ショウタむし

(※作者が小学生の時にストーリーを作って、中学の時に文字に起こしたものです。直したいところもあるけどあえてそのままにしておきます)

普通の日の普通な時間 普通な場所で どこにでもいるような普通の少年に、
今から、 普通では考えられない不思議な出 来事がおきる。

その少年の名前はショウタ。 好きな物は昆虫。

ショウタは廊下でおおげさに騒ぐ。
「お母さん! ねえー、 おかーさーん!」
「なあに? ちよっと待ってなさい」
 お母さんは洗い物の途中、 急いで台所から駆けつけてきた。 そして、エプロンで手をふきながら言う。
「さあ、 ご用件をどうぞ。」
「えへへ、 ひゃくえんちょーだい! 今日のおこずかいー!」
と、ショウタは、いかにも子供らしい口調で言う。
「そんな可愛い声出しても無駄よ。 それにショウタ、 あなた昨 日、 おばあちゃんに五百円もらったばっかりじゃないの。」
「でも、 ボクお母さんにはもらってないもん。」
 そして、ショウタは愛想笑いをする。 ショウタの目は口ほどにものを言う。 お母さんは少々くやしかったが、その必要以上に輝く笑顔に、 勝つことはできなかっ た。 しかし、少し考えてみた。 そこで、 お母さんはゴソゴソと エプロンのポケットから、 小さな小銭入れを取り出した。 また その中から、 百円玉を取り出す。
「やったぁ! お母さん大好きぃー」
と、ショウタはお母さんに抱きつこうとした。
「ちょっと待った! 誰があなたにあげるなんて言った?」
「えー?ボクにくれるんじゃないの? じゃあ誰にやるの。」
「うん、これはね、 貯金箱さんにあげるのよ。 ほらああなたの 部屋の大きなタンスの上にあるじゃない。」
「ああー、カネゴンのやつだね? 結局ボクの物になるんだ。」

 そうして、 ショウタは自分の部屋へと戻った。
「あ、あったあった。 カネゴン貯金!んーっと 去年 お父さんが買ってくれたんだっけ。」
そう独り言を言いながら、 大きなタンスの上に置いてある貯 金箱へ手を伸ばした。
「くうううう一つ!」
しかし、 あまりにもそのタンスが大きいために、 体の小さな ショウタには、その上にある貯金箱にお金を入れることができない。
「そういえば、 ボクがすぐ貯金箱のお金出しちゃうから、ずっと前に、お母さんがタンスの上に置いたんだ。 これじゃ貯金なんてできないよう。」
 そんなことを言いながらも、ショウタは子供なりに、いいこ とを考えついたのである。 そして、 即実行してみた。 ショウタ は、タンスの隣にある本棚から本を取り出して、それを大きな タンスの前に積み重ね、 踏み台を作ったのだ。そして、これな ら大丈夫!と思い、それの上に上がった。
「うん、ボクなりに上出来だぁ。・・・あっ!うわぁ」
 と、その時、足もとがグラついて、 ショウタは手に持っていた 百円玉を落としてしまった。 そして、 コロコロと転がって、 そ の百円玉は、 タンスと本棚の間へと入っていったのであった。
「あーあ、 どおしよう。 あんな狭いとこ、 虫にでもならないと とどかないよう。 うーん・・・ボクのひゃくえん・ ・・」
 すると、開いていた窓から、 ひらひらと蝶が迷い込んで来たのである。
「あ! ちょうちょだ。 ボクのひゃくえん取ってくれないかなぁ。ボクも虫だったらいいのにな。」

タンスと本棚のすき間の奥へと転がっていったショウタの百 円玉は、奥で、勝ち誇ったようにキラリと光った。
「ちょうちょさんは取ってくれないし。うわっ! わっ、わあああああああ!」
と、その時! ! ! また足もとがグラついたかと思うと、ショウタは足を踏み外し、 ドンッと大きな音を立てて、そこから落ちてしまったのである。 しかし、そこにショウタの姿はなかった。 蝶は、何事もなかったかのように、部屋の中をひらひらと舞うのであった。
 そして、大きな音に驚いたお母さんが部屋に駆けつけてきた。

