ラ・バヤデール ボリショイ・バレエ in シネマ
先日、ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2020 - 2021から、『ラ・バヤデール』の公演を観てきました。なんちゃって観劇記録です。
1.ボリショイ・バレエ in シネマについて
ボリショイ・バレエ in シネマでは、ロシア・モスクワにあるボリショイ劇場で収録された公演映像を、映画館で鑑賞することができます。シーズンごとに演目のラインナップを変えながら、世界各国で上映されている企画です。今シーズンの上映日が終わってしまっても、待っていればそのうちアナウンスがあるので、来シーズンを楽しみに待ちます。
この企画の特徴は、開演前や幕間の劇場内の様子も収められていて、休憩時間も含めてほぼノーカットであることだと思います。開演前のロビーで談笑する人々や、幕が上がる前に舞台上で最終確認をするダンサーたちの様子など、普通なら見られない風景がたくさん詰まっているのです。まるで、劇場から生配信で公演を観ているかのような気分が味わえます。
また、ノヴィコワさんという司会のような方がいらっしゃり、公演前や幕間などに出てきて演目やキャストなどについての解説をしてくれます。日本の公演ではよくプログラムに載っているような、バレエの歴史に関する内容や見どころなどを、とても詳しく教えてくれます。
ノヴィコワさんの説明を聞かなくても、あらすじさえ知っていれば公演は十分楽しめますが、聞けばさらに、知れば知るほど奥の深いバレエの世界を感じ取ることができると思います。
ちなみに、世界各国で同じ映像を上映するため、ノヴィコワさんは主にフランス語と英語で同じ内容を交互に話します。英語を話している間だけ、日本語字幕が表示されます。最初は変な感じがするかも知れませんが、観ていれば慣れると思います。
バレエの公演は3時間とか普通にあって長いので、途中で一度席を立ちたい場合は幕間、休憩時間にすると良いでしょう。
ところがですね、なんとこの間にもノヴィコワさんが出てきて舞台上でお話ししてくれるんです。演目によっては、ついさっきまで踊っていたダンサーにインタビューしちゃったりします。そして、その後ろではダンサーたちが次の出番に向けて練習していたり、スタッフや監督も忙しなく動いていたりします。
見逃せない。
ということで私は、基本的に公演が終わるまで一切席を立ちません。正直、生の公演を鑑賞するよりよっぽど身体にきます。ですが見逃せないシーンしかないので甘んじて受け入れてます。
2.公演概要
今回私が鑑賞したのは、『ラ・バヤデール』。
古代オリエントを舞台に、バヤデール(寺院の舞姫)であるニキヤが、ソロルという戦士と愛を誓い、裏切られ、息絶えるという物語ですね。
キャスト
ニキヤ:オルガ・スミルノワ
ソロル:アルテミィ・べリャコフ
ガムザッティ:オルガ・マルチェンコワ
公式サイトにもう少し載ってますので、リンクしておきます。引用元としても。
「イドル・ドレ」は英語にするとゴールデン・アイドルですね。ブロンズ・アイドルとするバレエ団もありますが、ボリショイは金。
収録されたのは2019年1月だそうです。
3.感想
順を追って感想を書いていこうかと思うのですが、それに当たって、最初に触れなければならない点があります。
作品が始まる前に”WARNING”として「一部の人に不快な想いをさせる可能性のある表現があります(意訳)」といった文章が表示されました。
作品中に黒塗りをした奴隷役のダンサーが出てきたり、そもそも物語の舞台である東洋の歴史・文化への理解といった点でも、様々な問題を内包している演目だと思います。
この問題は多くの方が指摘していますし、難しい問題であることは事実なので、ここではこのくらいにして、機会があればまたちゃんと書きたいと思います。
予め書いておきますが、私はよく、『ラ・バヤデール』を『バヤデール』とか『バヤ』とか省略して呼んだりするので、ここでもそういった呼称が出てくるかと思います。ご了承ください。
