても異なるが)議題の大会は「e-Sports X」ステージという場所で行われた」
「同ステージは、e-Sportsに関する催し物を行うことを条件として、時間単位(枠)で貸し出した」
「その上で、利用希望者がe-Sportsに該当する○○のような催し物をしたいと提示して、その上で貸し出している」
というものでした。そのため、筆者は具体的な内容(プロゲーマーに業務を委託する)という判断は大会主催者の判断であることから、下請法上の「役務提供委託」に該当しない、と結論づけました。無念。
4:下請法が適用された場合、禁止事項「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に該当しないの?
3で躓いているので意味はないのですが、もし躓かなければ、禁止事項(親事業者が、下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害すると下請法違反となる)に該当すると判断できると思っていました。それは、JeSUの言い分である「高い技術を用いたゲームプレイの実技又は実演を多数の観客や視聴者に対して見せ、観客や視聴者を魅了し、大会等の競技性及び興行性を向上させること」が役務という経済上の利益であり、それを無償で提供させることに該当するのではないか、思っていました。いくら規約で定めてても、違法だったなら無効化できるんじゃないかなーと思ってたんですが、残念です。
結論と感想
どうにかパズドラ中学生に賞金を渡せないかと考えてみましたが、下請法上の「役務提供委託」に該当しないので、同法上の違法性はなく、このアプローチでは無理と判断しました。
ただ色々と検討して見た中で、「1:JeSU公認プロって労働基準法の定める「労働者」ではない」「2:今回の大会は、大会主催者が個人に依頼した業務委託契約」について理解が間違っていなければ、JeSU公認プロライセンス規約 4.2 「ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンス」で定めた内容に疑問があります。
【JeSU 公認プロライセンス規約(抜粋)】
4.2.3 ジュニアライセンス保持者は、JeSU が IP ホルダーその他関係者と協議
の上で別に定める場合を除き、予め賞金(報酬)を受領する権利を放棄す
るものとするが、JeSU において相当と認める範囲のものに限り、賞品を受
領することができるものとする。ただし、金券に類するものとして JeSU が
別途判断するものは賞品としても受領することはできないものとする。
【出所:JeSU公認プロライセンス規約】
https://jesu.or.jp/wp-content/themes/jesu/contents/pdf/agreement-license.pdf
疑問は2点です。
①なんで年齢を条件として規約を設けたの?
労働基準法に該当する(労働基準監督署長の許可を得たとしても満13歳未満の労働は原則禁止)なら理解できるが、個人事業主との業務委託契約ならば、なんでこんな規約を設けたのか?
②JeSUはIP ホルダーその他関係者と協議して賞金を出す動きが何故できなかったの?それともしなかったの?
ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンスの該当者はゆわ選手だた一人。そしてプロ化から本大会までの間に3回、賞金が出る大会にて結果を出しています。もし年齢が異なれば計80万円を得る機会がありました。
・カップヌードル presents パズドラオープンカップ2018 第4位(30万円)
・明治 アーモンドチョコレートpresents パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2018 第4位(20万円)
・パズドラプロリーグ 第3位(30万円)
ジュニアライセンスでは「JeSU が IP ホルダーその他関係者と協議
の上で別に定める場合を除き、予め賞金(報酬)を受領する権利を放棄す
るものとする」とあるが、協議して賞金を出す動きができたのではないか?協議はしたが IP ホルダー等との協議でダメになったのなら理由は?そもそも協議していないのか?
今回の大会は上位4位までのみ賞金が出る大会であり、過去3回の他大会と条件が異なるという主張も考えられるが、ゆわ選手は前年度同タイトルで4位であり、同タイトル上でも考えにくいなんてありえるのでしょうか?
以上です。極力、誰にどういった思惑がある、といったような「本当はこうなのに」といった観点は除き、事実に基づく根拠を示して記述したつもりです。長文で失礼いたしました。全部読んで頂いた方、ご迷惑おかけしました。
蛇足:想定Q&A
Q:ゆわ選手自体が文句言ってないのにシャシャって恥ずかしくないの?
A:みっともないと思ってる。ゆわ選手は本当に立派、というかシブい。けど、仮にゆわ選手が納得していても、今後ゆわ選手に続くジュニアライセンス選手が産まれた時のために論点が整理されるべきというスタンス。
Q:JeSUに直接言えば?
A:流石に何かしらのコメントがあって疑問が解決する(なんだったら賞金支払う)だろうとと思っていたたのですが、9月20日時点で何も確認できないので...公式コメントで疑問が解決することを願っています。
Q:ももち選手のほうは?
A:あまり興味が沸かなかったので検討していません。大人として判断できてるだろう、それより判断能力が足らないだろう中学生を優先しました。
Q:JeSUって悪い組織だよね?
A:ネットに溢れているような思惑や陰謀めいたことの裏をとるのは非常に面倒なので、JeSUの言い分に間違いがある、もしくは嘘であるという疑惑は横に置いておいて、「文面通り受け取っても、問題ないか?」ってことだけ言いたい。
Q:そうまでしてJeSUを攻撃したいの?
A:できれば少しでも友人と思ってくれている人には信じてほしいのですが、私は興味深くJeSU関連のことをみていますが、批判派でも擁護派でもないつもりです。TwitterでRTやいいねをしているものを見るとそう見えないでしょうが。正確には、関係ない世界なので酒の肴程度に思っている「興味がない」派と思ってます。なので、正直その場で面白がっても、すぐ忘れてしまいます。褒められたものではありませんね。ただ間違っていると思ったことを放置して、その犠牲が中学生と思えたので、我慢できませんでした。
私が約8300字の文章を書いたモチベーションは、JeSUがプロゲーマーの行いは仕事である、というスタンスを取るのであれば、仕事を通じて生じた価値は正当に評価されるべきと思っており、ゆわ選手(ジュニアライセンス選手)に対するJeSUとガンホーのスタンスはあまりに非道と感じたからです。それはe-Sportsを仕事として広める組織のスタンスとして妥当なのでしょうか。
Q:いや、ガンホーとJeSUは別やろ
A:ガンホーは越智政人氏はJeSUの6人しかいない理事の1人です。JeSU公認プロライセンスを策定上、少なくない影響力を有しているはずです。
(ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社取締役、日本オンラインゲーム協会共同代表理事)
Q:長い、キモい
A:私もそう思う。ごめん。