「ショウタ、ショウタどうしたの?! 変ねぇ、 だれもい ないわ。 あら、可愛いちょうちょ。 」
 お母さんは、タンスの上にちょうど置いてあった小さな虫かごを取り出して、蝶を捕まえてその中に入れた。
「あとでショウタに見せたらきっと喜ぶわ。ふふふ あ、 そうだ、お洗濯! お洗濯! こんなことしている場合じゃないの よ。」
そう言って、 お母さんは忙しそうに部屋から出て行った。

「かあさーん、ボクここにいるよーう。ねぇ、お母さーん。」
お母さんから返事は返ってこなかった。
「あれぇ? 変だなあ、 ボクがちっちゃくなったみたい。 ボクの 周りが大きくなちゃったのかなあ あれ?何だコレ。」
 と、ショウタは自分の背中に何かがくっついていることに気 がついた。
「は、羽? ボク、 死んじゃったのかなぁ? でも、これは虫の羽 みたいだ。 うわっ、 頭にも何か生えてる!」
 ショウタは頭に手をやってみた。 触角が生えている

「む、虫になちゃったんだ、 ボク。 」
ショウタはア然とした。


「あ、そうだ! ボクのひゃくえん。虫になったんだから取れる はずだよね。」
 今のショウタには、自分が虫になったことよりも、百円玉の ほうが大事だった。そして、軽々とタンスと本棚の狭い間へと入って行き、その奥で、キラリと光る大きな百円玉を見つけたのだ。
「やったぁ!こんにちわ、ひゃくえん君。 へへへ、もう君はボ クから逃げられないぞ。 おとなしくカネゴンの口へと入るんだ。 ・・あれ? よ、よいしょ ふぬぬぬぬぅー。」
 ところが、虫になったのは良かったが、その大きな百円玉を 小さな虫の力で持ち上げるのは無理なことであった。 そして、 ショウタは百円玉のことをあきらめて、 そのすき間から出てきた。
「せっかく虫になれたんだ、 何か面白いことないかなあ。 あっそうだ、背中に羽がついているっていうことは、ボク、飛べる のかもしれない!!!」
そう思って、ショウタは羽を動かしてみる。 すると、その羽 は、パタパタときれいにはばたいた。と、同時にショウタの体も宙に浮いたのである。
「わあーい、 すごいぞ!こうなったら外に出ちゃえ。」 そうしてショウタは、 蝶が入ってきたのと同じ窓から、元気 良く飛び出して行った。

「ボクんちの庭って、こーんなに広いんだぁ - ! へぇー虫って こんな感じなんだ。すごいなー。」
 周りにあるものは、いつも見ているものと同じものなのだが、ショウタは目に入るもの全てに感動した。

すると、一匹のてんとう虫がこちらにやってきた。
「やあ、てんとう虫さん。 こんにちわ!」
「ん? 誰でい? おめえさん。」
「ボク? ボクね、 ショウタ!」
と、元気よく答える。
「オイラは、おめえさんのことを知らねぇが、 なんでおめぇは オイラのことを知ってる?」
なぜだろう・・・。ショウタは一生懸命考えた。そして、 これだ、という答えを出した。
「あのねぇー、ボクは、 てんとう虫が大好きなの。」
と、ショウタは笑顔で言う。 そして、 てんとう虫は顔を赤く して、少々照れながら言った。
「そ、そうか。 い、言っとくが、オイラには妻と子供が・・・ ・・・・。と、 ところで、 おめぇさんは一体何者なんでい?」
そこでショウタは、また一生懸命考える。

「えっとねぇー、 ボクはねぇ、 むしだよ。」
「そうか、 おめえさんはショウタ虫ってのか。 うむ、 そりゃあ 新種だな。 新種ってのは、 すぐ人間に捕まえられっからなあ。 気ぃつけな。 ところで、 おめえさんは今日生まれたのかい?」
「ま、まあ、そういうとこかな?」
 そうして、 ショウタはその辺りを案内してもらうことにした。 その辺りといっても、この辺りはショウタの家の庭である。 しかしご存知のとおり、 ショウタは、今はショウタ虫である。 そのため、 今は自分がどこにいるのかよく分かっていない。
てんとう虫は、 その辺を詳しく案内してくれた。
すると、 1匹の蟻 (あり) が向こうからやって来た。
「あっ! ありさんだぁー。」
「えっ?どうして私のこと知ってるんです?」
と、 蟻は驚いて立ち止まった。
「え?ボク、ショウタ虫。 ありさんのこと、 前から知ってるよ。」
すると、今度はてんとう虫が驚いて言った。
「なんでいおめぇさん、 今日生まれたんじゃあねえのかい? 物 知りなんだなあ。」
と、そんなことを言っていると、 蟻は顔を真っ赤にして、少 々照れながらショウタに質問した。
「あ、あ、あのう、も、もしかして 私って有名なのでし ょうか...?」
そして、 ショウタは元気良く答える。
「うん! ゆーめーだよ。 ・・えっとねー、 ありさんも、てん とうむしさんも、 みんなゆーめー。 ボクのお母さんだって知っ てるもん。」
「おお、 そーかい、そーかい。」
と、てんとう虫は、 ショウタの言葉に感激した。