バヤデールの最初の見どころはやはり、ニキヤのヴァリエーション、そしてニキヤとソロルが逢引きして、愛を誓い合う場面だと思います。この演目で唯一、辛うじて幸せなシーンではないでしょうか。
スミルノワは踊りから雰囲気というか、威厳を感じるダンサーだと感じていて、ちょっと強そう。踊りに力強さがあるのがボリショイらしさのひとつだよなーと思いながら見ていました。
大僧正に言い寄られるのを嫌がるシーンや、ソロルへの愛を表現している表情を、近くではっきり見ることができるのは、映像ならではだと感じました。
生の舞台だからこそ心で踊っているのが見えることもあるので、それぞれの良さがあるのですが。
対するべリャコフのソロルは、ニキヤを愛していながらも、どこか無表情というか、全力で愛に生きる人ではないからこそ、運命に流され、ニキヤはそれに巻き込まれて命を落とすのだというのを、どことなく感じました。
ソロルは正直、バレエ界でもかなり上位に入るダメ男だと思います。アルブレヒトといい勝負かな。
続いては、ガムザッティが出てきてから、ニキヤが死ぬまで。
ガムザッティは、身分が高く気の強そうな印象の一方で、貴族の娘として強く生きようとする人間らしさがあったように思います。
この役を踊ったマルチェンコワは出番のあとで、ノヴィコワさんのインタビューを受けていました。ニキヤの死に彼女は直接関わっておらず、彼女もまた運命が翻弄されてしまっただけで、優しさや悩みを持つひとりの人間なのだ、みたいなことを仰っていたと思います。解釈が違っていたらごめんなさい。
それでも、マルチェンコワの踊りからは力強さとともに気の強さを感じました。笑顔やニキヤを呼びつけるシーンの表情からも、人間らしい、豊かな感情の持ち主であることが想像されました。あとやっぱりちょっと強そう。
ソロルとpas de deuxを踊るシーンの衣装がとても好みでした。
壺の踊りはべリャコフの奥さん登場。このダンサーも足が強くてボリショイの踊り方って感じがするのですが、強いけど力任せでも雑でもないバランスが好きで、可愛らしい踊りが似合うのかなと勝手に思っています。
さて、この作品の最大の見どころである、影の王国に移りたいと思います。
ノヴィコワさんも言ってましたが、バヤデールにはこの作品特有の不思議な、観ている人を神聖な気持ちにさせる力があると思います。そのエッセンスが詰まっているのが影の王国のシーンですね。
コールドが順に出てくるシーン、ダンサーたちの動き、舞台装置、照明、全てが合わさって息を呑むような光景でした。
コール・ド・バレエが列になって出てくるシーンを見るといつも思うのですが、1人目と2人目がとても重要ですよね。
後ろの人が通る道を作るポジションだと思うんです。そして、誰よりも舞台上にいる時間が長いので、やはり技術や経験のしっかりしたダンサーがやるのかな、なんて思ったりします。
まあプロとして、職業としてバレエを踊るダンサーにとっては当然のことでしょうけれど。
ちなみに、影のコールドが全員出てきて並んでからの振付に、アラベスクやエカルテでポーズを見せる部分がありますが、一番下手、一番後ろにいたダンサーの軸足のぐらつきが目につきました。
他のダンサーがピタッと止まっているのでなおさら目立ってしまっていた気がします。
あと、コールドの中にEleonora SevenardとStanislava Postnovaを見つけました。ダンサーのインスタを見るのが好きな方の間では、それなりに有名な2人かと思います。Postnovaは影の前にも第2幕でオウムの踊りか何かに出ていましたね。
Sevenardはワガノワ時代から優秀な生徒でしたし、現在すでにリーディング・ソリストにまで昇進しています。マチルダ・クシェシンスカヤの子孫にあたるダンサーで、今回のバヤでは見せ場はないですが、グラン・フェッテなど回転技が得意なようです。
