失恋したので金髪にした
過去に一度だけ金髪にしたことがある。
金髪にした理由は、失恋したからだ。
よく失恋したら髪を切るって言うけれど。もともとショートボブで切るほどの長さもなく、時期的にも寒くてそれ以上切りたくなかったので、色を変えることにした。
どうせならぱーっと明るく。大学の卒業も間近だったし、社会人になる前に派手な髪色にできる最後のチャンスだし。というわけで金髪だ。
金髪というより薄いピンク色にしたかった。
『空色海岸』という漫画が好きで、その主人公みたいな色がよかった。
当時お世話になっていた美容師さんに「失恋したから髪ピンクにしたいです」って言ったら、案の定面白がってくれた。
そうそう。そうやって笑い飛ばしてやってください……
きれいなピンク色を入れるには、髪の色を抜かないといけないんだそうだ。いわゆるブリーチ。人生で初めてのブリーチである。
まず1回目のブリーチ。頭が燃えるように熱い。
その後すぐにピンク色を入れたけど、色素が残っていてうまく染まらなかった。
なので、もう一度ブリーチ。燃えるように熱い。
髪が丈夫なところは数少ないわたしの自慢だ。この時点で施術している美容師さん当人から「わたしの髪なら死んでる」と言われたが、わたしの髪は生きていた。
2回目ですっかり色が抜け、きれいな金髪になった。光に当たるとつやつや、キラキラしている。テンションが上がった。
今度はすぐにピンク色は入れず、金髪のまま更に1週間ほど置くことになった。
寮に帰ると友達や後輩たちがみんな目を丸くして声をかけてきた。特に仲のいい友達なんかは髪を触りたがる。
大学の構内で友達に会うと、みんな必ず二度見して立ち止まる。
「すごいね」「思い切ったね」と驚きを口にする友達に、
「失恋しちゃってさぁ」と返すのがお決まりだ。
「髪切るんじゃないんだ」と笑われるところまでがセット。
失恋して数週間泣きはらした後に、ちょっとだけ心が軽くなる。
何よりみんなが「似合うね」と褒めてくれるのが嬉しかった。
自分でも似合うと思った。自画自賛。こんなにきれいにしてくれたのは美容師さんだから自画ではないが。
ピンクに染めるのが目的だったはずなのだけど、意外と金髪の期間の写真の方が残っている。寮の友達とのお別れ会とか、ゼミのコンパとか、好きなバンドのイベントの時の写真とか。
ちなみに、何本か前の記事で電車でおばあちゃんに席を譲った時の話を書いたが、あの時も金髪だった。
席を譲ったくらいでなぜあんなに感激してくれたのだろうと思っていたけど、よくよく思い返してみれば、あの時のわたしの姿は金髪でミニスカートのパンクファッション。派手な見た目のギャルが席を譲ったんだからそりゃ驚いたことだろう。
金髪をしばらく楽しんだ後に、予定通りピンク色を入れた。
あの漫画のような薄いピンク色にはならなくて、だいぶ濃いチェリーピンクになってしまった。思った色にはならなかったけど、きれいな色だったので、それはそれで嬉しかった。
当時は今ほど自撮りなどする文化ではなくて、自分で自分の写真を撮るなんて恥ずかしくてできなかった(今でもできないが)ので、この時の写真が殆ど残っていない。唯一、友達と撮ったプリクラが赤い髪色の記録だ。
せっかくきれいな色になれたのだから、もっと写真に残しておけばよかったな。
金髪とピンク(赤)髪の期間を堪能できたのはほんのわずか。1か月くらいだった。地元で面接があり、黒髪に戻さねばならなかったのだ。
親には「もったいないお金の使い方をして」なんて小言を言われたけれど、あのとき金髪にしてよかったって思っている。
好きな人に彼女ができたと聞いて泣いてばかりだったけれど、髪の色を変えたことで少しだけ元気になれたのは事実だからだ。
もちろん失恋の辛さが消えたわけではない、その後も3年くらいたっぷり引きずったし。だけど、なにもしないよりは確実に元気になれた。
髪の色を変えたことと、それによって美容師さんや大学の友達や電車で乗り合わせたおばあちゃんとの間にうまれたやりとり。そんな嬉しい記憶や温かい記憶も、ちゃんと残ってくれたのだから。