「お母さんだけじゃないよ、 お父さんだって、 ボクの友達だって、みぃんな知ってるんだ。 でもこうして、お話したり、 お友達になったのはボクだけかもしれない。」
ショウタは、頭の中で考えながら話す。
「なんでい、ショウタ虫の仲間は、そんなに筈かしがりやなの かい???」
「そうじゃないけど。」
 ショウタは、どう説明していいのかよくわからない。 まさか 自分の仲間は人間だなんて言えるはずがない。 そう悩んでいる 間に、蟻が言う。
「うーん、なんだか大変なんですね。 あ、そろそろ私戻らないと。」
「ありさんのおうちって、この辺なの?」

「いいえ、 私はずっと遠いところから食べ物を探しに来たんですよ。 でもまだ見つからなくて 。」
「そう、 それなら!」
 と、ニコニコしながら、 ショウタはポケットから小さな飴玉 (あめだま) を取り出し、 蟻に渡した。 蟻はとても喜んだ。
「わあ、ありがとう!本当にいいんですか?」
と、 蟻が言うと、 てんとう虫が言う。
「いいからとっておけよ、なあお嬢さん。 手ぶらじゃあ家に帰 れねえんだろ?」
蟻はこくんとうなずく。
「それじゃあね。 またどこかで会ったらよろしくね。」
「はい。 また会えるといいですね。 」
「じゃあな。 アブラ虫にもよろしくな。」 そうして、蟻はてくてくと去って行った。


 蟻の姿が見えなくなって、 ショウタは今気がついたかのよう にてんとう虫のほうへパッと振り返り、こう言った。
「ねえ、さっきありさんにお嬢さんって言ったよね。 どうして 女の子だって分かったの?」
それを聞いて、 てんとう虫は驚いて言う。 「なんでいおめいさん、 どっから見ても女じゃねえか。」
「そ、そうだね。」
ショウタは少し戸惑ったが、 これ以上は問いつめないことに した。 しかしこのことで、自分の体は虫でも、物の見方や感じ 方は、 人間のままであるということに気がついた。

 するとその時!!! ものすごい音がしたかと思うと同時に地 面が大きく揺れたのである。 「何?! 地震 ? ! 」
「いや違う。 人間だ。」
「どうして? 人間が何かしてるの?!」
ショウタの目は、真剣な鋭い目つきに変わる。
「いやあな、ここをまっすぐ行くとな、死んだ道があってな、 自動車っつうやつがそこを走るたびに、 もうここは大地震とい うわけだ。」
「そおかあ ええっと、ボクの家の、 前にあるコンクリートの道路・ ・・かなあ。 で、 そこで、車が走ってるんだな。 ということは、んー、今のはトラックかなあ 」
と、ショウタはブツブツと独り言い出す。
「なに一人で言ってんだ? とにかく、 あの道を渡るには一苦労 だ。さすがのオイラも、 あいつにやられたら、ひとたまりも ねえぜ。」
「ふーん、 大変なんだね。 でもねぇ、人間だってあれにひかれて死んじゃう人もいるんだよ。」
「そ、そいつは恐ろしい。」

ふたり(?)は深刻になって同時に腕をくむ。 すると、ショ ウタは思いだしたように、 ぱっと顔をあげた。
「そうだ、ボク達羽がついているから飛んで行けるんじゃない?」
「いや、そいつはいけねえ。」
と、てんとう虫は、真剣な目をして言う。
「どうして?ダメなの?」
ショウタがそう聞くと、 てんとう虫は遠くを見るような目を して話し始めた。
「それは、一年ほど前の事だ。 オイラは親友の“てんちゃん” と ・・・てんちゃんは、 あの道を渡ろうと決心したんだ。 」