素人の個人的な考えにすぎませんが、彼女の踊り方や個性を見ると、活躍の場にマリインスキーではなくボリショイを選んだのは正しかったのではないかと思います。
影の王国の3つのヴァリエーションの中では、最初のVaを踊ったダンサーが最も好みでした。記憶が正しければElizaveta Krutelevaだったと思います。
このダンサーも、ボリショイらしいパワーを感じる踊りが強みかなと思っています。エンド・クレジットによれば、グラン・パにもいたみたいです。
第2ヴァリエーションのソリストはMargarita Shrainerでしょうか。だとすると、in シネマでは『コッペリア』や『くるみ割り人形』で主役を踊っていましたね。
どちらも見たので、可愛らしい役の似合うダンサーのイメージを持っていますが、キトリやジャンヌ、『白鳥の湖』のスペインの花嫁候補も踊っているようなので、そういった役も見てみたいなあ。
第3ヴァリエーションは、私の中ではとにかく正確なコントロールがポイントの踊りなのですが、今回のダンサーはどちらかというとパワーで踊っているように見えました。
もちろん綺麗なんですけどね。ダンサーの名前はわかりません。ごめんなさい。
あ、でもこの方も確かグラン・パにも出てましたね。
スミルノワとべリャコフのpas de deuxは、さすがのペアでしたね。スミルノワの持っている雰囲気などは第1幕よりも影の方が似合っていたように感じました。べリャコフのパワーがあるけど身体を滑らかに使う感じも、私の好みに合っていました。
今回のグリゴローヴィチ版は影の王国で終わりで、寺院が崩壊する場面がありません。影の王国の余韻のじっくりと浸りながら終演を迎えることができるのが、良いところかなと思います。
それから、今回の公演で私が感動したのは、指揮者と音楽です。ダンサーとの呼吸というか、踊りに無理なく合わせていて、公演を鑑賞していてとてもしっくりきました。
生オケの公演を多く見ていると、たまに、ダンサーが頑張って音に合わせていたり、逆に指揮者がとにかくダンサーを見て振っているように感じられることがあります。
ですが今回のバヤは、踊りと音楽が一体となって感じられました。特に私がそれを強く感じたのは、第2幕のソロルのヴァリエーションです。
ガムザッティ役のマルチェンコワがインタビューで言っていましたが、この公演の指揮者の方は、開演前に出演者に会いに来たり、ヴァリエーションが始まる前にダンサーにウインクしてくれたりするそうです。いい人っぽそうですね(他人事)。
音楽が踊りと一体であることは、心が、身体が震えるくらい感動する公演のひとつの要素であると思います。
正直、どんなに素晴らしい公演映像も、生の舞台を見ることの感動には叶わないと考えています。それでも、バレエにおいて、指揮者、オーケストラ、舞台上のダンサーが作り上げる芸術の尊さには、普遍的な部分があります。
最後に、ボリショイ・バレエ in シネマは、エンドロールが速すぎる。かつ字も小さめなので、ほぼほぼ読めません。
私はin シネマを見始めた最初の頃、小さすぎてキリル文字だと思っていたんですが、しばらくしてからアルファベットだと気づきました。
キャスト・スタッフが詳細に載っているのはエンドロールだけなので、本当はじっくり読みたいんですけどね。同じ情報が見られるものって何かないんでしょうか。
初めてnoteに記録を書いたので、なんだかぐだぐだした文章になってしまいましたが、これくらいにしたいと思います。
誰かに読んでもらうために、と思って書いたわけではないので、読みづらい部分も多いかと思います。
それでも読んでくれた方、そして今この文を読んでいる方がもしいらっしゃったら、本当にありがとうございます。
また書けたらいいなと思っています。
あといつか、きちんと劇場で鑑賞した感想を書きたいですね。
それでは。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?