ーーー
「おい、 てんちゃん、 本気かい?」
「そう心配するなよ。 ホラ、 僕を信じて!」
ーーーオイラは不安だった。
「で、でもよう。 てんちゃん いや、何でもないよ。 が、 頑張ってくれよな。」
「うん。 ありがとう!! 僕、 頑張るよ。 ちゃんと見ててよ?」
「ああ。 もちろんだ。」

ーーーオイラはバカだ。 ここで止めていればよかったのに・ ・・・
そうして、 てんちゃんは、その道をパタパタと渡って行った のである。
「もう少し、あと少しだよ。 てんちゃん! 頑張れ!」 その時はあと半分程で、 両方とも、もう渡れると思っていた。

ーーーオイラはそこで.. ただそこで見ているだけだった。 絶対渡れると思っていたんだ!! ところが、そううまくはいかないものである。
向こう側から、 一台の自動車が迫って来ているのである。
「てんちゃん!!! 急げ、 早く渡るんだっ。」
てんちゃんは必死で羽を動かした。

その自動車は、ものすごい勢いでこちらへと迫って来る。 てんちゃんは今、いまま で最大の危機にさらされているので ある。 しかし、まさか人間が、その小さなてんとう虫に気が付いて急ブレーキを踏むわけがない。

ーーーオイラはそこでただ祈ることしかできなかったんだ。 絶対 渡れると思っていたのに。
「てててんちゃん危ないっ!!!!!!!!!」
「う、うわっ!!!!」
「・・・ちゃんっ! てんちゃぁーん 」

ーーーてんちゃんはなあ、そいつの透明な見えねぇ壁にぶつかっちまってよう オイラあ、泣いたぜ。

ショウタは涙目になっている。
「そうかぁ、そんなことがあったんだぁ。 てんちゃんは、車の フロントガラスに‘プチッ” ってぶつかっちゃったんだねぇ。 ボク、目がうるうるしてきちゃったよ。」
てんとう虫も涙目になっている。

「でもよう、オイラまだ信じられねぇからよう、その車ってゆうやつを必死で追いかけたんだ・ そしてよう ・・」
ーーーやっとでそいつが止まってくれたんだ。
「てんちゃん! 分かるか?! オイラ、ここまで必死で追っかけ て来たんだぜ。 なあ、 聞こえるかい? てんちゃん、ちゃんと生 きてるかい? なあ、おい。 」
すると、てんちゃんの口が動いた。
「・・ごめんね。 僕がムチャするから・・ ああ、ここまで ついて来てくれたんだあ 友達っていいね。 ははは 。 」
と、てんちゃんは弱々しくも、 それなりに笑みを浮かべた。
「何言ってるんだよう! オイラが、 オイラが全部悪いんだ。  んちゃん、死ぬなよ。 絶対死ぬなよ!!!」

「君は何も悪くないよ。 ごめんよ。 きっと、もうお別れなんだ。 いままでありがとう・ ・・」
「そんな そんな事言うなよ! オレ達、 いつも一緒のはず じゃないか。 なあ、 てんちゃん、 オイラ、オイラてんちゃんがいないと 」
てんちゃんは返事をしない。
「・・・・」
「おい、冗談だろ? おい、 何とか言ってくれよ!!」
必死で肩を揺すったが、彼は、返事を返してはくれなかった。
「ウソだろ?・ ・誰かウソだって言ってくれよう。」
そう言って、 全身の力がぬけたかのように、 その場にしゃが み込んだ。

そこは、 車のフロントガラスの端っこ。すると、いきなり車のエンジンがかかった。中には若い女性が乗っている。 彼女はフロントガラスのふたつの黒いてんに目 をやったが、 気にもとめなかった。
「てんちゃん、 人間が乗
ってきたよ。 う、うわぁっ!」
と、その時!ものすごいスピードで車が走り出し、 あまりの勢いにてんとう虫は転げ落ちてしまい、 てんちゃんとその車は、 どこか遠くへ行ってしまった。

ーーーオイラはただそこに立ちつくしているだけだった。 あとは どうにもできなかった。

「いや、 君はできるかぎりの事をしたよ。 天国のてんちゃんも、 こんなに思ってくれる友達がいて、幸せなんじゃないかなぁ。 」
と、ショウタは、晴れ渡る空を見上げて言う。
「そうかい? そう思うかい?」
「うん。きっとそうだよ。 ボクだって、てんとう虫さんと友達になれてすごく幸せだもん。 ね、 だからね、 勝手に自分を悪者にしちゃうのはよくないと思うんだ。 そうでしょ?」
「ああ。 その通りだ。 なんか、 てんちゃんに言われてるみてぇだ。


そう言って、てんとう虫は懐かしそうに笑った。
すると、 ショウタは頭上で何かひらひら動いているのに気が付き、思わず上を見上げた。
「あ、ちょうちょさん。 ほら見て、 黄色いちょうちょさんだ。 あんなに慌ててどうしちゃったのかなあ。」
そう言われて、 てんとう虫は眩しそうに上を見上げる。

「おーい! どうしたんでい ずいぶん忙しそうじゃねぇか。 」
「あ、てんとう虫さん!大変なんです! 姉が人間に捕まっちゃ ったんです!」
「人間に ?」
ショウタの口がポカンと開いた。
「そりゃあ大変だ。 気い付けて行って来なよ。」
そうして、蝶はひらひらと飛んで行った。
「にんげんかあ ねぇ! てんとう虫さん!」
「ん?」
「人間って、そんなにひどい奴?」
と、ショウタは顔をのぞき込むようにして言う。
「うん、こええ奴だ。」
てんとう虫の表情が暗くなった。
「ねえ!」
「今度は何だ?」
「行ってみない?」
「なんだ、 ショウタ虫はまだ人間見たことねえのか?」

「そんなんじゃないけど・ ・・ホラ、みんな友達でしょ?てんちゃんだって、 ちょうちょさんだって・・・。 ボクも仲間にいれてよ。 ショウタ虫だってみんな友達だもん。」
 と、ショウタが言うと、てんとう虫は目を細めて優しく微笑んだ。 それを見て、ショウタはいたずらっぽく笑う。
そして、 てんとう虫は大きく背伸びをした。

「よっしゃ! そんじゃあ行ってみっか。」
「うん!」
てんとう虫は羽をひらいて飛び立とうとした。
「あ、ちょっとまってよ。 あーあ、ボクのくつ下、こんなに汚れちゃった。」
と、ショウタは土だらけのくつ下を脱ぎ捨てた。
「お? おめえさん、 脱皮すんのが早ぇんだなあ。」
「へ? 脱皮?」
「おう。 成長したんだ。」
「そう?へへ、ちょっとは大人になったかなあ。」
そうして、 二人 (?) は蝶のあとを追って飛び立った。


 そこは、ショウタの部屋の窓の桟 (さん)。 「よう! オイラたちも助太刀 (すけだち)に来たぜい。」
「あ、てんとう虫さん! 来てくれたんですね。 助かります。」

「ボクの部屋だ。」

「ん? ショウタ虫、 何か言ったか?」
「ううん、 何でもない。」
ショウタはちょっと複雑な気持ちだった。 しかし、 今は蝶を 助けるのが先だ。
「よっしゃ、 一気に乗り込もうか! オイラに続けー!」
「おぉー!」
「ちょっと待って下さい!!!」
と、蝶は飛び立とうとするショウタとてんとう虫の足をつか んだ。
「おっと、 危ねえじゃねぇかよ。」
「ワタシが先に行きます。 あなた達はここにいてください。」
そう言って、蝶はタンスの上にある虫かごへと飛んで行った。
「姉さん、今助けに行くよ。 」

しかし、その部屋にショウタのお母さんが入ってきたのだ。

「あ 、お、お母さん」
「や、やべぇ、 人間が来ちまった・ 。 」
お母さんは、 やっとタンスの上にたどり着いた蝶に目をやっ た。
ショウタに笑顔はなくなっている。
「あらぁ、 また可愛いちょうちょが遊びに来たのね! 寂しいか ら2匹の方がいいでしょう?じっとしててね・・・」

「あっ! ちょうちょさん危ない!」
そう叫んだショウタの声がとどくまえに、 お母さんが蝶を捕まえてしまった。 お母さんはニッコリしながら、 2匹目の蝶を 誇らしげに虫かごの中へ閉じ込めた。
「2匹も捕まえたなんて言ったら、 ショウタきっと大喜びする はずだわ。 早く帰って来ないかしら 」
 そう言って、 お母さんは何かを思いだしたのか、 部屋から慌 てて出て行った。
そして、 ショウタとてんとう虫は顔を見合わせる。
「どうしよう、 ちょうちょさん捕まっちゃったよう。」
「くそっ、 仕方がねえや。 次はオイラが行ってやるぜぃ。」
「ダメだよ! ボク達だけじゃムリだよ。 こんな小さな力じゃど うにもならないよ。」
「じゃあ、お前には何ができるって言うんでぃ! 友達を裏切ることか?!仲間を見捨てて逃げる気かっ?!」
「違う!ボクはそんなんじゃないっ、 仲間を見捨てるなんて、 そんなっ 仲間? そうだよ、 連れてくればいいんだ。 」
「何を?」
「仲間だよっ、 助けを呼んでくるよ! ボク。 ねぇ、 そうだよね。 」
「そ、そうか。 それがいい!」
二人 (?) に笑顔がもどった。
早速、 ショウタは急いで探しに行く事にした。
「たのんだぞショウタ虫。」
「まっててね!」
ショウタは勢いよく飛び立ち、辺りをきょろきょろ見回した。

 途中、 毛虫に会ったが、どう言っても手伝ってくれそうにもな かったので諦めた。そうして、そんなショウタを見ていた1匹 のてんとう虫が声をかけてきた。
「おい君、 何かあったのかい? 困っているように見えるけど。」
ショウタは、 少し驚いて声の主を探した。
「ここサ。下を見てくれよ。」
 彼は、ショウタの飛んでいた真下の、 大きなたんぽぽの上に いた。
「あ、違うてんとう虫さんだ。 うん、 ボク困ってるんだ。 とっ ても大変なの。 仲間を助けたいんだ。 どうかな、 一緒に来てく れないかなあ。」
「いいさ。 見た事ない虫だけど、 君を信じるよ。 さあ! ホラ、 すぐ行かないと。 あ、 僕の奥さんもいいかい?」
「うん! ありがとうね。 」
 ショウタはちょっと感動した。
「お礼なんて必要ないさ。」
彼はとってもさわやかだった。 彼らは大きなたんぽぽの上から飛び立った。 そして、 てんとう虫の待っている窓の桟へと向かったのである。
「あのね、 ちょうちょさんたちを助けるんだ。 だからね、 手伝ってくれる人を探しに来たの。 仲間は多いほうがいいよね! ボクはね、みんなが協力すれば何でもできる気がするんだ。 ボク はひとりじゃ何もできないからそう考えたの。 でもね、ボクは 絶対助けてみせるよ! 聞いてる?」
「ん?何? 君の羽がパタパタ言ってよく聞きとれないよ。」
「だーかーらー まあとにかくボクを信じてくれてありがとう ね。 今から君はボクの友達だからね!」
 と、ショウタはありったけの大きな声で話した。
「あら、 元気のいいお友達ができたわね。」
と、そのてんとう虫の奥さんがやさしく微笑んだ。


 そのころ、窓の桟で待っているてんとう虫は..
「うーん、ショウタ虫まだ来ねえなあ。 オイラも探しに行けば よかったぜ。」
 と、退屈していた。 そして、 虫かごの中の2匹の蝶の姉妹は、 ひらひらとあせっていたが、 ただひたすら助けを待つだけであ った。しかし、 虫が何匹か集まったところで、 虫かごのなかの 蝶を助ける事ができるのだろうか。 てんとう虫は、 内心不安な ところがあったが、 そのほかにいい考えは思いつくことができなかった。

すると、やっとのことでショウタが仲間を連れて戻ってきた のである。
「おおーい、ここだぜ早く来ーい。 待ちくたびれたじゃねぇか。」
てんとう虫が叫んで、みんな窓の桟に集まる。
「ごめんごめん、この人 (?) 達が協力してくれるって!」
「いやあーこの子がとても困っているようにみえたものでねえ、 ははは、 どーもはじめまして。 」
「オイラこそはじめまして 」
と、2匹のてんとう虫はそこでとまってしまっている。 ショウタは不思議に思った。
「どうしたの?ふたりで見つめあっちゃったりして。」
「っき、きみは...」
「あ、あ、そんな、そんなことあるかよ、 」
「え、 それじゃあまさか!!?」
「はじめましてじゃないぜ、 てんちゃん!!」
「信じられないよ、 きみに会いたかったんだよ! いやあ、 ひさしぶりだあ。 親友に会えるなんて。」
「オイラもだよてんちゃん。」
 2匹はあまりにも突然の再会で号泣している。
「てんちゃんって... あれ? プチッてなって天国に... あれあれ?天国から涙のご対面?」
「そうだよ、 オイラもてっきり..」

「なんだよ、 みんなで僕を殺さないでくれよ。 ははは。 いやな に、 あのあとね、 あのあと僕はあの人間にずーっと遠くまで連 れていかれてね、 そこで彼女に会って、 今の奥さんにね。 うん、 それで助けてもらっちゃってサ。」
「へえー、 よかったねえ。」
「よかったよ。 てんちゃんに会えて本当によかったぜ。 こいつ はショウタ虫のおかげだぜ。 ありがとうなショウタ虫。」
「へへへ、偶然だって。 でもホントによかったねえ。 あ、 ほら、 ちょうちょさん助けるのが目的だよ? 早く助けないと... あ れ。 ?」
と、ショウタはふらっとよろけた。
「おい、大丈夫かい? ショウタ虫君。 」
てんちゃんは心配そうに言う。
しかしショウタはまだふらふらとよろけている。
「だ、大丈夫だよこれくらい。 ただちょっとなんだかねむくて、 ねむ…ねむくて.…」
「お、おい! ショウタ虫!」

ショウタはそのまま後ろに倒れて動かなくなった。




 窓からぽかぽかと暖かい午後の日差しがそそいでいる。
ここ は、ショウタの部屋の中。 ショウタは、部屋のまんなかで浅い眠りについていた。
窓から入るやさしいかぜに吹かれて、ショウタは目を覚ました。
しかし、まだ意識がはっきりとしていないようである。
なんだろう... 夢だったのかなあ、とあおむけになって天井をぼうっと見つめていた。 体はもとにもどっているし、 羽も触角もなくなっているし、 靴下も... …ない!!! と、足もとを見ると、確かに朝にははいていたはずの靴下がなかった。 そのかわりと言ってもいいように、 足のうらが土だらけになっている。
ショウタはそのまま玄関から外へ飛び出した。


「あったあ! ショウタ虫の靴下みつけた!!」
それはもう、 米粒ぐらいの大きさであった。 そしてそのまままたドタドタと自分の部屋へと戻って行った。 その音を聞いたのかお母さんもショウタの部屋へ入った。
「ショウタ、 今帰って来たの? な! なあに? その土だらけの足。 どこに行ってきたの。 まったく急に居なくなったから心配したのよ。」
「え?ボクずっと居なかった?」
「そうよ。 とぼけたりしないでね。」
「じ 、じゃあ夢じゃなかったんだぁ。 ボク本当に虫になっちゃったんだぁ! うわー、すごいやあ。」
 ショウタはひとりで大はしゃぎした。
「ちょ、ちょっとなによ虫って・・・ ああ、そうそう、 お母さんねえ、ショウタにいい物あげちゃうよ。 何だと思う?」
「え ー?なになに? いい物ってなんだよう。 」
「ほおら!」
すると、お母さんはタンスの上から蝶が2匹入った虫かごを 取り出したのである 。
「え、それって.. 」
「そう、ショウタ君の大好きなちょうちょさんだぁ。 お母さん が頑張って捕まえたんだぞ。 ほら、 あんた虫好きだって言って たじゃない。 はい、 あげる。」
「あ、ありがとう。 ボク、 虫とか、 け、 結構好きなんだ。 あは。」
 と言いながら、ショウタは受け取った虫かごのふたをゆっくりと開けた。
中の2匹の黄色い蝶は待ってましたと言わんばかりに勢いよくパッと飛び出したのである。
「え?せっかく捕まえたのに。 虫好きなんでしょ?」
「うんそうだよ。 虫さんはねえ、 ボクの友達なんだもん。」

 ショウタがそう言っているうちに、 2匹の蝶と3匹のてんとう虫が窓から出ていった。

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